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第三十六話 奴隷少女に教育を




「それではシロップの事よろしくお願いします」


「かしこまりました。しっかりとメイド道を叩きこんでご覧にいれます」


「ははっ。ほどほどにしてやって下さいね」


「うぅ…。ハルト様ぁ…」


 恨めしそうな声が後ろから聞こえてきた。


 ごめんね。でもこれも仕方のない事なんだ。これからの僕らにとって必要な事なんだから。

 わかってくれるよね。


 シロップの頭を撫でて頑張るように励ます。今の僕が出来る事といったらこれぐらいだからね。



「それじゃあ一週間はうちで預かるからね。ハルトも適度に顔を出してあげなさいよ」


「出来るだけそうします」


 相談に乗ってくれたタルトさんと快く受諾してくれたノワさんに感謝し、僕はシロップをタルト邸に預けた。


 では、どうしてこういう状況になったのか少し回想させてくれ。







 話はシロップを引き取った日に遡る。



 あの日は結局夕食を笑顔でとる事ができた。狙い通りボア肉ステーキで機嫌が良くなったシロップは僕の簡単な問いにも嫌な顔一つせず答えてくれて、話も弾み楽しい食事となった。

 

 話していて感じたのはシロップって思ったよりもお喋りなんだなって事。でもそれはコミュニケーションがとりやすく僕にとって非常に有り難い事だった。お蔭で少し打ち解ける事もできたしね。



 そしてレストランを出た後は宿屋"黒猫亭"へ戻り受付嬢のチョコさんに同居人が増える事を説明した。


「ハルトさんも女の子を連れ込むようになったのニャ~」


 そんな風に揶揄われながらも、シングルの部屋がもう一部屋空いていないか尋ねたところ一泊2食付き銀貨10枚の部屋しか空いていないとの事だった。


 自分が泊まっている部屋が一泊2食付き銀貨3枚だから3倍以上の部屋になる。


 ただでさえ金欠気味なのにこれは非常に痛い出費となる。これは思案のしどころだぞ…。

 

 僕が悩んでいる姿を見て申し訳なく思ったのだろうか。


「あの~、ハルト様。そんなに高いお金を出してまで別の部屋など借りなくてもいいのではないでしょうか。私は床でも眠れますし」


 シロップがそんな事を言いだした。


「いやいや、女の子を床で眠らせるなんてあり得ないから」


 何故か「ありがとうございます」と尻尾を揺らしながらお礼を言われちゃったよ。


 お礼を言われるような事でもないんだけどな。ってか、そもそも問題は若い男女が同じ部屋で過ごすって事なんだけどね…。常識的にマズイでしょ。



「それに一緒の部屋とかシロップも嫌でしょ?」


「どうしてですか?どちらかと言えば私はご一緒の部屋のほうが安心できますけど」


「え?だって同じ部屋で寝るんだよ」


「はい。問題ありません。むしろ家族とはその様なものなのでは…」


 確かにレストランで家族の様に接したいって言ったけども…。



 う~ん、と悩んでいる僕にチョコさんが助け舟をくれた。


「ツインルームなら2名で一泊2食付き銀貨5枚でOKニャよ~」


 何!ツインルームもあるのか。ってか、料金が物凄く良心的なんですけど!!

 ツインルームならベッドも別々だし間違いなど起きないよな。  


「わかりました。ではそのツインルームでお願いします。シロップもいいよね?」


「はい。私はハルト様とご一緒なら」


 尻尾をパタパタ揺らし嬉しそうにそう言った。


 それを見てチョコさんに「愛されてるニャね~」とまた茶化される。

 

 まぁ愛されてるかどうかはわからないけど、好かれているのは何となくわかるんだよね。だから逆にどういったリアクションをとればいいのかが本当にわからない。結局苦笑いになっちゃうよ。



