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ギルドのチートな受付嬢  作者: 夏にコタツ
愛と力
26/53

5-2:「そうですね」

 数日後。

 エクトルさんに呼ばれたフランクさんは、私を連れて領主の館に向った。

 何でも、会議の結果を報告しに来た使者がいるから、同席して欲しいとのこと。


「やあ。久しぶりだね、二人とも」


 使者として来ていたのは宰相だった。

 宰相がちょくちょく城から離れるとか、馬鹿なんだろうか。しかもまた護衛なし。死ぬのは勝手だけど、責任っていうものを考えて欲しい。

 そんな私の侮蔑の視線を受けて、宰相は笑う。


「そんな目で見ないでくれ、イリア。これでもちゃんと考えた上での行動なんだ」


 考えた上でやってるから始末が悪いんです。どうせ後任の育成とかだろうけど、これでダメなら別の奴育てるからいいや、っていう方針はどうかと思います。

 ……なんてことを、百歳越えた人に言っても仕方いので自重。ハクを抱え、ソファに座ったフランクさんの後ろに回って待機する。


「では早速だが、会議の決定を伝える」

「「 はい 」」


 領主様と支部長の頷きを見て取り、宰相は筒から取り出した紙を広げ、読み上げる。


「リュネヴィルに闘技場を建設することを許可する」


 長いので省略。


 国の決定をまとめると――闘技場を造ってもいいし、運営は任せるけど条件があるよ。

 まず、闘技場から居住区は離してね。居住区の移動するために城壁広げていいよ。あと、前から頓挫してた教会の併設も進めてね。税金は上げないから、その代わりギルドだけで頑張って。――とのこと。


 正直、優遇過ぎて気持ち悪い。

 周囲の国と友好な関係を築けているとはいえ、劣化する公共設備の補強や補修、外交費に騎士団の維持……挙げればきりがないくらい国を支えるにはお金がかかる。一定の収入が見込めるこの機会を、国がみすみす手放そうとしているんだから、不審がられたって仕方ない。


 訝るエクトルさんとフランクさんに、宰相は苦笑を浮かべる。


「ここのところ、ギルドにおんぶに抱っこだったからね。恩を売っておこうっていう浅知恵だと思っておいてくれ」


 裏がありそうなことを言ってるけど、深読みさせるのが狙いなだけで、実際は言葉の通りなんだと思う。

 普通宿場町は観光名所の近くにできることが多いし、催し物があれば集客を狙えることは、前の雪まつりでも証明された。自分たちが負担しなくても観光設備ができるんだから、国からすれば棚から牡丹餅の提案だったんじゃないかな。


