第一話 恋の終わりは突然に★
2016年7月15日 サトウユミコ様(@YumikoSato25)より頂いた挿絵を追加しました。
「好きです。付き合って下さい」
「あっ、はい。喜んで。」
僕は流れのままにそう答えた。突然の告白に頭の中が真っ白だった。
だって生まれて初めて告白されたのだから。もう嬉しさより驚きが勝って二つ返事だった。
しかも相手は学年ベスト3に入ると名高い才色兼備の宮前由紀子さん。断る理由はどこにもない。
でも何故僕なんかに?
自分で言うのもアレだが顔面偏差値50ぐらいだし、体型も一般的、成績も中の上くらいだし、人見知りするし、ごくごく平凡なスペックの持ち主で…って悲しくなってきた。
まぁそんな事はどうでもいい。
今は素直に人生で初めて彼女が出来た事に感謝だった。
◇
小さい田舎町だから噂というのは広がるのも早いもので、翌日にはクラスの話題になっていた。
「なんでアイツと?」
「何処がいいの?」
「由紀子様ご乱心⁉」
「リア充気取りやがって!」
失礼な言葉がよく耳に入り、冷たい視線も多く注がれた。
でも、僕にはそんなの痛くも痒くもなかった。
だって、誰になんと言われようとも今や僕も立派にリア充の仲間入りなんだから。
もうカップルを見かけて『リア充爆ぜろ』なんて思う必要もない。
ってか、リア充で何が悪い?リア充最高じゃないか。
そんな風に頭の中まで大変おめでたい状態だった。
実際それからの日々は幸せだった。
いつも甘えん坊のようにべっとりしてくる彼女。
最初は恥ずかしくて照れっぱなしだったが、恋人関係とはきっとこんなものだろうと一人で勝手に解釈していた。
一緒に登校し、お昼は彼女の手作り弁当、休日には映画館や遊園地に行ったり、自分の中で憧れていたデートを思う存分楽しんでいた。リア充万歳だ。
不慮の事故で姉が亡くなった時も落ち込む僕をつきっきりで慰めてくれた。
「私がそばにいるから」
由紀子のその一言にどれほど救われた事か。
早く立ち直る事が出来たのも彼女の存在があったからだ。
好きだと告白されて始まった恋だったが、日が経つにつれてどんどん彼女に惹かれていく自分がいる。
これまで恋愛というものに無縁だったせいもあるが、彼女とこのまま明るい未来が待っているんだと感じていた。
◇
しかし、そんな日々は突然終わりを告げる。
「ごめんなさい。今日は急用ができちゃって…」
授業中に彼女から放課後のデートができなくなったと連絡が入る。
非常に残念ではあるが由紀子にも都合があるのだから仕方がない。
笑顔で「じゃぁ、また夜に電話するね」とだけ返事する。
正直用事が何だったのか気になるところではあったが、下手に詮索して嫌われるのが怖かったからそれは控えることにした。
放課後—
特にやる事もなかったので久々にひとりでカラオケに行った。
所謂“ひとカラ”ってやつだ。彼女が出来る前は当たり前のように通っていたカラオケ。
ただ由紀子の「私、歌うの苦手だから」の一言で、彼女とはまだ一緒に行けてない。
でも、いつかはカラオケデートをしたいと思う。‘その日の為にも…’とこの日は2時間熱唱した。
そして、その帰り道の途中。
前方の橋の下、河川敷に偶然彼女の姿を発見した。
遠目に誰かと一緒にいるのがわかる。
目を凝らしてみると、その相手は男だった。
うわぁ~、誰だよ。すごく気になるじゃないか。
バレないように近づき橋の上から様子を伺う事にした。
(イラスト:サトウユミコ様(@YumikoSato25))
「でも良かったのかよ?彼氏できたばっかりで」
「も~、わかってるくせに。アイツはお財布よ。お財布だから付き合ってあげてるの」
衝撃の会話が聞こえてくる。
「アイツの家って金持ちじゃない。彼女にでもなればどんどん貢いでくれるのよ。もう20万円ぐらい使わせちゃった」
「かあ~、こわぁ~。女って恐ろしいわぁ~」
彼女が見える位置まで辿り着き、柱に身を潜めてよく観察する。
会話中にロングヘア―の毛先を左手で触る仕草…。いつもドキドキさせられたその仕草を見間違うはずない。
残念ながら彼女は由紀子当人だと確信した。
「ふふふ、それにね、もう1か月も経つのにアイツはキスのひとつもしてこないのよ。どんだけチキンなんだよってね」
「“お財布チキン君”だ」
二人でキャッキャ、キャッキャ下品な笑い声をあげている。
一瞬何が何だかわからなかった。
え?今のって本当に由紀子なの?
およそ彼女から想像もできない口調で紡がれる言葉に耳を疑ってしまう。人格が違いすぎるだろ。
それにしても酷い言われようだな。
確かにこの1か月の間キスのひとつもできなかったチキンヤローでしたよ。
デート代も全部持ったし、預金はたいてプレゼントも沢山したさ。
でも、きちんとバイトして貯めたお金だったんだぞ。
由紀子の為だからと思い惜しみなく使ったのに。
それに今まで女性とお付き合いした事なんて一度もないから、恋愛のペースもよくわからないし。
そりゃあ滑稽だったかもしれないよ。
でも、少なくとも僕は僕なりに真剣だったんだ。
喜んでくれる由紀子の笑顔が好きだったから。
慎重に大切に育んでいこうとしたんだ。
それが“お財布チキン君”とは酷過ぎないか。もう泣くぞ。
「あ~、でも~、来週にはふっちゃうよ。貰ったバッグとか換金して結構たまったからね~」
「うわぁ~、由紀子えげつねー」
フルフルフル…怒りで手が震えてくる。
これ以上馬鹿にされるのは我慢の限界だ。
感情のまま橋の上から身を乗り出し二人に「ふざけんじゃねぇ」と言って―――――
≪グルンっ≫
そこで天地が逆転した。
文句の一つでも言ってやるつもりが、勢い余って橋から真っ逆さまに転落してしまったのだ。
あぁ、やってしまった。これはかなり危険な状況だぞ。
そう思いつつ、落下途中だが二人の方を向くと目に入ってきた映像は由紀子と男の熱いキスシーンだった。
最悪だ。なんてものを…。
僕はこのまま落下して死ぬのか?これじゃあ未練しかないぞ…。
でも最悪な予想って当たるんだよな。
もし、生まれ変われるなら。次こそはちゃんと恋愛したい―――。
そこで僕の意識は完全に途絶えたのだった。
初投稿です。拙い文章だったり誤字脱字も多いと思いますが、暖かく見守って頂けると幸いです。