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31 誘拐

頭がキモ過ぎた。


 目を開けると、薄暗い部屋が見えた。

 か、体が痛い……。床に寝かされていたらしく。起き上がると、下になっていた左腕が痺れていた。

 部屋の中には、何もない。鉄でできた重そうな扉、それからわたしの下に敷かれている毛布、横の壁の上の方に鉄格子がはめられた小さな窓。それくらいだ。

 他にも何かないかと体を動かす。

 ジャラ。

 冷たい金属音が足元からした。

「……」

 音の方を見て、言葉に詰まった。

 足枷。

 太い鎖が、鉄球のようなものに繋がっている。

「これって……」

 唖然としていると、ガチャリと重い音がして扉が開かれた。

 そこには。

「お、起きたか、お嬢様」

 正直見たくない顔だった。

 ゲイルがにやけた顔で近付いてくる。わたしの前で足を止めると、しゃがみこんで顎を掴んできた。

 ぞわぞわと嫌悪感が這い上がる。

「そう嫌そうな顔をするなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」

「どうして、わたしを攫ったんですか?」

 脅えるな。魔王らしく、凛としていろ。

 白亜様の言葉を思い出す。

 真っ直ぐ見つめて尋ねると、ゲイルは嫌な笑い声を上げた。

「どうしてだって? あんたの噂は町中に広まってる。赤髑髏のアジトから逃げだしたんだってな? 記憶を失っているらしいが、いつ記憶を取り戻すかもしれない証人を放置できないだろ」

 証人。

 そうか。証人(わたし)は勇者にとっての情報源であると同時に、赤髑髏にとっては危険人物だったんだ。

 ウィナードさんがどうしてわたしを「無事に王都まで届ける」と約束してくれたのか、鈴さんが「保護対象」だと何度も言っていたのか、今になって理解する。

 わたしは、狙われる立場だった。

 呆然とするわたしを、ゲイルはまじまじと見つめていた。

「本当に珍しい色合いだな。見目もいいし、こりゃあ良い値で売れるだろうな」

 売る。

 その言葉で、ある事を思い出した。

「クーファは、どこですか」

 わたしを慕ってくれていた、小さなドラゴン。

 あの子はわたしに巻き込まれて攫われたんだ。

 以前、クーファが語ってくれた事を思い出す。卵から生まれてすぐに、首輪を付けられた事。

 せっかく自由になれたのに、わたしのせいでまた檻に閉じ込められるかもしれない。わたしのせいで。

「クーファ……? ああ、あのチビのドラゴンか。アレならもう売っちまったよ」

「…………っ嘘!!」

「嘘じゃねぇよ。それよりもあんたは自分の身を心配しな。今から頭の所に行くぞ。しっかり値をつけてもらえ」


 足枷を外され、わたしはゲイルに腕を引っ張られる様にして歩いていた。

 扉の先も部屋の中と同じような無機質な場所だと思っていたけれど、想像とは違い立派な廊下が広がっていた。

 三人くらい並んで歩いてもまだ余裕がありそうな広い廊下。足元には高そうなふわふわした絨毯がずっと続いていて、所々には高そうな絵画が飾られている。

 でも、なんか。

 全体的に高価な感じだけれど、なんとなく胸やけがする様な落ち着かない雰囲気だ。

 魔王様のお城も高価な物が飾られていて、ベッドもソファも絨毯も一級品だったけれど、こことは違って洗練された高貴な雰囲気があった。

 そんな廊下を歩いて行くと、ひときわ大きな扉の前についた。

 両開きの立派な扉だ。全体的に金色で……眩しい。扉に掘られた彫刻は、なんだか不気味な生き物だ。うわぁ……触りたくないなぁ。

 ゲイルはわたしとは違い、この扉に嫌悪感はないようだった。躊躇なく扉に手をかけ、押し開ける。

「頭。連れてきました」

「御苦労」

 返ってきた声は、高めで粘り気があって、聞いた瞬間ぞわっと背筋に悪寒が走った。

「行け」

 ゲイルは短く言うと、わたしを突き飛ばす様にして中に押し入れた。

 よろめきながら中に入る。後ろで、バタンと扉が閉まる音がした。

「お前が私の所から逃げ出した娘か」

 コツ、コツ、と足音が近づく。

 逃げ出したいのに、体が動かなかった。

 俯いた視線の中に、黒い先のとがった靴が見えた。

「確かに、珍しい髪の色だ」

 黒い杖が顎に当たる。そのままぐいっと引き上げられた。

 わたしの目に、赤髑髏を束ねる男の顔が映る。

 細長い顔に、尖った鼻。その鼻の下に整えてある二本の髭。撫でつけられた黒髪、灰色の瞳は細いのにギラギラとしている。月の様に弧を描いている薄い唇から、少しだけ白い歯と金色の歯が覗いていた。

「これはこれは。紫の瞳とはますます珍しい。それに、なんと愛らしい容姿だ。これだけの逸材、一度見たら忘れないと思うのだが……まあいい」

 男は細い目をますます細めた。目の奥のギラギラした光がますます強まった気がして、男がさっきよりも得体のしれない恐ろしいものに思えた。

「お嬢ちゃんなら、間違いなく高値で売れる。が。この場所を知っている娘を売るのはリスクが大きい。いつ誰かに保護されるか分かったものじゃないしねぇ。やはり、私の手元に置いておくのが一番だね」

 嬉しそうに言いながら、手を伸ばしてくる。

「嫌っ……!」

 思わず後ろに跳ね退けると、男はにたぁと笑った。

 その顔にぞっとする。

「私は珍品に目が無くてね……たっぷりと可愛がってあげよう」

「け、結構です!」

 必死に扉に手をかける。もう触りたくないなんて言ってる場合じゃない! この男の方が嫌過ぎる!!

「鬼ごっこか。いいねぇ、それも一興だな。早く逃げないと食べてしまうよ? 美味しそうなお嬢ちゃん」

 きっ、気持ち悪い―――!!

 泣きそうになりながら、廊下を全速力で駆け抜ける。

 捕まるもんか! 絶対に捕まってたまるか!!

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