表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドのチートな受付嬢  作者: 夏にコタツ
ギルドのチートな受付嬢
49/53

8-4:「今大丈夫?」

 それから、私は彼らと連絡をとった。


 連絡手段は、世界中に送ってもらっておいた風の結石。

 送り先は私の知り合い。

 予定とは少しずれてしまったけど、元々このために配達してもらったものだからね。


 まずは世界中、どこでも風の結石で通信がとれるよう魔力を最大解放。

 最初に繋げたのは、ルーラに送ったものと同調する結石。


「ルーラ、聞こえる?」

『イリア! 待ってたよ!』


 でるの早っ。

 あと声大きいよ。


「元気みたいだね。良かった」

『うん!』


 強がり……ではなさそう。


「そっちはどう?」

『あー、うん。これから国との合同の依頼で、噴火の原因っぽい魔物を倒しに行こうってところ』


 さすがにもう原因は突きとめてたか。

 まぁ“最強の邪神”は最強を自称するっていうだけあってかなり自己顕示欲が強いから、見つけるのは簡単だったのかも。


「ルーラもその討伐に参加するの?」

『うん。今はまだ結界で何とかもってるけど、溶岩で今までの研究資料とか、ダメにされたくないし』

「そっか」


 せっかく前向きになれたんだもんね。

 前の状態……過去のために生きていた頃には戻りたくないと思ってるって、考えていいのかな。

 そうだと嬉しいけど、今は本来の目的を進めないとね。


「大丈夫そう?」

『…………』


 あれ、返事がない。

 どうかした? と聞く前に、応えがあった。


『街にさ、おばあちゃんいるんだ』

「……ルーラの?」

『ううん。赤の他人。家族と一緒に引っ越してきたとか言ってたかな? ……でさ、歩きながら食べるなとか物は大事に扱えとか、見かけるたんびに説教してくる、怒りっぽいおばあちゃんなんだけどさ』

