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第三十五話 奴隷少女と僕

 



 目の前に契約書と首輪が用意され奴隷契約について一通り説明を受けた。


 以前アモンドに説明を受けていた為内容を理解するのは容易だった。


 でも正直まだ自分が奴隷を持つ事が信じられなかった。



「それでハルト様、この度の契約に何か制約を設けますかな?」


「いや何もしなくていいよ。普通に契約をするだけで」


「かしこまりました。ではこちらの契約書にサインと血を数滴お願いします」


 言われるままサインをし、ナイフを軽く指に突き立てて血を垂らす。


 すると、契約書と首輪がピカーっと光り輝いた。


「これで契約は終了ですぞ」


 そう言ってカプレーゼは輝きが止んだ首輪を部下に命令し下げさせた。



「首輪は早速シロップに着けさせます。準備が終わるまで今しばらくお待ち下さいな。何かご不明点はございませんか?」


「首輪というのは常に着けさせておかないといけないの?」


「えぇ、お願いしますぞ。首輪は奴隷に着けさせる義務がございます。主人がいるという事の証明にもなりますし、奴隷自身を守る為にも必要なのでございます」


「首輪が外れたりすると奴隷契約は解除されるのか?」


「いぇ、その様な事はございませんぞ。先ほどの契約書を交わした時点で奴隷には主従契約の紋が現われます。改めて契約書で解除しない限りは奴隷契約は続いたままとなります」


「そうなんだ。じゃあ、既に僕はシロップの主人になったわけなんだね」


「左様でございますぞ」


「ちなみに、シロップの職業欄が空欄になっているのは何故?」


「奴隷になると一旦無職となりますのじゃ。ただし、奴隷契約をした者はギルドで改めて職業に着く事ができますので、ご希望とあらば後ほどギルドへ行かれるのをお勧めしますぞ」


「シロップの前職とかわかるの?」


「少々お待ちを」


 そう言ってカプレーゼは戸棚にある書類の束をあさりだした。


 おいおい、それぐらい準備しとけよと思いつつ少し時間がかかりそうだったのでサングラス造りをする事にした。


 カプレーゼが丸型の眼鏡をしていた事もあり、丸型のサングラスも面白いなぁって思ったんだよね。



 【創造(クリエイティブ)】で1本、また1本と作り上げていく。


 サングラス造りはスキルを使用して作る以上MPの消費はするし、それなりの集中力が必要となる。


 何よりスキルの特性上一度に大量生産ができないから、こうやって空き時間にコツコツ造るしかないのだ。


 決して効率は良くないけれどこれは致し方のない事だった。


 でも最近サングラスがそこそこ売れるようになってきて、実はサングラス造りも楽しく感じるようになっていた。

 

 5本造り終った所でカプレーゼが書類を持ってやってきた。

 


「ありましたぞ。っと、おぉぉぉぉぉぉぉ!これは何ですじゃ?」


 机の上に並べてあったサングラスを見て驚きの表情をあげていた。


「あぁ、これはサングラスと言って…」


 簡単にサングラスの説明を済ます。カプレーゼはいかにも興味津々と言った感じだ。


 そしてそんなカプレーゼを見てふと思った。これはいい宣伝になるんじゃないかと。


 カプレーゼは奴隷の買い付けで各地を転々としているし、これだけ大きな奴隷商館の主だからその影響力も大きいと思われる。


 うん、イケるんじゃないか。


「良かったら1本あげるよ」


「えぇ!よろしいのですか!?」


 物欲しそうにしていたカプレーゼ。その表情がみるみる緩んでいく。


「どうですか?似合いますかな」


 サングラスを着けて嬉しそうに聞いてくる。


 うん、悪い意味ですごく似合っている。


 小太りでただでさえ怪しい感じなのに、より一掃柄が悪くなってしまった。


 完全にマフィアのボスって感じだね。まぁ本人が喜んでるからいいのだが…。



「うっ、うん、似合ってるよ。でも着ける場所は選ぶようにね。お偉方の前や夜は着けない事をおすすめするよ」


「ありがとうございますぞ。ワシも一段と箔が付きましたなぁ~」


「サングラスが必要な時はアクセサリーショップ"白銀の華"までいつでも来てくれ。安くしとくよ」


 "白銀の華"とはタルトさんのアクセサリーショップの事。僕も最近ショップ名を知ったんだけどね。

 

