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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
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真からメールが送られて来たのは丁度一限目の終わりであった。


「真ちゃん・・・?」


那穂もまた、高校生であり、都内の女子高に通っている。

昨日の今日で送られて来たメールに歓心を覚えつつ、移動教室へ友人達を先に向かわせ、確認する。

内容は、今日逢えないか。との事。

少し迷ったが、夕方から。と返信する。

すると一分もしないうちに返事が返って来た。


何処で逢うか。


そんな簡潔な問い。考えて、待ち合わせは昨日の公園はどうかと送る。


一旦携帯を閉じ、一息付くと、頭上を仰ぐ。

――――――――――――蒼間―――――――。

自分達狭間にとって、許す事の出来ない永代の敵。

那穂の両親は、蒼間に殺されている。友人も、親戚も。

一族には仇討ちに燃える者が多い。那穂も、恨みは無いと言えば嘘になる。

少なからずとも、蒼間の動向は把握していたし、動こうと思えば動けた。それをしないのは、自分の代で因果を終わりにしたかった。

だから、相手の経緯だけを静かに探っていた。


そこで入って来たのが「蒼間が一族以外の人間を飼っている」との情報。[飼う]との表現は可笑しいかもしれない。

しかし、蒼間は普通の人間を蔑む。我こそは・・・そう言う一族なのだ。

詳しくは知らないが、気になっていた。

那穂だけでない。情報を知っている狭間の人間が気にしていた筈だ。

―――そして―――出会いがあった。

あの時は、所謂内輪もめ的な物で、人払いはしていた。術式の類の。

人払いをしていて、普通の人間があの空間に入れる筈が無いのだ。


真は何か力がある。それは確信出来ている。興味があったので、連れ込んで話をした。真自身、戸惑いを持っているのは解る。きっと、自分の力を知らない。

真以上に蒼間を知っているのは那穂であるし、狭間にとって厄介者になる前に引き入れようとしたのも確かだ。

だが、知らないからこそ用心をしなければならない。

此方の妨げになるようであれば、最悪、自分の手で始末しなければならないのだ。



「・・・やだな」



那穂は俯き小さく呟いた。

真からの返信が来ないまま、始業の鐘が鳴り響き、那穂は慌てて教室を後にした。





那穂から待ち合わせ場所のメールが届いてすぐ、真はその場所へ向かった。

まだ日も満ちて居ない昼間。家に帰る事無く、学校から直接公園に来ている。

那穂に出会った付近のベンチに腰掛け、時間が経過するのを待ち続ける。

空は快晴。太陽は真上。

何とも心地良い日差しと春の穏やかな気候は、真を夢の世界へと導こうとしていく。睡魔と葛藤しつつ、ふと、意識を周囲に傾ける。

昨日とは比べ物にならない人の賑わい。

平日の昼間なだけあってか、大半が親子。

まだ、未就学児であろう。歩き方は皆覚束ず、母親も、多少心配そうに見守っている。他は、昼休みの社会人か、運動する老人。

学生の真は、普段目にしない光景であり、新鮮さを感じる。


「・・・何・・・やってんだろ」


自分を省みると、何の為に生きているのか解らなくなる。


――――――虚無感――――――。


それが、今の真に相応しい言葉かもしれない。身も。心も。

空はこんなにも綺麗だというのに、自分はとても荒んで、濁っている。

辛い。

苦しい。

悲しい。

―――――――淋しい。


何処に・・・行けばいい・・・?













――――――――身震いを覚え、目を覚ます。

どうやら寝てしまったらしい。


空は色を変え、黄昏を現し、人通りも少ない。

気温も、昼の暖かさとか比べものにならない位低下している。

時間は判らないが、約束の時間が近い。

大分寝ていた所為か、体調は回復しているようだ。


辺りの人も気にはなったが、体中に浴びる緋色の空に目を奪われた。

美しく、そして妖しく、異世界をも思わせる空間は、真を魅了する。

沈みゆく太陽をもう少し眺めていたかったが、真に近寄る気配を感じ、視線を移す。

知った顔。

しかし、那穂では無い。顔には出さないが、頭には疑問符。

制服を着た凪砂が真に近付いていた。


「あ・・・」


「那穂は遅くなる。お前と連絡が取れないので、頼まれて俺が来た」


戸惑う真に対して、凪砂は以前と変わらず、何の表情も見せず、抑揚の無い声で淡々と語る。

ただ、凪砂が座ったままの真を見下ろしている為に、威圧感すら与える。

それが更に真を困らせる。那穂に相談しようとした。

凪砂には・・・言えない。

いや・・・那穂にも、実際に会っても言えないかもしれない。衝動的な行為に多少の後悔。


「那穂に用があるのだろ?