「うん」


 何を言いたいのかはまだ分からないけど、彼女の声は穏やかで、そのおばあさんを嫌ってはいないことだけはわかった。


『でもさ、足が悪いんだ。……結界が少しでも綻びたら、煙から逃げられないと思う』

「……うん」

『離れた街に送ってあげよっかって言ったらさ、なんて言ったと思う?』

「なんて言ったの?」


 ――アタシがいなくなったら、誰があんたを叱ってやるんだい。


『だってさ。おかしいよね? 押しつけがましいし。優先順位も変だし』


 呆れたように言いながら、『だけど』とルーラは言葉を続けた。


『だけど、死んでほしくないなーって思ったんだ。同じ煩いのでも、ギルドの奴らは別にどうでもいいのに』


 それはきっと、ルーラ自身が「自分のために怒ってる」って気付いてるからだと思う。

 だけど、本人はそのことに気付いている様子はなくて……本当に、不思議そうに言っていた。


 まだ、彼女にとって殆どの人間は、どうでもいい……むしろ煩わしいだけの存在なのかもしれない。

 それでも、そのお婆さんのように、大事に思える人が増えたらいいなって思う。


『あー、えっと、何の話だっけ……ああ、そうそう! だからね、もう面倒くさいからおばあちゃんが逃げなくていいように、噴火させたバカは確実に倒したい』

「うん」

『だから、イリア、力を貸して』

「いいよ」


 そのために、こうして連絡を取ったんだから。

 だけど、


「でも、助言だけね?」

『えー、会いたいよー』


 おいこら。

 そっちがホントの目的っぽく聞こえるからやめなさい。


『でもしょうがないっか。お願い』

「うん。まず、噴火の原因になってる魔物だけど――」


 私は、知り得ている情報をルーラに告げた。


 原因の魔物が邪神であること。

 火の属性の魔術を自在に操ること。

 邪神自身が火の属性因子を生成するから、火の魔術を使って因子を減らすっていう策は使えないこと。

 火の魔術は当てても意味ないし、風の魔術も熱を逃がしたりできるけど、場合によっては逆効果になりかねないから使用を控えること。

 中途半端な水の魔術も、一気に水蒸気や蒸気になって危険だから控えること。

 火傷に注意。

 弱って本体が出てきたら、まず火山から引き離すこと。


 こんなところ。


『じゃあ、蒸発もできないような強い水魔法をずっと当ててれば勝てるってこと?』

「極論を言えばね。そうそう、消滅したと思っても魂が残って誰かに乗り移っちゃう可能性があるから、弱体化させて封印が一番安全な落としどころかな」

『封印術か……うん、わかった! あ、そうだイリア! この前言ってた槍なんだけど――』


 その後、同じ討伐体と思われる人が注意しに来るまで話は続いた。

 ルーラが他の人たちを説得できるかどうかっていう不安はあるけど、自信がありそうだったしきっと大丈夫。

 ……この際OHANASHIでも構わないからね!





 じゃあ次。

 同調する結石の持ち主はニーナ。


『もしもし、ニーナです』


 あ、なんかすごく懐かしい感じ。


「イリアです。今大丈夫?」

『うん! あ、ちょっと待って!』


 誰かと話してる声が聞こえる。


『神子のねーちゃん!? ひっさしぶりー! へぇー、結石ってこんな風に使えるんだねー。でもねーちゃんなら精霊に……って、僕らが止めてるんだった! あははー!』

「シルフは相変わらずっぽいね……」

『ほんと契約に縛られるとかありえねーって思ってたけど全然だったね! こんなんなら、って、あ、ちょっ――ごめんねイリア! もう大丈夫だよ!』


 声がニーナに戻った。

 完全にケータイとかスマホを友達にとられた感じだったね。

 仲良くやってるみたいでなによりです。


「忙しそうだけど、今何かしてる?」

『えーっと、ギルドの偉い人と大統領さんが喧嘩してるのを、ダーリンと一緒に仲裁してるとこ』

「け、けんか?」


 詳しく事情を聴くと、海の男気質な国の軍隊が「しゃらくせえぶっ倒してやる!」といきり立っているところを、外部からの委任でやってきた列島諸国連合ギルド本部長が冷静に「本当に倒せるんですか?」とそれを窘めていたらしい。

 ……確かに軍も短絡的だとは思うけど、本部長の言い方も皮肉っぽくて逆撫でしちゃったのかな。

 で、喧嘩になって、それをエリアスさんとニーナがなんとか止めている、と。


「ちなみに、軍隊の方はどういう作戦を行うのか言ってた?」

『ううん。ボクが聞いたのは、島で元凶の魔物が休んでる今がチャンスだ、総攻撃をかければ数で押し切れる、だったかな?』


 わぁ、脳筋☆


「光に群がった魚は一網打尽にされるのにね」

『そっか! それなら納得してくれるかも!』


 ……考えてなかったの?


『やっと止まってくれたよー』


 考えてなかったんだ……。

 紛うことなき脳筋だよ……。


『ありがとイリア。連絡くれたのって、今回のことについてだよね?』

「うん。少し聞いたけど、大丈夫そう?」

『うーん、いまいちかな。飛べる人が近づくとなんか逃げちゃうし、かといって船は遅いし、みんなで囲もうとして近づいて、風でいっぺんにやられちゃったら大変だもんね』


 ちゃんと考えてくれたみたいでなによりです。

 でもたぶん、それって逃げてるんじゃなくて競争がしたいだけだと思うんだよね。

 最速の邪神って名前、速度を競うのを好むって文献にあったし。


『どうしようイリア。このままだとみんな、ちゃんと漁に出られなくて困っちゃうよ』

「……うん。少し、シルフに代わってもらえないかな」

『え? うん、わかった――なになに!?』


 いきなり代わるとびっくりするんですが。

 まぁいいや。楽しそうだし。


「シルフ、世界樹に何か命令されてる?」


 私に協力するなとか、今回の騒ぎは静観しろ、とか。

 そんな命令を受けてるなら、また別の方法を考えるんだけど。

 もし答えられなくても、似たような意味だって考えればいいし。


 そんな私の予想に対し、シルフは言った。


『ううん。今はなんにもないよー?』


 と、なんでもないことのように。


 それって、世界樹から何か言われることもある、って言ってるのと同じだってわかってるのかな?

