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第三十二話 商売を始めよう

6/28誤字修正しました。

 



 護衛の依頼を終えてから数日が過ぎた。


 しかし相変わらず金欠状態が続き、僕は訓練と依頼の日々に明け暮れていた。







 必殺技に関しては護衛任務の翌日からズコットさんに頼み込んだ。


 僕のあまりの必死さにどこか引いた感じもあったが、それでも快く承諾してくれた。

 

 それで僕が練習する事になったのは1秒間に複数の突きを放つ技であった。


 今の実力ではできても1秒間に3発。いくらレイピアの扱いに手慣れてきたと言っても所詮はその程度だった。


 この世界で一般的には1秒間に10発がひとつの大きな壁と言われているらしい。


 でもその壁を乗り越えた先には必殺技が手に入ると思うと、どんなにキツイ訓練でも頑張れた。







 アモンドとの訓練も始まった。こちらは『属性闘気アトリビューション・オーラ』を習得する為の訓練だったが、何故かとても個性的なものだった。


 と言うのも目隠しをされ手を縛られ放置。


 流石にツッコまずにはいられなかったが、アモンド曰く「『属性闘気アトリビューション・オーラ』を習得するには集中力を高める必要がある。人間は5感のうち1つを失うと他が研ぎ澄まされると言われている。なのでこの方法が一番なのさ」との事だった。

 

 一番早く習得する方法でお願いしたいと言った手前、頑なに拒否する事もできず…。


 まぁ、アモンドが言うならば確かなんだろうと納得するしかなかった。うん、大丈夫だよねコレ?

 






 マロンさんとの訓練だがこちらはとうとう生活魔法も一通り習得し終えたのだった。


 つまりそれは僕とマロンさんの訓練の終わりを意味する…。


 僕にとってはマロンさんと定期的に会う口実がなくなるわけで、それは寂しい事でもあった。


 まぁ、都合さえよければこの前みたいに食事とかはできるのだろうけど、やっぱり定期的に会えないのは辛いなぁと感じてしまう。



 そんな事を考えていると、近寄ってきたマロンさんがハンドタオルを手渡しながら労いの言葉をかけてくれた。

 

「お疲れ様でした。よく頑張りましたね」


「ハァ、ハァ…ありがとうございました」


 僕は息を切らしながらお礼を言う。


「ふふふ、これでハルトさんも立派な冒険者ですね」


「そうかなぁ」


「はい。自身持っていきましょう」


 相変わらず素敵な笑顔に見惚れてしまう。


「でも、こうやって訓練が終わっちゃうのも寂しいですね」


 え!?マロンさんも同じ様に感じていたの?


 そう思うとここで言わなきゃと思った。



「「あの~」」


 あっ、被った。


「ごめん。どっ、どうぞ」


「いっ、いぇ。ハルトさんの方からどうぞ」


「いやいや、レディーファーストだよ」


「こういう場面では違うと思います」


「だよね…」


 このままグダグダやってるとお互い言いづらくなってくる。ここは僕がビシッと言うしかないか。


「あのね、もし良かったらなんだけど、今後も僕の訓練に付き合ってくれませんか」


 まるで告白でもしたかのように手を差し出しお辞儀をしてしまった。


 あれ?何やってんだ僕は…。恥ずかしいぞコレって。



「こちらこそよろしくお願いします」


 そんな僕にドン引きする事もなく、マロンさんはギュッと手を握ってくれた。


「実は私も同じ事お願いしようと思ってました。なんかこのまま終わっちゃうのもなぁ…って」


 おぉ!そうだったの!