「ちなみにすぐにでもそのツインルームに移れますか?」


「大丈夫ニャよ。3階の305号室ニャ。角部屋じゃないのは勘弁ニャ」


 この際角部屋とか言ってられないよね。空いてるだけでも有り難いもん。


「いぇいぇ。有難うございます」


「じゃあ、早速案内するニャ」


「あっ、すみませんが僕は少し出かけるのでシロップを案内してやって下さい」


「ハルト様何処かへ行かれるのですか?それなら私も一緒に…」


「嫌、これは僕1人で行く必要があるんだ。シロップはお風呂に入って先に休んでいてくれ」


「ご一緒したいです。ダメですか?」


「うん、ダメ。理解してくれ」


「むぅ~」と納得いかないと言った感じの声が漏れるが、ここは強引に押し切った。



「チョコさん、悪いけどシロップにお風呂の使用方法とか教えてもらえますか?」


「任せとくニャ。今の部屋にある荷物も適当に運んどくニャ」


「えっ!?いいんですか?」


「サービスニャ」


「ありがとうございます」


「それと305号室の鍵は2本渡しておくニャ」


 チョコさんから受け取った鍵を1本シロップに手渡す。


「無くさないようにしっかり管理するんだよ」


「私がお持ちしてもよろしいのでしょうか?」


「もちろん。鍵のかけ忘れだけは注意してね」


「わかりました。ありがとうございます」


 嬉しそうに鍵を受け取ったシロップから「合鍵、合鍵…」と呟きが聞こえたような気がした。

 うん、気にしないでおこう。




 後の事をチョコさんに任せ僕はギルドへ簡単な依頼を受けに向かった。この日だけでも結構な出費があったし、これからの事を考えると稼げる時に稼いでおかないといけないからね。



 ギルドへ着くと『今日こそ‘ザッハ・トールテの洞窟'を攻略するぞー』と出発する4人の若者とすれ違った。既に20時過ぎてるのに意気揚々としている姿を見ると僕も負けずに稼ぐぞって気合いが入った。



 そしてこの日の依頼も無事に終わり報酬を受け取る。この日の成果は銀貨3枚。1時間で稼いだ額としては悪くなかった。




 その後、酒場を覗くとタルトさんが居たので少しご一緒させてもらう事にした。正直に言うと今日一日の出来事と悩みを誰かに聞いて欲しかったのだ。



「ほぉ~、ハルトも偉くなったもんだね~」


 タルトさんはケラケラ笑いながら美味しそうにお酒を飲んでいる。


「いや、そんなんじゃないですよ。ってか普通に特別報酬が奴隷だなんて思わないでしょ」


「そうかい?特別報酬って結構なんでもアリなんだよ。それに本当に嫌なら断れたはずでしょ」


「それが断れない状況だったんですよぉ~」


「本当かなぁ~?ちなみにそのシロップって娘は可愛いの?」


「そうですね。僕は可愛いと思います」


「そっか、そっかぁ。ハルトは可愛いから奴隷を貰ったと…」


 いきなりポチポチとメールを打ち出すタルトさん。


「ちょー。何メール打ってるんですか!」


「冗談よ、冗談」


 タルトさんがやると冗談に見えないんだよなぁ…。


「まぁそのシロップちゃんの件で困った事あったらいつでも相談しなさいよ」


「その際は是非お願いします」


 何とも頼れるお姉さんだ。すぐに相談しよう。



「で、マロンには報告したの?」


「まだです。ってか、それなんですよぉ~。どうしたらいいでしょうか?」


 そう、僕の悩みは今回の件をどうマロンさんに報告するかって事だった。


「こう言う事は早めに報告したほうがいいわね。時間が経てば経つほどあらぬ誤解を生みかねないと思うわよ」


「ですよね。次会う時に報告します」


「マロンもきちんと説明すれば理解してくれるわよ」


「だといいんですけどね…」


 マロンさんって結構思い込み強いから、またビンタの一発や二発は覚悟しておいたほうがいいのかもしれないなぁと思ってしまう。



「それよりあんたたちどうなってるの?なんか進展あったの?」


「それが全くで…」


 そう、それも悩みの種であった。


「あのね、マロンはいいとこのお嬢様なんだよ。お見合い話も結構あるみたいだし、のこのこしてたら誰かにとられちゃうわよ」


 マジでか!全く知らなかった。


「え!?お見合いとかしてるんですか!!」


「ご両親の手前ね。まぁ今のところは全て断ってるみたいだけど、だからと言って安心するなって事よ。早く何かしらのアクションを起こさないと手遅れになるわよ」


 正直お見合いをしている事にショックを受けたが、親の手前ならしょうがないかなと思った。


 でも確かに安心はできない。早く行動を起こさねば…。ただ、どうしていいかわからないのが僕のダメだところなんだよなぁ。



「ですよね…。でもなかなか気持ち伝えるタイミングとかなくって。何かイベントとかあればいいんですけど…」


 自分なりにロマンティックなシチュエーションに憧れがあったりする。2人の思い出に残るように。感動を与える事が出来るように。


 でもこの世界のイベントとか何もわからないし、そもそも告白した事もない僕としてはベストタイミングというのもわからなかった。情けない話ではあるが、これに関してはすごくアドバイスが欲しかったのだ。


