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第二十八話 お金がない★

2016年8月14日  挿絵を追加しました。また一部加筆修正しています。

 



 久々にギルドへ向かった。


今日は一日かけて依頼を受けなければいけないのだ。


 なぜなら僕の貯金が底をついてきたからだった。



 昨夜、“黒猫亭”に戻り来月の宿代を払おうとしたところ、残りの手持ちが金貨1枚、銀貨30枚、銅貨60枚となっているのに気づいた。



「にゃにゃんと!残高がそれだけで大丈夫なのかニャ?」


 それはチョコさんもビックリの残高だった。


「うちは前払いだからニャ。いくら常連様でも払えない時は追い出すニャよ~」






挿絵(By みてみん)

【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】





 ニタニタと笑いながら恐ろしい事をサラッと言われたぞ。


 ちょっと冷や汗が出てくる。


 まぁ、追い出されたらタルトさんの屋敷で…って駄目だ。宿代が払えなくて追い出される‘勇者'なんてカッコ悪すぎるもんね。


 でも、このままじゃ非常にマズイのも確かだ。稼がなければいけない。


 とりあえず来月分の宿代は払う事にした。


 これで残高は銀貨40枚、銅貨60枚か。日本円にして4万600円っと。


 …うん、流石に危機感を覚えるよね。



 それで朝一からギルドへ向かう事となったのだった。


 まずはノワさん救助の際に得た不要な素材を売却した。


 しかし全部で銀貨60枚にしかならなかった。


 あんなに頑張ったのに…と思いつつも、よく考えるとあまり【剥ぎ取り】をしていなかった。


 ってか、そもそも【剥ぎ取り】してる暇も余裕もなかったからね。


 まぁそれは仕方のない事だけど、でも結構シビアな価格で買い取るんだなぁと思った。



 そして次に掲示板で依頼書を物色する事にした。


 掲示板に貼ってある討伐依頼書を片っ端から見てみるも、コレと言った決め手がない。


 どれも報酬が安くて、やはりランクEでは稼ぎがいい依頼は少ないなぁと思わずにはいれなかった。


 思えば最近リザードマンやゾンビ、ミラーゴーレムなど強敵と戦ってはきたが、ギルドの依頼の方はあんまりやってなかったからな。


 ってか、自分のレベルだとどれくらいのギルドランクが妥当なんだろう。今朝の受付嬢はフィーキさんだったのでその件も含め相談する事にした。




「おはようございます、フィーキさん」


「はい、おはようございます。先日の“ふわふわスフレパンケーキ”とっても美味しかったです。ありがとうございました」


「いぇいぇ、お口にあって何よりです」


 丁寧にお礼を言われると素直に嬉しい。それだけでまた何かの機会には差し入れしようと思ってしまう。



「あっ、そうだ。また発明をしたので登録をお願いしたいのですが」


「今度はどんな料理ですか?」


「いぇ、今回は料理ではなくて、ちょっと見てください」


 僕は少し勿体ぶるようなそぶりで【アイテムボックス】からドラム缶風呂を取り出した。


「えぇぇぇぇぇ。これは何でしょうか?」


 驚いた様子のフィーキさんをよそに僕は生活魔法で水を溜め温めた。


 朝一という事もありギルド内には僕以外の冒険者もいなかったから、堂々とドラム缶風呂の実演ができたのだった。




「なるほど~。確かにこのドラム缶風呂というのは冒険者にとって重宝できるアイテムですね。私自身も入ってみたいです。実に素晴らしいと思います。

 ではこちらの‘生産ギルド'登録用紙にご記入をお願いします」


 ギルドの職員であるフィーキさんがここまで褒めてくれたって事は、このドラム缶風呂がかなり貢献できるものだと言われているようなものだ。作ってみて良かったと本当に思った。



