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第十二話 採掘★

2016年7月24日  挿絵を追加しました。一部加筆修正しています。

2015年12月6日  誤字脱字を修正しました。


「ねぇねぇ、いいでしょ。採掘付き合ってよぉ~」


 タルトさんはちょっと甘えた口調で後ろから抱きついてくる。


 背中にあたる豊満な胸。店内の男性陣から突き刺さる冷たい視線。色んな意味でヤバい。



「ちょっ、ちょっとまずいですよ。離れて下さい。話はちゃんと聞きますから」


 強引に引き離し何事もなかったように平静を保つ。


 悪戯な笑みを浮かべながら「もぅ、照れちゃって~」と言ったのは聞かなかった事にしよう。



 どうやらタルトさんは酒場で飲みながら知り合いが現れるのを待っていたらしいのだ。


 ちなみにこの一週間でタルトさんとは3日程お酒をご一緒しいつしか僕も飲み仲間になっていた。



「今からですか?もうすぐ16時ですよ。それに僕はいま依頼を終えたばかりで少々疲れてて…」


「へぇ~。ハルトは~、こんなか弱い乙女に一人で鉱山なんて危険な場所へ行けって言うんだぁ~」


 ちょっとイラッとするぶりっ子口調でそう言いだした。


「いや、Aランクの人にか弱いって言われても説得力ないですよ。それに24歳で乙女と言われ…≪ゴン!≫」



 最後まで言う前に鉄拳が飛んできた。


 見ると“はぁ?今、何か言った!?”と言わんばかりの鬼の形相で睨まれていた。


 ヤバい、地雷を踏んだらしい。すぐさま平謝りだ。


 今回は僕の失言でした。だから、その左手に見える“くない”はしまいましょうね~。


 なだめるように謝るしかなかった。



「次言ったらその口をコレでふさいじゃうからね~」


 と、口調はそのままに“くない”を僕の頬にピタピタとくっつける。


 ねっ、姉さん、怖ぇ~ッス。もう姉さんの前では年齢の話は致しません。


 でも、絶対にか弱くはないですから~。それだけは認めませんよと心の中で唯一の抵抗をしていた。









 そんなこんなで僕はタルトさんと2人でドルチェ王国東に位置する“フェレロシェ鉱山”に来ていた。


 うん、もう断るなんて無理だったからね。



 採掘場はダンジョンの中だった。


 “フェレロシェ鉱山”はその規模も広く鉱山の中にもダンジョンが数か所あった。


 僕達がいるのは稀にプラチナが発掘できるという採掘場でダンジョンの地下3階に位置していた。



 最初に一定範囲の敵を2人で一掃し、あとはお互いに【危険感知】スキルを発動させながら作業にとりかかる。



≪コツコツ、コツコツ≫


 渡されたピッケルを使い黙々と採掘をする。



 そもそも何故採掘が必要かと言うと、タルトさんの趣味が装飾品(アクセサリー)作りだったからだ。


 ただ、材料をわざわざタルトさん自身で採掘しに行っているとは思わなかった。鉱石を専門に取り扱っているお店とかも商店街にあるからね。


 でも、タルトさん曰く「天然の素材が一番」との事だった。


 【上級鑑定】スキル持ちのタルトさんが言うんだからそれは間違いないのだろう。


「それに、何より私はこうやって自分の手で掘り起こしたものを使って装飾品(アクセサリー)を作るのが好きなんだよ」


 成程ね。でも僕には採掘というのはよっぽど好きじゃないと楽しめない作業だなと感じてしまった。




≪コツコツ、コツコツ≫


 更に2時間程黙々と作業をし、20時半を過ぎた頃に作業は終了となった。



 作業を終えて片付けをしながら、タルトさんに今日の成果を見てもらう。


 僕が採掘したのは銅や鉛がほとんどで、どれも純度が低くあまりいいものではなかったようだ。


 コレはダメ、コレはまぁまぁ…とタルトさんによる仕分けが始まったのだが、ある結晶を前にしてタルトさんの手が止まった。



「やったじゃないか。これはとても貴重なチタンの結晶だよ。なんたって純度が99.999%だからね」


 何だかよくわからないがタルトさんに褒められた。


「初心者なのにツイてるなぁ~。いや才能かもしれないね~。お姉さんもびっくりだよ」


 嬉しそうに肩を抱いてきた。


 汗をかいているはずなのにタルトさんからフローラルな甘い香りがする。


 って、いやいや、姉さん近いですから!

 


 そんなやり取りをしている時に何かが僕の【危険感知】に引っかかった。


 と、同時にタルトさんも臨戦態勢をとる。きっとタルトさんも感じたんだろう。



「上!!」



 叫ぶと同時に上を見ると、何か大きな物体が降ってきた。


 咄嗟にタルトさんがそれめがけて“くない”を3本放つも、その全てがはじき返された。



≪ズドドドド―――――≫



 物凄い音とあたりが見えなくなるくらいの土埃をまき散らし、敵が強襲してきた。


 あれは…ゴーレムか?



