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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
23/45

出逢ったのは




「真。お昼は?」


「忘れた」


「昨日も忘れてない?」


「昨日は財布を忘れたの。今日は作ったものを忘れた」


近頃、真は昼ご飯を忘れる事が多い。

それには雪乃も呆れを通り越して心配してしまう。お金を貸すと言っても断るし、食事を分けるといえば真はそれすら受け入れない。

そんな雪乃と真の攻防戦を眺めながらもパンを頬張る咲妃と弁当をつつく奈々絵。


「何?ダイエットでもしてる訳?」


「してないよ」


「それにしては急に痩せてない?最近は雪乃にもしごかれてないんでしょ?」


「少しやつれてるって感じもするよ?大丈夫?最近は顔色も悪いし・・・」


皆からも心配される真に小さく息を吐く。


「そうかもね・・・。最近きつくて夜食べる前に寝ちゃうから」


「もー。ちゃんと食べなさいよー。今度押し掛けるわよ?」

「あーはいはい」


入学してから2週間。

咲妃と奈々絵とは雪乃同等、隔てなく会話出来るようになっている真。

新鮮な気もするが、昔では当たり前の行動。

蒼間と思わしい人々は全く近寄って来ないが、それ以外の生徒とは普通に接する。

近頃また幸希の欠席が続く今、約1年ぶりにグループで女子らしい会話を発している。が、話す側も限定され、雪乃と咲妃が話題を作り、真と奈々絵は聞く。そんな日常。


「真。今日は放課後ジム行かない?最近私も行かなくなっちゃったから体鈍っちゃって」


「あー。ごめん。食材切れてるから今日買わないとご飯無いんだ」

「そっか。なら仕方ないな」


「雪乃。あたしで良ければ付き合おうか?

今日は暇だし、そっちのジム行った事無いし」


「あっ私もっ・・・」


「マジで?助かるー。

真シバくのは楽しいけど自分の為にはならないのよねー。

他のは相手にならないし。久々だから腕が鳴るわ!」


雪乃の毒舌は気に障ったが、今の自分には言葉を返す気力が無かった。

体に力が抜けるのを感じながら真は静かに瞼を閉じた。





放課後。日は傾きかけ、空を茜色に染める頃、真は1人、見知らぬ土地に立ち尽くしていた。雪乃に告げた通り、真は食品の買い出しに来ていた。

新聞は取っていない真だが、偶然スーパーのチラシを見つけ、更には特売日なだけあって、チラシの簡潔な地図だけを頼りに目的のスーパーへ向かっているのだが、土地勘の無い真は不安が的中し、案の定迷ってしまっているのだ。

