14 出来ること
同行者が増えました。空気になっている人がいますが、ちゃんといます。
まだのんびり話が進んでいきます……(-_-;)
「本当に助かりましたわ。まさか勇者様に警護して頂けるなんて。ねぇ、あなた」
「ああ、そうだな。おかげで無事に町まで帰れそうです」
にこにこ顔の夫妻に対し、ウィナードさんはにこやかに「そうですか」と相槌をうっている。うってはいる。けど、普段の笑顔とは明らかに違っている様に見えるのはわたしだけでしょうか……。なんか、少し顔が引きつっている。
でも、まあそれも仕方がないと思う。
あの後、馬車を引いてくれていた馬が足を怪我している事が分かり、ついでに揺れた衝撃で車輪もおかしくなってしまったらしい。
結局、馬車は元来た道を戻る事になり、わたし達は一緒に戻る様に言われたのだけれど。
「大丈夫よ! 何せここには勇者様がいらっしゃるのだから、無事に私たちを町まで届けてくれるわ」
と、奥さんが勝手にルートを決めてしまった。
ちょ、ウィナードさんに何も言ってませんけど! 思わずウィナードさんに目を向けると、彼は諦めた様な顔をしていた。
その後、誰も彼女の決めた事に対し何も反論せず、あれよあれよと言う間にわたし達は夫婦をメイジェスという町まで送り届けるという方向に進んでいった。一緒に乗り合わせた旅人さんもメイジェスに行く途中だったので同行している。
「ジュジュ、すまねぇな。メイジェスは王都とは違う方向なんだけんど……でも、ちゃんとおめぇさんは王都まで送り届けてやっからな。悪いけんど、ちょっくらおら達に付き合ってけろ」
隣を歩いていたルークさんが、すまなさそうな表情をしながら言ってきた。
「ホント、こんなことになっちゃうなんてねー。ジュジュの体調を考えて馬車にしたのに、これじゃ余計に負担になっちゃったわね」
と、逆の方から鈴さん。
「いえ、わたしは大丈夫ですけど……」
わたしは答えながら彼らを見た。
細い体に似合わない大荷物。ちなみに、殆どは例の夫妻のものだ。
あの夫婦はちょっと有名な商人で、お金持ちらしい。商品の買い出しの帰りだったとかで……まあ、つまり勇者様方は荷物持ちをさせられているわけだ。
「あの、やっぱりわたしも持ちます」
「いーのいーの。あたし、これでも結構力有る方だし。ルーの患者をこき使ったりしたら怒られちゃうわ」
何度目かの意見は、当たり前のように却下されてしまった。
確かに、まだ右肩は引きつる様な痛みが残っているけど、他の傷は殆ど癒えている。周りの人が――まあ、あの夫婦は別として、大荷物を持っている中、手ぶらでいるのはかなり心苦しい状態だ。
うぅ、落ち着かない……!
なんだか近くにいるのすら申し訳ない気分になって、ルークさんと鈴さんが二人で話しだしたのを機に、わたしは少し歩くスピードを緩めて距離をとった。
そのせいで、後ろにいた人にドンとぶつかる。
「あっ、すいませ……」
言いかけた謝罪の言葉が喉で引っ掛かった。て、帝王様……!
冷たい目で見下ろされ、ひぃ! と内心で叫ぶ。
「おい」
「ひゃ、はい!」
「歩け」
邪魔とばかりに指示をされる。思わずコクコクと激しくうなずいて歩き出した。
ジェ、ジェイクさんの隣、尋常じゃないほど怖いんですけど……!!
離れるにも離れられず、心臓をバクバクさせながら歩くわたしに、ジェイクさんが呟いた。
「あいつらのことなら、気にする必要はないぞ」
「え?」
何の話?
思わず顔を上げると、ジェイクさんが口元に薄く笑みを浮かべていた。なんというか、馬鹿にした様な顔だ。
「人助けが趣味みたいなものだからな」
「趣味ですか……」
「ああ。俺には到底理解出来ん」
そう言って肩をすくめる。そんな彼も、荷物は殆ど持っていない。
えーと……。この人って、一応勇者一行なんだよね? おかみさんもそう言ってたし。
「あの……ジェイクさんって、ウィナードさん達の仲間なんですよね?」
思わず聞くと、ジェイクさんがこちらを見た。目が合って、つい背中がピンと張る。や、やっぱりこの人の目は苦手だ……!
話しかけた事に後悔しそうなわたしに、ジェイクさんはにやりと笑った。
「仲間か。……違うだろうな。俺はお偉方に言われてあいつらと一緒にいるだけだ」
「そそ、そうなんですか!」
殆ど聞いて無い状態で、とりあえず返事をする。だってだって! 怖い! 笑顔が怖すぎる!! あんな悪人みたいな笑顔なんて初めて見たよ!!
涙目で話を打ち切ろうとするわたしに、
「あんたも、勇者の一行なのか?」
ふいに誰かが声をかけた。
助かった! とばかりに振り向くと、こちらを見ている旅人さんの姿。
しげしげとわたしを見ているのは、まあ、勇者様御一行には見えないからだろう。
「いえ、わたしは……ええと、保護して頂いている身です」
「保護?」
「あの、赤髑髏とかいう盗賊から逃げてきたところを助けて頂きまして」
愛想笑いを浮かべつつ、嘘です! と心の中で叫ぶ。ああ、嘘がすんごい心苦しいんですけど!!
そんな返事に、青年は目を丸くしてわたしを見た。
「赤髑髏……? あんた、あいつらから逃げてきたのか!?」
「は、はい」
思った以上に食い付いてきた彼の勢いに押されてうなずく。
赤髑髏って、本当に有名なんだな。
「そうか……そういや、勇者の今の任務は赤髑髏の殲滅だっけか。あんたは貴重な情報源ってわけだ」
何気なく放たれた彼の言葉。それにドキリとする。
情報源。そう、彼らにとってわたしは保護するに値する価値がある存在なんだ。前に鈴さんに尋ねられたことを思い出す。
――何か覚えている事ってないかしら?
ウィナードさんが気を使ってくれてその話は打ち切りになったけれど、あれが彼らの本心だ。赤髑髏を見つけるための情報が欲しい。……でも、わたしはそんな情報を持ってない。ただ、助けられているだけ。
「どうした?」
青年の心配そうな声に、はっと我に返る。
「顔色悪いけど」
「何か思い出したのか?」
あまり興味なさそうな声音でジェイクさんが言う。それに首を振ると、青年は「思い出す?」と不思議そうな顔をした。
「実はわたし、どうやって逃げてきたか記憶がないんです」
「そうか……悪い」
「いえ、大丈夫です。でも、そうなんですよね……わたし、何も出来てないんですよね」
言葉にして、ついでに決心する。
借りを作ってばかりじゃ駄目だ。なんでも良い。何か、彼らに恩返しできることを考えないと。