---------------


ミラーゴーレム

Lv:47

HP:3300

魔法・技:反射


---------------



 目の前のゴーレムは全身が鏡で出来ていた。


 なるほど。タルトさんの‘くない’が弾かれたのもその特徴的な体から使用する【反射】という技のせいか。



「こいつは【ノースーツ大陸】にしか生息しないモンスターのはず…どうしてこんなところに…」


 少し驚いた表情を浮かべているタルトさん。



「タルトさん、敵の弱点を知っていますか?」


「すまない。私も初めて対峙する相手だよ。1分耐えてくれ。弱点を探ってみるから」


 そう言ってタルトさんは瞬時にミラーゴーレムへ近寄り一閃を浴びせ、そのまま飛び跳ねて上空の岩場へ移動した。





挿絵(By みてみん)

【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】





 流石‘忍者’である。身のこなしが半端ない。


 でも、華麗に舞う姿はいささかセクシーすぎないか?


 こりゃあ‘セクシー・くノ一'と呼ばれても仕方ないよね。


 感心しながらもそんな事を思いつつ、僕も急いで間合いを詰めて敵をよく観察するのだった。



 すると驚いた事に先ほどのタルトさんの一太刀も無傷だったのだ。


 あの瞬間に【反射】で防いだという事か?


 ‘風のレイピア’を構え、切り付けると見せかけて風の刃(カマイタチ)を放つ。


 しかし、風の刃(カマイタチ)までも弾かれてしまった。完全にフェイントは効いたはずなのに…。


 ミラーゴーレムは全長3メートル程の大きな鏡のゴーレムだったので、その動きは鈍く簡単に後ろをとる事ができた。


 今度は背中から‘風の魔法剣’で切り付ける。だが結果は同じではじき返された。


 そうかこいつの【反射】は全体に常時発動させているんだ。なんとも厄介な相手だ。


 大きな体で放たれるパンチをかわし、バックステップで大きく間合いを広げて時間を稼ぐ。



 すると上空より声が届いた。


「ハルト、お待たせ。そいつの弱点はズバリ‘切断面’。ゴーレムと言っても‘鏡’のモンスターだからね。‘鏡’の弱点がそのままそいつの弱点ってわけさ」


「あのぉ~、ミラーゴーレムの全体を観察してみたんですけど、全身が鏡で‘切断面’らしきところが見当たらないんですが…」


 丁度蹴りを放ってきたミラーゴーレムを避ける時に足の裏も見てみた。


 しかしやはり‘切断面’は見当たらなかった。


「足の裏にも見当たらないです」



 少し観察に集中しすぎたか、ミラーゴーレムの指が槍の先端みたいに変形し伸びてきたのに気づくのが遅れた。


「危ねっ」


 直接交わすのは無理と思い、すぐ左腕の籠手に力を込め風の盾(ウインドシールド)を発動させてその攻撃をいなす。


 うん、硬度では勝っているな。これなら攻撃を受ける恐れはないぞ。



「頭頂部を狙って。`切断面’が確認できたから」


「了解です!」



 ミラーゴーレムの足元に風の刃(カマイタチ)で片足がすっぽい埋まるサイズの落とし穴を作る。


 単純だがこの戦法は図体がだかい相手にはかなり有効だった。


 案の定、片足を突っ込みバランスを崩し前のめりとなったミラーゴーレム。


 その瞬間を逃さず、‘風の魔法剣’が頭頂部の‘切断面’に強力な一撃を加えた。



≪パリン、パリン、パリン…≫


≪ガシャン、ガシャン、ガシャン…≫



 大きな音をたてミラーゴーレムは崩れていき、後に残ったのは大きな硝子の山だった。



「お疲れさま」


 タルトさんはポンと僕の肩を軽くたたいて、ミラーゴーレムの残骸を調べ始めた。



「本当にどうしてこんな場所にいたんだろうね?‘逸れ(ハグ)’ってわけでもないだろうし、何の目的か知らないけど、誰かが持ち込んだ可能性があるわね…」


 確かにゴーレムは知能が低いモンスターだし、一般的には生息地を離れるような事はしない。しかも大陸が違えば尚更だ。


 何だかとても嫌な予感しかしなかった。



「それはそうと【剥ぎ取り】しよっか」


「こんな状態でもできるんですか?」


「スキルを使えば可能だよ。ちょっとやってみるから見ててね」


 そう言ってタルトさんは【剥ぎ取り】スキルを発動しガラスの残骸を次々と綺麗なガラス片に変えていく。


 残念ながら、まだ僕は【剥ぎ取り】スキルを取得できていないのでうまくできなかったが、あらためてスキルの奥深さを知るいい機会となった。



