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第十一話 風のレイピア★

2016年7月23日  挿絵を追加しました。

2015年12月21日 一部加筆修正しました。

 




「おぉ、兄ちゃん。よく来たな。予想以上に素晴らしい武器に仕上がったぞ」


 そう言ってアズッキーさんが出来上がった武器を披露してくれた。


 そう、今日はオーダーメイドしてた武器の受け取り日だった。



「これが兄ちゃん専用のこの世に一振りしかない“風のレイピア”だ」


カウンターの上に置かれた“風のレイピア”は幅1.2㎝、全長1m、重さ1.5㎏と一般的なものと大差ないが、刀身にはカマキリナイトの刃が使用されており切れ味・強度は通常の倍以上との事だった。


 また“レイピア”の特徴でもある柄の部分はイノブタキングの角で加工されていた。手の甲の大部分が覆われていて護拳以外にも接近戦において殴打しやすい作りとなっていて、機能的にナックルガードとして十分な優れものとなっていた。


 そしてグリップには魔法石(中)が上下に2つ埋め込まれていて、魔力を流す事で風属性を纏った‘風の魔法剣’に変化するようになっていた。

 MP1消費につき10秒効果が現れ、INTの高さで攻撃力がUPするとの事だった。



 「実はな、俺が兄ちゃんのステータスを見た時一番驚いたのは【無詠唱】スキルを持っていた事なんだ」


「え!?【無詠唱】スキルですか?」



【無詠唱】スキルとはその名の通り詠唱時間無しで魔法を唱える事が出来るスキルだった。



「それを見た時に流石‘勇者’様だなぁ~と思ったよ。【無詠唱】スキルはこの世界で一握りの者しか覚えられないものなんだ。

 ‘法王’クラスでもせいぜい【詠唱時間短縮】スキルしか所持していないと聞いた事があるからなぁ」


「そんなにレアなスキルだったんですか!」


「そりゃあそうだよ。例えば兄ちゃんが使える‘風の矢(ウインドアロー)’だって通常は魔法を発動するまでに5秒はかかるんだ。召喚魔法や最上級魔法だと数分要するものもあると聞くぞ。

 だから、名前さえ唱えれば魔法を発動する事ができる【無詠唱】スキルはとっても貴重なんだよ」


 って、凄いチートじゃん。


 ここにきて初めて`勇者’なんだと実感できた気がする。



「それに魔法石も一度魔力を込めるとそれが切れた場合、再度使えるようになるまで待機時間があるんだ。だが、【無詠唱】スキルはそれにすら効果が及ぶんだよ」


「確かに、凄いスキルですね」


「そうだろ~。だから`風の魔法剣’状態も魔力が続く限り待機時間無しで使用できるってわけさ」



 アレ?でも、待てよ。これがあれば最強じゃないか。


 先ほど‘風の魔法剣’はMP1消費につき10秒効果が現れると教えてもらった。


 僕は【MP自動回復(中)】を持ってるから8秒毎にMPが1回復する。それはつまり‘風の魔法剣’だけを使用する分に関しては魔力切れの可能性が無い事を意味している。


 それに【無詠唱】スキルとINTの高さが加わる事で待機時間もなく永続的に攻撃力が高い‘風の魔法剣’が使える事になる。


 マジかぁ~!?うっ、嬉しすぎる。


 アズッキーさんのお蔭で思わぬ力を手に入れてしまった。



 さらにグリップの魔法石(中)に魔力(MP3)を込めると風の刃(カマイタチ)が発動する仕様となっていた。



風の刃(カマイタチ) ……鋭い風の刃で敵を攻撃するカマキリナイトの必殺技



 敵の必殺技まで使用できるようになるとは!


 これも非常に有り難い。剣から魔法を放つなんてこれぞ男のロマンだしね~。



 きっとアズッキーさんの説明を受けている間ずっと好奇心旺盛な少年の様に輝いた瞳をしていた事だろう。テンションが上がり過ぎて可笑しくなりそうだった。



「それからこれも」と 手渡されたのは左手用の籠手だった。


「え?いいんですか」


「おう、サービスだ。受け取ってくれ」


 よく見るとそれは革製の籠手で外側にはカマキリナイトの羽が編み込まれていて魔法石(中)も装飾されていた。


 この籠手も魔法石(中)に魔力(MP5)を込める事で縦90㎝×横40㎝のカイト・シールドを模した風の盾(ウインドシールド)が発動するようになっていた。


 消費MPは通常の風の盾(ウインドシールド)と同じだが、一回唱えてしまえば効果が30分持続するからかなりお得だ。形こそ変えられないが確実に戦力になる。



「兄ちゃんに気に入ってもらえたようで何よりだ」とアズッキーさんは二カッと笑う。


 武器だけでなく防具まで揃えてもらった。しかも無料で。有り難すぎる。


 お会計を済ませた後も、嬉しくて何度もお礼を言った。


 アズッキーさんは‘いいって事よ’と照れくさそうに、でも鍛冶屋とし最高の一品を作る事ができ大変満足したといった表情をしていた。



「そうそう、いくら強力な武器を得たからと言ってもうぬぼれちゃダメだぞ。訓練は今まで以上に行う事。武器に頼りっぱなしの戦いは命を縮める事になるからな。

そして、大きな力には大きな責任も伴うって事を常に忘れない事だ。まぁなんだ、年長者のアドバイスとして心の隅にでも留めておいてくれ」


 いぇ、心の真ん中に置いておきます。試し切りしたく心がはやっていた僕を落ち着かせる貴重な助言。もう何から何まで感謝です。


 でも、何でアズッキーさんは出会って間もない僕なんかにここまでしてくれるのだろうか?


