05
声の聞こえた上空を見上げると、頭と胴体、足の離れた茶色い毛並みの犬のような生き物がふわりふわりと降りてきた。
長い耳と体にはファスナーがつけられており、体はファスナーを中心として黄色と橙色で分けられた服のようで、袖からは鋭い爪が覗いていた。
「おや、君は確か...バラバラ君?」
「Chuck・Dogッス。いい加減覚えてくれないッスかねえ...」
体より数十センチ浮いたところにある頭をかき、青い大きな隻眼を歪めながらChuck・Dogと名乗る生き物は答える。
「ルークさんに言われたんッスよ。あんた1人じゃ不安だからって」
ゆっくりと地面に足を降ろす。胴体と頭は依然、宙に浮かんでいる。
「信用ないんだなあ...」
苦笑しながら呟いた。そして、倒れたまま動かない紫炎を一瞥してChuckに尋ねた。
「ねえ、さっき僕が見たのは何なんだい?」
「さっき見たのって言われても俺は見てないんッスけどねえ...大方、彼の見せた幻覚じゃないッスか?」
「へえ...幻覚かあ。この子が、ねえ…手品なんかじゃない...本物なんだ」
口角を上げながら、興奮した様子で話す彼を見上げながら、
「なんでそうゆうことはよくわかるんッスか...ナイフとフォークも満足に使えないのに」
Chuckは呆れ顔だった。
でもさ、とChuckの方を振り返り、彼は1つの疑問を投げかけた。
「幻覚は本物だけど、見たものは偽物なんだよね?本当はどっちなんだろう」
これにはChuckも無い首を捻った。
僕は全部偽物だからね、そう続けて彼はステッキの持ち手を軽く叩いた。すると、ポンと軽快な音と共に、ステッキの先に鮮やかな紫のバラが咲いた。
「ほら、何回やっても偽物なんだ」
寂しそうに造花の咲いたステッキを元に戻す。
「でもそこにあるのは本物の造花じゃないッスか」
「…なんだ、僕も同じだったのか。本物で偽物だ。やっぱり僕らは似ているんだね、紫炎くん」
満足したように頷いて再び紫炎の方を見やる。
「もうとっくに起きてるんだろ?」
「へぇ、ただの間抜けじゃないんだ 」
糸の切れたお面を片手に紫炎はゆっくりと立ち上がった。先程とは違い落ち着いた様子で彼を見つめ、ふうと息を吐いた。
「そこの犬が何言ったか知らないけど、勝手に同じにしないでよ。お前、僕のこと何にも知らないんでしょ」
「名前は知ってる、何にもじゃ無いよ」
「別にオレは何も言ってないんスけど…」
彼はあっけらかんと答え、Chuckは独りぼやく。
ギリッと音を鳴らしながら歯を食いしばり、紫炎は俯いた。暫くすると、紫炎は突然クスクスと笑いだした。
「だったら見せてあげるよ、どうなっても知らないからね!」
自嘲気味にそう声を荒げると、紫色をした炎が上がり2人の周囲を囲みだした。そしてあっという間に炎は渦を巻き火柱となっていった。
「これで分かってくれるよね、僕とお前は違うんだよ」
その言葉を最後に、彼は三度意識を失った。
「あー、これちょっとヤバイッスねー」
いつの間にかChuckの姿は消えていた。




