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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
22/45

春の陽気




暖かい日差しに、まだ冷たさを残す風。

それが心地良さを作り出す季節。

風は、桜を舞い踊らせ、別れと出会いをもたらせる。それは真も例外では無い。


「いや~これで私も安心したわ。

無事に進学出来たし、更には同じクラスだし!!」


余程心配していたのか、雪乃の表情は晴れ晴れとしていた。


本日は高校の入学式。

真は何とか無事に追試を逃れ、晴れて高校へと進学が出来たのだ。

真新しく、汚れ一つ無い制服と、女子に至っては使い古した制服に不釣り合いな新品のスカーフ。中学と高校の区別をする他、その制服は、一貫生と、新入生をも区分させていた。


「・・・よくもまあ3人同じクラスになったもんだよなぁ・・・」


クラス分けが貼られた掲示板を仰ぎながら、隣で幸希が感嘆げに呟いた。

真以上に卒業が危ぶまれていた幸希だが、遥鳴の指導あってか何なのか、追試では好成績を残したのだ。

周囲では生徒が真等と同じように掲示板に群がり、クラス分けにより、喜んだり、悲しんだり、様々な表情を見せ騒ぎあっている。

当たり前の光景なのかもしれない。

だが、この人だかりに音を上げたのは真。

人の波に酔ったのだ。眉間にしわを寄せたまま、顔色を青白くしている真を雪乃は悟ったのか、半ば呆れ気味に教室へと移した。


高校進学は、大人になれる気がして、少なからず憧れを抱いていた。

実際は、制服のリボンがスカーフに変わっただけで、何一つ変化は無い。

中学を卒業した時も、追試により心の余裕すら生まれず、取り分け仲の良い友人も居ない訳で別れを悲しむ事も無かった。


そんな真には、新しい出逢いを期待する事もなく、軽い虚無感が身体を纏わりついていた。

中学校と隣接していた高校の校舎。常日頃から目にはしていたが、実際中に入ると中学とは倍ほどの広大さを誇っている。

その分、人も多い事。掲示板の人集りが物語っていた。


3人が与えられたクラスは2組。

その為に靴箱からも距離が近い。


教室へ入ると、黒板には在校生が描いたであろう入学を歓迎する文字がチョークの色のある限りを使って華やかに飾り立てられていた。人はまだ少ない。

自分の名前が貼られた席を確認すると、真は我先に重い腰をおろす。

2人もそれぞれ席を見つけると荷物を置き、真の元へ。


「あんたどれだけ人駄目なの?」


雪乃は完全に心配から哀れみへと心を移す。


「苦手なものは仕方ないでしょ…。」


深い溜め息と共に呟くように真は吐いた。



「あれっ雪乃?!」



その声は教室中に響き渡り、本人は勿論の事、真や幸希、その空間に居た生徒が皆、声の主に視線を向けた。


「あ―――咲妃?

うっそ!!奈々絵まで!

えっ何?此処受けてたの?」


驚きと歓喜の声を上げて雪乃は2人の元に駆けて行く。


「小学校の卒業以来?

