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第十五話 ハーフヴァンパイア★

2016年7月29日  挿絵を追加しました。

2015年12月19日 誤字脱字を修正しました。




――5分前――



「`聖女’に会いたいの」



 息を切らしながら一人の少女がギルドへ入ってくるなりそう叫んだ。


 フードを深く被り髪や顔は隠していたが、その声から女性である事は想像がついた。


 身長は120㎝ぐらいだろうか。その背丈や声質から幼女ではないかと思われる。


そんな彼女を余所に周囲からは冷ややかな視線が放たれていた。


彼女は誰も自分に耳を貸してくれないと思ったのか、一目散にカウンターへ向かい受付嬢を捕まえて叫んだ。


「`聖女’に会いたいの」



受付嬢も無下にする事はなく「お嬢ちゃんどうしたの?」と話を聞こうとする。


 しかし、彼女は「`聖女’に会わせてほしいの。ここにいるってわかっているのよ」と`聖女’に会わせてほしいを繰り返すだけで用件を話そうとしない。



「`聖女’様は今大事な会議中です。終わるまでこちらで待っててくれるかな?」


 受付嬢が優しい口調でテーブルへ促すも、彼女は頑なに聞こうとはせず`聖女を出せ’の一点張りだった。



 酒場のテーブルで飲んでいたいかにも野蛮そうな3人組の荒くれ者達が椅子を蹴り上げ、


「うるせぃ」


「耳障りだ」


「酒が不味くなる」


 と口々に悪態をつきながら少女の元へ近づいて行った。



 受付嬢も少女の危険を感じたのか3人組の男を落ち着かせ様としていたが、男たちは受付嬢を振り払い少女の手を掴み「ガキは家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな」とフードを無理やり脱がせた。


 フードから現れたのは黒髪ロングで眼帯をして、黒いゴスロリ服を身に纏っている、誰が見てもギルドや酒場には無縁そうな幼女だった。





挿絵(By みてみん)

【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】





 幼女は荒くれ者達を冷たい視線で睨みつけ


「オジサン達はお呼びでないのよ」と一瞥した。


 その一言が荒くれもの達の癇に障ってしまった。


 一人が今度は眼帯に手をかけ強引に奪い取ろうとしたのだ。


「やめるの~」と、彼女は必死にこらえるも、荒くれもの達は三人がかりで奪い取りにかかる。


 いくら幼女が抵抗しても、大の男三人が力ずくで抑えにきたら勝ち目はない。


「‘聖女’に会わせるの~」


 幼女の涙交じりの叫び声が上がったと同時に眼帯が剥ぎ取られたのだった。


 そして一瞬の間をおいて悲鳴や罵声が周囲から一気に沸き起こった。


 ギルドと酒場は異様な雰囲気に包まれ、そしてその全ての悪意が幼女一人に向けられていた。









 声が聞こえた方へ飛び出そうとしたところで、僕の左腕を誰かが強く握って引っ張った。


 思わぬ力に行動を止められてしまう。


 こんな大変な時に誰だ?と思い振り向くとその主はタルトさんだった。



「どうするつもり?」


「どうするも何も助けなきゃ。大の大人が寄ってたかって幼女を貶めてるんですよ」


「だから、あんたが飛び出してどうするのかって聞いてるの」


「どうするかって…、とりあえず止めさせるしか…」


「ハルトはこれがどういう状況か理解しているの?」


 タルトさんの言ってる意味が正直わからなかった。



「私も最初から見ていたわけじゃないからハッキリとは言えないけど、恐らくこのギルド内を包み込んでいる異様な雰囲気はあの娘の眼帯が外れた後からよ」


 タルトさんの指さす先を見るとポロポロと涙を流しながら、でもその目は見開いたままで荒くれ者達をキッと睨み続けていた。


 そしてそんな少女の目をよく見ると驚いた。左右の目の色が違う、所謂オッドアイだったのだ。


「あのオッドアイが問題なのですか?」


「半分当たりってところだね。オッドアイ自体は例えば人間とエルフのハーフとか他種族間の子供に見られるもので決して珍しくはないんだよ。注目してほしいのはその目の色さ」


 あらためて目の色を注視してみると、左目は黒色で右目が緋色だった。


「緋色の目って言うのはねヴァンパイア種の目の色なんだよ。つまり彼女は人間とヴァンパイアの間に生まれた子供って事さ」

 


 そしてタルトさんはヴァンパイアについて簡単に説明してくれた。


 ヴァンパイア族は【ノースーツ大陸】に生息する人間・亜人の血液を吸う魔族だった。


 一般的にヴァンパイアは月に1度程吸血する必要があり、その標的となっているのが力の弱い人間ばかりであった。


【ノースーツ大陸】はもともと魔族の大陸で人間・亜人はあまり住んでいない。その為、隣接するここ【イーストレーナ大陸】ドルチェ王国の人間がしばしその標的ににされているとの事だった。


