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第十話 友達と訓練★

2016年7月22日  挿絵を追加しました。

2015年12月18日 誤字脱字を修正しました。

 



 翌日、7時に起床するとギルドカードの‘m’ボタンが緑色に点滅していた。


 故障か?と思い恐る恐る触れてみると3Dホログラムで‘受信あり’と表示された。


 マロンさんからのメールがキターと一瞬で目が覚め早速内容を確認する。



---------------


‘黒猫亭’前にて9時に待つ


          ズコット


---------------



 え?何コレ?こっちの世界の果たし状かなにかか?


 一番初めにメールくれたのがマロンさんじゃなかったガッカリ感は置いといて、あまりにも簡素な文章でその真意を測りかねた。


 確かに一昨日の飲みの席でズコットさん、タルトさんともメアド交換をした。


 タルトさんに「こうやって飲み明かした仲だからさ。うちらってもう友達だよね」と半ば強引に交換を迫られたのだった。


 でも悪い気はしなかった。むしろこの世界で初めてできた友達だから嬉しかったぐらいだ。



 ちなみに、ギルドカードのメール機能は千文字まで打てる仕様となっている。


 それなのに、この少なさ。ズコットさんが口数少ないのは十分わかっていたのだが、まさかメールまで短いとは…。


 昨日何か気に障るような事でもしたのだろうか?


 まぁ、わざわざ‘黒猫亭’まで出向いてくれるという事なら断る事もない。


 幸い今日の予定は午後からマロンさんとの訓練だけだしね。ってか、そもそも断れないよね。









--8:45--



 少し早いが‘黒猫亭’前に出ていくと、そこにはズコットさんの姿があった。


 結構前から着いていたのかな。ベンチに座り武器の手入れをしている。





挿絵(By みてみん)

【イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25)】





 ズコットさんはそこに座っているだけで何かしらのオーラを感じさせる。


 道行く人々の羨望の眼差しを浴びつつも、あんなに堂々と武器の手入れができるとは。


 ズコットさんの胆の据わり様もハンパないと思った。



「おはようございます。すみません、お待たせしたみたいで」


「…問題ない。おはよう」


「ひょっとして結構待たれましたか?」


「…問題ない」


「そうですかぁ…。」


 わかっていた事だが、表情を変えず淡々とそう言うズコットさん。


 うん、怒っていないよね?


「今日はどのようなご用件で…」


「…着いてこい」



 言われるままズコットさんの後に従い歩く。そして向かった先は鍛冶屋だった。


 店に入るなりアズッキーさんがよく来たなと出迎えてくれる。


「えっと…これはどういう事ですか?」


「すまん、すまん。実はズコットはこの店のお得意さんであり、付き合いが長い俺の友なわけよ。昨日兄ちゃんがズコットと飲んだ話してくれたろ。それでいい事を思いついてな」



 思い付きが必ずしもいい事とは限らない。ちょっと怖い気もするが話を続けてもらった。


「ズコットは重剣士ではあるが剣技に関してはかなり精通してるんだよな。それで兄ちゃんに稽古をつけてくれるよう俺から頼んだってわけよ。兄ちゃんの腕は残念ながら素人に毛が生えたレベルだからなぁ」



 なるほど、そう言うわけだったのか。


 しかし、これは非常に有り難い話であった。


 昨日レイピアを受け取ったものの正直使いこなせるか不安があった。いくらお城で1か月の訓練を受けたと言っても剣術はたしなむ程度だったしね。


 それにギルドランクAのズコットさんから習えるのなら願ってもない話だ。



「ズコットさんはよろしいのでしょうか?」


「…火・水・土の午前中なら大丈夫」


 おぉ、週3日も訓練つけてくれるんですかぁ~。


「…仕事入った時は連絡する」


「了解しました。よろしくお願いします」


「シッシッシ。良かったな。こいつは口下手だけど腕は確かだし安心して習ってくれよな。裏の演習場を使ってくれて結構だからさ」


 アズッキーさんは豪快に笑いながらそう言ってくれた。アズッキーさんには何から何まで感謝しっぱなしだ。



 そして早速訓練に入った。


 ズコットさんは口数こそ少ないが必要な事は余さず見本を示しながら基礎から丁寧に指導してくれる。


 まだ初日だが教え方が凄く上手いと感じた。


 そしてそれから約3時間。演習場でみっちりしごかれた。



 訓練が終わりお礼もかねてランチを誘ったのだが、「…すまん。先約」と鍛冶屋前で出待ちしている女性2人組を指さした。


 さすがイケメン剣士。女の子とデートなのね。って不倫!?