 迷ったが聞かずにはおれなかった。



 するとアズッキーさんは嫌な顔せず教えてくれた。


「俺は過去に勇者様に救われた事があってな。その勇者様も“ハズレ勇者”と揶揄されていたんだけど、でも俺にとっては手を差し伸べてくれた唯一無二の存在だったんだ。

 いつかは恩を返したいと思って鍛冶屋を続けていたんだけど、結局はそれも叶わず仕舞いでな。だから、同じような立場の勇者様が現れたら是非とも力になりたいと思っていたのさ」


 アズッキーさんは遠くを見つめそれ以上は口を開かなかった。


 ただ表情からはその勇者がもはや手の届かない場所へ逝ってしまったんだと思われた。



「おっと忘れるところだった。コレも」


 と言って革製のフィンガーレスグローブを渡された。


「兄ちゃんの右手の甲にある紋章は知識あるものが見たら一発で‘風の紋章’ってわかっちゃうからな。それ着けとけば‘風の勇者’って気づかれる事もなく何かと過ごしやすいだろうよ」


 また二カッと笑顔を見せるアズッキーさん。心遣いもハンパないと感じずにはいられない。




「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」


「おう。いつでも寄ってくれよ。兄ちゃんにはこれからもサービスするからな」


 最後に改めてお礼を言い鍛冶屋を後にした。




 あの日、数ある鍛冶屋の中からここを選んで本当に良かった。


 あの日、“ハズレ勇者”と知りながら、僕の特徴を最大限に活かした最強の武器と防具を作り上げてくれたアズッキーさんに出会えて本当に良かった。


 “ハズレ勇者”で繋がった縁……最高ではないか。


 グリップを握る手に力が入り、“風のレイピア”がキラリと輝く。





挿絵(By みてみん)

【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】





 この“風のレイピア”に恥じない生き方をしていこうと強く思った。









 試し切りも兼ねて簡単な依頼を受ける事にした。


 ギルドの掲示板でアレコレ考えると受付嬢のフィーキさんが声をかけてきた。


「何かお探しの依頼でもありますか?」


「いぇ、特に決まったものはないのですが、武器の試し切りにあうものないかな~と」


「それでしたらこちらなんていかがでしょうか」


 フィーキさんがすすめてきた依頼は“染色素材集め(ランクE)”だった。


 具体的には染色素材となる‘虹色の花’を‘パンドールの森’で採取してくるといった内容になっていた。



「あのぉ~何で採取の依頼がおすすめなんですか?」


「‘虹色の花’は‘パンドールの森’右側コースを20分程進んだところに採取場があります。ハルト様もご存じのとおり‘パンドールの森’はコースから外れない限りは強敵と遭遇する心配ございません。

 また右側コースはモンスター出現率が高くはありますが、レベルはさほど高くないモンスターばかりなのでソロでも安心して討伐でき、試し切りにはもってこいのコースとなっています」


 なるほど。確かにソロの僕には打って付けだ。お礼を言ってそのまま依頼を引き受け‘パンドールの森’へ向かった。









 フィーキさんが教えてくれた通り右側コースは低レベルのモンスターしか出現しなかった。



---------------


 ワイルドラビット

 Lv:20

 HP:450

 魔法・技:ラビットキック


---------------


 ポイズンバタフライ

 Lv:18

 HP:330

 魔法・技:毒の粉 


---------------



 上から、下から次々に飛びかかってくるが、魔法剣状態の“風のレイピア”にかかれば一撃だった。


≪スパッ、スパッ≫


 切れ味抜群のレイピアの刃が敵の残骸の山を築いていく。


 風の刃(カマイタチ)も何度か試したが、レイピアを振り下ろしながらでも発動できるので使い勝手が良いと感じた。


 籠手も耐久性高く、腕にいい感じに馴染み機動性も十分だった。


 ‘虹色の花’採取も苦労することなく終わり、試し切りと同時に【剥ぎ取り】の練習もできた。


 結果的に今の僕にあった大変満足が行く採取依頼となった。




 そして3時間程経って、街に戻り早速ギルドでフィーキさんにお礼と詳細報告をしているとタルトさんが酒場の方から近寄ってきた。


「ハルト~。いいところに来たね。今から素材集めに行くんだけど付き合ってくれない?」


 もうすぐ夕方なんですけど…。内心呟いてしまう。


 今日と言う一日がまだ終わらない嫌な予感しかしなかった―――。







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