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ギルドのチートな受付嬢  作者: 夏にコタツ
愛と力
19/53

4-1:「雪ってどうしました?」

四話開始です。

 宿の建設や街道の整備が完了し、竣工祭を終えた後も以前より賑わうものの、どこか落ち着きを取り戻したリュネヴィル。

 支部は相変わらずの繁盛っぷりで、臨時だったはずのテラスもいつの間にかしっかりした造りの屋根が取り付けられ、天候に限らず満席状態になるようになった。

 ただ、今もまだ氷竜の遺した魔力の影響で降雪が続いていて、少し早まったんじゃないかって雪かきをする男性方はぼやいてる。


「いらっしゃいませー……」


 そして、受付で笑顔を浮かべるラシェルの表情は硬い。

 ホールで動き回るエリーゼたちも、どこか表情の中に暗さがあった。

 だけど、その原因は天候のせいじゃない。


「イリアちゃん、この依頼受けたいんだけど」


 気が付けば、カウンター越しに立ってるのはポーロさん。

 鳴禽類っぽい小柄な鳥人で、商業ギルド所属の配達員。

 カウンターに差し出された依頼表の内容も、討伐系や採取系でもなく手紙の配達だ。

 定期便に乗せない手紙や書類は大概中身も重要なものだから、自然と信頼度の高いギルド員への依頼……B以上の高ランクに受注制限のついた依頼になる。

 その点Aランク配達員のポーロさんは安心。【飛行】スキルも高レベルだしね。


「畏まりました。では登録証の提示をお願いします」

「はい」


 差し出された登録証を受け取り、依頼の登録を開始する。


「イリアちゃん、今日のバクト地方はどうかな」


 どう、とは魔素のこと。

 ここ、リュネヴィルから王都を越えて、更に北に位置するバクト地方は世界樹が近い影響もあって魔素の増減が激しい。

 魔素の増減は魔物の活性化に直結するから、戦闘スキルの低いポーロさんが気にするのは当然だ。そんなことを思いながら、私はチラっと窓の外を見る。


「大丈夫だと思います。特に急ぎの伝令は来ていませんから」


 視線を戻して言ったのは曖昧な回答。生死を賭けるには絶対に足りない。

 だけどポーロさんは満足そうに頷きを返す。


「ならよかった」


 完全に信じちゃってるなぁ……。

 魔素が増えて魔物が活性化。人里に向けて大量発生すると伝令が来るのは本当だ。

 だけど、それは結局のところ後手の対応。出発したすぐ後に伝令が来ることだって考えられる。

 私の場合は【千里眼】で減衰期だって分かってるからいいけど、他の人だと言葉通りの意味になってしまう。


「あまり信用し過ぎないでください……」

「分かってるよ。そもそも、イリアちゃんじゃなきゃ信用もできないって」


 ポーロさんは肩を竦めて苦笑する。

 この人は私が千里眼でちゃっかり調べてることも、そもそもそんなスキルを持ってることも知らない。

 それなりに長い付き合いの中で生じたジンクスを信じてしまっているわけで、そんな人に何かあったらと思うと調査も念入りになってしまうわけで。

 ……たまに要らんものを見てしまう。


「でも、最近世界樹周辺にはいい噂を聞かないので、あまり近づかない方がいいかもしれません」

「そうなのかい? じゃあ少し迂回しようかな……」


 誘導成功。

 世界樹に住む大鷲の雄は、抱卵期だとすぐ襲い掛かるからね。鬼のようにでかい大鷲にかかったら、小柄のポーロさんは丸呑みされます。


 高ランクの依頼なだけに審査も長いなーって思ったら、ちょうど青い光に変わった。


「受注が完了しました。こちらが依頼主の住所でございます。手紙は依頼主から直接の受け渡しとなりますのでご利用ください。……無事と成功を心より願っております」

「うん、ありがとう。行ってきます」

「いってらっしゃいませ」


 入口に向かうポーロさんの背中にお辞儀する。

 野郎が皆あんな風に礼儀正しかったらどんなにいいか……。


「イリア……、あんまり助言するとまたアイツが五月蠅いよ……?」


 ラシェルがさもウンザリした様に小声で囁く。


「大丈夫。今支部にいないから」

「……ほんと?」

「うん」


 私が断言すると、ラシェルは深い溜息を吐いた。


「……あー、もうホント嫌! なんであんな奴が副支部長に来るかな!?」

「ピィ!?」

「あ、ごめんねハク」


 突然の大声に驚いたハクを、宥めるようにラシェルが撫でる。

 竜神以外には人懐っこいハクはそれを気持ちよさそうに受け止めるし、ラシェルにはアニマルセラピーになってるっぽい。


「……あんな奴、ハクも嫌いだよねー」

「ピィ?」


 そうでもなかった。


「イリアはよく我慢できるね」

「私だってムカついてるよ?」


 上手くカムフラージュしてるつもりだろうけど、一番目の敵にされてるし。


「だよね~……、はやく本部帰れっ」

「ラシェル」


 彼女の言葉を遮り、受付然と正面を見据える。

 それで察してくれたラシェルが立ち上がり、ウンザリしたような表情を浮かべた。


 目の前に歩いてくる普人の男性。くすんだ灰色の髪に、紫っぽい紺色の瞳。

 名前はデニス・ガラ。

 氷竜騒動の後、つい先日ギルド連合総本部から異動してきた、リュネヴィル支部の副支部長だ。

 性格を一言で言えば陰険。

 まず、その就任第一声が最悪だった。


 ――こんなド田舎に異動させられたのは、心底不本意だ。しかし私は真面目なギルド連合職員であるからして、仕事に手を抜く気はない。勤務怠慢、職権乱用、公私混同は一切認めん。容赦なく解雇対象となるから精々気を付けることだ。


