第三十一話 僕の周りの優しい人達★
2016年8月27日 挿絵を追加しました。
2016年6月28日 誤字修正しました。
山賊の襲撃を受けたが幸いな事にこちら側の被害はなかった。
毒針を受けた奴隷も毒消し薬で回復したし、何より狐耳の少女が助かったのが大きい。
とても襲撃を受けた後だとは思えないくらい雰囲気が良く、一行はまたドルチェ王国目指し出発した。
「まさかハルトが‘風の勇者'だったなんてなぁ~。まぁでも言われてみれば確かにね」
アモンドがどこか納得したように言ってくる。
「何が‘確かにね'なんだよ」
そんな風に言われたら気になるじゃないか。
「あぁ。さっきの戦闘でさ、ハルトが唱えた風の盾が常識を超えるようなものだったから。きっと何かあるんだろうなぁと思ったわけ。
それに奴隷に薬あげたりするし、山賊と戦った時にずいぶん甘い戦い方もしてたからさ」
むむっ。随分鋭いとこ見てるなと思った。
「でも、それだけで`勇者'だと納得できるものなの?」
「う~ん、まぁ俺みたいに冒険者を長くやってれば‘勇者'についての情報とかも入ってくるわけよ」
「例えばどんなの?」
「レベルの割にステータスが高い事や、この世界の常識がない事や、人を殺すのに抵抗が強い事などかな」
「うぅ。思い当たる節が多いような…」
「だろ。そもそもハルトは奴隷制度もよく知らなかったし、さっきも奴隷ちゃんに毒消しの薬を渡していたけど、常識ある者ならそんな事しないんだせ。本来それは奴隷商人の仕事だからさ」
そんなものなのかと思った。
「それにお前、人を殺めたのもさっきがはじめてなんだろ?」
「うん」
「まぁ、同族相手に甘くなるのもわからなくはないよ。でも殺る覚悟は常に持っとく事だな。悲しいかなこの世界じゃそれが常識なんだ。食うか食われるかの世界だからなぁ」
フィーキさんと同じ様に忠告してくれる。
「まっ、また迷う様な時はその度に思いだすといい。守りたいものは何なのかを」
「そうだね。しっかりと覚えておくよ。ありがとう」
うんうんと満足そうに頷くアモンド。この人も随分とお人好しなんだなぁと思った。
「あっ、そう言えば一つ聞きたかったんだけどスキルの【爪】や【格闘技】っていうのはさっきアモンドが使ったオーラや技に関係あるの?」
「ん~?あぁ、あの技は確かに【格闘技】のもので…ってお前どうして俺が【格闘技】持ちって知ってるんだ?」
しまった。忘れてた。勝手に【鑑定】してたんだっけ。
「お前、さては【鑑定】スキルで覗きやがったな」
「あ…いや…その…」
「‘勇者'は【鑑定】スキル持ちが多いって話もつかんでるんだぜぇ」
さっさと認めろ~と言わんばかりの表情で迫ってくるアモンド。
「うぅ、すみません…【鑑定】しちゃいました」
「そうそう、素直に認めればいいんだよ。まぁ別に怒ってないから。んでスキルの説明だったな」
それからアモンドは【格闘技】と【爪】について説明をしてくれた。
「見たところハルトの攻撃手段ってそのレイピアだよな」
「うん、そうだね」
「じゃあ、自分のスキルに【レイピア】って取得している?」
山賊との戦闘後だし、とりあえずステータスを確認してみた。
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名前:ハルト・サナカ
種族:人間(♂)
年齢:17
職業:風の勇者
レベル:32
HP(体力):9000
MP(魔力):5
STR(攻撃力):36
DEF(防御力):40
AGI(素早さ):39
INT(賢さ):25000
LUCK(運):-18
魔法:風属性魔法 召喚魔法 生活魔法
スキル:【鑑定】【MP自動回復(中)】【無詠唱】【危険感知】【全状態異常耐性50%上昇】【言語理解】【アイテムボックス】【料理】【命中率50%上昇】【魔力制御】【剥ぎ取り】【創造】
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おぉ!レベルが1上がってるではないか。でも、特に新しいスキルなんて取得できてないよなぁ。
「いや、そんなスキルはないね」
「そっか。じゃあまず基本的な事からな。スキルにそういった表示がされるって事は本人がその武器の必殺技を1つ以上体得してるって事なんだ」
なんと!そういう事だったのか!