 使徒さん自身が言っちゃうくらいだし、隠してないのかもね。

 ……私にだけだったりするのかなぁ。


 ともあれ、こうして証言を得られたことは大きい。

 まさか、自由気ままな風の大精霊だから見逃されてるってこともないだろうし。

 ということで、改めてニーナに代わってもらう。


「さっきの話だけど、シルフに協力してもらえばいいんだよ」

『え? でも、風をぶつけあってもあんまり意味なかったよ?』


 試したんだ。

 でも惜しかったのかな。


「ぶつけるんじゃなくて、受け流しちゃえばいいんだよ」

『受け流す?』


 邪神の巻き起こす風がどれだけ強力でも、結局は風の因子の塊。

 だから、同じだけ風を自在に操ることができる存在……シルフなら、その使われた因子に干渉して、別の場所に風を放てばいい。


「大事なのは、相手に跳ね返そうとするんじゃなくて、風の向きを変えて循環させないことだよ」

『リサイクルさせないようにするんだね!』


 そうそう、って、安易に肯定できないあっちの言葉を入れてくるから困る。


「それなら、シルフも押し返したり拮抗させるほどの力はいらないから、広範囲の風を操れるんじゃない?」

『だって、シルフ。どう? ……できるって!』

「よかった。それなら船も出せるよね」


 取り囲んだとしても、空を飛ぶ相手を確実に捉えるのは容易じゃない。

 だけど、そこはニーナやエリアスさんたちのような飛ぶことができる人員と、あえて突破口を作り、移動先を特定できるよう仕向ければいい。


 速度に自信がある……絶対に捕まらないっていう矜持の持ち主なら、十中八九乗ってくるはずだ。

 そういう変な志向だったり、妙な拘りを持つのが邪神の特徴。


 大精霊も似たようなところはあるけど、軽々しく人の命を奪ったりしないところが大きな違いかな。

 ……だからこそ、邪神なんて禍々しい名前を人につけられているわけだし。


 それと、ルーラの時と同じように、あえて消滅させずに封印するように伝えた。

 さすがに魔法ギルド程の知識はないだろうけど、シルフがいるから大丈夫だよね。


「あと、何か問題はありそう?」

『うーん……あ!』


 何かあったのかな、と少し身構えた私に、ニーナは言った。


『前ね、ダーリンがシルフにちょっと嫉妬してたの! 可愛くない!? やばいよね!』


 この状況でそれを言える貴女がやばいです。

 嬉しそうだなー。

 なんだろう、この子と話してると、本当に危険な状況なのかわからなくなってきますね。


 結局、惚気話を聞いて通話は終了。

 最後はエリアスさんに窘められて終わるあたりがニーナらしいといえばらしいのかもしれない。





 さて、次です。


「聞こえますか?」

『あ、イリア? 久しぶり』


 相変わらず緊張感のない、ほわほわした声が返ってくる。


「久しぶり、ガブリル。パーシャとノームも元気ですか?」

『うん、元気だよ。この前やっと――言っちゃダメ!』


 割り込んできた声はパーシャのもの。

 この前やっと……なんだろう?

 あ、試練を終えたとか?

 もしそうなら、本人が言うまで待ってたほうがいいよね。成長したパーシャとか楽しみだし!


「みんな元気みたいで良かった。フィレアレミスにいるって聞きましたけど、大丈夫ですか?」

『聞いてよイリア姉! 最初は簡単な護衛の依頼だったのに、途中から討伐に変わってもお金は増やせないとか言うのよ!? それって酷くない!?』

「状況によるけど、一方的にそうしたなら酷いですね」

『でしょ!? ほんと、商人って足元ばっかり見るからキライっ!』


 口調が素に戻ってますよー。

 まぁパーシャは小さいから、足元どころか全身見ることになるけどねー。


「討伐ってもしかして、異常繁殖した植物の?」

『そう! なんか、トゲトゲーってしてて、ネバーってしてて気持ち悪かった!』


 食虫植物みたいなのって聞いてたし、きっとおぞましい姿なんでしょう。

 植物ならまだしも、虫型の邪神がいたらきっと真っ先に倒してたな!


