07
「ふうん、君も大変だったんだね。」
「お前....何なの?」
目を覚ますと、青年はあっけらかんと言い放った。その態度に紫炎は理解できないといった様子で眉間に皺を寄せて彼を睨んだ。
視線の意味を感じ取ったのか、彼は首をかしげて尋ねる。
「僕には君の方がわかんないや、なんで君のこと教えてくれたの?」
「お前が口で言っても聞かないから、どうせ忘れさせることもできるし。」
最後に帰ってと、ひと言吐き捨てて後ろを向いたところで、紫炎は不意に腕を掴まれた。
木で出来た無機質な腕がギシギシと僅かな音を鳴らしながら、紫炎の腕を掴んで離そうとしなかった。
「まだ何かあるの?いい加減に…」
振り返ってそこまで言った直後、仮面の下の忌々しい目が近づいた。その目はぐにゃりとしわを寄せ、睨むように紫炎の紫の瞳を見つめた。しかし口調だけは楽しそうに話始めた。
「せっかく教えてもらったんだ、今度は僕の番ね。」
それだけ、ただそのひと言だけで、紫炎はそこから動けなかった。
「さて問題です!僕の左腕はどこにいったのでしょう?一番、大好きなママのお腹の中。二番、大好きなパパの車の中。三番、暗くて怖い崖の下。さあ、どれでしょう?」
ケラケラと笑いながら、義手が更に力を増す。
冷や汗を流しながら硬直する紫炎の前にトランプの束が差し出された。一番上にはジョーカーの絵が不気味に笑っていた。
「ヒントをあげよう。ほら、このカードを裏返して。」
促されるままカードを裏返すと、彼は紫炎の腕を掴んでいた義手を離し、その手でカードの上を叩いた。
「トランプをひっくり返してみて。」
言われるまま絵柄をみると、絵は先程のジョーカーでは無く、ダイヤの4に変わっていた。
「そう、正解は4番。全部でしたー!」
嬉しそうにパチパチと拍手をしながら1人盛り上がる彼の目は言葉とは裏腹に、どこか悲しげでそれでいて狂気を感じさせた。
Chuck・Dogの最後に呟いた言葉が紫炎の脳裏をよぎる。やばいのは…異常なのはこの男の方だったのかと。
これは危険だと心臓が全身に警告を鳴らすが体は動かすことが出来なかった。
彼はトランプをポケットにしまうと、そのままゆっくりと仮面を外した。
「話しをする時は、相手の顔を見ましょう。」
小さい子に話しかけるようにひと言ひと言丁寧に紡ぎながら、ぐっと顔を寄せた。
大嫌いな、忌々しい自分そっくりの顔から目をそむけようとしてもすぐに両頬を手で挟まれ、動かすことが出来なくなった。
「悪い子だね、君は。」
勝てない。紫炎はそう確信した。楽しそうに笑う仮面の下に隠されていた狂気が少しずつ襲いかかってくる。諦めたように肩の力を抜いた。
それを確認すると、彼は手を離し紫炎の頭を2、3回撫で、いい子いい子と呟いた。
「僕も、一人ぼっちの嘘つきなんだ。」




