22 勇者とは
今回は短めですね。本当に文字数バラバラですみません……。
暫くしてジェイクさんから寝息が聞こえてきた。わたしの考えは間違えていなかったようです……。
帝王様が眠ったことで、恐怖がなくなった。と同時に、ものすごく恥ずかしくなってきた……! いやいや、だって、なんですかこの状況! 誰かと同じベッドなんて未知の領域ですよ! しかも相手は男性だし、妙に色っぽいし!
帝王様ですからね! わたしみたいなひよっこなんて、それこそそこらの枕と同じくらいに魅力も何にも感じないんでしょうけど! とりあえずサイズ的に抱っこしやすいからいいか~くらいな考えでこの状況にもってきたんでしょうけど!
でもでも! こっちは心臓がもちません!! これはあれです。逃げるしかないです!
なんとか脱出を試みようと、首に回っているジェイクさんの腕を持ち上……がらない。
「くっ……」
なんか、がっちりはまっているんですけど……!
まさか、起きてないですよね?
ちらっと横を見る。と、間近にジェイクさんのアップ。
肌白っ! まつ毛長っ!
怖くてよく見た事がなかったけど、美形だったんですねジェイクさん!
「っじゃなくって!」
見とれている場合じゃないでしょー!
我に返って、もう一度ジェイクさんを引き剥がそうとする。
その時だ。
「ただいま~! ごめんね、ジュ……ジュ」
ガチャッとドアを開けて入って来た鈴さんと目が合う。
目を丸くしてわたしとジェイクさんを見ていた鈴さんは、やがてわなわなと震えだした。
「す、鈴さ……」
「ジェ……ジェイクゥゥゥ!! なにやってんのよあんたはぁぁ!!」
まさに鬼の形相! という顔で、鈴さんは床を蹴るとベッドに寝ているジェイクさんを蹴り飛ばそうとした。
その瞬間、ぱっと目を開けジェイクさんが後ろに飛び退いた。眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔で鈴さんを見る。
「なんだ、鈴」
「なんだじゃないでしょーが! ジュジュ、大丈夫!?」
そのままの勢いでベッドに飛び乗った鈴さんがわたしを抱きしめる。うわ、な、なんか柔らかいものが……!
そんなわたしたちをよそに、ジェイクさんは大きなあくびをした。
「人の睡眠を妨げるな。折角気持ち良く眠っていたところなのに」
「眠たかったら一人で勝手に寝てなさいよ! 邪魔しないから!! ジュジュは保護対象者よ! 保護対象者! 夜伽相手じゃないのよ馬鹿!!」
鈴さんが怒鳴っていると、バタバタと足音が近付いてきた。
バタン! とドアが開く。
「鈴! どうした?」
「何かあったべか?」
飛び込んできたウィナードさんとルークさんは、ベッドの上でわたしを抱えている鈴さんと、面倒くさそうに鈴さんを見ているジェイクさんを交互に見た。
昨日の事もあってか、ウィナードさんは状況を見て何かを察したらしい。
「ジェイク、お前ジュジュに何したんだ?」
ウィ、ウィナードさん……そんな低い声出すんですね。
冷たい目をしたウィナードさんに脅えるわたしとは対照的に、何事もなかったような顔でジェイクさんが答えた。
「抱いて寝た」
直球ですね! いや、本当にそのまんまですけど!
「何やってんだ! この馬鹿!!」
スパァァン! と良い音を立ててウィナードさんがジェイクさんの頭を叩く。
あれ、この光景なんか見たことある。
なんて考えていると、ウィナードさんが急にこっちを向いた。そして、すごい勢いで頭を下げた。
「ジュジュ、本っ当にすまない! 俺の監視が悪くて迷惑をかけた! お前も謝れ!」
「何故」
「煩い! いいから頭を下げろ!!」
ぐいぐいとジェイクさんの頭を下げさせるウィナードさん。
「だ、大丈夫です! だ、抱き枕にされたくらいで何もされてませんから」
居心地が悪さに、必死にウィナードさんの謝罪を止める。
このグダグダな状況、いつまで続きますか!?
「ええとええと、それより、みなさんの話し合いの方はどうなりましたか? 何か困った事になったそうですけど」
もう話題を転換するしかない!
無理矢理話を変えると、ウィナードさんははっとした顔になった。
「そうだったな。君にもきちんと伝えておかないといけないな。……実は、この町の領主の一人娘が赤髑髏に狙われているらしいんだ」
「えっ……?」
狙われている、らしい?
どういう意味だろう。
わたしの隣で鈴さんが肩をすくめた。
「あたしは偽物だと思うんだけどね」
「いや、でも警戒するに越した事はねぇだ。あれが本物で、本当に攫われたとしたら大変だべ」
「あ、あの」
話し合いモードのなりそうな空気に、割って入る。
「すみません。話がよく分からなくて……」
「あ、ごめんね。ちゃんと説明しなくちゃね。ジェイク! あんたも聞きなさいよ!」
鈴さんがジェイクさんに声をかける。
当のジェイクさんは、クーファが寝ているベッドで横になってしまっている。……うん、全然興味ないんですね。
そんなジェイクさんに鈴さんは「ったく」と苛立ったような声で呟いた。
「いいわ、ほっとこ。昨日のことらしいんだけど、ここの領主様の所に書状が届いたんだって。その内容が、感謝祭の日に娘を頂くっていうふてぶてしい予告状! ご丁寧に、赤髑髏っていう名前まで書いてあったそうよ。赤髑髏が予告状なんて小粋な真似をしたことは一度もないから、偽物だとは思うんだけどねぇ」
「んだども、おらたちは国王様から赤髑髏の討伐を依頼されてるだ。それに、赤髑髏に狙われているかもしれないって知ってて、知らんぷりするわけにもいかねぇべ」
「分かってるわよ。第一、あのおっさんがすでに大見え切っちゃったんでしょ? 領主様に」
え? えーと。 それは、つまり。
「鈴さん、それって……?」
「つまり、ここの主人が領主様に連絡しちゃったのよ。「うちに今勇者様がいるので、お嬢様をお守りしていただけますよ!」ってね。自分でやれっての」
イライラしている鈴さんに対し、ウィナードさんはというと、
「ごめん、ジュジュ。王都に行くのが余計に遅くなってしまって」
と、暗い表情。
なんとなく、ウィナードさんが勇者であることを隠している理由が分かってしまった。勇者イコールなんでもやってくれる人、っていう風に思われちゃうのか……。
「わたしのことは気にしなくても大丈夫ですけど……お疲れ様です」
思わず言った言葉に、ウィナードさんは疲れ切った笑顔を浮かべた。
勇者って、わたしが思った以上に地味で大変な職業? みたいだ。