 少し鳥肌がたった二の腕をさすっていると、結石の声が変わった。


『街道も塞がれちゃってるから、討伐依頼を受けることになったんだ』

「そっか。大丈夫そうですか?」

『……』


 沈黙。

 でもそれも束の間のことで、すぐに答えは返ってきた。


『イリアがさ』

「?」

『イリアがそういうふうに言う時ってさ、何か考えがある時だよね。猶予っていうか……僕たちにちゃんと決めさせようとしてくれてる』


 そう……かな?

 他の状況とか人の時も、同じように聞いてたと思うけど……そんなふうには取ってなかったよね。

 まぁ、気づいてるかどうかはともかくとしても、その通りといえばその通りなんだけどさ。


『大丈夫じゃないかもしれない。……でも、やってみる』


 ガブリルはそう言った。

 いつもののほほんとした口調に、少しだけ硬さを滲ませて。

 でも、その分力強く。


「……わかりました。もちろん、貴方たちの意思を尊重します」


 頑張って、貴方たちだけの力で使徒さんを見返してください。


『ありがとう。頑張るよ。――私も頑張るからね!』

「はい。応援してます。何かあったら連絡してください。くれぐれも、変な意地だけは張らないでくださいね」


 あ、これ私が言えたことじゃないや。

 そんな自己嫌悪にも気づかず、二人は『うん』と元気よく返事をした。


『これが終わったら、イリア姉に会いに行くから! ――きっと驚くと思うよ。じゃあまた』


 それってフラグじゃない……?

 そんな突っ込みを入れる間もなく、受付の呼び出しがかかってしまった。

 しょうもない不安を少しだけ感じながら、帰ってきた連絡員からの情報を聴取し、新しい伝令を伝えて送り出した。





 業務の隙を見つけて次の結石に手を伸ばす。

 と思ったら、別の結石から声が聞こえた。


『おーい、イリアちゃーん。聞こえてるー? ぅおーい』

「聞こえてるよ、セイレン。久しぶり」


 ちゃんとトリスタンから受け取れたみたいでよかった。

 もしまだ受け入れてなかったら通信しながら向かってもらうことになってたし、時間がかかっちゃうからね。


『久しぶり~。イリアちゃんってば、手紙くれてから全然来てくれないからみんなガッカリしてるのよ~?』

「ごめんね」

『約束守ってくれるなら許してあげる』

「うん。必ず行くよ」


 風の結晶柱の出番はたぶんベルナルトさんの件で終わってるはずだし、予定通り結界に使っても大丈夫だと思うしね。

 空からの接近を防ぐ風の結界を張れば、基本的に水中なら優位に立てる彼女たちも、より安全に暮らせるし。


 って、そうじゃない。


「海に氷が張ったって聞いたけど、被害は?」

『あれはびっくりしたわね~。あ、被害? 島の周りはムートちゃんが全部砕いてくれたから大丈夫! 海中は少し暗くなったのと冷たくなったくらいであんまり変わりないかな?』

「そっか」


 そう思えるのは、やっぱり彼女たちが人魚だからだよね。

 普通の人たちは船でしか海の上を行き来できないし。漁もできないし。


 なにより、普通の魚にとっては1℃の水温の違いがかなり大きく影響するはずだから、漁獲量もかなり変わってきちゃうだろうしね。

 それに気づいてないってことは、もしかしてセイレンたちも「冷たいから今日は入りたくない」とか思ってたりするのかな?


