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第二十九話 護衛の依頼

 



 走って南門へ向かったため集合時間よりも5分早く着いた。するとそこには武装をした一人の男がいた。


「あの~、あながた依頼主さんですか?」


 人見知りするがファーストコンタクトは大切だと思い、恐る恐る声をかけてみた。


「ん?俺?」


 男は自分の事を言ってるの?と指で自身を指していた。僕がそうそうと首を縦に振ると笑いだした。


「違う、違う。俺は冒険者。依頼主とここで待ち合わせしてるのさ。ってか、依頼主はこんな風に武装しないでしょ」


 カッカッカと笑っている。え?依頼主って武装しないの?僕はその辺の事情も全く知らないからなぁ。



「さては君、ルーキーだね」


「あっ、はい。先ほど依頼主のカプレーゼさんにこの場所に来るようにメールが届きまして」


「そっか。俺はアモンド。ランクCの冒険者で、俺もカプレーゼの依頼を受けた者だよ」


 確か依頼書には『募集人数:2名(残り1名)』となっていたな。って事はこの人がもう一人の冒険者ってわけだ。


「僕はハルトと言います。ランクはEです。初めての護衛任務なので色々とよろしくお願いしますアモンドさん」


 相手が名前とランクしか言わなかったので、僕もそれ以上の情報を伝えるつもりはなかった。


 右手の紋章はフィンガーレスグローブで隠れているし、僕が‘勇者'である事を敢えて教える事もないしね。



「あぁ、アモンドでいいから。敬語もやめてくれよな。肩っ苦しいのは苦手なんで」


 初対面相手にやけに爽やかで、でもちょっと馴れ馴れしいなぁと感じる。まぁ先輩冒険者として親切心で言ってくれてるだのろうと思う事にした。


「わかったよ。よろしくアモンド」


 ここは相手に合わせたほうが良さそうだ。だが、念のために【鑑定】はしておこう。以前マロンさんにプライバシーの事を言われてからというもの対人相手の【鑑定】は控えていたけど、時と場合によるからね。



---------------


名前:アモンド

Lv:39

種族:人間(♂)

年齢:19

職業:武闘家

魔法:雷属性魔法・生活魔法

スキル:【力10%上昇】【素早さ10%上昇】【気合い】【爪】【格闘技】【剥ぎ取り】【危険感知】


---------------



 対人相手に確認できるステータスは以上か。モンスターの時と違うんだなぁ。

 何々、武闘家で僕より年齢もレベルも上。ん?【爪】や【格闘技】って何だろう。

初めて見るスキルに疑問が浮かぶ。でも、【鑑定】したのがバレるのも困るので直接は聞けないなぁ。



 そんな事を考えていると、アモンドが勝手に話しをすすめだした。


「護衛系の依頼主ってお金持ちや商人、非戦闘職の人が多いんだよ。高いお金を払って護衛を依頼するわけだから、自分たちに害が及ぶ事はまずないと思ってる人がほとんどで、依頼主はこんな格好はしてないのさ」


 なるほどね。よく見るとアモンドは武闘家という職業柄道着を着用していた。道着は軽装の装備に部類されるのだが、依頼主はそんな軽装の装備すらしていないってわけか。


 なんとなくこの世界の依頼主とやらが読めたような気がした。


 それにしてもアモンドの道着の上着だが、肩から袖の部分がなくおまけに前はだけていた。確かに動きやすいかもしれないけど、露出させすぎじゃないか?防御力もほぼないように感じてしまう。


 でも日に焼けた体は健康的だし、道着がはだけているために見える腹筋は見事に6つに割れていた。


 そしてよくよく容姿を確認すると、アモンドは長身の細身で筋肉質だった。所謂細マッチョというやつだ。


 金色の髪は短髪のツンツンヘアーで清潔感だけでなく爽やかさまで感じられる。おまけに顔立ちが整ってて、なかなかのイケメンだし。


 人のよさそうな感じとかも含めて僕が持ってないものばかりではないか。


 少し嫉妬してしまう自分がいた。



 そうこうしていると、遠くらかのそのそと近づいてくる男がいた。


「すまん、すまん。少し遅れたかな」


 現れたのはずんぐりむっくりとした体型の小太りのおじさんだった。鼻の下にはちょび髭を生やしているし、いかにも商人って感じだった。


 高級な絹で出来た衣装を身を纏い、頭にはゴージャスなターバン、指には眩い宝石をあしらった指輪をはめていて、宝石がちりばめられたブレスレットや靴を身に着けていた。


 頭のてっぺんからつま先まで、キラキラと光輝いている。


 見続けると吐き気をもよおしそうだ。


 絶対に趣味がいいとは言えないな。


 アモンドが言ったように武装とは程遠い格好だったし。ひょっとして、強いのか?念の為【鑑定】しておく事にした。



---------------


名前:カプレーゼ

Lv:25

種族:人間(♂)

