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29 クレープと退治屋と

ちょっと展開してきました!(やっとか!!)

亀スピードでごめんなさい! 文章も酷くてごめんなさい!

 衝撃の事実を知らされて頭を抱えるわたしに、「まあまあ」とアンさんが肩を叩いた。

「確かに、それを付けていた方が安心ですよ。ジュジュ様みたいな可愛らしい方が歩いていたら、沢山の男性に囲まれて身動きが取れなくなってしまいますもの」

「ま、そんなことより折角の祭りだ。楽しまなきゃ損だぞ。ほら、そこのクレープでも食べねぇか?」

「クレープ?」

 聞き覚えの無い言葉に、つい反応してしまう。

 顔を上げたわたしに、ジオさんは笑って近くのお店を指差した。そこにはカラフルな屋台があって、同じようにカラフルな帽子とエプロンをつけたお店のおじさんがお客さんに何かを渡していた。

「うわあ! 美味しそうですね!! ジュジュ様、行きましょう」

 首を傾げるわたしの手を取ってアンさんが駆けだす。

 お店に近付くと、甘い匂いが鼻をくすぐる。お店のおじさんは、焼いた丸くて薄い生地にクリームやフルーツを乗せると、それを生地で包んで並んでいたお客さんに渡した。

 初めて見る食べ物だけど、すごく美味しそう!

「あの、これってお菓子ですか?」

 尋ねると、ジオさんは少し驚いた顔をした。

「クレープ知らないのか? ああ、まあ、お嬢様はこんなもの食べないか。でもちょっと食べてみろよ。中身は何が良い?」

「わたしはイチゴとクリームで!」

 すかさずアンさんが答える。

 おじさんはその勢いに笑いながら「はいよ」と答えた。馴れた手つきでクレープを作りながら、わたしの方を見る。

「そちらのお嬢さんは?」

「ええと……、何がありますか?」

「色々有るよ。定番はバナナとかイチゴだな。アーモンドとかキャラメルとかもあるけど、中にはサラダとかもあるしな。一番人気はバナナとチョコかな」

「ええと、じゃあそれで。クーファはどうする?」

 肩の上のクーファを見ると、クーファはなんだか嫌そうな顔をしていた。

「コノ匂イ、嫌イダ。イラナイ」

 あらら。甘いものが苦手なのかな。……確かに、クーファが今まで食べていたのはお肉ばっかりだったなぁ。うーん、でも、こんなに美味しそうなのにもったいないなぁ。鈴さんがウィナードさんに「お酒を飲めないなんてもったいない!」と言っていた気持ちが少し分かった気がする。

 そんな事を考えていると、

「じゃ、俺はアーモンドで」

 ジオさんがそう言いながらお店のおじさんにお金を渡した。

 あ、あれ? それってもしかして、わたし達の分も入ってる?

「すみません! 払います!!」

「いいっていいって」

「え? で、でも」

 困惑するわたしに、ジオさんは顔を近付けていたずらっ子の様な表情を浮かべた。

「俺、甘いもの好きなんだ」

「は? はぁ……」

「でもな、こういうものって男一人じゃ食いにくいんだよ。だから、これは付き合ってもらったお礼ってことで。な?」

 パチンとウインクをしながら言った、その言い方がおかしくて、つい笑ってしまう。

「そうですか。それじゃあ、お言葉に甘えて、ごちそうさまです」

 頭を下げると、ジオさんはうんうんと頷いた。その間にクレープは出来上がったらしい。お店のおじさんがわたしとジオさんに「はいよ」と言ってクレープを差し出した。

 うーん、甘くて良い匂い!

 ジオさんは受け取るとすぐにパクリと口に運んだ。

「うん、やっぱこの店のクレープは美味いな!」

 嬉しそうに食べるジオさんは、なんだか子どもみたいで可笑しい。でも、美味しそうに食べてるなぁ。

「頂きます」

 誰に言うでもなく呟いて、口にクレープを運ぶ。

 う……わぁ! 甘い! 美味しい!!

 思わず顔をほころばせるわたしを見て、アンさんが笑った。

「ジュジュ様、美味しいですか?」

「はい!」

 にこにこしながらクレープを食べていると、どこからか鐘の音が響いた。

「感謝祭が始まりますね! あ、領主様です」

 アンさんが指を指したのは、舞台の方だ。目を向けると、丁度そこに一人の男性が女性と連れ立って階段から舞台の上に登ってくる所だ。男性は長い紺色のローブの様な服をずるずる引き摺りながら歩いている。彼は登りきるとこちらを見た。40代くらいで、若かったころはきっとモテただろうなぁと想像出来る、鼻筋が通った渋い感じの男性だった。隣に立つ女の人は、きっと彼の奥さんだろう。すらりとしているけれど、胸元や腰回りに、女性らしい豊満さがある。この人もきっとモテたんだろうなぁ。

 そこに、また階段から誰かが上がって来た。今度は見覚えのある人達だ。

「レイン様達ですよ!」

 隣で興奮したようにアンさんが言う。

 ウィナードさん達は、これまた見覚えのある女性の後ろを警護するようにして歩いている。いや、警護しているようにというか、警護しているんだよね。

 エメリアさんは、隣にいるジェイクさんの腕をがっしり掴んでニコニコしている。対するジェイクさんは――眉間に皺を寄せ、不機嫌オーラを放ちまくっているのが良く分かる。完全に捕まったんですね……。

「ここじゃ、あまり見えませんね……ちょっと前に行きましょう!」

「え? あの、アンさん!?」

「ドコ行クンダ?」

 わたしとクーファの声は耳に届かなかったみたいだ。人ごみをかき分けるようにしてアンさんは舞台の方に行ってしまった。

 これ、追いかけた方がいいのかな……。

「あーあ、行っちゃったな……こりゃ、見つけるのが大変そうだ」

「そうですね……」

 どうしよう……。舞台の方に行けば会えるかな?