「はい。ありがとうございます。では登録しておきますね。他にご用件はございますか?」


「えぇ、実はこちらが本題で…」


 僕はここ数日の出来事を簡単に話して、効率が良いお金の貯め方のアドバイスをしてほしいと頼んだ。



「そうですね。まずはギルドランクについてですが、こちらの表をご覧下さい」



---------------

ランクS 必要GP:1億GP    

     レベル91以上  昇級審査あり

ランクA 必要GP:100万GP  

     レベル71~90 昇級審査あり

ランクB 必要GP:1万GP    

     レベル51~70 昇級審査あり

ランクC 必要GP:1000GP  

     レベル31~50

ランクD 必要GP:500GP   

     レベル21~30

ランクE 必要GP:50GP    

     レベル11~20

ランクF 必要GP:--- 

     レベル1~10


・ランクUPするとGPは0にリセットされる。

・GPに関係なく‘貢献’によってランクUPの場合あり

---------------



 フィーキさんはギルドランクについて記載された紙を取り出して見せてくれた。


「一般的には皆様こちらを参考にランクアップを目指されてますね。ちなみにレベル数値はあくまで目安となっております」


「おぉ~。こんなものがあったんですね。正直ギルドの仕組みをイマイチ理解していなかった部分もあったので、これは凄く助かりますね」


「一応この表は掲示板にも目立つように一番上に貼ってありましたが、ハルト様はご覧になっていなかったのですね」


「お恥ずかしい限りです」


「ふふふ、ハルト様らしいと思います。よろしければこちらはお持ち帰り下さい」


 そう言ってフィーキさんは先ほど説明に使用した紙を綺麗に折りたたんで僕にくれた。


「ありがとうございます」


「それで今日は今後のハルトさんの方針のご相談でしたね。まずギルドカードを見せてもらえますか?」

 

 フィーキさんにギルドカードを手渡した。


 最近の戦果も含め確認してもらう。



---------------


ランク:E

名前:ハルト サナカ

種族:人間

性別:男

レベル:31

ポイント:198(次のランクまで302P)


---------------



 ズコットさんと訓練時に適当な討伐系の依頼をこなしていた為少しはギルドポイントが入っているものの、ランクUPにはまだほど遠いんだよなぁ。



「相変わらずご自身より上のランクのモンスターを多く討伐されていますね。レベルも31になっていますし、短期間でこれは流石‘勇者'様と言ったところでしょうか。

 ただ、もっと効率よく依頼をこなしていれば今頃ランクもCになっていたでしょうね。勿体ない限りです」


「いやぁ~それ程でも」


「あの~、決して褒めたわけではないのですが…」


「え、そうなんですか!?」


 てっきり褒められたと思ってしまった。早とちり早とちり。


「やはりまずはランクUPを目指されてはいかがでしょうか?」


「やっぱりそれが先ですかね?」


「はい。ステータスは相変わらずアンバランスではありますが、この強さならランクCのモンスターにも余程の事がない限り負ける事はないでしょう。

 ギルドランクをCにさえすればランクBの依頼も受けれますし、今後の事を考えると一番効率がいいと思われます」


「ランクCかぁ。ギルドポイントがかなり必要だなぁ」


 ランクEの現時点で198Pだから、ランクCになるためには1302Pも必要だった。


 ってか、表をよく見るとランクSの『必要GP:1億GP』ってなんだよこの数値。果てしないな。


 何件依頼を受ければいいんだろう?考えるだけで気が遠くなる。



「ひとつ気になったのですが、ハルト様は討伐系の依頼ばかり受けていますね」


「そうですね。戦闘訓練がてらに受けていましたから」


「例えば、護衛系の依頼なんていかがですか?」


「護衛系ですか?」


「はい。街から街へ、商品や客人などを護衛する依頼です」


「う~ん、僕は人見知りなのであまり人と関わりたくないんですよね」


「そうでしたか。討伐系と護衛系は獲得できるギルドポイントはさほど変わりません。ただ護衛系は依頼者から個人的な特別報酬がもらえる場合があります」


「え!?特別報酬ですか!」


 依頼書にある成功報酬以外にもプラスαの特別報酬。なんだかとても惹かれるものがあった。



 フィーキさんは護衛系の依頼書をいくつか広げて具体的に説明をしてくれた。それはどれも特別報酬を出す確率が高いと評判の依頼主のものだった。


「依頼主が気前のいい方だったり、依頼主に気に入られた場合など硬貨はもちろん、装備品やアイテム等をもらえる場合があります。特別報酬目当ての冒険者も多く、実は護衛の依頼って人気があったりするんですよ」