年齢:53

職業:奴隷商人

魔法:水属性魔法・生活魔法・契約魔法

スキル:【鑑定】【調教】【(あきな)いの心得】【書士の心得】【剥ぎ取り】


---------------



 こちらも初めて見る魔法・スキルがあった。職業に関係したものなんだろうなぁと思うけど、やっぱり強そうには思えない。


 それよりも気になるのは服装だ。なんでこんなに着飾っているんだろう。あきらかにこの世界で遠出をする時の格好ではないと思う。


 ってか、こんなにジャラジャラと高価な物を身に着けていたら、それだけで襲って下さいと言ってるようなものだ。


 色々と聞きたい事もあるが、今は冒険者として立場をわきまえておこう。



「2人ともそろってるな。ワシが依頼主のカプレーゼだ。今回の依頼しっかりと頼むぞ」


 上からの物言いにちょっとイラッとくるが、これが依頼主というものなのだろう。隣を見るとアモンドは当たり前のような感じで話をきいていた。



 今回の目的地であるボネの街はドルチェ王国から30キロほど離れた所に位置していた。


 奴隷の買い付けにも色々な方法があり、カプレーゼの場合は毎回近隣の街まで直接足を運び買い付けていた。

 自分の目利きで選ぶ事を信条としているのはいい事だ。

 ただ、節約主義者らしく人件費は極力抑えるようにしていて、それで今回の依頼も2名しか雇わなかったとの事だった。


 現にカプレーゼの同行者は御者2名だけだったし、それも節約と言う事なのだろう。


 でも高価な衣装に身を纏っておいてそう説明されても全く説得力ないんだよなぁ…。



 大きな檻が繋がれた馬車に揺られて僕らは街へと向かった。整備された街道を通った事もあり特に強敵と遭遇する事もなく正午にはボネの街までたどり着く事ができた。




【ボネの街】

 イーストレーナ大陸中央の砂漠地帯真ん中に位置するオアシス都市。東西南北を結ぶ貿易ルートの交差点となっていて、様々な分野の商人が店を構え中継貿易の拠点として繁栄している。




 街に着くとカプレーゼは「1時間後にこの場所に集合してくれ。それまでは自由にしてもらって結構じゃ」と言い残してわき目も振らず奴隷の買い付けに向かった。



 まさかの自由時間。特にやる事もなかったので、せっかくだから街の露店を見て回る事にした。

アモンドが一緒に回ろうと言ってきたが丁重にお断りした。まだ出会って間もない人とそんなに親しくなれないし、男2人で見て回るのもね…。

 

 と言うわけで、現在僕はオーク肉の串焼きを片手に1人で露店を巡っていた。最初の露店が串焼屋で、炭火焼で焼かれるオーク肉の芳ばしい香りが漂っていて、気づけば迷う事なく購入していたのだった。


 時間も1時間と限られているから、とりあえずみんなへのお土産だけを購入する事にした。


 大陸中央に位置している貿易都市というだけあって、行き交う人の数も多く活気が溢れていてドルチェ王国とは雰囲気が全く違った。

 各地の名産品を取り扱うお店もたくさん出店されていてウィンドショッピングだけでも楽しめる事ができる。

 僕は定番かもしれないがお酒やお菓子など目に留まるものを購入していった。



 そして大方買い終わって集合場所に戻っている途中、一軒のアクセサリー屋で足が止まった。


 そこは指輪、ネックレス、ブレスレット、りぼん等多種多様な品揃えだった。


 そんな中で僕が注目したのは眼鏡だった。お洒落なものから奇抜なデザインものまで豊富に陳列されていたが、そこにはサングラスが置いていなかったのだ。


 僕の感覚だとサングラスこそ置いていそうなものだったから、すごく不思議に思った。


 露店のおじさんに聞いてみるも「サングラスって何だい?」と全く知らない様子だった。そう言えばこの世界でサングラスを見た事ないなぁ。


 念の為に‘ギルド図鑑'で確認したところ、やはりこの世界にサングラスは存在していなかった。


 日差しも強いし、お洒落なアイテムとしても売れると思うんだけどなぁ。

 

 ってか、そうだ。これだ!


