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ギルドのチートな受付嬢  作者: 夏にコタツ
愛と力
23/53

4-5:「どのようなご用件でしょうか」

 ニーナが来てから二日。

 午前中は彼女に対策を提案して、同意してくれるなら依頼書に記入するように頼んでおいた。 


 そして、午後からは受付業務。

 相変わらず降り続く雨を眺めながらカウンターに立っていると、支部の扉が勢いよく開かれた。

 今度は何?

 と視線を向けると、立っていたのはフードで顔を隠した集団だった。


「げっ」


 【神の目】でその正体を看破してしまった私は、思わず声を出してしまった。


 進入してくる集団がフードを取り払うと、その金髪碧眼が露わになる。雪のように白い肌は人形のようであり、端正な容姿がその印象を強くする。十数人の男女全員が整った顔立ちであることと共に目を引くのは、顔の縦幅はあろうかという長い耳。


 乗り込んできたのは、エルフの集団でした。


 そこまでは誰が見ても分かるけど、私が嫌悪の声を出してしまった理由はまた別。

 原因は、その集団の中央にいる男性。

 華美を避けながらも逸品の衣装をローブの下に着込み、屈強な護衛に囲まれた男性が私のことをジッと見ています。ガン見です。顔を背けても視線を感じます。


 ……帰ってくれないかな。

 そう願い、見て見ぬふりを続ける私の袖を、リアがくいくいと引っ張りながら訊ねてくる。


「(イリア、あの人たちすっごい見てるよ)」


 気付いてます知ってます分かってます。……はぁ。


「……いらっしゃいませー……」


 迎え入れるようなことを言ったのをいいことに、集団はここぞとばかりに距離を詰めてくる。

 ああ、支部の皆の視線が痛い。


「……どのようなご用件でしょうか」

「迎えに来た。帰るぞ」


 男性の言葉に、ホールのざわつきが増した。そのざわつきで音楽まで止まってしまったから、変な空気がさらに充満。

 対策を練る私に痺れを切らしたのか、男性はずい、とカウンター越しに私に詰め寄ってくる。

 目と鼻の先程に近づくと、男性は端麗な笑みを浮かべてこう囁きました。


「用があるなら直接来いとお前が言うから来たのだぞ」


 ええそうですね言いましたね。

 だからってホントに来るか!? 一昨日来やがれと同じ意味だって察しろよ!!