 確かにおいしい話ではある。



「例えばこちらの【求む!鉱山での野営警護】ですが、この依頼主様は定期的に一週間ほど鉱山にこもって採掘をなさいます。

 その際の警護が依頼主様の満足いくものだったら、採掘したものの中からレアな鉱石を必ずくれると専らの噂です」


「レアな鉱石ですか。それは中々興味深いですね」


 【創造(クリエイティブ)】をやっている身としてはレアな鉱石という言葉には弱かった。



「でも注意も必要です。護衛任務は品物狙いの盗賊に遭遇する事も少なくありません。それで嫌がる冒険者もいますからね」


「どこに嫌がる要素があるんですか?」


「簡単に言えば、盗賊と言えど相手が同じ人間だからです。亜人・魔族やモンスターと違い同族を殺す事に抵抗を感じる人も中にはいるんですよ」


「なるほど」


 それは痛いほど理解できる。


「失礼ですが、ハルト様は今まで人間を(あや)めた事はありますか?」


「いや、実は人間を(あや)めた事はまだ一度もなくって…」


「そうでしたか。やはり躊躇いがありますか?」


「ないと言ったら嘘になります。‘風の勇者'なのに情けないですよね」


「いぇ、そんな事ないですよ。歴代の‘勇者'様も始めは同じ様な反応する方がほとんどでした。

勇者召喚された方にとってはそれが普通なのだと思います。

逆に最初から人間を(あや)める事に何の躊躇いも持たない方がどうかしていると思います」


「そう言ってもらえると有り難いです」


「ただ依頼を受ける以上は対峙した相手が人間だとしても、それが依頼主を狙う敵であれば(あや)める覚悟は必要ですよ」


(あや)める覚悟かぁ…」


「はい。それにランクB以上は討伐系に人間が対象のものもあります」


「人間相手もあるんですね…」


 依頼を受けて人を殺すなんて考えた事もなかった。すべてモンスターだと思っていたからね。


 人間相手にレイピアを振るう姿を想像すると何だか恐ろしくなった。



 そんな僕の事を察したのかフィーキさんが言葉を続ける。


「慣れろとは言いません。いや、むしろ慣れないで下さい。でも人間相手でもモンスター相手でもその場面がきたら、覚悟だけは持てるようにして下さいね」


 確かにフィーキさんが言う通りだと思った。


 剣と魔法で命のやりとりをする世界だ。みんな生きるために必死なんだ。


 郷に入っては郷に従えという言葉もあるくらいだし、僕も覚悟を持って臨まなければならない。


 でも、それに慣れるなと言ってくれるあたりフィーキさんの優しさを感じる。


「…わかりました。、胆に銘じておきます。親切にありがとうございました」


 そう言って僕は一つの依頼書を手に取った。



---------------

【奴隷買い付けの護衛】(ランクE)

・依頼内容:奴隷買い付けの警護

・目的地:ボネの街

・期間:1日

・成功報酬 銀貨:50枚

・獲得GP:40GP

・募集人数:2名(残り1名)

・条件:ギルドランクE以上の冒険者 

・依頼主:奴隷商人カプレーゼ

・メールアドレス:〇〇△△◇◇…

---------------



「この護衛の依頼でお願いします」


「はい、承りました。後ほど依頼主から集合時間などメールされてきます。こちらのアドレスを受信できるようにしていて下さいね」


 なるほど。メールで依頼主とやり取りしていくわけか。これはこれで便利なシステムだなと感じ、早速受信設定をした。



「あとご一緒に採取系の依頼はいかがですか?」

 

 最後にフィーキさんがより効率よくギルドポイントを貯める方法を教えてくれた。



 それは護衛系・討伐系の依頼を受ける際に一緒に採取系の依頼を受けるというものだった。


 採取系はその名の通り薬草や鉱石、【剥ぎ取り】で取得できる素材等を依頼の数だけ集める仕事だ。


 そのため採取系依頼は期限が1週間ほど設けらえているものが多かった。


 護衛系・討伐系のついでにコツコツと集めて最終的に期限までに揃えれば採取依頼達成となるわけだから、効率を上げる為にも是非一緒に受けるべきとの事だった。



 言われてみればなるほどなと思う。ってか、今までそんな事考えずに適当にやっていたのが悔やまれる。


 早めに相談しとくべきだったな。ちょっと反省しつつ、期限が1週間ある採取系の依頼を3件追加した。



 そして5分ほど雑談をしていると依頼主から集合場所・集合時間のメールが届いた。そこには15分後に南門まで来るように指示されていた。


 随分と早いな。


「おや、早速来ましたね。それでは、お気をつけて行ってきて下さいね」


「はい、色々ありがとうございました」


 フィーキさんにお礼を言って僕は急いでギルドを後にした。

 








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