 しかし、タルトさんの反応は予想外のもので‘ハァ~'と呆れられた。


「ハルトはおバカさんなの?シチュエーションやタイミングに憧れを抱くのはわかるけど、そればかりに拘ってると失敗するわよ」


「と仰いますと」


「例えば何かのイベントの際に告白しようと考えてて、でもその前にマロンに迫ってくる男性が現れたらどうするの?」


「うっ、それは…」


「そしてその男性と上手くいくようだったら?」


「もう、諦めるしかないですね…」


「ハァ~、あんたの想いってそんなものだったの?」


「だって、どうする事もできないし…」


「気持ち伝えないんだ?」


「無理ですよ…。上手くいってる2人の邪魔はしたくないし…」


「ったく、情けない。あのね、いくら想っててもその気持ちを相手に伝えないと、それは想っていないのと同じなんだよ」


 タルトさんの一言に何も言えなくなってしまった。そして、その言葉は長く僕の胸に突き刺さるものとなった。


「だからね、伝えたい想いがあるのなら、シチュエーションやタイミングとか言ってないで言える時に伝えなさい。そうじゃないと後悔するわよ」


「…そうですね。確かにその通りだと思います。ありがとうございます。ちょっと目が覚めました」


 うん、後悔はしたくない。やっぱり気持ちは伝えたいもんね。よし、頑張ろう。すぐには無理かもしれないけど。


「ふふっ、私もあんた達の事応援してるんだから。早くいい報告しなさいよね」


 グラスを傾けながら微笑むタルトさん。とても優しいお姉さんだ。今宵も有益なアドバイスに感謝です。




 その後もタルトさんと飲んで‘黒猫亭'へ戻ったのは24時過ぎだった。


 流石にもうシロップは寝ているだろうなぁと思い静かに部屋の鍵を開け入室した。


 ツインルームという事もあり結構大きめの部屋。


 これは快適に過ごせそうだなぁ~と思いつつ、シロップを起こさないようにそぉ~っと電気をつけたところ…。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


思わぬ状況に悲鳴にも似た声をあげてしまった。


だって、目の前のベッドの上に下着姿で正座したままこっちを見ているシロップがいるんだもの。



「おかえりなさいませ、ハルト様」


 シロップはそのままお辞儀をして僕を出迎えてくれた。


 あぁ、おかえりなさいなんて久々に聞いたよ。いいね、この感じ。

 

 …って、いやいやそうじゃないだろ。



「あのぉ~、シロップ。何してるの?」


「はい。ハルト様の帰りをお待ちしておりました」


「いや、先に眠ってて良かったのに…」


「いぇ、今日は2人にとって初めての夜なので…」


 恥ずかしそうにモジモジとそう言うシロップ。うん、そういう姿も可愛いなぁ~。


 って、今何て言った!



「えっと…聞き間違えと思うんだけど、シロップさん(・・)や。今何と仰いましたか?」


「ふ、ふ、2人の初めての夜で…。恥ずかしいので何度も言わせないで下さい」


 尻尾を揺らしながら顔を真っ赤にしてハッキリとそう言われた。うん、言われたんだ。



「ちょっと落ち着いて。正気に戻って」


「私は正気ですけど…」


 シロップは不思議そうな表情を浮かべ僕の顔を覗き込む。


 そして、またしてもモジモジしながらとんでもない事を口にした。


「あのぉ~、私初めてなので優しくして下さい」


 わぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 何言っちゃってんのこの娘!