しかし、地図と格闘しているうちに、目玉のタイムセールは終了を告げている。

携帯の地図機能でも使えば問題は無いのだが、元から携帯を使用しなかった真は、その機能自体を知らない。

向けようのない苛立ちを抑えながらも、まずは駅へと戻る為に、来た道を記憶の限り戻って行く。


――――――確か公園があったはず―――――。


幾らか道を進むと、記憶の通り公園があった。

チラシの地図にも簡潔に載せられていた公園。

結構な広さがあるらしく、中へと入る。

公園なら、この周辺地図がどこかに書かれていそうだから。


---------違和感。

公園へ入ってから、道を進む。遊具もあれば、整備されたグラウンド、無造作に草花が生えた広場。そして駐車場。

まだ夕方であるはずなのだが、人が居ないのだ。誰一人。

此処までの広さを持つ公園。人を見ないのはおかしい筈。


1つの可能性に背筋が凍る。


―――暗鬼―――。


以前も誘われた。夜中に。今は夕方だ。

しかし初めて遭遇したのは真昼。

色々な思考を巡らせているうちに心臓の鼓動が高鳴る。

ここから離れなければならない。真の足は自然と駆ける。

来た道を戻るより、このまま突き抜けた方が早い。距離的にそう感じた。


風は感じる。夕方時の冷えも感じる。



「――――!」


そんな中人の声が聞こえた。

足を止め、周囲を見渡すと、広場に人影を見た。人が居た。

その事に安堵した真は肩の力が緩み、自然とその人影に近付いて行く。

人は5人。4人の青年に、1人の少女。

その光景は青年が少女を取り囲んでいる。


決して、雰囲気の良いものでは無いと言える。

不穏な空気にどうすべきか物陰で立ち止まったままの真。

真に気付く事もない彼等の会話は進んで行く。




「―――だからっ私はそんな気は無い。

凪砂も望んでいないし、私は方針を変えるつもりも無いわ」


少女は気丈に、囲う彼等に怯む事なく事を述べる。

まさか断られるとは思ってもみなかったのか、彼はその否定に憤る。


「解らないのか?だから俺達みたいな存在が増えているんだ。

断った以上、俺等の事を奴に知られない為に消えて貰う。」


そう怒鳴った男達はじりじりと少女を追い詰めるかのように間合いを縮める。

それを眺めていた真は焦っていた。

―――助けなければ―――

しかし、いくら真が雪乃に実践的な技術を学んでいようとも、真1人が男性4人に叶う訳も無い。助けを呼ぼうにも周りには誰1人居ないのだから。


真の思いを余所に男は少女に殴り掛かっていた。不思議とその動きはゆっくりと見て取れた。

彼女も、流れるような動きで難無くそれを交わした。一歩後ろに跳ね、間合いを取る。後の光景は真の瞳を深く疑わせた。


彼女の右手から小さな光が発せられたかと思うと、その光は輝きと大きさを増し、形を作ると、光は消え、手には刀が握られていた。

時代を思わせる現代には不釣り合いな日本刀。

少女はそれを、何処からか出現させたのだ。

男達は強気に出ていたが、刀を現した事により、後退り始めた。


彼等を逃がす事無く、一振りで4人もの人数に深々と傷を負わせる。鮮やかな鮮血と共に地へ伏せる4人。

それは幻想的にも近く、恐れより、見とれていた。息はあるようで、唸る彼等を見下ろしすと、右手に握られていた刀は何処かへと消えていた。

それからはポケットを探り、携帯を取り出すと、何か話している。会話は此処からは聞き取る事が出来ない。


この時の真は、眼前にある光景に夢中になりすぎて、隠れると言う思考を持ち合わせて居なかった。それ故に、会話を終えた少女と目を合わせてしまう。



「!!」


勿論の事、真は焦ったが、真以上に少女の方が驚いていた。

明らかに見てはいけない物を見てしまっているのだ。普通に帰して貰える筈がない。

徐々に心臓の音が高鳴って行くのが感じられる。


「人払いはしてた筈・・・」


少女の顔つきは剣呑な物に変わり、こちらへと歩みよる。



「あなた・・・蒼間?」











「私は五十嵐那穂いがらしなほって言うの。17よ」


状況が掴めない。



「相模、真です。高1です・・・」


何故本来なら敵と言われる存在である狭間の人間と喫茶店なんかにいるのか。

数分前までは、目の前で人が切られて、自分自身、命の危機に晒されていた筈だ。

経緯はこうだ。

那穂による蒼間か否かの問い。それには直ぐに答える事が出来なかった。

確かに[蒼間]として、真は此処にいる。しかしその一方で保護の対象としても扱われている。

[狭間]からすれば、真の存在は後者にしか過ぎないのかもしれない。

[蒼間]と[狭間]は互いに啀み合ってきた同士。肯定を唱えれば生命の安全は出来ないだろう。

それを理解しつつ、真は頷いた。

だからといって戦う気もなければ命乞いをする気も無い。ただ自分を通し、流れに身を任せていたのだ。

簡単な問いに沈黙の時間が続いたと言うのに、那穂は真を見つめたまま。しばらくして告げた言葉。


「もしかして・・・最近蒼間に飼われたって子?」


その口調は先の緊張感の微塵も感じさせないものであった。

真に関心を持った那穂が、半ば強引にお茶を誘い、今に至っている。


「ふふっ。ごめんね。無理やり連れて来ちゃって。

噂で聞いてからどうしても気になっちゃって」


那穂の口調も雰囲気も、とても落ち着いて大人びたもので、年がそう変わらない事も含め、真を更に戸惑わせる。


「那穂さんは、[狭間]なんですよね・・・?」


「ん?そうよ。因みにさん。も敬語もいらないよ。初対面だから難しいだろうけど」


「何で・・・私の事を知ってるんですか?

