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「...やはり苺は旬じゃないと酸っぱいですね...。」
「あ....あの。」
ショートケーキを咀嚼しながらルークはブツブツと独り言を呟いていた。
「生クリームはもう少し滑らかにしないとスポンジとの調和が....。」
「えっ...と、ル...ルーク...さん?」
「ふむ...悩んだんですがガトーショコラの方がよかったかも....はっ!はい!?」
慌てて返事をしたルークはうっかりフォークを落としそうになるが浮いていた左手が素早く持ち上げた。なるほど、肩から分離していると守備範囲は広いようだ。
話がある、と言われながらもケーキの批評、しかも失敗したと思われることをブツブツ呟かれるのは誰だって良い気分ではないはずだ。それは非人道的で冷酷な殺人鬼でも同様だった。
「批評はいいので話してくれませんかね?ケーキは美味しかったですから....。」
いくら相手のペースに翻弄されてきたとはいえ、重要なことをないがしろにされるとなると流石に苛立ちが募ってきたが、極力抑えたつもりでとりあえずケーキも褒めておいた。とりあえず...と言ったものの、首斬りは甘味に関してはなかなかの美食家であったが、 それは今まで食べてきたケーキの中でもダントツで彼の舌を唸らせていた。
「お褒めに預かり大変光栄で御座います...しかしわたくしには納得いかない点が...」
一言余計だった。また何かぶつぶつと呟き始めた。問題はこの兎も意外とグルメであるということよりも一向に話が進まないことである。ここまで来ると本当に話す気があるのかさえ不安になってくるが、最後の一口を食べ終えたルークはナフキンで丁寧に口を拭いてから話を始めた。
「この箱庭、R*Gardenは...世界と世界を繋ぐ中継地点となっております。そしてこの塔が玄関口です。その為、あなた様をこちらに連れてくることも出来ましたし、お望みでしたら別の世界へ導くことも可能ですよ。」
塔、といわれて首斬りは見上げると、雲まで届いているのではないかと思うほどの高さまで石造りの塔であった。 眼下には鬱蒼と森が広がっており遠くの方には街らしき家々が連なっているのが見えた。
「申し遅れましたがわたくしの氏名である『ルーク』というのはROOKと表記致します。チェスの駒と同じですよ、この塔の形も。」
ふふっと嬉しそうに笑うルークをよそに改めて塔の下に目をやると、塔の土台は確かに駒と同じように段が出来ていた。