「というか、このガラス片凄いよ!私が今までに見た中でも最高クラスの高純度をしているんだよ」


「そうですか…。でも、何も残骸全部をガラス片に変えなくても…」


 目の前に積まれたのはガラス片の山だった。一体何キロ分あるのだろう。


 ひょっとしたらコレだけで一財産を築けるのでは…そう思ってしまうぐらいの量だった。


「いや、こんな高純度ガラス片をここに放置しておくほうが勿体ないでしょ。ほらほら、【アイテムボックス】に入れた、入れた」


 あぁ、やっぱり【アイテムボックス】ありきだったんですね。


「じゃぁ、これは折半という事でよろしくね」


 予想外のアクシデントにみまわれたが、2人とも無傷だったので一安心だった。


 タルトさんは高純度ガラス片を大量にゲットできて喜んでるし、僕自身も‘風のレイピア’と籠手が強敵にも通じるという事がわかったので、逆に有り難い戦闘となった。


 そして、また後片付けに取り掛かった。



「そうそう、話の途中になってましたけど‘高純度チタンの結晶’は僕が持っててもその価値がわかりませんし、タルトさんがもらいませんか?」


 実際、言葉の通りだった。僕には全くその価値がわからず興味も持てなかったので手元に置いておくのもいかがなものかと思った。


「いやいや、これを受け取るわけにはいかないね。折角だから自分で持っときな。もし使い道ないなら、売れば結構イイ値になるしさ。それに私はこっちがあるから~」


 ‘ふっ、ふ~ん♪’と言ってタルトさんが見せてくれたのは純度が高いプラチナだった。


 ってか、しっかりプラチナを採掘してたんですね!


 なるほど。このプラチナに比べたらチタンは見劣りしますもんね。ではコレは僕が持ちかえりますと‘高純度チタンの結晶’を受け取った。



「ところでさ、今日どうだった?結構採掘って楽しかったでしょ」


「………そっ、そうですね…」


 正直、そこまででもなかった。だから、すぐに答えられなかった。


「むっ、何だいその間は」


 苦笑いしかない。


「まぁ、大抵の人がそう言う反応するから仕方ないんだけどね。でも、採掘した素材を使い自分で何か作品を作るってみる事で、あらためて採掘の良さがわかる場合もあるんだよね~」


「そんなもんですかね」


「と言うわけで、はいコレあげるね」


「なんですかコレ?」


 手渡された布袋には初心者用の工具セットが入っていた。


「時間がある時にお姉さんがハンドメイド教室を開いてあげるから、そこで“装飾品(アクセサリー)”を作ってみようね~」


「えー。マジっすか。丁重にお断りします」


 流石に渋い表情ととも拒否反応が出る。


「うん、拒否権はないから」


 いつの間にか左手に‘くない’が握られていて、ニコニコ笑いながらそう言っていた。


 あぁ、もう本当に拒否できないんだ。


 心底ガッカリした表情を浮かべてしまう。


「あのぉ~、そのハンドメイド教室にはマロンさんやズコットさんは通われてたりしないんですか?」


「えっと、今の生徒はハルト一人だよ。ちなみに2人には忙しいからって断られちゃったんだよね」


 まぁ、それはそうだよな。


 マロンさんには“聖女”のお仕事もあるし、ズコットさんは家族サービスがあるもんな。


 でも、だからと言って僕も暇じゃない。宿屋住まいでその日暮らしの身分だし、何よりこの世界で生きていく目標探しがある。


 なんとか断る方法はないものかとアレコレ考えを巡らせる。


 そんな僕にタルトさんはちょっとおとぼけ口調で声を大にして言った。


「あっ、でも~手作りの装飾品(アクセサリー)とかプレゼントされたら、もうそれだけで女の子はときめいちゃうよね~」


 ピクリと反応してしまう僕。


 そしてそれを‘見逃さなかったよ’と言わんばかりの笑顔でタルトさんはとどめの言葉を放つ。


「マロンってとってもウブだから、そんなプレゼントされた暁にはもうコロッと落ちちゃうかもね~」


 僕の中で何かの方程式が完成した。


「お姉さん、是非とも僕に装飾品(アクセサリー)作りのご教授をお願いします」


「うん、うん、わかったよ。では初回は明日の飲み会3時間前だからね」


 ‘採掘最高ー’とダンジョンの奥に向かって叫ぶ僕を余所に、してやったりの表情を浮かべていたタルトさんを僕はしらなかった。


「全く、男ってみんな単純なんだから」


 それは僕の耳に入って来なかった呟きだった。










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