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16 野営の夜

初めてきちんと会話をしました。

 わたしは一人で歩いていた。辺りは塗りつぶしたように真っ暗で、道すら見えない。胸の中には不安だけが渦巻いている。

 ――ここはどこ? 誰かいないの?

 寂しくて怖くて、足を止めたいけれど止めることができない。今やっている事をやめてしまえば、今以上に恐ろしいことが起こる気がした。

『こっちだ』

 耳に懐かしい声が飛び込んできた。

 声のする方を見ると、暗かったのが嘘の様に明るくなって、崖の先端に立つ雷翔の姿が見えた。いつもの明るい笑顔を浮かべる雷翔と、その立ち位置がちぐはぐでざあっと心臓が凍りつく。

「雷翔。何してるの? そんなとこにいたら危ないよ!」

「なあ、××。絶対魔王になれよ」

「何言ってるの? そんなこと今関係無いよ!」

「なれって。なるのかならないのか、どっちだよ」

「わかった! 頑張るから。だから、早くこっちに来て!」

 思わず一歩踏み出すと、雷翔の顔に優しい笑顔が浮かんだ。

「約束だ」

 その言葉と共に、わたしの背後から黒い影がいくつも雷翔に飛びかかっていった。ぐらりと雷翔の体が傾く。

 ――行け!


「起きろ」

 はっと目を覚ますと、冷たい氷の瞳があった。

 白亜様、と叫びそうになるのを必死で飲む込む。

「ジェ、イクさん……ど、どうかしましたか?」

「どうかしたか、だと?」

 ジェイクさんの眉間に皺がよった。

「苦しそうな声をあげるな。うざったい」

「そ、それは失礼しました……」

「全く……何を考えて、こんなのを連れていくんだか。……まあ、見目は悪くないか?」

 顎に手を当て、ジロジロとわたしを見ながらジェイクさんが呟くと、おもむろにわたしの髪を手にとった。

「銀色……? 紫? 見た事無い色だな。生まれつきか?」

「は、ははい!!」

 何これ何これ! 怖すぎるんですけど……!!

 涙目で何度も頷くと、「そうか」と興味を失ったかのように髪から手を放した。慌てて戻って来た髪を庇う。すると、何故かジェイクさんはわたしの隣に座りこんできた。

 な、なんでここに座るんですか!?

 得体のしれない恐怖に浸食されながら、必死に辺りを見回す。

 ウィナードさん! いない!!

 鈴さん! いない!!

 ルークさん! 微妙に離れたとこで寝てる!! 起きてー起きてー! ああ、そっちの旅人さんでもいい! 爆睡してる夫婦の方でもいいから、誰か助けて!!

「お前は何者だ?」

 ジェイクさんの口からさらりと出た言葉。その質問は、わたしの脳みそも心臓も凍らせるのにも十分だった。

「え……?」

 おそるおそる隣を見る。ジェイクさんは遠くを見つめていて、整った横顔が見えるだけだった。

「他のやつらはお前を貴族か何かだと思っている様だが、俺はそう思わない」

「それは……どうして」

「物を知らなすぎる。赤髑髏から逃げてきたのに、どうしてドレスなんか着ていた? 包丁を使うのに手慣れている。それから――勇者に脅えている」

 ジェイクさんはわたしを見た。氷のような青い目に、吸い込まれそうな錯覚を起こす。

「……ジェイクさんは、わたしのことを怪しんでいるんですね」

 わたしの言葉に、ジェイクさんは眉ひとつ動かさなかった。けれど、答えには十分だ。

「よかった」

 つい口から洩れた言葉に、ジェイクさんは訝しげな顔をした。だけど、わたしの胸には妙な安心感が広がっていた。

「よかったです。わたしが本当はどんな存在なのか分かった時に、裏切るかもしれないから。一人でも裏切る人が減って」

 優しくされるたびに罪悪感が増えて、怪しまれる事で罪悪感が減るなんて。

 ひどい矛盾につい笑ってしまう。

「変な女だな」

 拍子抜けしたような声でジェイクさんが呟いた。


「ジュジュ! 大丈夫!?」

 ガクガクッと揺り起こされて目を開けると、ウィナードさんと鈴さんの真剣な顔があった。

「お、はようございます?」

「寝ぼけている場合じゃないわよ! ジュジュ、あんたジェイクに変な事されてないわよね?」

「へ?」

「うるさい……」

 不機嫌そうなジェイクさんの声が真横から聞こえた。首を動かすと、横になったジェイクさんが不機嫌そうな視線を鈴さんに投げかけていた。

 え? なんでここにジェイクさん??

「うるさいじゃない! なんでお前がここで寝てるんだ! 男はたき火の向こう側って言っただろ!! なんでジュジュの隣で寝てるんだ!」

 ウィナードさんが怒鳴って、ジェイクさんをずるずる引き摺っていった。

 ぽかんとその様子を見ていると、鈴さんが心配そうにわたしの肩を叩いた。

「大丈夫? 本当に変な事されてない?」

「え? だ、大丈夫ですよ! 話をしているうちに寝ちゃったみたいで」

 妙な誤解に慌てて首を振る。すると、鈴さんは意外な顔をした。

「え? 話したの? ジェイクと??」

「何かおかしかったですか?」

「そんなことないけど……あいつが誰かと会話するなんて珍しいなと思って。って、そんな場合じゃなかったわ! とにかく、気を付けるのよ? あいつ、万年発情期なんだから! 絶対に気を許しちゃ駄目だからね!!」

「ま、まんね……。はい、気を付けます……」

 真剣な鈴さんの勢いにうなずいてしまう。鈴さんはやっと安心した様な顔になった。

「それがいいわ。とりあえず、何もなかったみたいで安心した。そろそろ夜が明けるから、野営の片付けをするわよ」

 言い残して、鈴さんはウィナードさん達の方へ歩いて行った。

 夜明けか。もうそんな時間なんだ……。

 空を見ると、山の向こうが白んできているのが見える。

 起き上がって借りていた毛布を畳む。その時、ふいにジェイクさんに尋ねられた言葉が頭をよぎった。

 ――お前は何者だ?

「……あなたこそ」

 勇者一行にいながら、一線置いた様な存在。

 ジェイクさん。あなたは何者ですか?

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