第十八話 救助へ
12/22 一部加筆修正しました。
サクラによるとノワさんは“フェレロシェ鉱山”で‘聖女’を待っていた。呪いの影響であまり身動きがとれなくなってしまいダンジョンに身を潜めているとの事だった。
時刻は既に18時を回っていた。夜はモンスターの出現率が上がり危険度も増す。
すんなりと事が運ばない可能性も考えられる。ズコットさんにもメールを入れ入念に準備を整えて“フェレロシェ鉱山”へ向かった。
道中敵が軒並み強くなった感があった。やはり夜というのが原因だろう。
現在、救助に向かっているのは僕とマロンさん、タルトさん、サクラの4人。従者のレーヌ達はマロンさんが帰宅させた。正直なところ戦力に数える事はできなかった為、そこは2人ともすんなりと納得をしてくれた。
夜行性のモンスターが僕らを囲んでくる。モンスター同士も連携をとっているのであろうか。羽の生えたメガネザル、2つの頭をもつハブ、槍を抱えた狸のモンスターなどが次から次へと襲ってきた。
前衛を僕とタルトさんが務め、後衛はマロンさんとサクラが受け持つという布陣だった。
『影分身』
『影縄』
タルトさんが唱えた【忍術】は残像を作り敵を錯乱させ身動きを封じていった。
その後間髪入れず僕が‘魔法剣’で切り裂いていく。
近距離の範囲は2人で無双状態だった。
遠方の敵には後衛の2人による魔法攻撃だ。
マロンさんは‘聖女’と言う事で回復・支援系の魔法が得意との事だったが攻撃魔法が使えないわけではない。
『光の槍』
無数の光の槍が上空から降り注ぎ、遠くの敵を次々に貫いていく。
夜行性のモンスターは闇属性のものが多くその威力は抜群だった。これなら攻撃魔法が得意と言ってもいいんじゃないか…そう思ってしまう程だった。
そして、一番驚いたのはサクラだった。彼女は中級魔法までだったが、光属性・闇属性・土属性・氷属性と4種の攻撃魔法が使用できたのだ。
召喚魔法・生活魔法とあわせると6種類も使えるのか。ってか、そんなの有り?同じ‘勇者’としては非常に羨ましく感じる。
そして、その魔法の威力もさる事ながら、敵の弱点を見分け瞬時に魔法を切り替え攻撃する機転の良さは光るものがあった。
戦闘にも慣れていて、幼いながらも‘光の勇者’というのは伊達じゃないなぁと感じた。
『ぴかぴかなの~』
『さむさむなの~』
実に器用に使い分けている。
でも、サクラは何故魔法を独特の表現で唱えてるんだろうか?まぁ、サクラにあってて可愛いからいいのだけど。ちょっと不思議に思った。いつか機会があったら聞いてみよう。
そして誰一人傷を負う事なく“フェレロシェ鉱山”へと辿り着く事が出来た。
目的のダンジョンは前回僕がタルトさんと訪れたダンジョンと真逆の位置にあり地下2階までの浅いものだった。
サクラ先導のもとダンジョンの前に着くと入り口が塞がれていた。
「土属性魔法で目隠しをしたの。これで外側から襲われる心配はないのよ」
自慢げにそう言ったサクラ。
確かに言われなければ入り口がどこかわからない。
ダンジョン内のモンスターは大方殲滅したとの事だったが、危険が全くないわけではない。
洞窟に閉じ込められるのは正直嫌だな。
そう思いながら土の壁を壊すと入り口が姿を現しコウモリが数匹飛び出してきた。
うん、絶対に嫌だと改めて思った。
ダンジョンに入るとサクラは一目散に地下へ駆けて行った。
僕らも急いで後を追いかける。その間モンスターは一切出現する事もなく、なるほど確かに全て倒したんだと感心した。
「こっちなの」
声のする方へ着いた時、目の前にはローブに身をくるみグッタリと横たわっている女性がいた。
フードから少し見える顔の半分が紫色に侵食され息も絶え絶えになっている。これが呪いの影響なのか。
マロンさんが急いで駆け寄り状態を確認する。
サクラも心配そうにノワさんの手を握っている。
「うん、かなり弱っているけど大丈夫」
マロンさんの言葉を受けサクラの表情がパァ~っと明るくなった。
「では、早速治療を始めますね。ハルトさんはあっち向いてて下さい」
「え?どうして?」
真顔で尋ねる僕にタルトさんとサクラが言葉を続ける。
「ハルトも年頃の男だもんね~。やっぱり興味あるかぁ~」
「ハルトお兄ちゃんはエッチなの?」
えっ?2人していきなり何なの?