終わり次第俺に連絡が来る。それまで場所を移した方がいい」


真の気持ちを知ってか知らずか、凪砂は移動を促す。


―――――良い人なのかもしれない。ただ、無愛想なのを除けば―――――。


「・・・わざわざすいません。」


ゆっくりと立ち上がると、凪砂は背を向けて歩き始めた。多少、真に歩幅を合わせているのが伺える。それでもまだ早いが、真も凪砂に合わせる。


会話は無い。

凪砂は喋る性格で無い様であり、真自身、今は有り難かった。






「相模っ!」



急に名前を呼ばれ、声の方向へ振り返る。

そこには、息切らせた幸希、そして久しく見る遥鳴がいた。



「・・・っ!!」


真は驚きと、同時に焦りを覚える。


「よ・・・四谷。遥鳴さんも・・・どうして此処に?」


普段の自分らしくない問い。

心臓の鼓動が徐々に加速する。


「お前早退しただろ。

だから心配して家に行ったらいねえし、遥鳴ん所かと思って連絡したらいない。連絡手段ねえからどっかで倒れてるかもしれねえから探してたんだよ」


早退した筈なのに、こんな所で何をしてるのかとでも言いたげな口調の幸希。

呆れているのか、怒っているのか、どちらかではある。



―――――――何でこのタイミングで―――。


真は一歩後退る。一番逢いたくなかった2人。

早くこの場を去らなければならない。

気付かれてはならない。

悟られてはならない。



――――――駄目だ。


―――――――――駄目だ!!!



何故なら後ろに居るのは――――。



「真。そちらの人は?」


願い虚しく、遥鳴は後ろの凪砂に気付く。


「あっ!!」


「継見凪砂。現狭間方筆頭。

逢うのは初めてだな。蒼間遥鳴。」



遥鳴の問いに隠す事無く直球で身分を明かす凪砂。2人は凪砂の思いもよらぬ発言に付いていけないのか、言葉を失う。

真も凪砂を見つめたまま、動かない。

一方の本人は何事でも無いかの様に一切の表情を出さず、立ち尽くしたまま。


「・・・狭・・・間?」


「お前が・・・・狭間の当主なのか?」


「そうだ」


他人事でもあるかの様に凪砂は答える。



「・・・真。君は、狭間に通じていたのか?」


遥鳴との視線がゆっくりと合わさる。

言葉が返せない。

遥鳴の顔を見れなくて、一瞬で目を逸らす。

見た目は繕っているが、中身は極限に混乱状態で、物事を冷静に把握する事も、判断すら出来ない。


「・・・蒼間。

お前はこいつに[印]しるしを付けてるな。

そんなに危険なのか?」


「え?」


空気を割った凪砂の問い。しかし真には言葉の理解が出来ない。


「・・・・・」


遥鳴はそれに答える事をしない。

幸希は俯いたままだったが、ポツポツと話始めた。


「何だよそれ・・・」


「幸?」



「お前は・・・俺達を騙して・・・裏切ってたって事か?」



幸希の言葉が胸に突き刺さり、頭を鈍器で殴られた様な衝撃。

「裏切り」の単語が脳裏に響き渡る。

それと同時に胸が熱くなるのを感じた。

幸希は今までに見たことも無い真剣な表情で、声の震えに怒りの現れが解る。


「ふざけんなよ!!!仲間じゃないのか?!

友達じゃなかったのかよっ!!!」



―――仲間――――


―――友…達―――?





「・・・何が・・・仲間?

いつ・・・私が仲間になったの!!??

今までっ私が何されても・・・どんなに独りでも見ず知らずに過ごして来たくせにっ!!!

私が蒼間に介入した途端友達ぶって・・・あんたはっ私の何を知ってるの?!

私は友達になった覚えも仲間だなんて思った事も一度も無いっ!!!

今だって追い出そうとしてるじゃない!!だから・・・っ」



溜め込んでいたものが零れ落ち、溢れ出た感情は止める事を知らず、涙と共に悲痛で感傷的な叫び声を上げる。

頭の中は真っ白で、感情のまま思いを吐き付けた。

だが、感情よりも体が先に音を上げてしまい、限界を超えた真は全てを出せずに意識を失ってしまった。

崩れ落ちた体は地に付くより前に凪砂に支えられ、力なき腕は揺れ下がる。血の気がない顔は涙に濡れ、痛々しい。


呆気に取られた幸希と遥鳴。

今まであまり感情を露わにしなかった真が、大粒の涙を流し、想いを叫ぶ姿に衝撃を隠せない。

そしてその内容も、2人の胸に突き刺さる。

返す言葉が見当たらない。



「――――――そう言う訳だ。

こいつはこちら側で預けさせて貰う」


「真を・・・どうするつもりだ?」


先の真の言葉が残り、絞り出すように遥鳴は問う。


「どうもこうも。俺達はこいつが何者か一切知らない。

出会ったのが昨日なんでな」


そう言い残すと、凪砂は真を抱えたままうっすらと陽炎のように残像を残し2人の前から姿を消した。

術式の1つ。追う事も可能だが、それが2人には出来なかった。






暫く時が過ぎ、幸希が力無く音を立てて地面に座り込む。


「・・・最悪だな・・・俺。

よくよく考えれば相模の事何も知らねぇし、転校する前は殆ど喋ってねえや」


制服に付く汚れを気にする事もなく、胡座をかいたまま幸希は俯く。

事実である為に、相当応えているようである。



「・・・真は・・・独りだったのか?」

「多分な。俺殆ど学校行ってなかったからさ」


「済まん」


「・・・何でお前が謝るんだよ・・・」


真を知らぬ内に追い詰めていた。それは遥鳴にも、多いにショックを与えた。

狭間と繋がっていたことよりも、遥かに。

真をこちら側に引き込んだのは仕方ない事、とは言え間違っていたのかもしれない・・・。

同じくして芽生えた矛盾と疑念。

凪砂と名乗る少年にも不可解な謎が残る。彼が着ていた制服に見覚えがあった。



――――――まさか高校生とは―――――――。




「・・・確かめたい事がある。少し付いて来い」

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