 思いもよらぬ閃きに『くっくっく…』と笑いがこみ上げてきた。


「あんちゃん、大丈夫かい?」


 おじさんが気でも狂ったのかと心配そうにしていたので、大丈夫ですと平静を装った。


 だが、僕の中では確かな未来予想図が描けていたので大笑いしたい気持ちを抑えるのに必死だった。


 


 集合場所に戻ると既にアモンドが待っていた。


 ニヤケ顔のままだったらしく、どんないい事があったんだ?としつこく聞かれるはめとなった。


 どうやら僕はすぐ顔に出ちゃうみたいだな。ヤバい、ヤバい、ポーカーフェイスでいなければ。



 そして根掘り葉掘り聞いてくるアモンドを適当にかわしていると、カプレーゼがのそのそと奴隷を従えて戻って来た。


 買い付けた奴隷は見た目が10~20歳ぐらいの男女10人だった。人間、エルフ、ドワーフ、犬耳・猫耳・狐耳の亜人と人種も様々だ。


 幅広く買い入れた方が何かと商売に都合がいいらしい。



 この世界では奴隷制度は国に認められている制度である。


 しかしそもそも奴隷というものに馴染みがない僕としては非道徳的だと思ってしまう。そして、どうしても可哀想だなぁという目で見てしまう。



 そんな僕の様子に違和感を覚えたのかアモンドが尋ねてきた。


「そんなに奴隷が不思議なのか?」


「うん。正直、奴隷というものに慣れていなくてね」


「ふ~ん、ハルトってド田舎で育ったの?奴隷を可哀想な目で見る人なんて今時珍しいよ」


 そんなものなのか。まぁ下手に詮索されるのも嫌なのでここは話を合わせておこう。


「そう。奴隷がいない田舎で育ったから。つい最近ドルチェ王国に来たばかりで奴隷を見慣れていなくてね」


「なるほど。でも、それは間違いだぞ。そんな可哀想な目を向けるのは奴隷に対して失礼でもあるし」


「奴隷に失礼?」


「あぁ。奴隷になるからにはそれなりに理由があるのだろうけど、奴隷になる事自体はそんなに悪い事でもないんだ」


 出発の準備をしながらアモンドは簡単に奴隷について教えてくれた。


 奴隷は奴隷商人に引き取られると最低限の調教を受ける。奴隷商人としてもより高値で売りたいため、奴隷としてのマナーや文字の書き方・算術などを教え込むというわけだ。


 奴隷に落とされるぐらいだから元々教養に乏しい人が多く、奴隷になる事でそれらを身に着けられるわけだから、かえって奴隷本人の為になるという事だった。


 まぁ確かに無料でマナーや勉学を学べるのは大きいと思う。


 買い手が決まると買主と奴隷との間で奴隷契約が結ばれる。その際に‘絶対服従'や‘精神的服従'、‘肉体的服従'、‘運命共同'などの制約を設ける事ができる。

 

 契約が終われば、あとは戦闘奴隷や労働奴隷、性奴隷など買主の希望にそって奉公するようになる。

 

 買主は基本的に奴隷を自由に扱う事ができるが、最低限の生活を保障する義務が生じる。


 つまり奴隷としては買主の保護が受けられるようになり、それだけでも奴隷にとってかなりのメリットがあるというわけだった。


 そういった事情もあって近年では自ら奴隷に志願する者も少なくないという。


 

 ちなみにいつまでも買い手がつかない奴隷は、奴隷商人の判断で処分されるらしい。


 詳しくは聞かなかったが、国が認めている制度なだけにすべて奴隷商人次第なんだろうなぁと思う。


 まぁ奴隷商人はあくまで利益優先だから、ただ単に殺したりはしないのだろうけど、処分という響きからもその末路についてあまりいい想像はできなかった。



 生活が保障されるなら奴隷になっても悪くないか…。


 そんな風な考え方もあるんだ。これが価値観の違いなのかなと思う。この世界で生きるからにはその辺も十分理解しなければと思った。



 大きな檻に順番に乗り込んでいく奴隷を見ていると、確かに落ち込んでる様子もなくむしろ喜んでいるようにさえ見えた。


 でも、それでも暗い表情の人もいるんだよな…。


 檻の奥で怯えるように身を寄せ合っている亜人の女の子達を見て、また可哀想な視線を送ってしまった。


 やっぱりすぐに慣れるのは難しいよ…。




 奴隷が全員檻に入ったのを確認すると、すぐにボネの街を後にした。


「時は金なり!急いで戻るのじゃ」とカプレーゼが急かすものだから、慌ただしく出発する事となった。


 僕とアモンドは馬車を挟むようにして歩いて護衛をしていた。


 10人も檻に入れて運んでるものだから、そのスピードは行きと比べものにならないほど遅くなっていた。


 最早歩いても追い越せる速さだ。これは時間がかかるぞ。


 そんな事を考えていると【危険感知】に遠くから馬車を囲むようにして近寄ってくる敵の反応があった。


 ここにきて戦闘か。やっと護衛らしくなってきたがドルチェ王国に戻るのはだいぶ遅くなりそうだと少し肩を落とした。



 この時はまだ想像もできなかったんだ。


 この戦闘が僕の中で大きな意味を持つようになる事を―――。


 




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