「えぇ、是非ともそうさせて頂きますのじゃ」


 満足気なカプレーセには悪いが、いいお得意様&宣伝役を得て僕もそれなりに満足だった。期待してるよカプレーゼ。



「ところでシロップの件だけど…」


「おぉ、そうでした。そうでした。えぇっと、以前は薬師だったみたいですなぁ。でもコレと言ったスキルを覚える事もなく奴隷になった様なのであまり参考にはならないかもしれませんなぁ」


「って事は別に前職に拘らなくてもいいって事か…」


「ですなぁ。ハルト様のご希望のままに就かせるのがいいでしょう」


「わかった。ちょっと考えとくよ」


「えぇ、えぇ。では、そろそろ準備も整った様なのでシロップをお呼びしますぞ」


 パンパンと手が叩かれると同時に扉が開き1人の女性が入ってきた。


 腰まで伸びた綺麗な金髪にピコピコと動いてる狐耳。


 丸顔で目が大きく幼さの残るその顔立ちからはとても来年成人するとは思えなかった。


 そして特徴的な金色の大きな尻尾がリズムよく揺れていて、見ているだけで和み触りたい衝動にかられる。

 

 145㎝程の小柄な身長も相まってその容姿はとても可愛らしかった。


 なんだかマスコットみたいな感じだなぁ。



「ではシロップよ、こちらのハルト様が今日からお前のご主人様である。くれずれも粗相のないようにするのじゃぞ」


「はい。ご主人様、これからよろしくお願いします」


 尻尾の揺れを一段と早くしながら挨拶をするシロップ。


「う、うん。よろしくね」


 とんとん拍子で話が進みまだ戸惑いが大きかった。でももう腹はくくっているんだ。僕がしっかりしないとな。


「じゃあカプレーゼさん、今回の特別報酬の件はこれで終わりという事で」


「えぇ、えぇ、もしシロップの再調教が必要な際や他の奴隷が必要な際はいつでもお越し下さいませ」


 そんな必要ないからと心の中で呟きつつ、挨拶を交わし僕はシロップを連れ奴隷商館を後にした。









 奴隷商館を出ると辺りはすっかり陽が落ちていた。


 予想以上に長居をしていたようだ。まぁ、結局長話をしてお茶やお菓子もご馳走になったしね。

 

 とりあえず衣類を購入しないといけないと思い洋服店へ向かった。


 道中シロップはただ黙って僕の後ろをついてくるだけだった。


 最初の挨拶以来会話がないんだよなぁ。


 本来なら主だある僕が積極的に話しかけないといけないのだろうけど…。


 こういう時が人見知りの辛いところである。


 会話のきっかけを全くつかめないのだ。う~ん、どうしたものか…。

 

 結局何の話もしないまま洋服店に着いてしまった。

 



