エピローグ
気付けば、目がチカチカするような、真っ白の空間にいた。
そして、あの時と同じように、目の前には光。
「やぁ。久しぶり」
やけに気さくな声をかけた光は言う。
「一つ、君に聞いておきたかったんだ」
「はぁ」
「君は、恨んでいるかい?」
今更過ぎて、その意図が読み取れなかった。
もしかすると、これはあの時のように現実(?)ではなく、単なる夢なのかもしれない。
だけどその一方で、その声音には気遣うような色が感じられた。
だから私は、ちゃんと答えようと思った。
「わかりません」
色々なことがあったから。
感謝するとか恨むとか、そんな単純には割り切れなかった。
「そっか。じゃあ、もう一つ聞いていいかな」
一つじゃなかったんですか。
そう口にするよりも早く、光は言った。
「君は、あの世界は好きかい?」
「……わかりません」
前の質問と一緒。
そうとしか答えられなかった私に、光は言う。
「なら、前の世界に戻るかい?」
できるの?
そんな疑問が浮かぶより先に、私は答えていた。
「いえ」
と、否定の言葉を。
「どうして?」
そんなの決まってます。
「世界って言われるとよくわかりませんけど、あそこにいる人たちに会えなくなるのは、寂しいですから」
「……そっか」
どこか嬉しそうな声が聞こえると、視界がぼやけ始めた。
あ、終わるんだ。
すんなりそう思えて、目を閉じた。
「辛いことがあっても、悲しいことがあっても……君にとって、あの世界が居場所なんだね」
どこか遠く聞こえる声が悲しそうに思えて、私は言った。
言っておかなきゃいけないと思った。
「楽しいことも、嬉しいこともありましたから」
その点は、感謝しているかもしれません。
そう、言葉にできたかどうかもわからないうちに、私の意識は解けていた。
気が付くと、私は自室にいた。
目の前には、全身を映す鏡。
……着替えてる最中に明晰夢?
どんな夢を見ていたのか、むしろ夢を見ていたかすら曖昧で、まぁいっか、と着替えを再開。
支部そのものの規模が大きくなり、別棟となった部屋を出て本部棟へ向かう。
生真面目で、いつも飄々としてるクロードさんを睨めつけてるフクロウの鳥人の子。
ちょこちょこと動き回るリスの獣人の子を、狩猟犬的な目で追うカティ。
細く、先に生えた毛が揺れる尻尾をリアに何度も掴まれ、その度に驚く様子に男性の視線が釘付けになる牛の獣人の子。
受付や総務、事務とか色々な役職の人が増えたけど、雰囲気は全然変わらない。
休憩に入るリアと入れ替わるようにカウンターに立ち、業務に努める。
必死になって料理を頬張る人。
遊びに興じる人。
掲示板を見ながら唸る人。
ここは、本当に変わらない。
だけど……変化はいつも、この世界のどこかで起きている。
今まさに支部に足を踏み入れたのは、物珍しそうにしながら歩く少年少女。
二人は共に黒髪で、黒に近い茶色の瞳。
迷っている風の二人を出迎えたエリーゼと言葉を交わしながら、少年がキョロキョロと辺りを見渡し――私を見た。
その顔に浮かぶのは、満面の無邪気な笑み。
「やっぱ、ファンタジーにはエルフだよな!」
その言葉を、このホールにいるどれだけの人が理解できただろう。
内心の苦笑を押し隠し、いつもの笑顔を浮かべてお辞儀する。
「いらっしゃいませ」
ようこそ、リュネヴィル支部へ。
そして――ようこそ、剣と魔法の世界へ。
貴方たちの進む道に、助力は必要ですか?
完
です! これにて、
「なんとか表舞台に引きずり出したい世界の意思」
VS
「絶対表に出たくない主人公」
という『ギルドのチートな受付嬢』本編の物語は完結です。
今後、ここには日常的な話を不定期に投稿していくだけだと思います。
お読みいただき、ありがとうございました!




