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第三十七話 好きな子に例の件を報告しよう

 



 この日の訓練はズコットさんとアモンドとの合同訓練だった。


 と言うのもアモンドが僕の剣の師匠に会いたいとせがむもんだからズコットさんの許可をもらい訓練の時間を合わせたのだった。



「ってか、お前の師匠ってズコット先輩だったのかよ」


「アモンドはズコットさんの事知ってるの?」


「当たり前よ。俺も駆け出しの頃色々世話になったからな。でもズコットさんが師匠ならハルトの剣技もうなずけるな」


「…ハルトが素質あるだけだ」


「いぇいぇ、ズコットさんの教えがあってこそです」


 そんな感じで3人で和みつつこの日は訓練を行った。



 そして午前の訓練も終わり後片付けをしていると遠くの方から「パパ~」という声が聞こえてきた。

 

 見ると、声の主はズコットさんの一人娘であるティラちゃんだった。


 真っ赤なおさげの髪を揺らしながら駆け寄ってくる姿が何とも可愛らしい。


 僕とアモンドにペコリとお辞儀をしてズコットさんに抱きつき「パパ~、終わった~?」と言っている。何か用事があったのだろうか。


「先輩、これから何処か行くんですか?」


「…娘と遊園地にな」


「パパとデートなの~」


 ズコットさんの表情がパパの顔になっていた。仲良く手を繋ぎ訓練場を後にする2人。


 なんか微笑ましいなぁ。


 アモンドも同じ事を思った様で「俺も娘欲しくなったよぉ~」なんて言っていた。


 まぁあの光景を見るとそう感じるよね。



 ちなみにこの日僕はとうとう『属性闘気アトリビューション・オーラ』を習得した。


 これで接近戦の戦闘力もかなり増すと思うと嬉しくて仕方なかった。



 訓練が終わり午後からは適当な依頼をこなし、夕方にシロップの様子を見に行った。


 するとその時間帯はアクセサリーショップ"白銀の華"で店員として働いていた。


 ノワさん曰く接客業を学ぶ事もメイド道には欠かせないのだとか。


 傍から見るとまだ少しビクビクしているが、でも一生懸命さは伝わってきて頑張っているんだなぁと嬉しく感じた。



 そんな様子見をしていた僕にノワさんがシロップの事で質問してきた。


「シロップの職業についてですが、ハルト様は何か就かせたい職はございますか?」


「いぇ、特にはないですね。僕はシロップには好きな職に就いてほしいと思っているので」


「左様でございましたか。差し出がましい様ですが、もしよろしければこの教育期間中に彼女の適正を見極め私なりにアドバイスをしてもよろしいでしょうか?」


「えっ!?本当ですか。それは凄く有り難いです」


「では私にお任せ下さい」


「費用はきちんと支払いますから登録も含めお願いできますか?」


「了解しました。それに費用は結構です。私もタルト様に給金を頂いておりますし、何よりカラコンの恩返しもしたいと思っていましたから」


 それは悪いですよと言うも、頑として引いてくれなかった。


 まぁそうまで言ってくれてるから、ここは感謝しつつ受け入れる事にした。


「ありがとうございます。正直助かります」


 ノワさんの言葉に甘えつつ、ついでに冒険者登録等もお願いした。


 シロップの件は丸投げ状態だが、ノワさんになら安心して任せられるからね。









 翌日の正午。


 僕は大切な話があるからとマロンさんを`カフェ猫耳亭'に呼び出していた。


 今日はしっかりとシロップの事を伝えるんだ。



 【カフェ猫耳亭】

 ドルチェ王国繁華街にある全面ガラス張りでとても開放感のあるオープンスタイルカフェ。

 店内は広々として温かみと優しさに溢れる雰囲気で、テラス席はナチュラル感溢れる居心地の良さが特徴となっている。

 美味しい料理を楽しみながら、まったりしたい時におすすめのカフェである。



 珈琲を頼みテラス席でマロンさんの到着を待つ。


 周りを見回すとカップルがやけに多かった。


 お洒落だし、最近人気急上昇のカフェとか言ってたもんな。


 今日は天気も良く冬なのに暖かくて最高のお食事デート日和だから仕方ないのかなぁと感じた。



 そして待つ事数分。


 ニットセーターにパステルカラーのミニスカートという服装でマロンさんが現れた。


 少し大きめでふんわりとしたニットがとても似合ってて可愛さを際立たせていた。

 

 食事デートしているはずの周りの男性陣の視線も一気に集めている。


 まぁ自然とそうなるよね。

 

