25 おとぎ話
また更新がずれてしまいました……すみません。
窓から見ていると、玄関からウィナードさん達が出ていくのが見えた。先頭のウィナードさんの後を鈴さんとルークさんが並んで着いて行く。そこから少し離れてジェイクさんがゆっくりついて行くのが見えた。
「ウィー! バイバーイ」
肩の上からクーファが小さな手を振る。と、同じタイミングでウィナードさんがふいにこちらを見た。目が合って、笑顔で大きく手を振ってくれる。小さく手を振ると、こっちに向かって何か叫んだ。たぶん、「すぐに戻るから」ってところ、かな? うなずくと、ウィナードさんはもう一度手を振って歩き出した。
「行ッチャッタナー」
「うん……そうだね」
彼らが見えなくなるまで見送ってから、わたしは窓から離れた。するとクーファが肩からベッドに飛び移り、キラキラした目で見つめてきた。
「ジュージュ、遊ボ!」
「あ、遊ぶ?」
突然のお誘いにびっくりしてしまったわたしに、クーファはうんうんと何度もうなずいた。
「えーと……何をして遊ぶの?」
「何デモ! ウィー、ボール遊ビシテクレル! 鈴、カクレンボ。ルーク、色ンナ物作ッテクレル」
「そうなんだ……みんな、色々遊んでくれるんだね」
「ジェー、別」
「あ、ははは……」
それは聞かなくても想像がついていました。
あ、そうだ。
「それなら、クーファ。みんなの話をしてくれない?」
うん、そうだよ。まずは情報集めが優先だ! 身近な人……というか、ドラゴンからでも話を聞いていかなくっちゃ。
隣に腰を下ろすと、クーファはくりくりした目をわたしに向けて首を傾げた。
「ミンナ? ウィー達ノ事カ?」
「えっと、ほら。わたしまだウィナードさん達のこと何も知らないから……これからまだしばらくお世話になるだろうし、出来たらみんなの事を知っておきたいなぁと思って」
騙しているわけじゃないけど、なんとなく後ろめたさも感じてしまい、言い訳じみた言葉を発してしまう。でも、目の前のドラゴンは納得したようにうなずいた。
「ワカッタ。助ケラレタ時ノ話デイイカ?」
「え? 助けられた?」
「オレ、卵カラ出テ、スグニ首輪ツケラレタ。見世物ニナッテタ所ヲ、ウィー、助ケテクレタ」
「それじゃ、クーファは他のドラゴンに会った事が無いの? お父さんとかお母さんにも?」
クーファはこくんとうなずいた。
「そっか。わたしと一緒ね」
「一緒?」
「え? あ! ええと、ほら、今どこにいるか分からないってこと」
「ソウカ! 一緒ダナ!」
「う、うん。一緒」
あははと笑ってごまかす。
何やってるのよ、わたし! 変な事言わないのー!!
内心冷や汗かきまくりなわたしを、クーファが鼻でつついてきた。
「ジュージュ。次、ジュージュ」
「え?」
「何カ、話セ」
「な、何かって……」
そ、そんなこと言われても。
「ライカノ事トカ」
「らっ!」
そ、そうだった――――――――!!
クーファ、雷翔のこと知ってるんだ! いや、名前だけだけど!! でも、わたしが「ライカ」っていう人の事を探している事は知っているんだ!
ままま、まずい! これはまずい! 記憶喪失のはずのわたしが人を探しているなんて知られたら、記憶喪失が嘘だってばれちゃうじゃないのぉぉ!!
「ジュージュ?」
パニック状態のわたしに、クーファが不思議そうな顔を向ける。
うわー! これ、どうすればいいの!?
えーと、えーと。そ、そうだ!
雷翔のことは、赤髑髏から助けてくれた人っていうことにしよう! クーファがその名前を言ったから思い出しましたよ的な!
「クーファ! あのね、その人はわたしの恩人なの!」
「恩人?」
「うん、そう! わたしを助けてくれた人! クーファに名前を言われて思い出したんだけど!!」
「フゥン?」
クーファはいまいち分からなかった様子で首を傾げた。
「ソイツ、ドコニ居ルンダ?」
「わからないの。途中ではぐれちゃって」
「ソウカ。ナラ、ウィー達ニ探シテモラオウ!」
「いや! いいの!!」
やめてぇ―――!!
力いっぱい拒否すると、クーファは大きな目をますます丸くした。
「イイノカ? ウィー達、スグニ見ツケテクレルゾ? 会イタクナイノカ?」
「あ、会いたいけど……」
脳裏にあの光景が蘇る。
あれからもう数日が経っている。本当は探しに行きたい。雷翔の様子が知りたい。だけど、それをしたら全てが水の泡だ。体を張って助けてくれた雷翔の為にも、わたしは勇者と戦う。そう決めたんだから。
「……ウィナードさん達に、負担をかけたくないの。お世話をしてもらってるのに、これ以上迷惑はかけられないわ。それに、今は領主さんの娘さんの事もあるし」
「ソウカ?」
「うん。だから、クーファも雷翔の事は言わないで? お願い」
「……ジュージュノ頼ミナラ」
「ありがとう。あ、そうだ。クーファ。話をしてって言ってたよね? ちょっとドラゴンの話をしようか」
これ以上雷翔の話が出ない様に、無理矢理話題を変える。でも、効果はあったみたい。
「ドラゴン? ジュージュ、ドラゴン知ッテルノカ?」
クーファはずいっと前に体を出して、期待に満ちた目でわたしを見上げてきた。
「見たわけじゃないけどね。ドラゴンの出てくる話なら何個か知ってるわ」
寝る前の読書がこんなところで役に立つとは思わなかった。
クーファに答えながら、頭の中にある物語をいくつか検討してみる。ドラゴンの出てくる話はいくつか知ってるけど……大抵は悪物だもんなぁ。だけど、クーファに聞かせるなら悪いドラゴンより良いドラゴンの話が良い。
「……雲に住む竜と詩人の話よ。昔々、西の果てに……」
クーファは寝そべって、わたしの話を聞いていた。