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ギルドのチートな受付嬢  作者: 夏にコタツ
支部と竜
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1-3:「またのご利用をお待ちしております」

 結論から言うと、圧勝でした。

 生態系を壊すな、って言ったのを考えてくれたのか、エリックの召喚したワイバーンに皆を乗せて蜘蛛の真上まで無傷で到着。

 飛び降りると同時にヨルクがスプレッドからアイスロックの連携で蜘蛛の関節部分を確実に凍結させて動きを封じ、ルーラがその真上からストライクノヴァで隕石を落として外殻を破壊。

 あとは皆でフルボッコ。最後の締めは、クレスの超絶最強聖輝剣。……ダサイから変えろって言ったのに、また叫んでるし。見た目は完全にセイバーのエクスカリバーでかっこいいのに……。

 哀れ蜘蛛。

 私にその姿を晒したことこそ最大の失敗と知れ。

 ……なんて。

 まさかあの五人が揃うなんて誰も思わないって。



「依頼の達成を確認させていただきました。素材は……」

「「「 ………… 」」」


 あるわけないか。


「では、報酬は山分けの一人頭400万ギルズでございます。現金でお渡ししますか? 口座に振り込みますか?」

「「「 口座で 」」」


 ですよねー。


「お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております」


 これで、人知れず上層部だけを震撼させ、人知れずオーバーキルに散った暴君の騒動は終結した。




 ……わけないですよね。

 ただ討伐のためだけに、この五人が来るわけないですよね。


「イリア、俺たちと来てくれ!」

「また一緒に旅をしようよ! きっと前以上に楽しいよ!」

「……それに、南の大陸に悪魔が出たっていうんだ」

「僕たちは、そいつを倒しに行く。力を貸してほしい」


 南の大陸かぁ……。

 ん? 待てよ?


「大丈夫。皆なら勝てるよ」

「力だけの話じゃないんだ!」

「それも大丈夫。新しい仲間が増えるから」


 私の言葉が理解できなかったのか、三人は揃って首を傾げた。

 仕方ない。もう一つヒントをあげようと思う。


「ラント火山に行ってみて。素敵な出会いがあると思うから」


 言ってみてすげぇ恥ずかしかった。

 え、何これ黒幕? 裏で操ってる奴っぽくね?

 と、私が一人で恥ずかしがってる間に、察したヨルクが口を開こうとした。

 だから、しーっていうジェスチャーで黙っててもらった。


「……わかった。イリアの言葉って、なんか当たるしな」

「でも、私たちは友達だよ」

「絶対また会おうね」

「じゃあな!」


 純真すぎる言葉を残して、少年少女は去って行った。

 大精霊、サラマンダーとの契約。

 いつも足手まといなんじゃないかって怯えてたあの子に、ちょっとは自信がつくといいな。

 ……セレナに火傷一つでも残したらあのトカゲぶっ殺す。


「じゃあイリア、私と結婚しよ!」

「無理です」


 じゃあってなんだ。じゃあって。


「またフラれたぁ~」

「貴女は人に構ってないで自分の可能性を広げてください。古代魔法の解読もいいですが、身体を動かすのも大事ですよ。……そうですね。槍術なんか楽しいと思いますよ」

「それって……」

「自分で考えてください。好きでしょ?」


 問題解くの、って言おうとしたんだけど……。


「うん! イリア大好き!」

「んむっ」

「じゃあまたね!」

「うう……」


 あのキス魔……!

 嬉しかったじゃないか! 元が男じゃなかったら泣いてるところだぞ! しかも普通の人間だったらスキルで洗脳されてるところだ!

 さっさと槍術レベルでもあげて悪魔から魔槍でもかっぱらってこい!


「あの黒エルフ……!」


 あ、こいつまだいたんだ。

 っていうか黒エルフって悪口になってないよね。まんまだし。


「イリア様。私如きを弟子にしてくださいとは言いません。ですが、どうか……どうか長老に会っていただきたいっ……」


 うわぁ……土下座ってやられると引くわ……。

 エルフってプライド高いのに……こんな人前で土下座なんかしたら禿げちゃうんじゃないだろうか。イケメンが勿体無い。どうでもいいけど。


「却下」

「そんなっ」

「どうせあのジジイが呼べって言ったんでしょ? 会いたかったら自分から来いって言っといて。それが最低限の礼儀よ」

「……はい」


 とぼとぼと立ち去るヨルク。どうせあの頑固ジジイが里を出ることも人里に下りてくることもない。絶対にな! せめて育毛剤でも送ってやるか、と悩んでいたところで、目の前に大きな力の渦が生じた。


『あの子には助言していただけないのですか?』


 水の女王ウンディーネ。私の好みに合わせて清廉な女性の姿で現れた大精霊に、私は首を振る。

 精霊の言葉も翻訳・通話可。チートってズルいね!


『彼はまっすぐ最良の道を歩んでます。貴女が支えてくれればそれで十全ですよ』

『貴女にそう言っていただけると嬉しいわ。……でも、他の方は何かいただけたのに、と拗ねて道を外れてしまうかも』


 くすくすと笑う大精霊に、私は苦笑を返す。


『仕方ありませんね』


 エプロンのポケットにたまたま入っていたピアスをウンディーネに託す。


『これは?』

『水龍の角から作ったと言われるピアスです。彼と言葉を交えれば、何かが掴めるかもしれません』

『あの子、人の話は聞きませんものね』


 天才故の傲慢というかなんというか。

 お互いの思いが伝わり、二人で忍び笑いを交わす。


『では失礼します。神の子よ』


 次の瞬間、ウンディーネはヨルクの傍に立っていた。彼女から何か手渡され、こちらに走り出そうとしてヨルクはこけた。足元が凍りついて反射していることはヨルクには不幸な事故だと思う。気絶した人間が引き摺られるように動くという怪奇現象が起きたけど気にしない。


 今度こそ本当の終わり。


 ホールにいる人たちは有名人に圧倒されてたけど、いなくなっていくうちにいつも通りに戻って行った。数分も経たないうちにホールはいつもと同じ喧噪に包まれる。

 働けよお前ら。


「イリア、良かったの?」

「え?」


 ホールを眺めていると、いつの間にか隣にはリアが立っていた。


「だって、すごい人たちだったんでしょ? 皆、イリアのこと大切に思ってくれてたみたいだけど……」

「うん。それはすごく嬉しいし、私も大好きだよ。……でも」


 皆の選んだ道はそれぞれのもの。紛い物の出番はない。

 だから私も、自分で選んだ道をいく。

 誰かのためじゃない、自分のために生きる道。


「私、この街と、街の皆が好きだから」


 だから今は、これでいい。

 ここじゃないどこかで道が交わるその時まで。


 ゆるく楽しく、私は生きます。


一話終了です。

性転換はフラグをへし折るための設定でした。

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