 下着を含め女性の洋服を買うわけだから僕は店内に入らないほうがいいだろう。そう思って僕は店前で硬貨を取り出した。


「えっと、シロップ。今からこの店で洋服を買ってきて欲しい。予算は銀貨30枚しか出せないけど、好きに買っていいから。3日分ぐらいあればいいと思うからよろしくね」


 そう言うとシロップは僕をジッと見つめて硬貨を受け取り「わかりました」と店内に入っていった。


 待つ事15分。シロップが大きな袋を抱えて店から出てきた。


 女性の買い物って時間かかると思っていたからしっかり選んだのか少し心配になった。


「おっ。早かったね。いい服選べた?」


「はい。ご主人様に気に入ってもらえるといいのですが…」


「シロップが好きな服でよかったんだよ」


「はい。一応私のセンスで選びましたが、でもやはり実際に着てみて判断して頂きたいと思います」


「うん?判断?」


 なんだかとっても嫌な予感がした。


「ちょっと買った服みせて」


 シロップから袋を受け取り中身を確認する。すると男性用の洋服・下着がきっちり3着ずつ入っていた。


 思わずガックリと膝をつく僕。


「おっ、お気に召しませんでしたか?ごめんなさい、ごめんなさい…」


 そんな僕を見て購入した服が気に入らなかったと思ったのだろうか。


 シロップは土下座をして必死に謝罪し始めた。



 洋服店の前という事もあり人通りも多く周囲が何事かと(ざわ)めきだす。


「奴隷に土下座させてるよ」


「可哀想に。まだあんなに小さいのにねぇ」


「アレは碌な主人じゃないな」


「こんな公衆の面前で。最低だわ」



 うん、言われ放題だな。


 って、違うんです。別にシロップを辱めてるとかそんなんじゃないから。

 

 ひそひそ聞こえてくる周囲の声に耐えられなくなり、僕は強引にシロップの手を引いて店の裏側へ回った。



「ごめんなさい、ごめんなさい…私がセンスないばっかりにごめんなさい…」


 未だに謝り続けているシロップ。早く誤解を解かないと。


 僕はシロップに諭すように話しかけた。


「あのね、別に気に入らなかったとかじゃないんだ。だから謝らないでくれ」

 

「でもご主人様は先ほど膝をつかれてとてもガッカリした感じでした。私のせいで…」


「いや違うから。あれはね驚いただけだから。えっとね、僕が買ってきて欲しかったのはシロップ自身の服なんだ」


「え?私のですか?」


「そう。だってシロップは見たところコレと言った荷物もないし、洋服は今着ている一着しかないでしょ?」


「…はい」


「だからシロップの服を買ってきて欲しかったんだ」


 シロップはそうだったのかと驚きの表情を浮かべ、そしてまた謝罪し始めた。


「ごめんなさい。私、ご主人様の意図を全く理解できずに勝手に買い物してしまいました。ごめんなさい…」


「あぁ、いや、それは気にしなくていいから。この服はしっかり使うからさ」


「よろしいのですか?私が勝手に選んでしまったものだし、本当に無理しないで下さい。返品できるよう交渉してきますから」


「いやそんな必要ないよ。なかなかセンスいい服だしね」


「本当ですか?」


「うん、本当。それにせっかくシロップが選んでくれた服だしね。大切に使わせてもらうよ」


「ありがとうございます」


 嬉しそうにお礼を言うシロップの狐耳がピコピコと動き、尻尾も少し揺れ始めた。気分が上がったのかな。


「じゃあ、今度はしっかり自分の洋服を買ってくるんだよ。はい銀貨30枚ね」


「本当によろしいのですか?」


「いいから、いいから。ほら、行った行った。僕はここで待ってるからね」


 強引にシロップの背中を押し、再び洋服店へ買い物に行かせた。


 

 それにしても意思の疎通がとれないと大変だなぁ。


 お互いを知る為にももっと積極的に話をしなければ。


 洋服店に来るまでの道中、会話が全く無かった事を今更ながら反省した。


 そして待つ事数十分。またしても大きな袋を抱えて戻って来たシロップ。


 今度はしっかりと自分の服を選んでいた。


 良かった、良かった。そう思いシロップの顔を見ると、心なしかその表情はとても嬉しそうだった。









 洋服店を後にして、僕らは夕食をとる為に食堂街へと向かった。

 