 エクトルさんたちもそのことを知ってか知らずにか、そのまま話を進ませる。

 まず議題になったのは、案の定治安の維持についてだった。

 闘技場ともなれば、脳筋荒くれ者の巣窟になることは必至。賭けで全てを失う人が出てきたら、窃盗や強盗なんかも起こりうる。


「自警団……いえ、警邏隊を作るというのは如何でしょう」


 そう言ったのはフランクさん。

 警邏隊……警察という発想に、エクトルさんと宰相が唸る。現在のリュネヴィルでそれに該当するのが城門や領主の館を警備する兵士なんだけど、これはエクトルさんの私兵。

 彼らと同様の権限を与えて街を守るっていう発想は良いけど、問題はそれをどこの管轄で行うか、っていうことだ。

 ただ“国の人間”というだけで反感を抱くギルド員は少なくないから、私兵や騎士団みたいに国側の管轄にするとギルドにとって都合が悪い。

 ギルドの管轄にすれば、それはギルドが軍隊を持つのと同じことになるから、国との関係が悪化する。

 どちらにせよ、賄賂と権利を笠に着た越権行為が懸念される。


 膠着状態で行き詰ってしまったようなので、一石を投じることにした。


「国とギルド、合同で編成すれば宜しいのでは?」


 全員の視線がこちらを向いて、先を期待する色を持っていたから簡単に説明することにした。


「そうだね。お互いに牽制し合うというのが最も効果的かもしれない。どうかな?」


 そう肯定したのは宰相。

 国のためというよりも、自分の住みやすい環境を整えるために今の地位に就いた彼らしく、結果が良ければ過程は問わないらしい。

 対して、訊ねられた二人は答えにくそうだった。


「難しいですね。うちの兵士はギルド員とも上手くやっていますが、ギルドと真っ向から張り合える統率者の人材がいるかと言われれば……、簡単には頷けないですね」

「ギルドも難しいでしょう。例えば〈蒼の剣〉の代表は実力も申し分ない人格者ですが、彼は自由な立場を好みます。何かと縛られる、公的な役職には就きたがらないでしょうね」


 またもや議論は暗礁に乗り上げた……ように見えるけど、二人は大事なことを忘れてる。


「代表者というなら、お二人が務められるのは如何でしょう。領主様と支部長。この街で最も地位が高く、実力も折り紙つきの人格者です」


 私の言葉に、二人は目を白黒させていた。けど、私としてはそこまで突飛なことを言ったつもりはない。

 まともな住民なら二人の下で下手なことはできないし、二人が汚職を起こすとは考えにくい。隊員だってまともじゃない人は雇わなきゃいいんだし。


「……問題は公務ですね。他に支障が出て目が行き届かなくなるようでは意味がない」


 エクトルさんの意見に、フランクさんも少し躊躇いがちにだけど首肯する。


 それからは、騎士団の団長を知る宰相やエクトルさん、ギルドのGMギルドマスターを知るフランクの知識もあって、警邏隊の指揮系統や勤務体制を検討していく。私も前世での記憶を提供できるかと思ったけど、今回ばかりは郷に入りては郷に従えという言葉通り、聞きに徹することになった。


 結果は、エクトルさんが参謀総長、フランクさんが部隊総長として纏めることになった。

 部隊の構成員はギルドと国の人間を混合で編成。これは部隊ごとによる対立を防ぎ、訓練によって確執を取り除く狙いがある。

 あとは、部隊内の規則を煮詰めるだけ。これは時間がかかりそうなので後に回すことになった。


 そして、次に議題となったのが賭博のこと。

 闘技場の試合が賭博の対象になることは避けられない。リュネヴィルに闘技場を造ろうという計画が持ち上がったのも、国民とギルド員、双方からの信頼の厚いために八百長騒動の影響が最も少ないと考えられたからだ。

 というのも、貴族様の中には自ら賭博を運営するよりも、お抱えの闘士を戦わせる趣味をお持ちの方が少なくない数存在する。

 そうした貴族同士がお抱えの闘士を戦わせる代理戦争には賭博が付き物で、公的に禁止してはその貴族様からの反感を買い、彼らだけを許せば一般市民の反感を買うことになってしまうから。

 かと言って、野放しにしては財産を失い、犯罪に走る者が出てきてしまう。


 三人がうんうん唸っていると、やがてフランクさんが提案した。


「公的に禁止するのではなく、公的に運営するのは如何でしょう」

「それは、支部が賭博を運営する、ということか?」


 エクトルさんの戸惑いの声に、フランクさんは頷きを返す。


「支部というか、闘技場で運営するんです。他は完全に禁止する形で」

「……それなら、悪質なレートの操作のようなことも防げるな」

「地下で行われたとしても、公然と取り締まることができます」


 試合はトーナメント方式を増やし、配当は日本で言う競馬のようなパリミュチュエル方式を採用。賭け金のうち、支払いは全体に対する割合で決まり、支払われなかったものは闘技場の運営資金に回される……親が必ず儲かる方式です。