「なので、今後は私の訓練にも付き合って下さいね。2人で依頼とか受けましょう」


 彼女の頬がいつもより赤みを帯びているのに気づいた。マロンさんも照れてるんだ。

 

 正直僕はマロンさんに定期的に会う口実がなくなるっていう下心的な事が理由なんだけど、こんなに照れてるマロンさんを見ると彼女も同じ様に思ってくれてるのでは…と勘違いしそうになる。

 


 そんなこんなで僕とマロンさんはこれからも2人で訓練を行う事となった。


 うん、良かった。良かった。







 そして今日、僕はタルトさんの工房にお邪魔していた。サクラとノワさんにも同席してもらっている。


「早速だけどサクラ、ちょっと眼帯を外してくれる」


「ん。いいのよ」


 サクラが眼帯を外すと緋色の瞳が現れた。本当に綺麗な色だ。


 でも、この緋色のせいでサクラが人間から疎まれる姿はとても我慢ならなかった。


「じゃあ、そのまま動かないで…ヒッ」


 気づくと首元に鉈が当てられていた。ひんやり冷たい刃に寒気が走る。


「お嬢様に何をなさろうとしてるのですか?」


 ノワさんは表情こそ怒ったりしていないが、鉈を手にしてる時点でただならぬ恐怖を感じる。


 これは順番を間違えれば命に関わるぞ。


「え、えっと、まず説明しますね。この鉈をどけてもらっていいですか?」


 ノワさんが鉈をおさめた所で僕は今回の贈り物を披露した。


「これはカラーコンタクトレンズ、略してカラコンって言って【創造(クリエイティブ)】で作ったこの世界に一つしかないものです。使用方法はこうやって…」


 そして僕は説明しながら自分でカラコンをつけてみた。


「へぇ~、目の色が変わるアイテムかい。なんかお洒落だね~」


「かっこいいの」


「目に直接…大丈夫なのでしょうか?」


「ご安心下さい。目に悪影響はでない仕様となっています。それで、コレをサクラにつけてほしいんだけどいいかな?」


「うん、わかったの」


 サクラの緋色と黒のオッドアイが茶色のカラコンで隠れる。傍から見たら人間の瞳と変わらなかった。



「おっ、お嬢様の緋色の瞳が完全に隠れましたの」


 ノワさんが驚きすぎてサクラのような口調になっている。



「やるじゃん。これならこの街でも眼帯なしで普通に過ごせるよ」


 よし!タルトさんからもお墨付きを頂いた。残すは本人の反応か…。


 鏡でまじまじと確認してるサクラ。


 しばらく見つめた後、サクラは涙でぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けた。


「うわぁぁぁぁぁん」

 

 そして泣きながら僕の胸に飛び込んできた。


「ありがとうなの~。これがあればいつも2つのお目目開けれるの~」


 今までサクラは常に眼帯をして生活をしていたらしいのだが、この前の酒場の一件のように無理やり眼帯を外され迫害を受ける事も少なくなかったとの事だった。


 幼い頃からそういう経験をしていると、いくら眼帯をしているからと言っても外される恐怖を常に感じていた事だろう。


 まだ9歳の女の子には酷な話だ。


 せめてこれからは堂々と街を歩けるようにしてあげたい。そう思って今回カラコンの作成を思い立ったのだ。


 と言っても【創造(クリエイティブ)】のお蔭で材料さえ揃える事が出来れば簡単に作る事が可能なのだが。



 サクラの頭をポンポンと撫でていると、横からノワさんがサクラの涙を拭ってあげていた。


「せっかくなので笑いましょう、お嬢様」


 そう言ったノワさんの目は少し濡れていた。


 涙を拭ってもらったサクラは「ありがとうなの」のと満面の笑みでお礼を言った。


 そうそう、やっぱりサクラはこうやって笑っていたほうがいいよね。


「ちょっとお外に行ってくるの」


 そう言ってサクラは嬉しそうに外へ駆け出していった。


「あんなに明るく外出するお嬢様なんて久々に見ました。ハルト様本当にありがとうございます」


「いぇいぇ。ちなみにこのカラコンは使い捨てです。今お渡しできるのは100セットですが、また定期的に届けますね。注意点や使用方法のメモも付けてますがわからない時はいつでも聞いて下さいね」