 先ほどの反省を活かし今度は僕から話しかけてみた。


「今から食事だけどシロップは好き嫌いとかあるの?」 


「えっと、お肉が好きです。嫌いなものは特にありません」


「そっかぁ。じゃあ今日はお肉が美味しい店に行こう」


「えぇ!私なんかに合わせてよろしいのですか?」


「うん、せっかくだから好きなものを食べようよ。僕もお肉好きだしさ」


「ありがとうございます、ご主人様」


 また尻尾が大きく揺れ始めた。これ絶対に喜んでる証拠だよね。


 狐耳と尻尾の状態についていつか教えてもらおうと思った。



「あっ、それとさ、そのご主人様ってのは何とかならないかな?」


「お嫌ですか?」


「う~ん、何と言うか呼ばれ慣れないし、やっぱり名前で呼ばれた方がいいかなぁ」


「では、ハルト様と呼ばせて頂きます」


「うん、まぁそれでいいか」


 正直`様'を付けられるのもどうかと思ったが、そこは譲れませんという目で訴えかけられたので受け入れる事にした。


 そして、そうこうしている間に目的のレストランへ到着した。



「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」


 笑顔でウェイトレスが尋ねてくる。


「2名でお願いします」


「ではこちらへどうぞ」


 僕らは2人がけのテーブル席に通された。


 ウェイトレスはシロップの首輪にすぐに気づいた様だったが、奴隷だからと言って差別しない接客態度にこの店全体の好感が持てた。


 現に店内を見回してみると奴隷も同じ様に主人と一緒の席に着き食事をとっている。


 うん、こんなお店っていいよね。



 しかし、いざ席に座ると驚きの状況が僕を待っていた。


 椅子に普通に座った僕に対して何とシロップは床に正座しはじめたのだった。


「うぉい!何してるの!?」


 大声でツッコまずにはいられない。


「私は奴隷ですから、ハルト様と同じ席に着く事などできません」


「いや、そんな事ないから。周りを見て。奴隷の首輪着けてる人も同じ様に食事しているでしょ」


「でも奴隷商館ではこの様に教えられて…」


 オロオロと戸惑いを隠せないシロップ。


 恐らく奴隷商館での教えを忠実に守ろうとしているのだろう。でも、そんなのは主人の方針次第だ。こんな状況を僕は望んでいない。



「わかった。それはそれで理解したから。でもね、床に座るなんて言わないで。お願いだから椅子に座ってくれ」


 僕は頭を下げ何とか椅子へ誘導しようと試みる。


「そんなお願いだなんて止めて下さい。私は奴隷です。ハルト様の命令とあらば何でも聞きますので…」


 最後の方は消え入りそうな声だった。ってか、命令とかじゃないんだけどな。


 何とかシロップを椅子に座らせたが、彼女は完全に恐縮しきっていた。


 う~ん、雰囲気がよろしくないなぁ。


 こういう事はきっと最初にハッキリと言っておかなければいけないんだ。


 そう思い僕はできるだけ柔らかい口調で話しかけた。



「ねぇ、シロップ。まずこれだけはしっかり覚えていて欲しいんだけど…」


 ビクっと身を震わせるシロップ。狐耳と尻尾がシュンと下を向いている所を見ると怒られるとでも思ったのだろうか。


「確かに僕達の関係は奴隷契約のもとに成り立っている。でもね、だからと言って僕はシロップを奴隷として扱うつもりはないよ。どちらかと言えば家族の様に接していきたいと考えているから」


 僕の言葉が予想外だったのか、シロップはとても驚いた表情をした。


「家族…」


「そう。家族みたいにね…って!!!」


 気づくとシロップは大粒の涙をポロポロと流していた。


 そして「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にした。


 突然の涙に正直焦った。それは彼女の涙の意味を理解できなかったから。


「えっと…。ほらコレで涙を拭って」


 そんな僕がこんな状況で出来る事としたらハンカチを手渡す事ぐらいだった。


 あぁ、ダメだな。普通はもっとかけるべき言葉があるはずなんだろう。でも僕はこんな時に何て言葉をかけたらいいのかわからないよ。もっと自分のコミュ力が高ければなぁ。


 そう思いつつただ黙って待つしかなかった。

 

 そしてシロップがだいぶ落ち着きを取り戻してから、ボア肉のステーキセットを2人前注文した。


 好きと言ったお肉を食べれば少しは気分を戻してくれるだろうか。


 初めての食事だし楽しい夕食にしたいと思う自分がいた。


 しかし、ただでさえ女心を読むのが苦手なのに、これから不安だなぁと感じずにはいられなかった。

 

 でも、弱音を吐く事は許されないんだ。


 奴隷の常識や接し方なんて全くわからないけど、今日から僕が責任持って養っていくと決めたんだから。


 まずはコミュニケーションをしっかりとり信頼関係を築いていこう。


 そう心に誓った一日となった。

 

 








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