第三話 召喚の目的★
2016年7月17日 挿絵を追加しました。
2015年12月6日 誤字脱字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。
「起きてください」
---ん
誰かが僕に語りかけてくる。
「起きてください」
---声?
あっこのパターンって…。
「起きてー」
(デジャヴ‼)
大声とともに危険を察知し目を見開いた。
と同時に急いで体をひねって何かをかわした。
右を向くと案の定“ガン!”と杖が振り下ろされていた。
危機一髪。また殴られて起こされるところだった。
ふぅ~と一呼吸おいて杖の持ち主を見ると“何で避けれたの?”と言わんばかりに口をあんぐりあけていた。
「えーっと、今どういう状況ですか?」
止まった時を動かすように話しかけた。
杖の持ち主はハッと我に返り「まずは国王様のところへ」とアタフタしながら別の部屋へと促した。
そこで国王より説明があるのだとか。
既に精霊王と話している事もあり何となく今後の展開が予想できた。
勇者召喚で異世界へ呼び寄せた理由は魔王討伐の為。是非協力してほしいと言ったところかな。
そうこうしているうちに国王のいる謁見の間に通された。
「おお、よくぞ参られた。感謝するぞ勇者どの。わしはこのドルチェ王国の王カンノーロ・ドルチェ・アーモンドである」
「わたくしはハルト・サナカと申します」
国王の手前という事もあり自然と敬語がでてくる。
そして国王の周りにいるお偉方の挨拶が次々に行われた。
「さて、そなたを呼び寄せた事情なのじゃが、まずわが国について話すとしよう。このドルチェ王国は【イーストレーナ大陸】北に位置する王国なのじゃが…」
国王様曰く、この世界には東西南北に4つの大陸があり、それぞれが2つの王国と多数の小国から成り立っていた。
各大陸には人間・亜人・魔族が勢力争いをしつつ暮らしていた。
しかし今からおよそ1000年ほど前に4つの大陸の中央に位置する海に突如5番目の大陸が出現し魔神が降臨したのだった。
魔神は人間・亜人・魔族に宣戦布告し人類への侵攻を開始した。
次々に主要都市が落とされていく中で、対魔神という目的のもと3つの種族は共闘するようになった。
「だがのぉ。それでも魔神の力は強大で人類は劣勢に立たされたのじゃ。そこで切り札として行われたのが“勇者召喚”であった」
あっ、やっぱり想像した通りの展開だ。
「国王様、話の腰を折り申し訳ございません。要はわたくしの任務というのはその魔神を討伐するという事でよろしいですか?」
国王の言いたいことはわかってるから、みなまで言うなと言わんばかりの‘どうだ顔’をした。
「いやいや、早まるでない。そちを召喚した目的は別なのじゃ。なにせ魔神討伐は3年前に済んでおるからのぉ」
「へっ!?」
思わず情けない声が漏れた。
この国王いま何ていった?
魔神討伐は済んでいるだって!
まさかの一言に一瞬固まってしまった。
「えっと、魔神討伐はもう済んでいるのですか?って事はひょっとして今は争いがない平和な世界とか…」
「そうじゃ。魔神討伐は前回召喚された勇者が見事に果たしてくれた。そして5番目の大陸も消滅し今は魔神が現れる前の世界情勢へと戻ったのじゃ。
共闘が解除され大陸によっては大なり小なりの種族間争いが起こっておるが、まぁわりかし平和な状態と言っていいぞ」
えーーーーー。想像してたのと全く違う。
「えっ、じゃぁ何の為にわたくしは召喚されたのですか?」
そもそもの疑問をぶつける。
「まぁ、待て。話をよく聞きなさい。まず“勇者召喚”というのは人間の王族の巫女にのみ与えられた能力で10年に一度の周期で使用できるものなのじゃ。
ちなみに前回召喚された勇者は10名で皆が協力し魔神討伐に成功したのじゃが、討伐時に死亡した者も多く現存する勇者は4名となっておる。
勇者達は討伐後に召喚された各王国へ戻り、その知識・スキルを活かし王国の再建に尽力し、3年間の間でその国々は大きく発展した。
王国間で知識の共有・技術の伝達も少しはなされたが、やはり勇者がいるといないとでは成長の差が大きく、それはそのまま国力の差としてあらわれた。
残念ながら我が国で召喚された勇者は戦死してしまったので、我が国は他国に比べ再建が遅れていて国力も弱い状況なのじゃ。
そこで、“勇者召喚”が可能な今年に召喚の儀式を行い、召喚された勇者にはその大いなる能力で再建の手助けをしてもらおうというわけじゃ。
今回我が国で召喚に成功した勇者は1人だけだったのでお主には大いに期待しているのじゃよ」
まさかの展開に開いた口が塞がらない。
えっ、つまりは僕は戦いのために呼ばれたのではなく、再建の為に呼ばれたって事だよな。
いや、無理無理無理。だって高校二年生のボクが国の為にできる事なんてあるわけないじゃん。知識と言ってもたかが知れてるし。
参ったなぁ~。‘強敵を討つ事’を目標としていただけに、かなりの肩透かしをくらったぞ。