 特に問題もなく賭博運営の方針が決まっていく。

 話に耳を傾けつつハクを愛でていると、私が加わって来ないことに不満を感じたのか、宰相が話を振ってきた。


「イリアから、今までの所で何か言うことはあるかな?」

「……そうですね。先程少しだけ話に出ていた警邏隊の規則ですが、褒賞を設けては如何でしょうか」


 三人が三人とも先を促すような仕草をする。あとは考えられるでしょ……っていう不満を呑み込んで言葉を選んだ。


「規則を順守させるためには、破った際の罰則だけでなく、従順に従った者への褒美を与えることが重要だと思います。言ってしまうと飴と鞭ですね」

「君が言うとなんだか淫靡だね。うん。ごめんなさい」


 セクハラ宰相を睨んで封じる。


「従うと言っても、簡単なものでいいんです。ただ、褒賞を授与する項目に捕縛数や補導数は、褒賞目当ての冤罪が増えかねないので、しっかりと罰則を設けた方がいいと思います」


 フランクさんとエクトルさんはともかく、普段から法律に触れることがある宰相まで深く考え込む様子を見せる。失念していたんだとしたら、一刻も早く後任を育てろと国王に言ってあげるべきかもしれない。


 何はともあれ、規則を含めた議題は消化し、リュネヴィル拡大案のかたちが明確になっていく。

 本来はエクトルさんとフランクさんが中心になって考案するはずだったんだろうし、今回ばかりは宰相が来てくれて良かったのかもしれない。……自分の都合のいいように誘導したかっただけかもしれないけど、この街が不利を被るような話は無かったから良しとしよう。


 そして、紅茶で渇いた喉を潤しつつ小休止、という所でフランクさんが口を開いた。


「ところで、闘技場での運営で気になる情報があります」


 二人の視線がフランクさんに向けられるけど、休憩中のせいか先ほどまでの緊張は無い。


「八百長騒動の不満への対処として考案されている魔物の捕縛ですが……、魔物は遠くの魔物を察知し、寄ってくるという情報です」


 折角情報源をぼかしてくれたフランクさんですが、二人はしっかりと私を見ました。

 二人には以前も魔物の増加を指摘したから仕方ない。だけど、フランクさんが名前を伏せたことを慮った二人は、そのまま話を続けることにしたらしい。


「では、一層リュネヴィル周辺に魔物が出没する、と?」

「はい。以前は増えるだけで済みましたが、今回は囲った魔物の元に集結するようです」


 それは“増えたから減らす”どころの話じゃない。

 城壁に囲まれたリュネヴィルは未だしも、周辺にある村落には常駐する領主の私兵はおろか、剣を満足に振れる人がいない所すらある。

 魔物によってはそういった村落がリュネヴィルへの進行上にあることだってあるから、領主や国としては兵を増員させるか、ギルド員の派遣を考えなくちゃいけない。


 維持費とか、馬鹿にならない経費の問題もあってか、エクトルさんと宰相は黙り込んでしまった。

 ギルドの立場としては儲かる話だけど、危険性を考えると手放しでは喜べないことだから、フランクさんは二人の動向を見守ってる。


「……監視役を各町村に選出させる、というのはどうだろうか」


 ちらりと私を見た宰相の提案に、勿論私は答えない。


 私としては、村や町の中から監視役を選んで駐在してもらって、動きが有ったらギルドや兵に頼むっていうのもありだと思う。

 ただ、その場合足止めができないから、伝達にしても退避にしても迅速な行動が求められる。

 一長一短の方策を決めるのは、勿論土地を治める人の役割。権利の分は責任を負ってもらわないとね。

 メイドの如く三人のカップに紅茶を注ぐ私に見切りをつけてくれたのか、三人はそのまま話を続けることにしたらしい。


「捕獲した魔物の縄張りを測定し、リュネヴィルとの直線上にある村には、予め兵を常駐させましょう」

「そうだな。建設までの期間に、別の都市で試験させてみよう。……支部長。他に検討すべき情報はないのか?」

「もう一件、人の生活圏に長時間滞留した魔物は変質する、という情報があります。こちらは檻の強度と警備を強化すれば問題ないかと」


 暫くの考察の後に二人は頷き、程無くして会議は終了した。

 闘技場の受付とかの運営はまた別の人員を雇うらしいし、私に直接関係あるのは支部の別館二号店ができるってことくらい。マニュアル化してあるから大抵は大丈夫だと思うけど、衛生面とかの教育は徹底させないとね!



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