「なんだ貴様ら!」


 なんということでしょう。副支部長の登場です。

 御蔭様で男性は私から少し離れてくれた。ついでに追っ払ってくれないかな~。という私の期待は微塵も感じてないだろうけど、副支部長は集団に詰め寄ります。


 が。


「止まれ。それ以上、長老様に近づくこと罷りならん」


 と抜刀したエルフたちに止められてしまいましたとさ。

 やっぱダメか。


「止めなさい」

「……しかし、イリア様」

「里と同じルールで動かないで。非があるのは貴方たちの方よ」


 抜刀したエルフたちが私と視線を交わらせること数秒。


「……畏まりました」


 エルフたちは私の言葉を聞き入れてくれた。若干顔が青ざめてるのは気にしない。

 全員が納刀したのを見て取ってから、改めて目の前の男性に視線を向ける。

 命令権は彼にあるけど、部下が私の命令を聞いたことを特に気にしてはいない様だった。


「改めまして、お久しぶりです。泉の長老様」

「ああ。お前がヨルクを連れ戻してくれた時以来だ」


 どこか懐かしむように言うジジイ。

 見た目は二十代の男性にしか見えないけど、これでもその百倍以上は生きてたりする。

 竜神が美男子にも美女にも見える中性的な容姿なら、ジジイは端正な美丈夫。ヨルクが氷系魔術の天才とするなら、彼は水と火と風属性の超人。生粋のチートだ。


「俺を困らせたいという気持ちは愛しく思うがな。こうして迎えに来たのだから、一先ず満足して帰って来い。続きは里で聞いてやる」


 そして、族長たちが決めた私の婚約者でもある。

 突っ込むのも馬鹿馬鹿しい。


「お断りします」


 長老の眉がぴくりと反応する。


「何故――」

「何故? 言われたから来たって言いましたけど、私がヨルクに言ってからどれだけ経ったと思います? 大方、この子を私が預かったって聞いて慌てたんじゃないんですか?」


 ハクを見るとジジイの眉が更に動き、護衛たちの視線が彼に注がれる。図星だな。

 エルフの里と天宮は引き籠り同士の交易があるから、バレるとしたらたぶんそこ。


 竜神の子を預かってるんだから、竜神との関係が強まったって思われても仕方ない。

 竜神が相手ともなると、結局帰ってくるとか思ってた勘違いジジイからすれば、寿命っていう他の種族との大きなアドバンテージを失ったも同然。

 慌てて連れ戻そうとした、ってとこだろう。


 何はともあれ予想が当たって良かった。これで畳み掛けられる。


「そんなせこい人は嫌いです。お引き取りください」


 そう。彼の欠点は、ある意味エルフらしいプライドの高さとも言えるせこさだ。チートじみた魔術関連の能力を持つくせに、彼をウンディーネが選ばなかったのもその点らしい。

 ヨルクは他者を見下すような傲慢さがあるけど、一度認めた人間や興味を持ったものには臨機応変に対応できる柔軟さがあった。

 その純粋さとエルフらしからぬ器の大きさ(?)が気に入ったとかなんとか。


 こんなことを考えている間にも、彼らに反応はない。

 そろそろかな、と口を開きかけた時だった。


「た、大変だイリア!」


 支部に入ってきたのは、雨でずぶ濡れの男性。

 エルフの集団に硬直するも、すぐに我に返って私の元へと駆け寄ってきてくれた。


「どうしました?」

「ミディ川の水位が思った以上に増してる! このままじゃ持たない!」


 補強分じゃ足りなかったか。

 そんなこともあろうかと、と言おうとした矢先。


「ふふ」


 目の前のジジイが薄気味悪い笑みを浮かべる。


「イリア。俺のことをせこいと言ったな」

「はい」

「ならば、その評価を正してやろう。お前たち」


 ジジイの声に、周囲のエルフたちが一斉に姿勢を正す。


「今から行って河川の補強を行え」

「「「 ハッ!! 」」」

「どうだイリア。勿論無償で行ってや――」

「いりません」


 エルフ全員の動きが止まる。

 聞き間違いとか言われてもうざいから、もう一回言ってやる。


「必要ありません」


 完全に硬直してしまったエルフたちを嘲笑うかのように、嬉々とした声がホールに響いた。


「そうよ! 今こそ私たちの出番なんだから、あんたたちは引っ込んでなさい!」

「ノームに頼めば一発だもんね」

「いりません」


 私の声に、パーシャとガブリルの表情が固まる。

 慌てたのはパーシャだ。


「何で!?」

「あのですね、河川の氾濫は想定していたことなので、予め領主様と編隊を組んであるんです」


 ホールに視線を向けると、数人が手を振って応えてくれる。

 うちにいるのは最も近い地点の補強箇所だけだけど、他の編隊も各地に待機してくれてる状態だ。

 それでも、パーシャは納得がいかないように捲し立てる。


「で、でも! 私たちが行った方が確実じゃない!」

「そうかもしれませんね」

「なら!」


 説明する前に、ホールのラシェルに目配せして予定通りに動いてもらう。説明してたら手遅れになっちゃいましたーなんて目も当てられない。


 彼女たちが動き出したことを確認して、改めてパーシャに向き直る。


「パーシャ。社会ってどういう風に回ってるか分かりますか?」

「知らない!」


 考えてないだけだろ……。


「……あのですね。ここにはあなたの大好きなプリンがあります」

「うん!」


 パーシャが力強く頷いた。

 ちょっと目的のために必死になっちゃってるだけで、根は素直な子なんだよね。


「あなたがプリンを食べるお金はお店に払われますが、このお金は間接的にお店に材料を運んでくれた商人さん、材料を作ってくれた農家さんに支払われてることになります」


 厳密には違うけど、まぁ似たようなもんだ!


「ところが、あなたが材料をすべて自分で育て、プリンを作るとどうなるでしょう」

「……お店で買わなくなる?」

「そうです。そして、お店でプリンが売れなくなると、お店はプリンの材料を運ぶ商人から材料を買いませんから、商人は農家からプリンの材料を仕入れなくなります。するとどうなるでしょう」

「農家の人が困る」


 私は首肯する。


「農家の方は儲けることができず、農家を止めなくてはなりません。その結果、プリンはお店から姿を消すわけです。勿論これはかなり極端な例ですが……一つの行動は、様々な人に影響を及ぼすんです。今回のことだって同じですよ」


 言いたいことを理解してくれたのか、パーシャからは不機嫌さが薄れていた。


「確かに土関連はノームに頼めば早くて確実ですが、同じ系統で稼ぐことができた人たちの収入がなくなってしまいます。その人たちは生活のためにロンドヴィルを出ていってしまうかもしれません。補強できる人がいなくなってしまったロンドヴィルで、また河川の氾濫があったらどうしますか? その時、貴方たちはロンドヴィルにいてくれますか?」


 俯いてしまったパーシャを撫でる。


「先ほども言いましたが、これはかなり極端な話です」

「ピィ」

「ちょ、こらっ!」


 一緒に慰めてくれたハクを、パーシャは鬱陶しそうにしながら本気で拒絶はしない。ハクのおかげで、彼女も元気を取り戻してくれた。


「力がある人は、その力が周りにどういう影響を与えるか考えなきゃ。……フェアリエルになったらもっと大変になるんだから、そういうことも覚えないとね」

「っ、うんっ……!」


 さて、と。

 これでこっちは一段落。改めてエルフの集団に目を向けると、体をビクリと反応させる。

 ダメ押しだ。


「イリア。さっきの話、受けることに……イリアみたいな人がたくさんいる!?」


 と思ったら、二階からニーナが降りてきて混乱していた。

 彼女の手には提案していた依頼の作成書があって、それを私に持ってきてくれたらしい。


 そこで私は閃いた。


「長老様、私のこと本気で愛してくれますか?」


 体に走る悪寒を堪えながら吐いたセリフに、ホール全体が再び揺れる。……ってちょっと待ってください。それは過剰でしょう。


「当たり前だ。俺以上にお前を愛している者はいない」


 ひぃぃいいいい!

