p4 運命の赤い糸?そんなの必要ありません。
馬車に揺られること約二時間。
その街に着くまでの間で広樹は沢山の説明を聞いた。いや、聞かされたの方が正しいだろうか…
俺は頭の中で今聞かされた情報を整理する。
(まず、1.ここは異世界である。
2.この国では魔王と呼ばれるものがいる。
3.俺にはそれを倒してもらう。
…っと、まぁこんな感じか?)
不思議と、整理すればするほど頭の中はこんがらがっていくばかりだ。
二時間も聞かされていた割にはなぜか情報が少ない気がするが、雑談9割だったので仕方がないといえよう。
さらにそれから20分馬車に揺られていると前の方から声がかかった。
「もう街に着くから準備しとけよー」
この長い旅も終わりか、やれやれだ。と思いながら俺は準備をした。まぁ、準備といっても荷物がないからすることもないのだが…
そんなことをしている間にブルルルッと馬の鳴き声がして、馬車が止まった。
俺は馬車を降りてお礼を言った。一応送ってくれたんだしね。ただ、恥ずかしいので振り返らずに。
「あー…ありがとう、助かったよ。これからの説明とかもよろしく」
お礼の言葉を言い切って俺が振り返ると…
「なんでいねーんだよ!?」
そこには馬車など跡形もなく消えていた。いや、それよりも…
「あれ?ちょっと待って俺荷物とかないんですけどどうすれば…」
ポカンと立ち尽くす俺は説明くらい最後までしろよ!と、憤慨する。
そして、異世界の知らない街の知らないところに一人でポツンと残された俺は取り敢えずギルドへ向かうことにした。
「(ゲームとかでは大体ギルドへ行くんだよな最初の勇者は)」
そうブツブツ言いながら歩き出した俺は早速後悔することになる。
(あー…ギルドってどこだ?)
この街に初めて来た、それも異世界からということはギルドの場所など知る由もない。しかも、ギルドがあるのかどうかも怪しい。
取り敢えず、俺は街の人に聞いてみることにする。言葉は神様が大丈夫って言っていたから大丈夫なんだろう。
「あ、あのーギルドの場所って知ってますか?」
声をかけたのは同い年くらいの可愛らしい女の子だった。(べ、別に狙ったわけじゃねーぞ!本当だぞ!!)
綺麗な栗色の髪を肩の少し下まで伸ばしているその女の子は足を止めて、こちらを見てこう答えた。
「ぎ、ギルドですか!?そ、それなら私も行くのでよ、よろしければご一緒に!!」
いきなり声をかけられてそうとうテンパっているのか、噛み噛みだったがその提案はありがたく乗らせていただこうと俺は思った。
「(そう?じゃあお願いできるかな?)」
「え?あの…すいません。もう一度お願い…できますか?」
でも、出した声は予想以上に小さくて相手には届かなかった。
これは、俺が今まで他人と話したことがあまりなかったからだ。ましてや、女の子となんて話したことがないに等しかった。
しかし、このままでは拉致があかないと判断し、勇気を出して言った。
「お願いします!一緒に行ってくだしゃい!!」
「!…プッ…クスクス……す、すいません」
俺が勇気を出して言った言葉は震えていた。そして、噛んでいた。
しかも、それを笑われるなんて…と、俺は顔から火が出る思いだった。
(でも、この子も噛んでたよね?)
俺が、君も噛んだんだから笑わないでよと言おうとした時、先に笑っていた女の子が緊張の解けたように口を開いた。
「…すいません笑ってしまって。でも、おんなじですね。やっぱり緊張しますよね」
この世に、こう言われてなお怒ることのできる人がいるだろうか。少なくとも俺はできない人だった。
「大丈夫だよ、俺も緊張していたんだ。それより、ここで立って話すのもなんだし歩きながら話さない?」
不思議とスラスラと口から言葉が出た。もう俺に緊張など無い。
この時俺は本能で感じていたのかもしれない。この女の子との運命を…