 自分から心象悪くする必要もないだろうに。

 それはさておき、最悪な点その2。


「ラシェル、領主殿がお呼びだ。すぐに館に向うぞ」

「え? イリアじゃなくて私、ですか?」

「確かに名前は挙げていたが、受付程度なら誰でも同じだろう? それとも、領主との会合というのはエルフでなければならない理由でもあるのか?」


 こういう人種差別ギリギリの物言いだ。いや、聞く人によってはアウトだけど。

 それと、ニヤニヤして気持ち悪い表情がその3だとするなら、


「なに、君は十分女らしい身体をしている。領主殿も満足されるさ」


 セクハラがその4だ。

 この短いやり取りで的確に自分を表すんだから、逆に関心するよね。


「……私、受付業務中なんですが」

「構わん。少し依頼登録が滞った所で大した損失にはならんしな。私は一度自宅に戻ってから向う。先に向え」


 そう命令し、副支部長は踵を返して支部を出て行った。

 勿論ラシェルがキレたのは言うまでもない。私に噛みつかん勢いで迫り、出て行った入口を突き刺さんばかりに指差す。


「あいつが一番職権乱用じゃない!!」

「そうだね。ほんと最低だね」

「ほんとだよ! あーもー何でこんな時に限ってフランクさんいないのー!?」

「ピィー!」


 ノリでも合わせたのか、ハクまで一緒に叫んでいた。

 こんな時、抑止力になってくれそうなフランクさんは支部にいない。

 連合総本部で行われる支部長を含んだ本部総会へ出席するためなんだけど、その内容はフランクさんにも伏せられていた。

 同行するよう頼まれたのを断ったのはハクのこともあるけど、その点を不審に思ったからだ。面倒事は避けるに限る。


「あうー……私じゃ荷が重いよー」

「大丈夫だよ。エクトルさんも大体の事情は知ってるだろうから、ちゃんと対応してくれるよ」

「うん……そうだよね……」


 ラシェルを宥め、ホールにいるエリーゼとシンシアに万が一のフォローを頼んでおく。

 私が言いたいのは一つ。以前ならともかく、依頼の増えた最近の受付を甘く見るなってことだ。

 ……昔の暇さが恋しい。





 数日後、積もる雪よりも解ける雪の方が多くなった頃。支部のピリピリはもう噴火寸前という所まで来ていた。


「イリア、あいつ殺していいか」

「物騒なこと言わないでください。バルドさん」


 あなたが言うと冗談に聞こえません。

 まだ私が怖いのか、拗ねたように黙ってしまったバルドさんの代わりに、カウンター越しから声が上がる。


「でもよー、見てるこっちとしてもいい気分じゃないぜ?」

「あいつに味方するやつなんかいないんだし、いっそのことストライキしちゃえば?」


 カウンター席で上がった声に、ホールでも賛同する声が上がった。


「……皆さんにも不快な思いをさせてしまっていたんですね。申し訳ありません」

「イリアが謝ることじゃないって!」

「そうそう! 全部アイツが悪い!」

「……まぁ、俺らもこの天気で働けなくて鬱憤溜まってるってのもあるけどな」


 ダウト。

 以前から支部に入り浸ってた常連さんが言っても説得力なんかない。氷竜討伐の時の凛々しさは、ブレスで吹き飛ばされたみたいに見当たらなかった。

 とはいえ、慣れない降雪にはしゃげたのは最初だけ。行動が制限されるせいで、次第にストレスになっていたことも事実だ。