「例えば俺の場合、武闘家らしく武器は爪と体技な。で、さっき使った『雷動拳』がその必殺技の一つってわけさ」
「なるほどね。言われてみれば確かに必殺技って感じだった」
「うん、まぁ必殺技なんだけどな。ハルトはまだレイピアの必殺技なんてないんだろ?」
言われてみればないな。あっ、でも`魔法剣'がある。
「えっと、レイピアの柄の部分の魔法石に魔力を送って‘風の魔法剣'として使ってるけど…」
「あぁ、それは必殺技じゃないよ。冒険者の中には武器に魔法石を付加している人なんてざらにいるからね」
そう言ってアモンドは自分の爪に魔力をこめて‘雷の爪'状態にして見せてくれた。
「まぁ、俺の場合MP60使用しても10秒しか効果がもたないから、あまり使用しないようにしてるんだけどな」
えっ!?僕はMP1消費につき10秒効果が現れてるんだけどな。きっとこれも‘勇者'の恩恵ってやつなんだろうなぁと思った。
「ってなわけで、‘風の魔法剣'は残念ながら必殺技じゃないんだ」
「そっかあ。じゃあ僕は必殺技なしだね」
「レイピアだもんなぁ。俺が知ってれば教えてやるんだけどなぁ」
「あぁ、でも今レイピアを基礎から師事してもらっている人がいるよ」
「おぉ!そっか。じゃあ、今度必殺技を教えて下さいとお願いしてみな」
「うん。頼んでみる」
「そしてオーラの事だったよな」
「そうそう。アモンドがアレを纏ってから一気に身体能力が上がった気がしたんだ」
「おっ。いい観察眼だ。その通り、あれは『属性闘気』って言って【格闘技】スキルの必殺技の一つな」
『属性闘気』………自分の得意とする属性魔法を身に纏わせて身体能力を一時的に向上させる必殺技。消費MP5 持続時間30秒
上昇値は1.2倍、1.5倍、2倍、3倍…と熟練度とINTの高さで効力も変わってくる。
おぉーキター!!!まさに僕にあった必殺技じゃん!是非とも覚えたい!!!
「まぁ、俺はまだ2倍までだけど………ぬぉ」
アモンドの言葉を制止し、両手をがっちりと握った。
「是非、それを教えて下さい」
「お、おぉ、そうか。わかった。わかった。わかったから、こうやって手を握るのはやめような」
「よし、絶対だからね」
アモンドからスキルの説明を受け、なおかつ訓練の約束を取り付ける事に成功し、僕は上機嫌のままその後の護衛任務にあたる事ができた。
◇
道中モンスターとの戦闘も数回あったが僕とアモンドにかかれば大した敵ではなかった。
そしてドルチェ城下町まで無事にたどり着き護衛の任務も終了となった。
「いやいや、この度は本当に助かりました。お引き受けて頂き誠にありがとうございました」
山賊との戦闘後からやけに遜った態度で接するようになったカプレーゼ。
アモンドが言うには「ハルトが`勇者'と知って態度をコロッとかえたな。奴隷商人として‘勇者'と繋がりを持っておきたいんだろう。まぁ俺にまで態度を変えてくるのは笑えるけどな」との事だった。
確かに損得勘定に重きを置く商人としてはこの素早い手の平返しは流石と言ったところか。
まぁ、相手がそうしたいなら僕としては拒む必要ないし、最初の様に上から目線で話されるよりはマシだしね。
僕はカプレーゼの変化に特にツッコむ事もなく話を合わせていた。
「そうそう、お2方には今回の特別報酬をお渡ししたいと思います。是非我が奴隷商館へお立ち寄り下さい」
カプレーゼは手をすり合わせながら満面の笑みでそう言ってきた。何だかゴマすり商人って感じだなぁ。
でも特別報酬がもらえるのは嬉しい話だった。
「わかりました。ただ、後日でもいいですか?」
「えぇ。結構ですとも。ハルト様のご都合がよろしい時に是非」
「では、今度伺いますね」
「じゃあ、俺はこのまま旦那についていくから」
そして改めてカプレーゼから丁寧なお礼を言われ、この日はここで解散となった。
◇
2人と別れて僕はすぐに酒場へと向かった。