 真っ白になりそうなところを何とか踏みとどまり、冷静を装ってシロップに語りかける。



「あのね、僕はシロップとそういう事するつもりはないんだよ」


 言った瞬間に、≪ガ―――ン≫と聞こえたような気がした。


「え!?だってハルト様は先ほど家族として接すると仰いましたよね。それってつまり私の事を、つ、つ、妻にって事ですよね!」


 いやいやいや、待てー!どうしてそういう事になる?飛躍し過ぎだろ。


 シロップの勘違い発言に唖然としながらも、僕はその真意を伝える事にした。


「いや、かなりの誤解があるなぁ」


 誤解ですか?と言った感じでキョトンとするシロップ。とりあえずパジャマを着せて話を聞いてもらう。



「良く聞いてね、シロップ。確かに僕は‘家族の様に接していきたい'とは言ったよ」


「はい、凄く嬉しかったです」


「そうか、それは良かった。でね、その‘家族の様に'ってのは‘(イコール)妻にする'って事じゃないんだ。どちらかと言えば妹の様に接していきたいしね」


「いっ、妹…」


 尻尾の動きがピタッと止まる。


 気持ちの変化があったんだな。


 でも、ここはハッキリと伝えるんだ。



「それに僕には今好きな人もいるんだ」


 またしても≪ガ―――ン≫と聞こえた様な気がした。


 そして完全にシロップは固まったのだった。


 もう何を言っても聞こえないようだ。


 僕は固まったままのシロップをそのままベッドに寝かせ「お休み」と言って風呂場へ向かっうのだった。




 風呂からあがりシロップが眠っているのを確かめて僕も自分のベッドに潜り込んだ。

 

 あぁ、とっても疲れた一日だった。これはこの先が思いやられるなぁ…。


 そう思いつつ眠りについたのだった。




 それから数十分後。



 何だか温かい。ツインルームになってベッドのグレードが上がったのか?

 

 眠りが浅かったせいか何故か非常に気になった。


 眠気眼を擦りながら目を開け電気をつけてみると…。


 なっ!!!

 

 布団が変に盛り上がっていたのだった。


 中に誰かいる。うん、もう予想はできるけど…。


 布団をめくると案の定そこにはシロップがいて僕に寄り添うようにスース―と寝息を立てていた。


 あぁ、どうりで温かいはずだ。って、何故こんな状況に?


 まぁ今は頭がボーっとしている事もあり、深くは考えないでおこう。


 寝ているシロップをそのまま抱え、そーっと彼女のベッドへ運び、再び眠りにつく事にした。




 更に数十分後。

 


 何だかとても温かい。それにふかふかと気持ちいい。まるで毛皮に包まれたような…って!!!

 

 嫌な予感がして、ガバッと目を開け電気をつけた。


 うん、また布団が変に盛り上がってるね。


 諦めつつ布団をめくるとまたしてもシロップが布団の中に潜り込んでいた。


 しかも今度は大きな尻尾が僕の顔辺りにくるような格好で。


 うん、これは無意識に触っちゃうよね。


 って、そうじゃない。これは厳重注意をしなきゃ。僕は眠っているシロップを揺り起こすのだった。



「ねぇ、シロップ。ここ僕の布団なんだけど…」


 ≪ふにゃぁ~≫と目を擦りながら彼女は申し訳なさそうに答えた。


「…すみません。お手洗いから戻った時に間違えたみたいです…」


「そうか、それは仕方ないね。じゃぁ自分のベッドに戻ろうか」


 素直に自分のベッドへ戻って行くシロップ。僕は彼女が布団に入ったのを見届けて‘お休み'と電気を消した。



 しかし、嫌な予感が払拭しきれなかった為念には念を入れる事にした。

 

 風の盾(ウインドシールド)を自分中心に展開させ、スゥースゥーと寝息をたてるフリをする。


 するとどうだろう。


 数分後に≪ドン!≫という音と‘きゃぁっ'と可愛い悲鳴が上がったのだった。

 

 どうやら見事に罠にはまったみたいだ。


 電気をつけてみると案の定ベッドの下で頭を抑えているシロップがいた。

 

 暗闇の中、僕のベッドに潜り込もうとして頭を思いっきり風の盾(ウインドシールド)にぶつけた様だった。

 