 僕もこの日は先日シロップが選んでくれたラフな服装だし、傍から見たら僕らも食事デートって思われるのかなぁ。


 それはそれで優越感ではあるけどね。


 うぅ、でも『釣り合ってねーぞ』的な視線が痛い。


 これは一生慣れないんだろうなぁと思ってしまう。



「遅くなってごめんなさい」


「いや、僕もさっき着いたばかりだから」


 それにしてもマロンさんの服装に目がいってしまう。だってとっても可愛いいから。



「あのぉ~、何処か変ですか?」


「いや、とっても似合ってるなぁと思って…」


「あっ、ありがとうございます」


 言ってお互いに照れまくっている。


 ちょっと甘酸っぱい感じはするけど雰囲気的には悪くない。


 良い雰囲気のまま一気に報告しよう。


 マロンさんのドリンクが届くのを待って早速本題に入る事にした。



「今日はちょっと聞いてもらいたい事があって」


「はい。大切な話なんですよね」


 マロンさんの表情はどことなく嬉しそうで、ワクワクと何か期待している様な感じさえした。


 アレ?急に言いにくくなったぞ。


「実は…」


「実は?」


 その期待に満ちた視線がなんか痛いです。


 でもしっかり説明しないと。


「奴隷と暮らす事になりました」


「へぇ?」


 マロンさんは素っ頓狂な声をあげた。


 期待していた話と全く違ったのだろう。


「いっ、今、何と仰いましたか?ちょっと良く聞こえなかったのでもう一度仰ってもらえますか?」


 恐る恐るその表情を確認する。笑顔ではあるがよく見ると顔が少しひきつってるではないか。しかも口元は笑っているのに目が全く笑っていないときたもんだ。


 あぁ、ヤバいかも。


 そう感じ何も言えないでいると、ドンと机を叩かれた。


 周囲が何事と一斉に僕らを見る。でもマロンさんはそんな視線お構いなしみたいだ。



「もう一度仰ってもらえますか!」


「あっ、あの、実は奴隷を貰いまして一緒に暮らす事になりました…」


「ほぅ、奴隷と暮らすんですね。それはもちろん男性ですよね。まさか女性ではないですよね?」


 うぅ、怖いよぉ。ニコニコした表情が怖さを倍増させているよぉ~。


 でも、理解してもらう為にも正直に伝えないとな。


「えっと…、女性です…」


「なっ!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ…とマロンさんを中心にどす黒いオーラが立ち込めているような気がした。


 そしてわなわなと肩を震わす姿が目に入り、『あっ、コレいつものだ』と思った時には鋭い往復ビンタが飛んできた。


 もちろん交わす事もせず甘んじてそれを受けた僕。しかし今日のは効くなぁ~。

 


「ハルトさんはそんな人じゃないと思っていたのに…。どうして性奴隷なんか貰うんですか」


 そして3発目のビンタが飛んでくる。


 いやそれよりも今何て言った!僕は別に性奴隷なんてもらってないぞ。物凄い誤解が生じてるし。


「せっ、性奴隷なんてもらってないか…グフッ」


 3発目も見事にクリーンヒットだ。


 ってか、何故か周りの男性陣から歓喜の声が上がってるし。言っときますけど僕はフラれたわけじゃないですからね。

 

 でもこの誤解は今すぐ解かないと。


「マロンさん、落ち着いて。まずは僕の話を聞いてくれ」


 これ以上ビンタを喰らうのは非常にマズいと感じマロンさんの両手を抑えつつ説得を試みる。


「だって、だって、女性の奴隷を貰ったって言ったじゃないですか。それってつまりそういう為にでしょ」


「だから違うんだって」


「いぇ、言いたい事はわかりますよ。ハルトさんだって男ですし、そういう気持ちになるって事も理解できないわけではありません。

 でも、だからと言っていくらなんでもそれを奴隷で解消するのは…。ハルトさんはそういう人じゃないと思っていたのに…」


 うわぁぁぁぁぁ。言いたい事わかってねー。


 もう完全に思い込みだよ。そしてそれを口にするから周りからも白い目で見られてるしぃ…。


 いくら口で説明しようにもいまだに「どうして性奴隷なんか…」と言って全く聞く耳を持ってくれないマロンさん。



 これは落ち着いてもらわないと話がすすまないぞ。


 カフェのテラス席でこんな事するのはどうかと思うけど、今回だけは許してほしい。


「ごめんね、マロンさん」


 僕は彼女の肩に手を伸ばし思いっきり抱きしめた。


 突然の行為にマロンさんが固まる。

 

 周囲は一瞬固まるものの、すぐに変な歓声があがる。


 正直恥ずかしい。恥ずかしかったけど、でももうコレしかないと思ったんだ。

 