 どうしようかなって思っていたところに、防寒対策ばっちりの男性たちが支部に入ってくる。

 そのうちの一人を除き、暖を取るために設置された火の結石の傍にすり寄っていく。


「イリア、屋根の雪下ろし。終了確認したよ」

「はい。確認作業ありがとうございました」


 本来降雪のないリュネヴィルの屋根は平らで、積もれば自重で落ちる傾斜のある屋根と違って積雪に向かない。最近作られた建物ならともかく、古くからあるものは潰れかねない。

 只でさえ少ない火の因子を消費するわけにはいかないし、微調整が利くほど魔術も万能じゃないから、屋根の雪下ろしすら依頼に出されることになったってわけだ。


 ……雪、か。


「ダレンさん、降ろした雪ってどうしました?」

「降ろした雪? 通りと入口を避けてあったけど……何か指定されてたっけ?」

「いいえ」


 でも好都合。

 依頼達成の手続きを終え、私は休憩時間にエクトルさんのもとへ向かった。

 通りは雪かきを終えているとはいえ、踝ほどの積雪は残っているので普通の人には歩きにくい。ハクを抱いて雪の量を確認しつつ領主の館に向うと、幸運なことに副支部長に見つからずに辿り着くことができた。……なんてね。スキル使ったから見つかるわけがない。

 急な訪問だったけど特に問題はなかったらしく、応接間でエクトルさんと面会する。


「こうして会うのは久しぶりな気がするね、イリア」

「はい。難癖をつけられるのも面倒ですから」


 最近は書面によるやりとりばかりだったので、自然と話題はそちらに流れそうになる。

 折を見て話題を変えて本題に入ると、エクトルさんは狐に抓まれたような表情を浮かべた。


「対策もしっかりしてあるようだし、名前を貸すのも構わないが……報酬も君が出すのかい?」

「はい。私が考案したことなので」

「その程度であれば予算から出すこともできるよ。領主としても無関係ではないし、上手くいけば回収も可能なんだろう?」


 私は首肯する。

 でも、口に出すのは逆説の補足。


「ですが、実際にやってみないと反応は予想できません。それに、恐らく今回が最後ですから」

「……それもそうだな」


 そう言ってから、エクトルさんは首を横に振った。


「いや、やっぱり駄目だ。報酬も私が出そう」

「ですが……」

「心配ないよ。出すのは領主ではなく、私個人だ」


 それから少し話し合ったけど、結局出資の撤回はしてくれませんでした。

 フランクさんの言っていた、エクトルさんの頑固さを思い知った気がした。



 その日のうちに依頼表を作成し、掲示板に貼りつける。それを見た数人が信じられないような物を見たような声を上げて、釣られるように人だかりができていく。


「イリアちゃん、領主様が出したこの依頼……どういうことだい?」


 堪らずに漏らした問いに、周りの人も私に視線を向けた。

 それを受けて、私は笑みを浮かべて答える。


「参加していただく方に、雪で作るモニュメントの出来を競っていただくんです」


 参加資格はリュネヴィルに籍を置く老若男女で、ギルドを問わない。最大十人の編成で登録し、割り振られた場所にモニュメントを作成。その造形対象は制限なし。妨害行為には罰金と、今後一切の支部の出禁などの規則が設定され、上位三名には賞金の出る催し。