そう思いマロンさんの方をみると一刻を争うのか既に治療の準備に入っておりノワさんの服を脱がせていた。
って、そう言う事かぁ。治療には脱衣する必要があるんですね。色んな意味で興味あるけど、流石にこのまま居座るのは気が引ける。
なんて事を考えつつマロンさんの表情をチラ見すると冷たい視線が送られていた。
うん、すぐに立ち去りましょう。これ以上マロンさんの好感度を下げたくないです。
「じゃ、じゃあ入り口で見張りしてます」
逃げるようにその場を後にした。後ろからタルトさんの笑い声が聞こえてきたのは言わずもがなだった。
入り口に向かう道中、つるはしを使い壁や窪んだ地面を所々掘りながら歩いた。
ハンドメイド教室を受講してからと言うもの素材に触れ物作りをするうちに考えが変わってきたんだ。
『採掘した素材を使い自分で何か作品を作るってみる事で、あらためて採掘の良さがわかる場合もあるんだよね』
以前タルトさんが言ったこの言葉も今ならなるほどなと頷ける。
実はあれからタルトさんの採掘に2度同行していて、自分でも信じられない事だが少し採掘が楽しいと感じれるようになったのだ。
しかし、この辺りは銅しか出ないなぁ~。地下2階までしかないし、きっと良質な素材は期待できないダンジョンなんだろうなぁ~。
そんな事を思いながら入り口付近に着いた時【危険感知】スキルが5体の敵を捕らえたのだった。
気づかれないように身を潜めて相手を確認すると既に5体はダンジョン内に入っており誰かを探している様子だった。
そして驚いたのはその敵の正体だった。それを僕は知っていた。そしてこのまま地下へ潜らせるわけにはいかない。先手必勝だ。
風の矢を敵の足元へ放ち一体を転倒させる。相手が態勢を立て直す前に詰め寄り頭頂部`切断面’へ‘魔法剣’の鋭い突きを放った。
≪パリン、パリン、パリン…≫
計算通り1体目を撃破だ。
そう、目の前に現れた敵はミラーゴーレムだった。また“フェレロシェ鉱山”で相対する事になるとは…。
今回は5体だが攻略法も知っているわけだから1人でも何とかなりそうだ。
当然他の4体も僕の存在に気づき攻撃態勢に入り向かって来る。だが、スピードは僕の方が勝っている。
2体目、3体目は並んで突進してきたが双方の攻撃を難なくかわし、2体目の振り下ろされた拳に飛び乗る。そのままガラスで出来た腕を足場に一気に駆け上り頭頂部へ一突き。そしてすぐさま隣に飛び乗り立て続けに一突き。2体を立て続けに撃破したのだった。
しかしその刹那、後ろから何かが迫っているのを感じた。
≪ビュン≫と物凄い勢いで僕目がけて一直線だった。
急いで崩れゆく3体目から離れるも、避けきれたと思った瞬間に鋭利なガラスの刃が伸びてきて背中に一撃をもらってしまった。
痛みを感じつつ状況を確認すると、どうやら5体目が4体目を体ごと投げ飛ばしてきた様だった。
撃破したミラーゴーレムの残骸が吹き飛ぶほどの威力。そのスピードも申し分なく、いうなればゴーレム魚雷だった。そして4体目の拳はガラスの刃となっており、背中はそれに抉られたみたいだ。
僕は思わずその場に蹲ってしまった。
そして最悪な事にいま僕が蹲っているのは4体目と5体目に挟まれた位置だった。優勢が一転、一瞬で窮地に追い詰められてしまった。
僕はすぐさま風の盾をかまくら状に展開しひたすら防御に徹した。
これは参った。打開策が思い浮かばない。
あれこれ思考を巡らせている間、2体のミラーゴーレムによる袋叩き状態が続いていた。
ヤバい、もう5分過ぎてしまった。10分経つと風の盾は一旦解除されてしまう。もう一度発動する前に攻撃を食らうのは確実だ。