 僕の表情を読みとったのか「…今、失礼な事思ったろ。勘違いするな。母と娘だ」と言われた。


 なるほど、午後はご家族と過ごすんですね。家族サービスは凄くいい事と思います。


 遠目だがお母様とお嬢さんに会釈をしてズコットさんと別れた。




そして演習場で帰り支度をしている時にメールを1件受信してる事に気づいた。



---------------


おはようございます。

今日もいい天気でまさに訓練日和ですね。

13時に西門で待ってます。

訓練頑張りましょうね。


          マロン


---------------



 マロンさんからだぁ~。一気にテンションが上がる。


 この世界のメール機能には絵文字等はなくシンプルなものだった。


 きっと顔文字という概念もないのであろう。でもそのシンプルさがまた良かったりする。


 今回のメールでは最後の‘頑張りましょうね’の部分が最高だ。


 この‘ね’の一文字が付くか付かないかはとても大きいと思っている。


 付いた場合は“一緒に頑張ろうね”“お互い頑張ろうね”っていう風に“私も一緒に”って意味で受け取れるからね。


 おめでたい解釈かもしれないが、たぶんこう感じてるのは世の中に僕だけじゃないだろう。


 そんな事考えてメールを眺めてたら自然に頬が緩んでいた。


 って、13時集合!!今12時半なんですけど~。


 僕は昼食をとる間もなく慌てて西門へ駆け出すのだった。









--12:55--



 全力ダッシュでなんとか5分前に到着出来た。


 マロンさんは………あっいた。西門から10m程先にある木陰に座って本を読んでいた。


 うん、凄く絵になる。よしタイトルをつけよう。題して‘木陰に寄り添う淑女’。って、見たまんまか。


 そんな事を考えつつ見惚れていると彼女の方が僕に気づいて手を振ってきた。


 かっ、可愛いじゃないですかぁ~。それになんかデートの待ち合わせっぽいし。


 ヤバい、絶対に顔がにやけている。



「こっ、こんにちは。今日からよろしくお願いします」


「はい、こんにちは。こちらこそお願いしますね♪」


 なんだか機嫌よさそうなマロンさん。午前中にいい事でもあったのか?


 挨拶もそこそこに草原へと場所を移し訓練が開始された。


 まずは生活魔法の訓練からだ。普段から‘聖女’として孤児院で子供相手に魔法を教えているらしく、マロンさんの教え方は非常にわかりやすかった。


 教本に使われたのはマロンさんお手製の絵本。たくさんの可愛い動物キャラが登場している。


 魔法の歴史から構造までわかりやすく盛り込まれたストーリーもさる事ながら、その作りが飛び出す絵本になっていて大人でも楽しめる一冊だと感じた。視覚も養うし非常に理に適っていると思う。


 生活魔法も数種類あるので‘座学→実践’を繰り返し一つ一つ丁寧に覚えていく事となった。


「えぃ!」


 手元からパチッパチッと一瞬だけだが小さな火が灯る。


 僕が今回習っているのは生活魔法の中でも実用性が高い‘点火(イグニッション)’だ。



点火(イグニッション)………蛍ぐらいの小さな火種を出現させ、薪や炭・紙等に火を点ける魔法。



 理想は火種を10秒程保てるようになる事だった。


 まだ初日という事もあり3秒で消えちゃう程だったけど、そもそも火属性魔法を取得していない僕としては一瞬点いただけでも感動ものであった。



 ふぅ~。かなり集中したせいか顔から滝のように汗が流れていた。


 「はい、どうぞ」とマロンさんからタオルが差し出された。


 うん、マジ天使だね。


 そして僕らは木陰へ移動し小休憩をとる事になった。



「流石INTが高いだけの事はありますね」


 何が‘流石’なのかイマイチわからなかった。


「普通は初日で3秒も保つ事なんてできないんですよ」


 なるほどね。そう考えるとINTが高い事ってかなりラッキーなんだと思う。


「ひょっとして全部の属性魔法を覚える事も可能だったりするの?」


 可能なら覚えてみたい。


「それは難しいですね…」と説明してくれた。


 この世界で1人が所持できる属性魔法の数は1~2種、高位の職業でも5~6種類との事だった。もちろん生活魔法や召喚魔法など主な8つの属性以外の魔法も1つとカウントされる。