「あのぉ~。具体的に何をすればいいのでしょうか?発展に役立ちそう知識や技術と言ったものはないと言っても過言ではなく…」
正直、申し訳ない気持ちになっていた。
「いやいや、案ずるな。“勇者召喚”された者には特別な職業やスキルが付与されているのじゃが、それらが備わってさえしていれば結構。勇者殿にはその力を活用して発展の手助けをして頂く予定じゃ」
なるほど。要は召喚された時に付与された力が狙いなわけね。
って事は国王はラッキーだな。だって僕にはたくさんのスキルがシルフによって付与されてるはずだからね。
「そこでハルト殿にはまず“鑑定の玉”に触れてもらいたい。生憎この場には【鑑定】スキルを持ったものがいなくてのぉ。かわりにこれを利用するわけじゃ。この“鑑定の玉”は触れるだけで職業・スキル等の鑑定がてきる優れものなのじゃよ」
へぇ~。【鑑定】スキルってのもあるんだ。きっとレアなスキルなんだろうなぁ。自分のステータス…楽しみだなぁ。
そんな事を考えていると、“鑑定の玉”が用意された。
そして触れてみると―――
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名前:ハルト・サナカ
種族:人間(♂)
年齢:17
職業:風の勇者
レベル:1
HP(体力):5000
MP(魔力):5
STR(攻撃力):4
DEF(防御力):8
AGI(素早さ):7
INT(賢さ):10000
LUCK(運):-50
魔法:風属性魔法 召喚魔法
スキル:【鑑定】【MP自動回復(小)】【無詠唱】【危険感知】【全状態異常耐性50%上昇】【言語理解】【アイテムボックス】【料理】
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うん、なんか色々ツッコミどころあるよね。
ってか、シルフのやろー。絶対間に合わなかったな。かなり適当に付与しやがって。どう考えてもバランス悪すぎだろ。
心の中で愚痴ってしまう。
INTが高いという事は賢いって事だから、魔法の攻撃力が大きかったりするのだろうが、最大MP5って低すぎるだろ。
風属性魔法と召喚魔法を覚えているみたいだけど、MPの量からして使える魔法限られてるよね。
HPもやたら高いし。LUCKに至ってはマイナスだからね。マイナスなんて僕が知ってるゲームの世界でも聞いた事ないぞ。
う~ん、全く発展に役立つ職業・スキルとは思えない。ってか、数値の位置づけがそもそもよくわかんないなぁ。
「国王様、お伺いしたい事があります。一般的にレベルが1の場合、各ステータスの平均ってどれくらいの数値ですか?」
僕の表示されたステータスを見てあきらかに渋い顔をしている国王や側近達。やはり期待に添えられなかったんだろうなぁ~と思ってしまう。
「あっ、ああ。レベル1だと一般的には平均“10”じゃな。勇者に関しては平均“100”じゃったかの。それにしてもこのアンバランスは…ふむ、なんとも…」
はい、キター。思った通り、あきらかに僕のステータスは異質だ。絶対にシルフのせいだし。
でもスキルに関しては【鑑定】もあるし色々と優遇されているような気がしなくもないが…。気のせいか。
少しの沈黙の後、国王が口を開いた。
「お主のステータスじゃが、流石に驚いたぞ。レベル1でHPとINTの高さは異常じゃ。きっと魔神クラスじゃないかのぉ。が、その他の数値が一般的というか、一般以下というか…」
言葉に詰まる国王。その様子を見る限りそんなに酷いのかと落胆してしまう。
そんな僕の表情を察してか国王の傍にいた女性が声を発した。
「あっ、でもお父…国王様。職業を見てください。“風の勇者”となっていますよ。“勇者シリーズ”をお持ちのハルト様は精霊様を呼び寄せる力があります。精霊様がいればきっと発展に大いに役立つはずです」
そう発言したのは第一王女で僕を召喚した張本人でもあるアマレッティ・ドルチェ・ア―モンドだった。
娘の言葉を聞き何やら考え込む国王。
これはまた時間かかりそうだなぁ…。
とりあえず僕はアマレッティ様に質問してみる事にした。
「王女様、少しお伺いしたいのですが“風の勇者”とはそもそも何なのですか?」
えぇ!私に聞くの!?と言わんばかりの少し驚いた表情を見せたが、彼女は丁寧に教えてくれた。
「あぁ、はい。まず右手の甲をみて下さい。紋章があると思います」
言われてはじめて右手に紋章がある事に気づいた。
「それが“風の勇者”である印なのです。属性によって紋はかわるようでございます」
葉っぱを象った象形文字のような紋章が刻まれている。ちょっとカッコイイなぁと思った。
「そもそも“勇者召喚”された皆さまの中には“〇〇の勇者”と言った職業が付与されている場合があります。
〇〇の部分にはこの世界の主な属性である‘火・水・氷・土・風・雷・光・闇’が入ります。その他にも未知の属性があるらしいのですが、紋章の宿主はその属性の精霊様を召喚する力があると言われています。