蒼間と狭間の一族は対立しあっているって聞いてます。それなのに・・・」


―――こうやってお茶をしているなんて・・・・。



那穂は紅茶を啜るとほっと一息ついた。



「まあ落ち着いて。

答えられる範囲には極力教えてあげるから。

蒼間が何処まで私達の存在はを把握しているかは解らないわ。

でも、蒼間は違う。

知らない?蒼間の名を継げるのは当主1人なの。

だから、此方から調べるには簡単な事。それに狭間に比べて財力も権力も持っている組織だもの。動向なんて直ぐに把握出来る。

そしてもう1つ。確かに両家とも古くから何かしらの因縁があって対立しているわ。

戦後から本格的に争っていたのも事実。

でもここ何年かは直接的な諍いは稀と言っていいほど無いの。

で。

[狭間]である私と[蒼間]である真ちゃんが出会ってしまったんだけど。

私には今蒼間と争う気はないの。

それどころでも無いって言った方が正しいかな。」


那穂の説明は真の知らないものであったが、納得もいく。

つまり、現当主である遥鳴のみが、蒼間の名字を持てる訳である。


「それ所じゃないってのは・・・?」


「忙しくて蒼間に構ってられない。って感じかな」


そう言って軽く微笑む那穂。これ以上詮索するな。そう言われた気がした。


「守秘義務があるのを知って敢えて聞きたいんだけどね。

蒼間に入った以上、私達狭間との諍いには避けられない。命の保証も一切ないの。

それで、どうして真ちゃんは蒼間に入ったの?強制なのか、自分の意志なのか。

それが聞きたいの」


「・・・自ら入ったって訳じゃないんです。

色々あって、保護の名目でお世話になってるんです」


「そっか」


すると那穂は口元に手を当て、何かを考え込む様子で俯いた。



「ねえ。少し席を外していい?」


その問いに真は弾かれた様に返事をすると、那穂は一言詫びを入れ、店の外へと出ていった。

那穂の後ろ姿を見送ると、真は烏龍茶で渇いた喉を潤した。

まさか狭間に出くわすとは思っても見なかった。どこか、非現実的な組織だと。あの場で那穂に出会ったのは本当に偶然か、必然的であり、意図したものでは無いと思う。

那穂の行動も。

演技なら真には大体の区別が出来る。


―――――――――疑念―――――――――――。

今まで起こった数々の問題は、全て狭間に関わるもの。元凶である。狭間の、那穂の発言。それが全く噛み合っていない。符合しないのだ。

真の脳裏をよぎったのは蒼間と狭間以外の第三者の存在。


―――――――――暗鬼の話をするべきだろうか―――――――――――。


それによって何かは変わる。

良い方向か、最悪の方向か・・・。


しかし真実が得られるのは確かだ。


暫く瞳を閉じて考えてたが、辞めた。

これ以上人を疑い過ごすのは辛い。

蒼間。遥鳴だけは信頼したいのだ。


時が事実を告げるのを待つ。裏切られても、逃げたくはない。


「ごめんね待たせて」


いきなりかけられた声に真の心臓が一瞬高鳴る。いつの間にか那穂は戻って来ていた。

それからは、一族関係の話題は一切無く、お互いの話のみをしあった。

那穂の学校が真の学校と駅を挟んだ反対側にあること。家も一人暮らしであることなど。

初対面にも関わらず、女子特有の会話が弾んだ。勿論、那穂の一方的な会話に真が答えるようないつものパターンではあるが、戸惑いは含めながらも、真珍しくは警戒心を持ってはいなかった。


「そろそろかな」


ふと話を止め、那穂は手にしている腕時計を眺めた。つられて真も店の時計を見ると、40分近く時間が経過していた。


「どうかしたんですか?」


「ん?人を呼んでたの。どうしても真ちゃんに逢わせて見たくて」


思わず訪ねると、那穂の返答は真を困らせた。


―――――――――何故了解も得ずに進めているのか・・・

そんな疑問を沸かせながら真は言葉を詰まらせる。


「ごめんね。断られそうだったから言わずにさっき電話したの」


「・・・誰なんですか?」


「凪砂って子」


確か聞いた事のある名だ。公園で聞いた名前。


「そう言えば・・・さっきの人達は・・・」


「ああ。さっきのは同族なの。仲があんまり良くなくてね。色々大変なの」


「大丈夫なんですか?」


「勿論。急所は避けてる。

人払いもしてたから大丈夫。一族の者が迎えに来たはずだから」

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