第十四話 ティータイムを君と★
2016年7月27日 挿絵を追加しました。一部加筆修正しています。
2015年12月19日 誤字脱字を修正しました。
【ココメロ公園】
ドルチェ王国城下街西に位置する総面積が約60万平方メートルあり、うち約42万平方メートルの池を有した王国内最大級の水景公園。園内にはモンスター牧場やアスレチック広場、アトラクション広場、キャンプ場、運動場等の娯楽施設が完備されている。
池の真ん中には大きな橋で結ばれた小島がありそこにある展望台は国内が一望できるデートスポットにもなっている。
また池周辺には約4kmの周遊道、池をに面したレストラン、ボートハウス等を配し運動に娯楽、休養など子供からお年寄りまで幅広い層に親しまれていて、国内にいながら豊かな自然を満喫できる憩いの場である。
◇
――10月15日(月)正午――
現在僕らはココメロ公園の池の畔に面した場所にレジャーシートを敷いて寛いでいた。
この日は快晴。10月中旬で少し肌寒くもあるが最高の日光浴日和だった。
お日様の日差しを浴びてると、ウトウト気持ちよくなってくる。でも今日はピクニック。このままお昼寝してしまうのは勿体ない。
「気持ちいいですね~」
隣に座り両手を天に向かって伸ばし、のびのびしているマロンさん。
リネンのワンピースにデニムパンツを合わせたスタイルはナチュラルなゆるふわコーデとなっておりとっても可愛かった。
首元にくるりと巻いたスカーフも凄く似合っているしね。
ピックニックにも非常にあってる服装でマロンさんはお洒落さんだなぁ~と感じるのだった。
「いつ以来かなぁ~。久々にきましたよ」
「ピクニックと言えばココメロ公園って教えてもらってね。ここは素敵な場所だね~」
僕も傍らでのびのびする。
「では、そろそろピクニックの醍醐味。お昼ご飯にしよっか」
「待ってましたぁ~」
【アイテムボックス】から2段になったランチボックスを取り出す。
そして蓋をあけ順に中身を披露した。
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上段
・俵型のおにぎり(鮭、ワカメ)
・だし巻き卵
下段
・エビフライ
・鶏のから揚げ
・ポテトサラダのハム巻き
・枝豆、うずら卵、ウインナーの楊枝串
・ウサギりんご
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「ふわぁ…」とマロンさんから感嘆の声が漏れる。
僕は【料理】のスキルを持ってるが、それ以上にやっぱり元の世界での経験が大きいと思っている。
僕の実家は商売をしていたから両親ともに朝から忙しかった。それで中学時代から率先して家族の弁当を作るようになっていた。
毎日弁当作りを続ける為のコツは食べてくれる人の事を考えて作る事だった。
栄養やバランス、盛り付け方等、より喜んでくれるものを作ろうと切磋琢磨する事が楽しかった。
それがこの場面で活きのだと思う。
「どうぞ召上ってくださいな」
‘いただきます’の掛け声で楽しいランチのスタートだ。
順番に一口ずつ食べては、
「凄く美味しいです」
「こんなにカラフルで目でも楽しめるお弁当初めてです」
「おにぎりって三角型以外も食べやすくていいですね~」
「この卵はふわふわでしかも味がついてるんですね!」
「楊枝串はすごいアイディア料理と思います!」
「唐揚げジューシー過ぎです。何かコツがあるんですか?」
「ウサギりんごって言うんですか!可愛くて食べてしまうのが勿体ないです~」
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と都度次から次に感想を言って嬉しそうに食べてくれた。
料理の解説しながらそんなマロンさんを見ていると、早起きして頑張った甲斐があったと顔がニヤケてくる。
料理を食べながら2人でアレコレ楽しそうに話している様は、傍から見たら完全にピクニックデートだろう。
まぁ、今回は日頃のお礼って事でお誘いしたから、彼女はそんな事思っていないだろうけどね。
「どれもとっても美味しくてお箸を伸ばす手が止まりませんでした」
食後に聞けたその一言はとても嬉しい最高の褒め言葉だった。
楽しい昼食を終えた僕らは園内を散歩しながら、次の目的地であるモンスター牧場へ向かった。
【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】
モンスター牧場は野生の動物系・植物系のモンスターが檻の中で飼われていてそれを見学して回るというもので、僕が知る動植物園に似ているなと思った。
とは言っても、可愛いものばかりではなく、厳ついものや少しグロテスクなものまでいて、子供に見せていいのか?と疑問に思うモンスターまでいた。
このモンスター牧場は森林・海底・荒野・火山など色んなゾーンがあり場所によっては一般開放されモンスターと触れ合えるところがあった。
ちなみに全モンスターが魔力が込められた首輪をしていて人を襲う事はないとの事だったので安全は確かなのだろう。
僕らが今いるのは解放区のひとつの雪国ゾーンだった。
「あれ何だかわかります?」
マロンさんが指さしたのは一見真っ白なウサギのようだが、跳ねて着地するとまるでチンしたお餅のようにベチャっとそのフォルムを崩し、すぐにまたウサギ型に戻るという奇妙な生物だった。
「実は`うさモッチ―’と言うスライムの一種なんですよ。大人しくて人懐っこくて私の好きなモンスターの一匹なんですよね」
そう言って、手のひらサイズのうさモッチ―を撫でるマロンさん。
