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タイトル通りの設定説明文・・・らしき。
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あるところに、一つの王国がありました。
一年中渦巻く海や切り立った崖の連なる山脈、魔獣の住まう森を越えなければならず、入国も出国も困難な為、細々とした交流はあるものの他国からは秘境と称されるほどの小さな国でした。
名前はオウヘン国と言いました。
そんな小さな国のとあるおとぎ話。
※※※
どんな小さな国とは言えども国政に必要な最低限な役職があり、行う為の場所もあります。
王の住まいと実権の中心となる建物は、他国と比べられると質素の一言に尽きますが、国民の生活自体が全てにおいて質素なのでその中においては上質の物で作られた建築物です。
国王に王妃が迎えられ、国をあげて盛大な式(オウヘン国比)が一週間前に行われました。
未だ余韻がそこかしこに漂い浮かれた気分から抜け出せずにいます。何せ王宮で働く者ならば誰しもが長い間待ち望んだ事なのですから、落ち着くまでにはまだ時間が必要でしょう。
そんな中、王宮のある一室では重い空気で、オウヘン国の錚々たる顔ぶれが揃っていました。
「何が不満なのかしら」
王宮魔術師筆頭のピテフィアが(わざと大げさに作った)困り顔で正面に座る男性に言う。
「不満だらけだよ!」 ・ ・
言われてダンとテーブルを叩く男性は、先日王妃となったばかりの元副席事務官のアルド。
「魔女はご満悦だよ」
軽く言うのは、国立歴史筆録保存書庫管理官長と長めの肩書を持つトリス。
「昨夜はコップ握り潰してからの、流血沙汰だったなぁ」
ハハハと続く笑い声にアルドは睨みつける。少し涙目だったかも知れない。
「そんな目で見つめられると俺みたいなのは誘われてると思うから止めろって」
またハハハと見事な肺活量で笑い声をあげるハロルドは将軍の名に恥じない体格をしている。
集まってる中で一番体も大きく声もでかい。
対してハロルドを恨めしそうに睨むアルドは、女性のピテフィアを入れても一番小さかった。
まったくもって笑い事ではない。と、僕の身になって考えて欲しいと切々と愚痴るが、このメンバーに現王様のゼクフェルドを入れて全員、幼馴染だったり乳兄弟、世話役だったりするものだから公の場ではない時は、誰に対しても遠慮がない。もちろん容赦もない。
「一週間も失敗が続けばアルドだって欲求不満にもなるさな」
「欲求不満じゃない!」
「でも、出来ないのが不満なのでしょう?」
ピテフィアのもっともなツッコミに素直に頷けないが、残念なことに言い返す事も出来なくてグッと喉を鳴らす。
黙ってしまったアルドに三人の視線は生暖かい。
だって、やっと求婚してもらって王妃の肩書の名のもとにゼフが自分に手を出せる大義名分が出来たのに!
思い返せば早十ン年・・・物心ついた頃には既にアルドはゼクフェルドに好かれていた。
大事な事なので、繰り返すが。
決して、アルドがゼフを好きだったのではない、ゼフに好かれていた。のだ!!
結果論として、絆されて今や自他共に認めるゼフとラブ+ラブとはなったから、刷り込みが半分以上だと言われても仕方ないかと思う。元々の僕自身の世界が狭かったのだし
あんな精悍なキラキラ王子様容姿から好き好きオーラ全開でこられたら誰だって・・・容姿だけじゃない。
180cmを超える長身に、鍛えてる体は服の上からでも筋肉質だと解る。一緒に剣を始めたはずなのにまったく上達せずに筋肉も付いていない僕とは大違いだ。
更に早くから執政に携わり、治水関係には特に能力を発揮したらしくてゼフの功績で我が国の農地整備や商品流通状態が格段に良くなった。
・・・らしい。とここでアルドは自分の考えに首をかしげる。
アルド自身は容姿以外の能力のそれらを知識として知ってはいるのですが、自分の目で見たことは無いのです。
何故なら、僕の目の前でそれらのゼクフェルドの輝かしい能力が発揮された事がないのですから。
「魔女がゼフのヘタレは呪いじゃなくて天性のモノだって言ってたよ」
「そうねぇ・・・アルドが生まれた時からヘタレたのだわ」
「僕の方が先に生まれてるのだが」
