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「1,2,3....次は、7,8...9...えっと、9...10、これで10が2。」
鳥居を一つずつ指さして、1から10までの数字だけで数を数えながら、青年はそれらをくぐって行く。
彼の指が『10が3と、1』を指したところで、点々と石畳が黒っぽく染まり始めた。
ぽつり、ぽつりと染みを増やし石畳を濡らす上空からの水滴はすぐに彼の体も濡らし始めた。
彼は少し歩を早めながら仮面に付いた水滴を拭った。それは白兎から持たされたものだった。
「あの方のところへ行くのならば、この仮面を着けることをお勧めいたします。あなた様にはきっと必要となることでしょう。」白兎の言葉が脳裏をよぎる。彼は仮面など着けたことは無かったが、その言葉には言い表せない重みがあり真意を問うことも出来ず、現在に至った。
「前見にくいし...邪魔なんだよねえ。」
ブツブツと文句を漏らす彼の内心とは裏腹に足取りだけは軽快であった。それは、彼の仕事柄付いた癖だった。彼はいわゆる『手品師』として活動していた。それ故に身についた動きが無意識のうちに普段の生活からも表れていた。実際のところ、これは彼の望んだものではなかったが、彼の本心はその軽快な足音と徐々に強くなる雨音にかき消されて誰にも窺い知ることは出来なかった。
突然の雨を避けるべく、彼は鳥居の脇にそびえ立つ杉の木の下でしばらくの間立ち尽くしていた。
幸いにもにわか雨だったようで、数分で雨雲は去っていった。しかし、雨に濡れた服はすぐには乾くことはなく、当然着替えなどは持ち合わせていないため、彼は仕方無く上着を2、3回上下に振り軽く水を飛ばしてから濡れて視界の悪くなった仮面を外し、それを上着の内ポケットに入れた。
雨に濡れ滑りやすくなった石畳を注意深く登ると、鳥居同様半分朽ち果てたようなボロボロの神社のような建物が見えてきた。
彼は白兎に言われたことを思い出した。
━━あの方は鳥居を通り抜けた先の建物にいると思いますので、どうぞお気を付けて。」
ただ一つ、彼は仮面を着けるべきだと言う忠告を忘れていた。
最後の鳥居をくぐり終え神社の敷地を見渡すと、本殿の前に誰かが立っているのが見えた。距離が離れているので詳しく姿はよく見えないが、紫色の着物をまとい僅かに紫がかった銀の長い髪をしたその人物は、彼の探し人に間違いなかった。
彼はその探し人に声をかけるべく、一歩前に出た。すると、どこからか誰かの声が聞こえた。
「死んで。」
その直後、彼は背後からの衝撃で意識を失った。