 もう一度舞台の方を見ると、領主様のスピーチが始まっていた。と、エメリアさんの隣に並んでいるジェイクさんと目が合う。不機嫌そうな表情が一瞬消えて、例のにやりとした笑みが浮かんだ。

「ひっ!」

「ん? どうした?」

「いいいえ! なななんでもないです」

 反射的に目をそらして、ジオさんの方を見る。

「そうか? それならいいけど……さっきの子とは、落ち合うのは難しそうだな」

 頭を掻いて困った様に言うジオさんに、クーファが胸を張った。

「大丈夫! オレ、ツイテル!」

「ん? ははっ、頼もしい護衛が付いてたな」

 ジオさんは笑うと、クーファの頭をポンポン軽く叩いた。

「じゃあ、しっかり守るんだぞ。ところでジュジュ、さっきの子の家は分かるか?」

 アンさんの家、ってことは、ベルナンドさんの家のことだよね? 分かるも何も、お世話になっている場所だ。

「はい、分かります」

「なら、まずはそこに行ってはぐれたことを伝えるか。どっちだ?」

「えっと、ベルナンドさんのお屋敷なんですけど」

「ベルナンド? って、あの馬車で乗り合わせたおっさんたちか? ……なるほど、勇者が捕まったんだな」

 苦笑いを浮かべるジオさん。わたしの一言で、わたしやウィナードさん達が置かれている状況を把握したらしい。凄く察しが良いですね!

「勇者と知り合えば、それだけでちょっと名が知れるしなぁ。そりゃ、商人にしたら好都合だよな。ま、ともあれあのでかい屋敷なら俺でも案内できる。こっちから行こう」

 そう言いながら、わたしの手を引いて歩き出す。

「アンマリ、ジュージュニ、クッツクナ」

 クーファが不機嫌そうな声を出すと、

「この人ごみだから、ちょっとくらいは目をつぶってくれよ。大丈夫だって、勇者様の大切な人にちょっかい出す様な命知らずじゃねぇよ」

 明るく笑って先を歩く彼の姿に、一瞬別の姿が重なった。彼もこんな風にして、よくわたしの手を引いて歩いてくれていた。

「雷翔……」

 自然に口から零れた彼の名前。

 その声に、「え?」とジオさんが驚いた様に足を止めた。

「ライカ?」

「え? あ」

 う、わ―――! まままずい!

「ライカって、退治屋のライカのことだよな?」

「あああの、その」

「ジュジュ、ライカの知り合いなのか?」

「え?」

 意外な言葉に、ごまかそうとしていた頭の中が一瞬固まる。

「あの、ジオさん。雷翔のことを知っているんですか?」

「知ってるも何も、俺も退治屋だよ」

 え。

「それにライカって言やぁ、退治屋の中だけでなくて一般人にも名前が知られてるくらいの実力者だろ。なんでそいつと……」

「あの! ジオさん!! 彼が今どこにいるか知りませんか!?」

 言いかけた言葉を遮って、わたしはジオさんに迫った。

 だって、彼なら。もしかしたら雷翔のことが分かるかもしれない。

 わたしの勢いに、ジオさんは少したじろいだ様子を見せた。

「な、なんだ? あんた、あいつを探しているのか?」

「彼、わたしの恩人なんです! えっと、わたしを助けてくれて、はぐれてしまって」

 昨日決めた設定がもう使われることになるとは思わなかった。

 クーファに言ったことを思い出しながら伝えると、ジオさんはすぐに納得してくれた様だった。

「そうか、あいつに助けられて逃げられたんだな。そうだよな……女一人で逃げられる相手じゃないよな」

 独り言のように呟いてから、真剣な目でわたしの方を見る。

「悪い、最近は見てない。俺がライカと最後に会ったのは、三年前に共同で魔物退治に行った時だ」

「そう、ですか……」

 やっぱり、そう簡単には分からないよね……。

 明らかにがっかりした様子のわたしの肩を、ジオさんがポンポン叩いた。

「大丈夫だ。ライカは俺達退治屋の中でも指折りの実力者だからな。ピンピンしてるに決まってるさ」

「そうですね……きっと、大丈夫ですよね」

「ああ、大丈夫だ」

 ジオさんは力強く言うと、またわたしの手を握って歩き出した。

 誰かに言われると、本当にそんな気がしてくるから不思議だ。安心して泣きそうになるのをこらえるのに必死で、わたしは気が付かなかった。

 ジオさんが向かっているのが、ベルナンドさんの屋敷とは別の方向だって言う事に。

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