「あなたがお腹に触った瞬間に陣痛が来たってのは今でも王母様はよく話されるのよ」
「たまたま予定日だっただけだ」
「兄上がゼフを初めて抱いた時に、こいつは王の器だと感じたってよ」
「ヘタレ同士の共感ってあるのかしら」
「正に生まれながらの王ってやつだね」
この国における王の素質は、ヘタレ度に比例するんだな・・・解ってたけどな。
剣を習い始めた時、一緒にやってる間は互いの実力は同じくらいだった筈が、アルドが本を読む方が楽しいと剣を習う時間を少なくした頃からメキメキと上達した。・・・らしい。しつこいが、見た事は無い。
今でもたまに騎士たちの訓練に参加する時もあるらしく、情報を掴んで足を運ぶと何故か、途端に体調を崩したかのように弱くなるのだ(ゼフが)。どんなに隠れていても駄目だった。
最近挑戦した時は、タイミング良く対戦中に見学に行けたのだが、僕が見つけたと同時に(ゼフが)振り下ろした剣がすっぱ抜けた。相手をしていたのがハロルドでゼフ自身には何もなかったが、取り囲んでいた騎士たちが大惨事になりかけた。
一緒にいたトリスが予め魔防の壁を作ってくれていたから難は逃れたけど。(トリス談:ゼフは期待を裏切らない)
よって、ゼフがハロルドと同等くらい強いのだと言われてもまるでピンとこない。むしろ、自分の持つ剣で怪我をするんじゃないかと心配になる。
治水の為の現地調査だって事務官として僕が一緒に行くと、責任者や担当者が不在、誰もいない道を歩けば何もない所で転ぶ(ゼフが)、穴が有ったら落ちる(ゼフが)用をなさずに再度現地調査要。
経費削減だとの事で、僕は一緒に行く事も出来ない。
・・・これ、ヘタレか?呪いか?
「前王は即位してからヘタレになったんだっけ」
「実際は士官時代から隠れヘタレだったがな」
「王道パターンだったのね」
「彼はテンプレだったと魔女の総評だ」
「あら、師匠は辛口ね。私は前王様の噛み言葉好きだったわよ」
「噛み癖は5代目が神言葉と称されるほどだったから、15代目は大人しい方」
「5代目のは俺も読んだが、訳が無ければ王妃との会話は理解不能だ」
「セブは久々の大ヘタレ王だと喜んでいて続きをせっつかれる」
この国の王とその王妃のプライベートはない。全て筒抜けだ。・・・覚悟の上だけどな。
トリスの職場の国立歴史筆録保存書庫は、その名の通り我が国の歴史書を作成し保存する場所でした。きっと他国にも似たような物はあるでしょうが、大きく違うところは・・・
オウヘン国のは建国以来の歴史書と言う名の、王と王妃の生々しい人生記録であり、恋愛実録なのです。
官長のトリスは実は魔女の末裔で、彼の行き過ぎたアフロ的髪型には使い魔である小鳥さんたちが住んでいて小鳥さんとは視界がリンクしていて常に監視し、されていると言う具合でした。
見た出来事等をトリスが文章にして纏めた物を小鳥さんと一緒に定期的に送り、魔女が添削して送り返して来ます。
文章の方だけを書庫で保存して、見たい者は自由に見れます。
そうして国民は歴代の王と王妃の過ごした様子を知る事が出来るのです。
通常は皇太子時代から監視の対象とされるのですが、現王ゼクフェルトは特例です。
書庫管理官長は王の専属職なので、当時候補者のトリスが幼すぎた為に異例の臨時官長が据えられた程の逸材。
今から歴代王を超える超大作となると国民の期待を受けております。
どんだけプライベート無いんだよ、この国。
文書公開は二人が鬼籍に入ってから1年後となってるのが、魔女のささやかな良心を感じるけど。
あ、きちんと年齢制限的な物は分けられてます。国営なので!!そもそも年齢制限必要な物まであるのか!?って話ですが、国営です!!
「特にパレードの時のゼフの行き場を失った腕は好評だった」
「後ろからの歓声が大きいと思ってたら、原因はそれか」
「過度な筋肉疲労で回復魔法かけたわよ!」
道理でパレート終了直後のゼフの腕が変な形になっていた訳だ。
知っても嬉しくない事実だ。予想の範囲内だけどな!
物心つく頃からの両想い同士なのに、20歳の今まで結婚が遅れに遅れたのはゼフのヘタレのせいだ。
あるいは、ピテフィア曰く「デレデレのくせにツン」な僕のせい?
僕の言い分としては、ゼフから直接言葉が欲しかったから。って事なんです。
お読みいただきありがとうございました。