私たちは“勇者シリーズ”とお呼びしていますが、もちろん誰にでもなれるわけではありません。召喚された者の中でもさらに選ばれし者のみがその資格を有し、しかもこの世に一人しか持ちえない職業となっています。ハルト様は選ばれた勇者様なんですよ」
選ばれた勇者か…。なんか嬉しい響きに感じる。
「その他にもステータスで秀でる部分が多く、特に属性魔法の最強の使い手となります。
魔法には上級・中級・下級が一般的なのですが、“勇者シリーズ”をお持ちの方は更に上の最上級魔法が使用できます。
最上級魔法は通常‘神官’や‘聖騎士’クラスの職業までのぼりつめた者でないと使用できないから、それだけでも強いという事がおわかり頂けると思います」
なるほど。“勇者シリーズ”はその職業を授かるだけで様々な面で優遇されてるわけか。
「その…言いにくい事なのですが、ハルト様は…数値の面ではHP・INT以外は一般人にも劣り残念な感じなので…」
申し訳ないと言った表情でアマレッティ様はそう告げる。
いやいや、あなたのせいじゃないですからそんな顔しないで。全部悪いのはシルフだしね。
「それでですね、今からハルト様にこの場で召喚魔法を使用して頂きたいと思います。唱えることで術は使用できますので、一度お試し頂けますか?」
僕は言われるがまま召喚魔法を試してみる事にした。
右腕を前に突き出し、それなりのポーズを決め「出でよ風の精霊」と唱えてみた。
【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】
《し~ん》
何も起こらない。
あぁ、まぁ何となく想像できるけど確信をえる為に【鑑定】を自分自身に使ってみた。
これで自身の召喚魔法の詳細項目が確認できるはずだ。
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精霊召喚 …… 消費MP:10
:
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精霊王召喚 ……… 消費MP:100
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うん、全然MPが足りないよね。
ダメ元だったけど、やっぱり最大MP:5しかない現時点で召喚できる精霊なんているわけがないか。精霊王にいたってはMP:100も必要だし。
ってか、そもそも使える魔法なんてあるのか?
急に不安になってきて、僕はさらに【鑑定】をすすめた。
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風の矢 ……… 消費MP:3
ターゲットを風属性の矢で貫く攻撃魔法
風の盾 ……… 消費MP:5
10分間風のシールドができる防御魔法 効果範囲は使用者のINTに応じて変化可能
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下級魔法2つかぁ…。
どうやら現状ボクが使える魔法は2種類しかないみたいだ。
いくら最上級魔法まで覚えていてもMPがなければ使えない。
ただでさえMPの消費が激しい召喚魔法に関しては覚えてるだけで全く使えない状況だしなぁ。我ながら情けなくなる。
「すみません、王女様。どうやらMP不足で召喚魔法は一切使えないみたいです」
「そうでしたか…」
あきらかに落胆した表情を浮かべる王女。もしかしたらMP5でも召喚できるのでは…と考えてくれたのかもしれないが現実はそう甘くはないようだ。
その様子を見て国王は更に思い悩んでる様子だったので、その間に僕は王女様に色々質問した。
それでわかった事は“勇者召喚”された人は戻る手段がない事。
まぁ、死んでここに来た身だし元の世界に戻りたいとは思わないから、僕にとってそれはさほど重要じゃなかった。
また曜日・時間の概念は地球のそれと同じである事。ドルチェ王国の事や世界情勢について簡単に教えてもらった。
そして数分後に国王が重い口を開いた。
「ふむ、待たせたな。ではハルト殿。今後の事についてだが、今のお主に発展の助力を期待するのは無理のようじゃ。
厳しい言い方かもしれんが勇者としてあまりにも力不足。“ハズレ勇者”と言われても仕方ないくらいじゃ。
だからと言ってすぐ見捨てるような事はせぬ。お主も成長すればMPが増えるだろうしな。
ただ、恥ずかしながらこのドルチェ王国は余裕がそこまでない。お主が役に立たない場合いつまでも養う事はできぬ。
なので1か月与える。その間ここで修練してみてくれ。1か月後の成長を確認し再度今後の事を決めたいと思う」
うん、実質的に最後通告って感じだよね。でも逆に言えばまだ1か月ある。この期間で努力すればなんとかなるはず。
「わかりました。ご期待に添えるよう精進します」
状況は最悪なはずなのに、どこか現状をプラスに捉えている自分がいた。
異世界というものに高揚しているせいかな。
でもせっかく得た第二の人生だし何事も楽しまなきゃ損だ。
よし、本当の意味で生まれ変わろう。
ここからまた始まるんだ――。