 ちにみに吸われた者は誰もが即ヴァンパイアになるわけではない。


 ヴァンパイア貴族のみが吸血鬼化させる能力を有していて、下級のヴァンパイアに吸われる分にはその心配はない。


 しかし、その種族の残虐性もあり捕まった人間は吸血だけでは済まされないのが大方の場合だった。



 なるほど、それでこの悪意か。ギルド内にも犠牲者又はその家族がいるのだろう。


 この様な状況下だったので必要最小限の事だけを教えてもらったが、ここの人間がヴァンパイアに抱く憎悪の根源がわかったような気がした。


 しかし、それはとても深いところに根付いていて簡単には解決できない問題なのだろうと思う。



「生け捕りにしろ」


「やっちまえー」


「殺せー」


 殺気じみた視線とともに周囲の声もどんどんエスカレートしていった。


 でも、だからと言って標的にされている幼女をこのまま晒し者にするわけにはいかない。



「…それでも、僕は行きます」


「そう言うと思ったよ。はい、コレ。この状況であの娘を助けるという事はハルトにもあの悪意の矛先が向く事になるからね。これからもこの街で暮らしていくなら顔バレは避けなきゃね」


 そう言って渡されたのはレースマスクとマントだった。


 見るからにSM女王がつけてるそれにしか見えないのだが。


 タルトさんは何に使用して…。


 ってか、それを僕につけろと!?色々ツッコミたい事があったが、今は止めておこう。



「まずハルトが荒くれ者達の注意を引き付けて店の外へ連れ出して。その間に私があの娘を忍術で匿うから。適当にあしらったら合流よ」


「わかりました。その段取りでお願いします」


「今のハルトなら取るに足らない相手だろうけど、絶対に殺しちゃだめよ。王国内では無益な殺生はご法度なの。

そして、絶対に最初の攻撃は奴らにさせる事。反撃という形をつくれば万が一正体がバレても正当防衛にもなるしね」


 なんだかんだで色々考えてくれるタルトさん。これはまたスイーツでお礼をせねばな。


 そんな事を思いつつ行動を開始するのだった。








 ギルド内はもはや収拾がつかない状態だった。

 

 受付嬢やギルド職員の静止にも関わらず、暴言は鳴りやむ事はなくますます過激なものになっていった。



 幼女の正体がハーフヴァンパイアだという事がわかり、一定の距離をとる荒くれ者達。


 彼女というとその正体がバレて、周りの悪意に耐え切れずその場にしゃがみ込んだまま動けなくなっていた。


 しかし、それでも震える涙声で呟き続けていた。


「…`聖女’に…会わなきゃいけないの…」



 幼女に向けられる悪意が気持ちいいのか、荒くれどもはヒーロー気分の様だった。


「ヴァンパイアにはお仕置きが必要だよな」と周囲に聞かせるように大声で言い、構えたナイフを彼女の腕めがけて投げたのだった。


 しゃがみ込んで動けない彼女は格好の的だった。


 誰もが当たったと思ったその瞬間に≪キィン≫とナイフが弾かれた。


 荒くれ者達も、騒ぎ立てていた周囲も何が起こった!?と言わんばかりに唖然としていた。


 それもその筈だ。変な仮面をつけてはいるが、人間がヴァンパイアを庇ったからだ。



 幼女の前に立った仮面の青年は挑発するように言った。


「大の大人が寄ってたかって恥ずかしくないのか?」


 その言葉に我に返りカチンときた表情の荒くれ者達。


「テメェ、誰に向かって口聞いてやがるんだ。相手はヴァンパイア。ヴァンパイアには制裁を。これはここにいるみんなの総意なんだよ。テメェも人間ならわかってるはずだろ」


「わかるわけないだろ。このロリコンが」


「誰がロリコンだ」


「大の男が3人で幼女を襲ってるなんて、そう言う趣味なんだろ」


「テメェ、表へ出ろ」


 安い挑発に乗った荒くれ者達とそれを応援するかのような人々の悪意が青年に向けられる。


 しかし、それに反して青年はしてやったりと言わんばかりに唇を微かに吊り上げていた。


 更に彼は『来い、来い』と煽る様に指をクイクイと挑発ポーズをとった。



 完全にキレた荒くれ者達と周囲を引き連れて青年はギルドの外へ颯爽と出ていった。


 その場に残されたのは受付嬢とギルド職員だけ。

 

 あまりの出来事に誰もが気づいていなかった。

 

 幼女も忽然と消えていた事を―――。







 

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