店内に入りキョロキョロとあたりを見回していると「こっち、こっち」と手が上がった。
「お待たせしてごめんね」
「いぇいぇ。突然メールで『今日会えない?』なんて送ってくるもんだから、何事かと思っちゃいましたよ」
二人掛けのテーブルでマロンさんが笑顔で僕を待っていてくれた。
今日は‘聖女’の仕事は休みだったみたいで、ピンクのワンピースという私服姿だった。
花の髪飾りにとてもあっていて可愛さが際立っている。
僕が向かいの席に腰かけると、周囲の男性陣の冷たい視線が突き刺さってくるのは言わずもがなだった。
うん、今日はいつも以上に視線を感じるな。
ちょっと苦笑いになってしまう。
そして適当に料理を注文して早速本題に入った。
「今日はどうしたんですか?」
「実は今日、魔導の指輪を使う出来事があって…」
そしてマロンさんに今日一日の出来事を話した。
………
……………
「そうでしたか。大変な一日だったんですね」
「うん。でもマロンさんにもらった指輪を使いきっちゃって…」
「何言ってるんですか。ハルトさんが必要な時に使って下さいと言いましたよね?」
「はい」
「今回がその時だったんですよね?」
「はい」
「じゃあ、そんなに申し訳なさそうな顔はしないで。もっと堂々として下さい。あなたは少女の命を救ったんですから」
「う、うん。ありがとう」
「いぇいぇ」
ニッコリ笑うマロンさん。天使の笑顔だと感じる。
「それよりも、本当に大丈夫ですか?」
「え?」
「人を殺めた事です。さっき話ながらハルトさん少し指が震えていたから」
自分では気づかなかった。もう何でもない事だと思っていた。
「あぁ、大丈夫だよ。…って、あれ」
あの時の事を思い出すと確かに指が震えてくる。
「あれ、おかしいな。震えが止まらない…」
小刻みに震える指。あの時は守るべき者がその場にいたから気丈に振る舞えていたのかもしれない。
でも、今更だけど恐怖や不安が襲ってきたのだった。
するとマロンさんが僕の手を取りギュッと握り締めてくれた。彼女の温もりが伝わってくる。
「1人で悩まないで…私がいますよ…」
その言葉を聞き、僕は堰を切ったように泣きだした。
心臓にレイピアを突き立てた時の感触。
同じ人間を手に掛けた罪悪感。
いつの日か殺人に躊躇いを持たなくなってしまうのではないかという恐怖。
今抱いてる気持ちを余す事なく吐露したのだった。
【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】
彼女はうんうんと優しく相槌を打ちながら話をずっと聞いてくれた。
そして聞き終わったマロンさんは握ってる手にさらに力を込めて言った。
「もう1人で抱え込まないで下さいね。いつでも私が話を聞きますからね」
その瞬間に僕の恐怖がスッと消え、不安が溶けていった気がした。
気づけば涙も止まり指の震えも治まっていた。
「何かを守る為には時に人を殺める事もあります。そんな世界なんです。でもそれに慣れちゃダメですよ」
今日何度この言葉を言ってもらった事か。僕の周りは優しい人だらけだなぁ。
そしてマロンさんは提案がありますと僕に言った。
「もし良かったら、今後は活人剣を目指しませんか?」
「活人剣?」
「はい。人を生かす為に剣を振るうのです。殺人剣よりもずっと難しいですが、ハルトさんには活人剣のほうがあっていると思います」
「人を生かす為の剣かぁ…」
「ね。そうしましょうよ」
「うん、いいかもしれない」
「はい。ハルトさんなら絶対にやれます。私信じてますから」
何だかマロンさんは嬉しそうだ。
僕は彼女の期待に応えるべく新しい目標に向け一所懸命に頑張ろうと強く決意した。
「お待たせしました~」
僕らの話がひと段落したのを見計らったように料理が次々と運ばれてきた。
店員さんはウインクをして「どうぞ、ごゆっくり~」と言ってくれた。
あぁ、ここにも優しい人がいた。