するとうさモッチ―は`ニュー’と鳴きマロンさんの肩でピョンピョン跳ね崩れている。
うん、可愛いね。ウサギ姿の時のつぶらな瞳や‘ニュー’という鳴き声はもちろんの事、マロンさんと戯れている姿が何より愛らしいものだった。
その後も牧場内を数か所巡ったが、僕にとっては初見のモンスターばかりでとても興味がそそられる場所となった。
そしてモンスター牧場の後は、橋を渡り池の真ん中に位置する小島へ行った。
次の目的地である展望台は、登ると360度景色が楽しめるようになっていた。
着いた時には丁度いい時間帯だったのでベンチでティータイムをとる事にした。
マロンさんがレモンティーを用意し僕がスイーツ担当だ。
実は今日僕が一番食べてほしかったのがコレであり、ようやくお露目の時間となったのだ。
この日のスイーツは“ふわふわスフレパンケーキ”だ。
4㎝もある厚さは圧巻でプレーンのままでも存在感が凄い。
ちなみに午前中にギルドへ登録申請を出し、友人に配って回ったのはコレだった。
タルトさん達にはこのスフレパンケーキの上に四角くカットしたバターを置き、それにメープルシロップをかけたものを渡したのだった。
しかし、マロンさんの分はまったく違う。
スフレパンケーキを2段重ねにし、バニラアイスと小倉餡、きな粉クリームをトッピングし黒蜜をかけた和風仕立てだった。
皿の周りには生クリームと旬の果物(梨・リンゴ・キウイ)をカットして並べ、目でも味も楽しめる一皿にしたのだった。
数週間前に露店巡りをした時に材料は大方揃えていた。その際に大豆を購入できた事は僕にとって大きかった。
実はこの世界では“きな粉’と言うものが存在していなかった。
大豆は主に醤油・味噌、豆腐などを作る為のもので、‘大豆を煎って粉にする’という事自体が行われていないようだったのだ。
‘料理図鑑’購入後に念のため‘きな粉’について調べたところその項目はどこにもなく、すなわちそれはこの世界に‘きな粉’が存在していない事を表していた。
ちなみにどうして僕が“きな粉”を含めスイーツについて詳しいのかというと、スイーツ男子だからというのが原因ではない。
実は実家が和菓子屋を営んでいて、和菓子職人の両親とパティシエの姉に昔からよくスイーツの何たるかを教わり育ったからである。
余談であるが、僕は名字が‘最中’なのに実家が和菓子屋と言うだけで‘モナカ’と馬鹿にされていた。まぁ小学生の頃の話であり今となっては全くどうでもいいが、幼い僕にとっては苦い経験であった。
「こんなスイーツ見た事ないです~。これ食べちゃっていいんですよね?」
目を輝かせながらも戸惑いつつそう聞いてくるマロンさん。
大丈夫ですよ、‘ガブッ’といっちゃって下さい。
「この食感何ですかぁ!?ふわふわで柔らかいですぅ~」
「でしょ!そのふわふわ感がクセになるんだよね~」
「このクリームに使用されているのは‘きな粉’って言うんですかぁ。甘さも丁度良く香ばしいかおりがたまりませんね」
「‘きな粉’は食物繊維やミネラルが豊富なんだよ。栄養がたっぷりでダイエットや美肌にも効果的だね」
「美肌効果イイですね~。私、‘きな粉’かなり気に入りました」
そう言いながらもフォークが止まる事はなく夢中でほおばり、上段をあっという間にたいらげてしまった。
【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】
「少し溶けたバニラアイスをたっぷりつけて果物と一緒に食べるのもアリだよ。是非試してみて」
「本当だぁ。溶けかけのアイスがパンケーキに絡み合って、果物の甘酸っぱさとマッチしますね。これはこれで美味しいです~」
「でしょ。2段重ねは上下違った味で楽しむ事もだきるし、それがまた良いんだよね~」
そんな会話をしつつ、マロンさんは下段も完食してくれた。
「とても美味しいスイーツ、どうもありがとうございました」
大満足といった表情を浮かべ微笑むマロンさん。
その笑顔が見れただけで料理を作った甲斐があった思う。
午後のティータイムはとても優雅なひと時となった。
その後は展望台から夕焼け空を見た。
この世界は空気が澄んでて、夕焼けも今まで見た事ないくらい綺麗なものだった。
ピクニックの最後を締めくくるには最高の場面だろう。
よし、このいい流れのまま今日こそディナーに誘おう。そんな事を考えていたところでマロンさんにメールが届いた。
それはギルド長からの緊急招集だった。‘聖女’のお仕事がらみで直ぐに向かう必要があるとの事だったので一緒にギルドへ行く事にした。
それにしてもタイミングが悪い。どうやら今宵もディナーはお預けのようだ。
◇
ギルドでマロンさんと別れた後、僕は‘きな粉’の登録申請をしに行った。
「この`きな粉’は絶対に国家の発展に貢献します」
マロンさんがそう強く登録申請をすすめてくれたからね。
ギルドカウンターにはフィーキさんの姿はなく既に帰宅した後だった。フィーキさん以外の受付嬢とはそこまで親しくないので、さっさと申請だけ済ませ酒場へ向かった。
酒場にはカウンターにタルトさんがいてマスター相手に盛り上がっていた。
お邪魔しちゃ悪いと思い僕はテーブル席に着いた。今宵は軽く一杯だけ飲んで`黒猫亭’へ帰ろう。
店員さんがメニューを持ってきた時にギルド入り口の方が何やら騒がしくなった。
荒くれものも多いギルド内だから小競り合い等も頻繁に起こっており、`またいつもの事だろう’と我関せずを決め込んでいたのだが、思わぬキーワードを耳にしてそうも言ってられなくなった。
「`聖女’に会わせるの~」
その言葉が叫ばれた後に、物凄い悲鳴や罵声が飛び交ったのだった―――。




