01
塔の中に入り、螺旋階段を一階の上の上の階、つまり三階まで登る。登ったら廊下に出て左手、腕の無い方向にある一番近い部屋に入る。部屋に入ったら向かいの真っ白に塗られた扉を開ける。
扉の向こう側には所々朽ちて申し訳程度に朱色の残った鳥居がいくつも並び、それらの下には苔むした石畳が敷かれていた。なるほど、白兎の言った通り目的の場所についたようだ。ここが3階であるということなど、扉の前に立つ青年にとってはどうでもいいことだった。
白と黒で彩られた仮面をつけた青年は、金の鎖でベルトに繋がれた木製の左手で持ったステッキをコツコツと鳴らし、楽しそうに一歩踏み出した。
鳥居の真ん中を歩きながら、彼は白兎からの言葉を思い出した。
━━━是非あなた様にお願いしたいことがありまして...。」白兎に声をかけられたのは、先日のチェスパーティーに誘われた時だった。『パーティー』と言っても誘われたのは彼一人。試合の中盤、白兎はチェスの黒いポーンの駒を動かしながら話を始めた。
「本来ならわたくしがやるべきことなのですが、事情がありまして...あなた様の力をお借りしたいと思っております。」
少し項垂れたように駒を一マス前に出す。青年は白いナイトの駒を義手で弄んだ後、黒のポーンのあるマスにそれを重ねて答える。
「それは、面白いのかい?面白いのなら僕は構わないよ。」
フワリと黒のポーンが浮かび、義手の中に収まる。
「実は、ある方を連れてきて欲しいのですが...面白いかどうかは分かりませんが、きっとあなた様ならお気に召すと思いますよ。」
「へぇ、僕が気に入るなんて...どうしてそう思うんだい?」
「それは、あなた様とその方は非常によく似ていらっしゃるようでしたから....。」
カタンと音を鳴らしながら、互いに駒を操る中、白兎は『ある方』との話をした。
白兎が話し終えると青年は藍色に輝く瞳を細め、僅かに口角を下げ、「ふぅん」と一言だけ呟いた。
「どうです?引き受けて頂けますか? 」
胡散臭い笑顔で白兎が聞いた。青年は答えないでただじっとチェス盤の上の逃げ場を必死で探す白のキング見つめていた。しばらくして、
「わかったよ...行けばいいんだろう。」
と、諦めたように答える。
「...チェック・メイト」
黒のルークの駒を前進させ、白兎は満足げに呟いた。