 どれくらい抱きしめていただろうか。


「くっ、苦しぃ…」


 マロンさんの声にハッと我に返った。


「マロンさん落ち着いた?」


 心臓が破裂せんばかりにドキドキしつつも、冷静を装い話しかける。


「…うん」


「良かった。じゃあ、話を聞いてくれるね」


「その前にこの状況を…。ちょっと恥ずかしいです」


 あっ!!言われて周囲を見回すと≪ヒューヒュー≫と冷やかしの声が上がっていた。


 うん、これは流石に恥ずかしいね。


 テラス席だから外からも見られてるしね。


 そこでようやく僕は彼女を解放したのだった。



「すっ、座ろっか」


「はい…」


 僕ら2人顔を真っ赤にして席に着いた。


 それからしばらくお互い無言でただドリンクを飲んでいた。


 まだ周囲の目も気になるし、何より自分の胸がずっとドキドキしていて僕が落ち着きを取り戻す必要があったんだ。


 

 周囲の視線が外れてきたのを感じ話を再開する事にした。


 もうこの時には僕も落ち着いていたから、より冷静にシロップを貰ったいきさつを説明する事ができた。


 ;


 いきさつを含めシロップの事を一通り伝え終わると「その話、断れたんじゃないですか?」とタルトさんと同じ様な事を言われた。


「いや、断れないよ」


「ふふ、ですよね。それでこそハルトさんです」


「そうかなぁ」


「でも、くれぐれも間違いだけは犯さないで下さいね」


「それはもう十分心得ています」


 間違いが起きないようノワさんに預けたのだからね。



「それにしてもハルトさんの誘い方は問題があると思います」


「え!?どこが?」


 頭にクエッションマークを浮かべている僕に向かって、マロンさんは『コレですよ』と受信メールを見せてくるのだった。



---------------


 明日の正午空いてる?

 

 `カフェ猫耳亭'で会えないかな?


 大切な話があります。


            ハルト

---------------



 うん、これは昨日僕が送ったメールだ。


 失礼な文章になっていないか何度も確認したし、誤字脱字もない。


 これの何処が悪いのか全く見当がつかなかった。



「大切な話なんて言うから私はてっきり…」


 モジモジしだすマロンさん。


 う~ん、マロンさんが何を言いたいかわからない。


「シロップの件は結構大切な話だったと思うけど」


「そうかもしれませんが、誘い文句が違うと思います!」


 そして何故か怒られた。


「もういいです。変に期待した私も悪かったですし」


 あぁ、ガッカリされちゃったよ。


 やっぱり女心ってよくわからないなぁ。


 でも誘い文句が悪かったようなので、次からはもっと考えないといけないなと思った。



 そしてランチを頼んだ後、マロンさんがおもむろに僕の頬に手を当て言った。


「ごめんなさい。痛かったでしょう」


 突然の事に驚きつつも、グッときてしまう自分がいた。


「いや、そんな事ないよ」


 正直言ってヒリヒリと今も痛かった。でもそれは言う必要ない事だった。


「でもこんなに腫れて…」


「今回は3発だったからね」


 冗談っぽく言ってみた。


「もう数えないで下さい」


 プクーと頬を膨らましつつも、恥ずかしそうにしているマロンさんが凄く可愛い。


 そして≪ピカーッ≫とマロンさんの手が光ったと思うと頬に温もりが伝わってきて痛みがスゥーっと和らいでいった。


 あぁ、回復魔法をかけてくれたのか。



「でも本当にごめんなさい。私がしっかり話を聞いてれば…」


「いいよ、いいよ。何だかこんなやり取りも慣れてきたしね」


「慣れちゃダメですぅ~」


 ハァ~と頭を抱えるマロンさんに僕もきちんと謝罪しようと思った。


「僕もごめんなさい。こんな公衆の面前で抱きついたりしちゃって」


「そっ、そうですね。すごく恥ずかしかったです。でも許します」


 アレ?すんなりと許されたぞ。


「これでお互いチャラって事にしましょう」


 ちょっと恥ずかしそうにそう言ったマロンさん。


 どちらかと言えば僕が得したんだけどなと思いつつ、「そうだね」とこの件は終わりにする事にした。


 そして僕らはテーブルに並べられたランチを食べて楽しい時間を過ごした。


 お会計を済ませるとマロンさんが少し待ってて下さいと化粧室へ消えて行った。


 待つ事数分。


 僕の目の前に現われたマロンさんは冒険者の格好をしていた。


「さぁハルトさん。午後からは一狩り行きましょう」


 どこかで聞いた事あるセリフに思わず吹き出してしまった。


「むぅぅぅぅ~。笑う事ないじゃないですかぁ~」


「ごめん、ごめん、ついね。でもいいの?」


「はい。何だか身体を動かしたい気分です」


「了解。じゃあ、一狩りいこうか」


 僕も【アイテムボックス】から装備品を取り出して、2人でギルドへ向かったのであった。






 



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