『あ、でもこのまま寒いのが続くと、島の収穫が減っちゃうのかしら』

「そうだね。植物にも気温って大事だから、このまま海から下がった気温が吹き込むのはまずいかな」

『やっぱり~。なら、この石を送ってくれたのは、このことを見越してのことだったのかしら』

「何が起こるかまではわからなかったし、何も起こらなければそれが一番だったんだけどね」


 まぁ、今それを言っても仕方ない。


「そこにトリスタンはいる?」

『あ~、あの魔剣の彼? 彼なら、海に氷を張った大きな蟹の討伐依頼を受けるって言ってたわ~』


 蟹……てことは“最善の邪神”だね。

 何よりも最善を選ぶ志向をもつ彼は、その最善が「人がいなくなることが最善であるなら」と、島の集落を一つ滅ぼしたことがある。

 そんな行為の積み重ねで邪神認定されてしまった彼だけど……、長い目で見れば、それは必要悪ともいえることばかりだった。


 今回の件も、きっと「そうすることが最善だ」と判断した結果なんだと思う。

 ……だからこそ、確かめておかなきゃいけないことがある。


「セイレン、氷って島の周り全体に張った?」

『そうね~。びっくりしたわ~』


 てことは、人魚の島も目標の範囲に入っていたわけだ。


「今はどう? 氷を砕いた部分はそのまま?」

『そのままよ~』


 張りなおさない。

 なら、最善の目的は氷を張ることであって、それを持続させることではないってこと……かな。


 使徒さんの考えからいえば、問題が起こっている間に私が動くことになればいいだけ。

 それを踏まえると、最善にとって「氷を張ること」は、他の場所で起きているのと同時に問題を起こすことが重要なのかも。


 それなら、氷はその他の問題が解決されるまで残っていればいいわけで、わざわざ念入りに張りなおしたりしなくてもいいわけだしね。


 最善、か。

 被害が最も少なく、私が動かなきゃいけない状況を作った、って感じかな?

 被害を増やそうとしたら、それこそ人里に波でも打ち寄せた方が酷いことになるってわかってるだろうし。


 ……というか、使徒さんの命令に「できるだけ被害は少なくしろ」ってあるのに、他の邪神が「できるだけっすね~」って都合よく解釈して行動を起こした、って可能性もあるのか。


 ……まぁ、そのへんは考えても仕方ないね。


『イリアちゃん、私たち、どうしたらいいのかしら?』


 その言葉には、今回の状況だけじゃなくて、これからの……人魚たちの将来に関しても、含まれている気がした。


「……セイレンはどうしたい?」

『私は、私たちが生きられる環境だけ整えればいいと思ってる』


 女王らしい、凛とした口調。

 その淀みのない答えから、彼女が何度も自問していたことが伺えた。

 ……助けても、手を差し出しても、その手を取ってもらえるとは限らない。

 それどころか、取ったその手で仇を返されることだってあるもんね。


「そっか。わかった」

『……いいのかしら』

「私はセイレンの考えを支持するよ」

『……うん。ありがとう。そう言ってくれて気が楽になったわ~』


 少しだけ迷いを滲ませた声はもうなくて、いつものマイペースな声が返ってきた。


「でも、悪評は拭っておいた方がいいかも」

『え? ……ああ、そうね。そうよね!』


 私が指すところを理解したらしく、セイレンはくすくすと笑った。


 拭いたい悪評。

 それは前に、バハムートがアクラディストに与えてしまった被害だ。

 バハムートがずっと人魚の島にいるのなら、逆に悪評があることでより近づきづらくすることができる。


 だけど、バハムートは自由奔放で、どこにだって行く。

 基本的に無害だけど、襲われたら身を守るために反撃することになる。


『やっぱり派手な方がいいのかしら?』

「そうだね。誰がやったかだけは印象付けなきゃいけないし。でも害意がないってことも見せなきゃね」

『それなら、私たちが人の姿になって演技するとかどうかしら~?』


 それから私たちは、「バハムート・ヒーロー大作戦」を敢行すべく案を練った。

 もちろん、事態が変化した場合……最善が何か行動を起こした時の事も考慮することは忘れずに。


 そんなこんなで、一応アクラディストの対策は終了。

 結石が「ずるい」「私も」という声を拾っていたけど、今後のこともあるので今回はご遠慮願いました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