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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
28/45

来襲の先に






「・・・おはよ・・・」


朝食の、空腹に響く良い香に誘われて、いつもより遅い目覚め。


「おはよ。遅かったね。私食べたら出るから後お願いね」


「・・・うん」



理解しているのか、ただ寝ぼけているだけなのか・・・・。

寝ぼけ眼で一応の返事を返すと既に用意された朝食を取る為に那穂の前に座る。


狭間に世話になって一月。

時の流れはこんなにも早いと感じる。

那穂にも姉であるかの様に接する事が出来る。苦手ではあるが、凪砂にも。

居心地は良かった。

幸せも感じる事も出来る。

しかし、それが偽りの幸せだと言うのも痛い程解っていた。


蒼間でもそうであった様に、信じてはいけない。

それが学んだ事。裏切られて傷付くくらいなら、始めから疑っていれば傷は薄い。愚かと思われるかもしれないが、今の真に更に傷付く心の余裕を持ち合わせてはいなかった。



「じゃあ私行くから後お願いね」


「いってらっしゃい」



那穂を見送りながら思う。何時までも続く訳でも無いこの生活。常に不安は拭えない。たとえ偽りの幸せでああろうとも、今は幸せな気持ちで居たかった。


食器洗いに洗濯に掃除。家の仕事を終える頃には昼を回っていた。

今日は珍しく予定がある。

相手は雪乃。蒼間とは縁を切った。

だが、雪乃とは欠かさず連絡を取っているのだ。那穂も、雪乃を知っている。

理解した上での関係。


真は服に少し悩み、家を出た。


待ち合わせは学校と那穂の家の丁度中間地点に近い駅の喫茶店。

平日なだけあって昼のピークを過ぎると人も少なく、真にとっては落ち着く空間になる。

待ち合わせは3時なのだが、行動の早い雪乃は待つ時間も少なく、現れた。


「やっぱり真のほうが早いのね」


会う早々肩を落とす雪乃。

直接逢うのは一月ぶりだと言うのに相変わらずな雪乃に安堵しながらも何時もの如く悪態を示す。


「早いほうが問題あるんじゃないの?

まだ学校の筈でしょ」


「真優先よ。滅多に会えないんだもの。

学校なんて言ってられないわよ。

うん。今日は大丈夫ね」


雪乃は服に煩い。真自身そんなに興味はないのだが、雪乃がそれを許さない為に、雪乃に会うときは那穂の服を借りるなどして気を使っている。

自身の状態や世間話に花を咲かせるのだが、学校の話になると必然的に蒼間絡みの話になる。極力避けたいのは山々だが、致し方無い事。


「学校はね。なんとか病気とか言って誤魔化せてるんだけどね。咲妃と奈々絵は本当に心配してる。隠せるのは限界かもしれない」


「いいよ。話しても。

まだ連絡先も交換してないしね。だいたい隠す事でも無いよ」


咲妃と奈々絵。

まだ仲が良いとは言えないが、少しずつ深めては来ている時期に会えないのは切ない。



「なんで・・・退学させないんだろうね。

蒼間としての価値が無い私に学校に行かせる必要もないんじゃない?」


既に学業を諦めていた真。

蒼間の意図が読めないのだ。


「それはさ。遥鳴さんの保護者としての義務なんだよ。

今回の事はさ、当主として遥鳴さんに責任が無いとは言い切れない。でもさ、これだけは解って欲しいんだ。

こっちにも色々と事情はあるんだろうけど、遥鳴さんはあんたの味方だよ。

幸希もあれから一度も学校に来てないし、二人とも忙しいんだと思う」


蒼間でも外部の人間である雪乃は客観的な意見しか言わないが、多分その通りなのだろう。

幸希―――。

あの時は感情的だったとしても、傷付けてしまったのは確かだ。遥鳴にも、多少の後悔は残る。

だが、味方と言われても、何一つ心は揺らがなかった。


「それよりさぁ~。あんたがお世話になってる那穂さん?いくら敵だとしても一度逢ってみたいわぁ。それ以上にあちらの当主さんも!!

若くて素敵なんでしょ?!」


急に目を輝かせ始めた雪乃。


「・・・遥鳴さんが好きじゃない訳?」


雪乃の変わり具合に若干引き気味な真。


「それとは別問題よ。

乙女は良い男に目が無いの!!真とは違うのよ~。学校にも居ないしね」


遠回しに馬鹿にされている事を気にしつつも、敢えて聞かなかった事にする。


「雪乃の基準は解らないけど・・・私は綺麗と思った。

必要最低限の事しか話さないから苦手だけどさ。」


恍惚の溜息を放つ雪乃。


「那穂さんならともかく、蒼間狭間の関係が無ければ直ぐにでも逢いに行けたのになー」


そんな話をしている内に昼の刻はあっと言う間に過ぎてしまっていた。

名残惜しくも次に会う約束を取り付け、二人は別れた。




帰り道、真は駅付近で良く知った人物にであった。


「凪砂・・・?」


思わず声を掛けてしまった真に本人が気づく。

声をかけたのはいいが、表情一つ変えない凪砂に未だに苦手としている真。一瞬困惑するが目に入った物にそんな意識を奪われる。


「制服・・・。

学校行ってるんだ・・・」


「おかしいか?」


「あっ。ごめん…当たり前だよね。

当主だからてっきり」


その言葉に凪砂は意味を悟る。


「蒼間は違うのか?」


「いや、詳しくは知らないけど、忙しいから通信にしか行けないとしか・・・」


「蒼間は俺達と違い組織だからな」


他人事の様に語る凪砂をまじまじと見つめる。一度見た事はあったが、それどころではなかったのだ。黒いブレザーに革物の鞄。学校名は知らないが、よく目にする。忘れてはいたが、凪砂は真の一つ上。

一般的には高校生なのだ。


「お前は今帰りか?」


その問いに軽く頷く。


「俺も那穂に用がある」


そして、そのまま真と凪砂は帰りを共にすることとなる。


「・・・・・・」


無口な凪砂。

決して友好的ではない真。

そんな二人が一緒になれば、会話などあるはずが無い。

何も喋らず、何も聞かず。真は今にも駈け出してしまいたい程の居心地の悪さを身に染みて感じ取っていた。




そんな心苦しい状態を暫く続けていた2人。

だが急に、真の2歩前を歩いていた凪砂が足を止めてしまう。

何事か?と後ろに居た真も習って歩みを止めるが、周りの景色が異様な事に気が付く。


――――まさか――――。



直ぐにそれが何なのか理解出来た。

何時もの帰り道。夕刻にしては辺りは暗く、更に奥は闇色。先が見えないのだ。帰宅する人は居らず、閑散とした街。憶えのある異常に鼓動が高鳴る。

胸を抑え、これから来る恐怖に怯える真に対し、凪砂は一切変わった様子を見せない。


―――――――やっぱり・・・。



息を呑み、一歩退いた時、周囲の地面が波打ち、濡れる音と共に奴等は足元から現れた。



「うっ・・・」


途端。胃を抉る様な悪臭に歐気が襲う。

暗鬼。

真の学校を襲い、真の生活そのものを変えてしまった原因。

人の形をした黒い影。しかし。それは何時もと違っていた。死臭とも言える酷い匂いを発し、以前とは違い、かなりの筋肉質な物になっている。

違う物なのか、それとも、成長したものなのか・・・。

少なくとも、再度目の前に現れた敵。

畏怖と、悪臭からか真の意識はそこで途切れた。

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