額から汗が滝の様に流れてくる。今この状況で僕にできる事は…。
考えろ、考えろ…。
そしてこれしかないと風の盾と地面の隙間から風の矢をミラーゴーレムの足に向け放つ。
≪ピキーン≫
≪ピキーン≫
≪ピキーン≫
風の矢は反射音をあげことごとく跳ね返される。
それでも僕は魔力の続く限り撃ち続けた。
どれくらいその攻防が続いただろうか。
迫りくるタイムリミットの中、その希望の声が聞こえてきた。
『ドロドロなのよ』
固い地面が液状化して2体のミラーゴーレムは底なし沼のようになった地面に飲み込まれていった。
そう、それはサクラが唱えた地面を泥に変える土属性魔法だった。
「待たせたね」
そう言いながらタルトさんは素早く短刀を抜き、下半身がほぼ埋まって身動きがとれなくなったミラーゴーレムの頭頂部へ一撃を入れ2体を破壊した。
2人の連携は見事であっという間に決着が着いた。
連携攻撃ってハマれば非常に強力なんだなぁ。
情けない格好で蹲りながら感心している僕がいた。
「ありがとうございます。助かりました。正直ヤバかったです」
「結構いいのもらったみたいだね」
「傷口見せるのよ」
サクラの聖水で治療を受けながらタルトさんへ現状報告をした。
「そうだったの。5体も…。やっぱりこの前の逸れミラーゴーレムと関係がありそうね」
「ですね。でも前回の戦闘のお蔭で攻略方法もわかり凄く助かりましたよ」
「いや、そんな傷負ってちゃ説得力ないわよ」
「それは反省してます」
「しかし、ハルトは大きな怪我を負う事多いよね~。これもLUCKがマイナスのせいなのかねぇ?」
「そうかもしれませんね」
でも正直なところ運がどうこうじゃない気がしている。今回も僕がもっと注意深く戦っていれば負わなくていい傷だったからだ。まだまだ甘いな。より一層訓練をしなければと思った。
「それにしても‘音’で危機を伝えるなんて考えたわね」
あの状況では自分一人で打開できる見込みは薄く味方を頼るしかなかった。しかし伝達手段は限られている。そこで僕が思いついたのは‘音’だった。
ただ、むやみやたらに壁を攻撃してダンジョンが崩れ落ちたら元も子もない。不幸中の幸いは相手がミラーゴーレムだった事だ。魔法を弾く音は見事に反響し、危険が迫っている状況を透き通った音で奏でたのだった。
「でも私たちがそれに気づかなかったらどうしていたの?」
正直賭けだった。気づかれなかったら終わっていただろう。他にいい案なんて思い浮かばなかったし。でも、それはカッコ悪く言いたくない。
「きっと気づいてくれると信じてました」
うん、我ながらくさいセリフを言ってしまった。そして恥ずかしさで赤くなっている自分がいる。
「何言ってんだか」と言いつつも、タルトさんはニッコリ笑っていた。
そして黙ってその会話を聞いていたサクラも何だか嬉しそうだった。
「はい。もう大丈夫なのよ。傷口は綺麗に治ったの」
話をしているうちに治療が完了した。
サクラにお礼を述べると「いいのよ」と言いながら頭を差し出してきたので、僕はその柔らかな髪に手を乗せ軽く撫でた。
「マロンが見たらまた勘違いしちゃうわね~」
タルトさんが悪戯な笑みを浮かべていた。
「やっ、止めて下さい。変な事言うのは…」
数時間前の光景が思いだされ冷や汗が出てくる。
でも少女が頭を出して来たら撫でてくれのサインでしょ。
そんな事を考えていると≪ぐぅ~≫と何処からともなくお腹の鳴る音が聞こえてきた。
「ペコペコなのよ」
サクラはお腹をさすりながらテヘッと恥ずかしそうにそう言った。
一気に場が和み、僕らはマロンさんと合流する為に地下へと歩きだした。