「でもさ、ハルト。このカラコンはギルドへ登録するのかい?」


「いぇ、それは考えていません。カラコンはあくまでもサクラ専用のアイテムにしておきたいので」


「うん、うん、それがいいね」



「ちなみにこのカラコンのお値段はおいくらぐらいでしょうか?」 


 申し訳なさそうにノワさんが聞いてきたが、僕はお金をもらうつもりなんてなかった。


「お代なんていりませんよ。これはプレゼントです」


「本当によろしいのでしょうか…」


「はい。僕はサクラの喜んだ顔が見たかっただけですから」


 そう。それが一番の理由だったから。それ以上のものなんて必要なかった。


「わかりました。今回はご厚意に甘えさせて頂きます。この御恩は一生忘れません。私で何かできる事があれば何なりと申して下さいね」


「はい。その際はよろしくお願いします」




「でもさ、ハルトはお金に困ってるんでしょ。大丈夫なの?」


 僕の金欠の話はいつの間にか仲間内で広まっていた。


「そうなんですよね。なので、今回はもう一品お披露目したいものがあります。それはこちらです」



 目の前で僕がお披露目したのは5色のサングラスだった。


 この世界には眼鏡こそあれサングラスが存在してなかったからね。


 もしかしたら流行らす事ができるのではないかと考えたのだった。


「へぇ~、眼鏡に色を付けるとは考えたね」


「フレームも特徴的でお洒落ですね」


 

「眩しさや紫外線などを低減して、瞳を日光から守るという効果もあります」


「日差しが強い場所も多いので冒険者にも重宝されそうですね」


「これも【創造(クリエイティブ)】で作ったのかい?」


「そうです。これは既にギルドに登録申請してきました。材料は‘ガラス片'と‘高純度チタンの結晶’と‘虹色の花’で出来ます。材料さえ揃えばタルトさんの【錬金術】でも作れると思います」


「えっ!?本当。ちょっと後でやってみるね」


「それでハルト様はこのサングラスとやらで商売を考えていると?」


「そうなんです。なんとかこれで副収入を稼げないかなと思いまして」


「ちなみに値段はどれくだいをかんがえているんだい?」


「銀貨3枚~15枚の間で、フレーム別に価格設定していこうかなと考えています」


「確かにその価格なら一般市民でも手が出しやすくはあるけど…。安すぎない?」


「いいんです。目的はより多くの人に購入してもらう為ですから」


「そっかそっか。金欠なのに儲けに走らないのはハルトらしいよ」


「それでご相談ですが、タルトさんのショップの一角で販売させてもらえないでしょうか?」


 商売をするには場所がいる。でも数点のサングラスだけでは店舗を構えられるハズもない。まして僕は冒険者。常時店番なんてのも無理だしね。


「あぁ、それは構わないよ。最近はノワが店番してくれてるからほぼ開店してるしね。うちの店は冒険者はもちろん貴族の常連も多いから彼らの目にとまれば流行間違いなしだしね」


「私が責任もって販売させて頂きます」


「ありがとうございます。えっと場所代は売り上げの3割ほどでお願いしたいのですが…」


「あぁ、場所代なんていらないよ。売り上げは全部ハルトのものさ」


「えっ!いいんですか。凄い助かりますけど…」


「うん。いいのいいの。その代わり私もサングラス作れるようになったら販売させてもらうよ」


「はい。それはもちろん。では、よろしくお願いします」


 こうして僕のサングラス販売が始まった。


 上手くいけばそこそこの定期的な収入が見込める。考えただけでニヤニヤしてしまう自分がいた。



 その日の夕食はタルトさん宅でちょっとしたホームパーティーが行われた。


 事情を知る仲間内だけでのパーティーでサクラのカラコンと僕の商売を祝っての事だった。


 主役のサクラは終始テンションが高くその姿を見ているだけで周囲も笑顔で溢れていた。


 みんな嬉しそうに飲んで食べてやんややんやと賑やかにお喋りして、素敵なパーティーだった。



 笑顔の溢れた空間って本当に居心地がいい。


 気のせいかこの日はお酒を飲むペースが早かった。


 僕自身とっても嬉しかったんだ。



 




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