連絡はしても会わなかったからね。

因みに言わなかったのは驚かせようと思って。」



「久しぶり・・・雪乃ちゃん・・・。」


声を上げた少女は嬉しそうに、横に居た少女は照れているのか、内向的なのか、多少控え目に喜んでいる。

3人の世界を作っている様子を、伏せたまま横目で眺めていた真だが、雪乃は直ぐに振り返り、真もその世界に入れ込んだ。


「真っ。紹介するね。

小学校まで一緒だった咲妃と奈々絵。

一応、蒼間の一族なの」


蒼間。

その単語には嫌でも反応してしまう。

この2人も、同じ。人見知りも加えてか、2人を視界には入れず、会釈のみ済ます。


「この子が例の子?」


―――関わらないで欲しい。

そんな真の思いとは裏腹に、咲妃は真に介入して来る。


「そうよー」


「噂が噂だからどんな子かと思ったけど・・・普通だね。雪乃も変わり者だからね」


そこまで話すと気がついたかのような表情を見せる。


「あー。ごめんごめん。悪い意味じゃないんだ。」


そう言いながら否定を手で表す。


「あははっ。ごめん真~咲妃口が悪いのよ。

私も人の事言えないけど。

でも大丈夫よ!どっちかと言えばうちらの見方かな?」


誤解を解く雪乃に2人は小さく頷く。


「・・・・それより。

どうして此処にいるのか疑問なんだよねー。

幸希。」


いきなり話題を振られた幸希。我関せずと言った顔をしていたが、咲妃のひ冷ややかな発言により、幸希肩が多いに跳ねる。


「・・・気付いてたのか」

「隣に居て気付かない訳無いでしょ・・・。

大体こっちに来てた上に、遥鳴さんの家に住み着いてるなんて。

どーゆー了見なのよ。」


笑顔ではあるが、目は一切笑っていない。言語にも強みがある。

まさかこんな場所で遭遇するとは思わなかったであろう幸希は返答に困らせる。


関係を持ちたくない。

そんな本音を言える訳も無く、苦笑いで誤魔化す事しかできない。

加速する2人のやりとりを何も言わずに眺めていた真。それに気付いた奈々絵は控えめに真の横に来て、初めて声を交わす。


「あのね。咲妃の名字は幸希と同じ四谷なの。

蒼間って大きな組織の中にも色々あってね。

四谷は蒼間を補佐する三大名家の一つなんだ。」


奈々絵の説明を腕組みしたまま聞いていた咲妃は溜め息をつき、さらに毒を吐く。


「こんなんじゃ四谷直系の嫡子だと思うと先が思いやられるわ。」


「まぁこんなんだから仕方ないよ。諦めな咲妃。」



そんなやり取りを含め、真は新たに四谷咲妃[ヨツヤ サキ]と道重奈々絵[ミチシゲ ナナエ]。2人の蒼間の味方を得た。

後に、雪乃から聞いた話。奈々絵も、その能力値から親に見捨てられており、咲妃も[蒼間]の存在に疑問を感じていると言う。

そんな2人が、真をどう感じているのかは不明だが、少なくとも他の連中とは違い、危害は加えない。だから安心していい。

そう雪乃は真の疑念を除かせるよう、念を押した。

とは言え、中学に比べ、高校は蒼間の人口も格段に増えている。

それは痛い程に突き刺さる視線が物語っていた。いつもと違うのは、真を取り囲む面子の所為か、耳に入る程の陰口は聞こえなかった。


放課後になると、真はいつもの様に疲れ果てた顔を見せる。授業は昼までと言うのにそれはもう、帰る事すら億劫であるかのように。


帰りは雪乃と2人きり。慣れた道。少し違う気持ちで歩いているのかもしれない。

今日ばかりは訓練も行わない。


「ねえ真!あんた誕生日いつ?」


急に話題を変えられ思考が止まる。


「・・・あ」


完全に忘れていた。

もう、そんな季節にまでなっていたのか。


「来月。12日・・・」


それを聞いた雪乃は喜んだのか真の前に踊り出る。


「よかったー。

どんな理由で渡そうか考えてたんだよ。

はい」


バックを漁り、真の手を広げさせると、取りだした品を置いた。それは携帯電話。

理解に困るのか、首を傾げる。



「ひと月早いけど誕生日プレゼント!

仕方ないとは言え、流石に年頃の女の子が連絡手段無いと相当不便なのよねー。

経費もあたし持ち。

それならバレないし問題ないでしょ」


「そんな。申し訳ないけど貰えない・・・」


月々いくらかかるかなんて知らない訳がない。品だけなら貰えるが、それでも罪悪感が宿る。


「ちょっとー。拒否なんかしないでよ。

折角契約とかしたんだから。そんなに心配する事ないよ。殆ど定額だし。

お金も両親と蒼間の支給で問題は無いし!

まぁ機種が2つ程前なのは申し訳ないけどさ。私の登録してるから!有り難く使いなさいっ」


半ば強引に真ね手に携帯を握らせる雪乃。

ここまでされて断る訳には行かない真はそれを握り締める。


「・・・ありがと」


小さく呟いた真の声が届いたのか、雪乃は誇る様に微笑んだ。


かと言え、真の携帯所持は約束とは異なる。遥鳴と幸希知られてはならない。その為にも、やりとりは最低限雪乃に限らせ、常にサイレントで暫くは隠し持つよう心がけるようにした。


その日の夜は雪乃からの電話で長々と通話した。殆どが雪乃からの話。嬉しかった所為か、機能に手間取った話。新しい生徒。さっき観たテレビに授業内容。

全て他愛ないものではあったが、3ヶ月以上家で会話の無い生活を続けていた真。

雪乃も一人暮らしだからこそ、気持ちを知っての配慮かも知れない。


自分らしくない。

そう、理解しながらも、携帯を通して真は雪乃に会話を送り続けた。

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