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!

 巫女の枷着てて良かった! おかげで鳥肌がバレずに済んだ!


 思わず顔を逸らしてしまった私をどう勘違いしたのか、ジジイは私の肩を掴み、ぐいっと顔を近づけてくる。


「お前がいてくれるなら、竜神だろうと鬼神だろうと……誰にだって負けはしない」


 ぎゃぁぁああああああ! やめてぇぇええええ! うぇえ……吐きそう……。

 だ、だけど、これはチャンスだ……! 墓穴を掘ったなバカめ! 年寄りの冷や水とはまさにこのことだ!!


「なら、その言葉を証明して見せてください」

「……?」


 私は精神力をフル動員して、できる限りの笑顔を浮かべる。

 そして、彼だけに聞こえるように音量を抑え、


「シルフを屈服させる程の方なら、私も安心して身を寄せることができます」


 そう囁いた。





 場所は変わり、二階の個室。

 集まったのはガブリルとパーシャ、ジジイにニーナ。ニーナだけが、他のメンツに狼狽してる。


「では、今回の依頼について説明させていただきます」

「依頼?」


 ジジイの言葉に頷きを返す。


「はい。依頼主はこちらのアマロさんです。依頼内容はシルフに囚われた鳥人の救出です」

「わざわざ依頼にする必要もない。我らのみで解決してくれる」

「そうはいきません」


 ジジイのドヤ顔が凍る。


「これは正式にギルドから出された依頼なので、どのギルドにも所属しない方々のみの参加は認められません。すでに長老様は依頼の存在を認知されていますので、従って頂けない場合故意の国家・ギルド協定の反故と見做し、粛清対象となります。ですので、彼女に同行する形をとっていただきます」


 たとえ里に引き籠っていたジジイでも、ギルドに所属する有名どころは知ってるから、彼ら全員を敵に回す粛清措置となると無視できない。

 ジジイがニーナを睨んだせいで彼女がしゅんと縮こまってしまったから、私が代わりにジジイを睨んでおいた。敵意を剥き出しにした感じじゃなくて、ただただ侮蔑する感じの視線にしたせいか、ジジイもたじたじ。

 ロリコンのくせに子供に突っかかるなっつーの。


「……ふ、ふん。幸運だな娘。我々が確実に大精霊様を止めてみせる」

「意気込むのも結構ですが、作戦には従って頂きます」

「わかった」


 素直なのはいいけど、それはそれできもい。

 とはいえ、エルフの皆がいてくれれば、彼女のリスクがかなり減るから助かる。


「では大まかな作戦ですが、まずアマロさんの説得で鳥人を誘導し、風の結晶柱からシルフを離します。十分な距離が取れ次第ノームによる因子の相克でシルフを弱体化させます。ガブリルはその援護を」

「わかった」

『承りましたぞ』


 ノームも了承。シルフの奔放さに呆れていたのかもしれない。


「エルフの方々は風の因子を消費しつつ、アマロさんと鳥人の護衛を。長老様にはパーシャと一緒にシルフを捕らえていただきます」

「……いいのか?」


 そう訝るのはジジイ。

 質問の意図を捉えかねていると、彼らしい佳麗な笑みが浮かぶ。


「土の大精霊様にまで協力を仰ぐとは……。お前も素直じゃないな」


 殴りたい。この笑顔。


「出立はいつだ」

「明日を予定しております」

「わかった。里の者は英気を養うことに専念させることにしよう。……さて、俺の寝床だが」

「ご安心ください。里の者でも安心できる宿をご用意させていただきました」

「ぐ、む……」


 私の満面の笑みに負けたロリコンジジイは大人しく退室し、さぁここからが本番だ、ってニーナに目を向けたら、彼女は顔を真っ赤にして俯いていた。

 そんな彼女を代弁するようにパーシャが訊ねてくる。


「い、イリア姉、本気で結婚するの……?」

「しませんよ。私エルフ嫌いですから」

「へ?」


 パーシャ同様、目を丸くするニーナに改めて告げる。


「だから、あなたも協力してください」

「え? う、うん! 無理やりなんて絶対イヤだよね!!」

「……仰る通りです。なので、これをニーナにお渡しします」


 取り敢えず色々スルーして紙を渡す。


「え? これって……」


 内容を見たニーナは、その意味を理解できずに首を傾げた。

 彼女の困惑の視線に、私は人差し指を立てて笑みを返す。


「恋のおまじないですよ」


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