研究部
図書委員に入った僕は、早速、司書の鳩村さんから資料の片付けを頼まれた。資料室は図書室の隣にあり、蔵書の他、学校のいろいろの書類なども仕舞ってある場所だ。書類を抱えた格好のまま、ぎこちなく扉の取っ手に手をかけると、鍵がかかっていると思いきや、予想外、簡単に開いた。部屋の中は、カーテンを通して差し込むオレンジの日差しで、電気をつけなくても充分なくらい、明るかった。窓が空いているのか、カーテンが僅かに揺れている。
僕が資料室に入ると、人影が窓の方を向いて座っていた。書類の山の中に埋もれる、マネキンのようにも見える。それがくるりとこっちに向きを変え、鋭い眼光を放ち、唇を動かした。
「君は我が研究部になにか用かい?」
どうやらここは、彼の部活が占領しているようだ。それにしても研究部って。
「いや、僕はただ資料を片付けに来ただけです」
僕は、相手の足元を見た。内履きのラインが青色――二年生だ。
彼は髪をボリボリと掻き、気だるそうに
「じゃあ、何か用を作るんだ」
「そんな勝手な」
「退屈で死にそうだ」
どうやら、退屈の腹いせに、僕に八つ当たりしているらしい。僕は相手なんかしてられないと思った。
「じゃあ、死んでてください。僕には片付けの仕事があるんで」
「ここは探偵部の部室だ、だから僕に用事がない人は入っちゃダメだ」
「駄々こねですか。何ならこの資料、片付けるの手伝ってください」
「いやだね」
相手はキッパリという。このおかしな先輩の相手をするだけ、時間と体力の浪費になりそうだ。僕はため息をつき、片付けをはじめる。
暫くじっとしていたが、相手をしてくれなくなって痺れを切らしたのか、
「それは向こうの棚」
などと口を挟みだした。棚の資料がある位置を、全部把握しているらしい。しかし、自ら動く気配はないようだ。
僕は書類を棚に押し込みながら、考えにふけった。さっきあの二年生は研究部と言った。僕は、そんなものがこの高校にあるとは知らなかった。高校の入学パンフレットには、確かそんな名前は載っていなかった筈だ。もしかすると、新設の部活なのかもしれない。それにしても、部室が資料室とは、ちょっとさみしいではないか。それに、部員は他にいるのだろうか――僕はちょっとだけ、この奇妙な先輩と謎の部活に興味を覚えた。
なんとか資料を全て片付け終えると、二年生は傍らにあった椅子を、足で蹴ってよこした。
「座り給え、和嶋君」
「僕は、暇じゃないんです。委員会の仕事は、他にもあるんで」
「僕は暇なんだ」
構ってられないと、僕は部屋から出ようとして、立ち止まった。
「僕の名前、知っているんですか?」
すると、ふふんと鼻を鳴らし、
「僕の知らないことは無いさ。君の血液型、住んでいるところ、趣味から、家族構成まで何でも」
そう言われると、流石に気味が悪い。初対面の人に、君の全てを知っているぞ、なんて言われるとゾッとする。