 所謂‘魔法の才能がない’と言われる人でも最低1種は取得できるとの事で、つまりそれがこの生活魔法と言うわけだ。


 ちなみに生活魔法というのはその名の通り生活に活用できる程度の魔法でMPも全て1しか消費しない。

 だけど全属性の根幹となる大切なものだった。


 これを覚え基礎を固めた上で自分にあった魔法の才能を開花させていくのがこの世界の習いだった。



 僕は既に風属性魔法と召喚魔法を取得しているので、この生活魔法で3つ目となる。


 例えハズレだとしてもせっかく“勇者シリーズ”を持ってるわけだから、5種類ぐらいは使えるようになりたい。


 ‘魔法の才能がない’人でも取得できるのが生活魔法なわけだし、まずこれを早急に覚えねばと思った。



 魔法の訓練と言うのは精神面ですごく疲れるものだったので適度に休憩を挟む事となった。


 その間はマロンさんと世間話ができるわけだから僕としては最高だった。



 この日は僕の趣味の話になり、スイーツについて話したところ大変興味をもたれた。


 僕が常日頃から感じていたようにこの世界にはスイーツという文化があまり広がっていない様だった。


 僕が例えに用いたスイーツはどれもマロンさんが知らないものばかり。


 元の世界では小学生でも知っていそうなものでもだ。


 聞くところによるとケーキやクッキーこそあるみたいだが、どれもシンプルなものでデコレーションも味気ないものだった。



「スイーツとは見た目から楽しむものなんだよ」といつしか拳を握り熱弁していた僕。


 マロンさんはと言うと「いつか見てみたいです~」とキラキラ目を輝かせていた。


 うん、イイね!スイーツの話で盛り上がれるのは。最早これは至福のひと時です。



 休憩が終わると、次は【剥ぎ取り】スキル取得の訓練だ。


 これは経験を積むに限るとの事だったので、草原でワイルドラビットなどモンスターを討伐しつつひたすら解体作業を繰り返した。


 寸分の狂いもなく解体していくその様は冒険者としての力量を感じさせる。


 マロンさんは相当すごいんだなぁ~と改めて感じた。


 【剥ぎ取り】スキルは一週間もあれば取得できる様なので、今日中にコツをつかみ一人でも繰り返し訓練しようと思う。



 そしてあっという間に夕方となりこの日の訓練は終わった。


 そう言えば昼食もとらずに朝から夕方までぶっ通しで訓練をしていたなぁ~。


≪ぐぅ~、ぐぅ~≫と今頃になってお腹の虫が騒ぎ出した。


「お腹すきましたね~」


 マロンさんは笑顔で自身のお腹を押さえながら言った。


 ‘ヤバい、お腹の音完全に聞かれてた。超~恥ずかしい~’なんて思うよりも、


 ‘あれ?これはひょっとしてディナーのお誘いをしてもいい状況では’と都合が良いように答えを導き出す僕がいた。



 別にデートに誘うわけでもない。ただ友人として夕食に誘うだけだ。


 男女2人で食事となるとやっぱり緊張するが、決して他意はない。


 ‘この後一緒に夕食でもどう?’と誘えばいいんだ。


 そこまでハードルは高くないぞ。


 自分に言い聞かせる。


 たった一言だ…。



 でも待てよ。勢いのまま誘っていいのか?


 誘ったとして断られたらどうする?


 次の訓練から非常に気まずいぞ。


 まだ前の世界での事を完全に吹っ切れていないのに、精神的なショックの上塗りはヤバい…。


 そんな風に断られた場合の事ばかり考えてしまう。



 それに家では親御さんが夕食作って待ってるかもしれないし…。


 喉まででかかっているのにそれ以上言葉が出てこない。


 ハゥ~、やっぱり今日はダメだ…。



 結局、この日は「お腹もすいてきたし、そろそろ帰りましょうか」と帰宅する事になった。


 まだ何も始まっていないのに、悩んだ末に出した答えがコレか…。


 あれほど、‘第二の人生は楽しむ’とか言ってたくせにこの体たらく…。


 ハァ~、我ながら情けない。



 貴族街の入り口までマロンさんを送っていった。


 そしてこの場所にきて初めて彼女が貴族だという事を知った。


 考えてみると僕はマロンさんの事をまだ何にも知らないんだなぁ…。


「ここで大丈夫です。また明後日頑張りましょうね」


 遠くに離れていく彼女の後姿を見ていると、訓練して嬉しかったはずなのに寂しさだけが残っていた。












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