 彼女にジト目を送っていると、しばらくしてその視線に気づいたシロップは申し訳なさそうに「またお手洗い帰りに間違えたみたいですぅ~」と言い始めた。


 うん、完全に嘘だよね。お手洗いなんて行ってないし、直接入ってきてたよね。



「最初に謝っておくけど、ごめん嘘寝してた」


 ビクッ!!と反応するシロップ。狐耳と尻尾がシュンと元気なく下を向いている。


「で、どうしてこんな事したの?」


「はぅ…。ごめんなさい。奴隷商館で奴隷はご主人様に添い寝のご奉仕をすると習っていましたので…」


 また奴隷商館での教えか!カプレーゼめ、余計な事ばかり…。

 

 まぁ、通常なら嬉しいご奉仕だろう。可愛い女の子に添い寝してもらえるんだからね。


 でも、今の僕にとってそれは有り難くない。好きな子がいる手前、他の女の子と添い寝なんて洒落にならないよ。


 ベッドの下で正座したまま泣きそうな表情を浮かべているシロップ。彼女はただ教えに忠実なだけだから別に怒るつもりもないんだけどな。



「あのね、シロップ。奴隷商館の教えが悪いとは言わない。でも僕が望んでるものと少し違うんだ」


「あの~、ハルト様は私なんかが添い寝するとご迷惑ですか?」


「いや、迷惑なんて事ない。むしろシロップみたいに可愛い女の子に添いされて喜ばない男性はいないと思うし」


「じゃぁ…」と少し嬉しそうにな表情になるシロップ。


「でもね、今の僕はダメなんだ。やっぱり好きな子がいるから…」


 最後まで言い終わらぬうちに≪ガ―――ン≫と聞こえ、目の前でシロップは固まったのだった。


 もうこれ以上は話しても無駄か。って、今日何度目だよ。固まったシロップを見て思わずププっと吹いてしまう。


 そう言えば、部屋で笑うのなんて久々の事だ。


 誰かが一緒にいると、部屋でも笑うんだな。


 当たり前の事なんだけど、この世界に来て独り慣れしてしまい、すっかり忘れていたこの感じ。


 それを思い出させてくれたシロップに少し感謝するのだった。


 でも、だからと言って奴隷商館での教えは早急になんとかしなければならない。 


 早速相談しよう。


 

 そして固まったままのシロップを彼女のベッドへ寝かせ、僕もやっと眠りにつく事ができたのだった。

 

 ちなみにその夜シロップがこれ以上妙な行動を起こす事はなかった。







 そして翌日。僕はシロップを連れて朝一でタルトさんの家に向かった。


 もちろんシロップの紹介をする為ではない。


 昨日一日を振り返ってわかった事。それはシロップと僕の価値観の違いだ。


 そりゃあ生まれも育ちも違うわけだから違いがあって当たり前なのだけど、シロップの場合奴隷商館での教えに忠実すぎるのだ。


 僕の求めているものと対極的だからなぁ。

 

 だから意識改革の相談をしたかったのだ。


 事情を説明するとタルトさんは「OK、OK~」と満面の笑みを浮かべながらノワさんを呼んだ。


「うちのメイド長の出番ね」


「私に全てお任せ下さい。しっかりと教育を行います」


 そして何故か小さなサイズのメイド服が用意されていた。まるでこうなる事を予想していたかのように。


 でもこれは頼もしいぞ。元奴隷のノワさんならシロップの心情も理解できるだろうし安心して任せる事ができる。


「ありがとうございます。是非よろしくお願いします」


 事の成り行きをビクビクしながら見守ってるシロップ。


「心配ないって。優しいお姉さん方だから。ほら挨拶して」


 簡単な挨拶を交わすも未だに僕の服の袖をずっと握っている。


 やっぱり不安なんだろうなぁと感じる。


 でも大丈夫だよ。こちらのお姉さん方は本当にとっても優しい人だからね。



「それではハルト様。これから一週間はシロップを自宅にお戻しする事できませんがよろしいですか?」


「一週間ですか」


「はい。教育に最低限必要な期間でございます。もちろん場合によっては延びる事もございますので」


「わかりました。ノワさんにお任せします」


「そんなぁ…、ハルト様ぁ…」


 嫌々と言わんばかりに首を振っているシロップ。


 うん、ごめんね。これもこれからの為なんだ。




 そういう訳で僕はシロップの教育をお願いしたのだった。


 一週間でどう変わり、どう成長するのか。ちょっと楽しみに思う。


 そしてシロップも頑張っているのだから僕もしっかり稼ごうと気合いを入れ今日も依頼を受けるのだった。

 





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