 日本風に言えば、


「雪まつりですね」





「何のつもりだ……!」

「何、とはなんでしょうか」


 支部の三階にある応接間で、私は副支部長の尋問を受けていた。

 繋がってしまうんじゃないかってくらい顰められた眉毛。こめかみはピクピク動いて、その憤りが尋常じゃないことがはっきりと分かる。


「とぼけるな!」


 副支部長が叩いたのは窓枠。

 その先では、住民が必死に……でもどこか楽しそうに雪像を作っている。


「都市機能を麻痺させかねない、住民全体を巻き込んだ依頼など職員が出すものではない!」


 まともな反論が少し意外だった。

 でも、そんなことを考えてないと思われているのも心外だ。


「お言葉ですが、この依頼は領主様の名前で出されております。それに参加者には各々の職務を全うしたうえでの参加を義務付けていますし、設けた時間外での建造も罰則対象となることを認証していただいております」

「詭弁だ!」

「責任は如何様にも。ただ、なにか問題が起こるまでは静観して頂きたく存じます」


 どうせ話しても無駄だろうから、こちらから譲歩したような状況に追い込む。

 責任は取ると言ってるし、もう始まっちゃってる上に名義をエクトルさんの名前で出してるから、副支部長は私の提案を受け入れざるを得ない。


「ぐぬ……」


 余程私を認めたくないのか、うめき声を上げるだけ。

 はやく堕ちてくれないかなー、とか思ってる時だった。


「入るわよ!」

「お、お客様、困ります!」


 ノックもなしに突如開かれたドアから姿を現したのは、


「久しぶり、イリア」


 長髪の赤毛から突き出す角が特徴的な少年と、


「何でそんなヤツに頭下げてんのよ」


 その肩に乗る、蝶々みたいな羽の生えた小人……妖精だった。

 二人を静止することができず、シンシアが半泣きで私を見ていたから、取りあえず頷いてこの場を引き受ける。

 お辞儀してからいそいそと離脱するシンシアに目もやらず、二人は応接間の中に足を踏み入れる。

 妖精……パーシャは私と副支部長を交互に見てたけど、興味がなくなったみたいに溜息を吐いて、改めて私に向き直る。そして少年……ガブリルの肩に立ち、ビシッと指をさして宣言した。


「氷竜の討伐、手伝いに来てやったわよ! 感謝しなさいイリア姉!」


 うまく反応を返せない私に、彼女は得意げに鼻を鳴らす。

 確かに彼女は呪いさえなければ妖精フェアリーの上位種、フェアリエルになれる。というか、ならなきゃいけないくらいの能力を持ってる。

 ガブリルに至っては鬼神の眷属だし、そのうえ――


「……イリア、この者どもはお前の――ッ」


 言い切る前に、床から突き出した白銀の剣が副支部長の喉元に寸止めされる。

 身動ぎすらできない彼の前に、剣と同じく床からゆっくりと現れたのは、ぬいぐるみサイズの男の子。

 こちらはパーシャとは違い羽は生えていないが、折れたとんがり帽子と長いヒゲが特徴だ。


『神子様に対する無礼、死を持って購うのじゃな』

「!?」


 よかったー!

 精霊の声が普通の人には聞こえなくて良かった!

 ぽけーっとしてるガブリルに、首をブンブンと振って意志を伝える。


「ノーム。イリアも気にしてないみたいだから、剣を収めて」

『しかしのう』


 チラリと私を窺う少年に、小さく頷きを返す。


『……心得た。出過ぎた真似をして申し訳ないのう』


 言いながら、まるで床に溶けるように小人と剣は消えていく。

 彼は土の大精霊、ノーム。普段は大らかなのに、私や主のことでちょっと融通が利かないところが玉に瑕。今回は大人しく帰ってくれた方だ。


 というわけで、ガブリルは自身が鬼因子によるバカみたいに強い剣士であるとともに、大精霊の契約者ということだ。

 いつもぽけーっとしている暢気さと、私と目が合うと頬を緩ませて手を振ってくる純真さ。

 こんな子じゃなかったら、国が一つや二つは滅んでたと思う。


 だから、この二人が力になってくれるっていうんなら、氷竜もただのゴリ押しで討伐できたと思う。

 だけど……。


「あのね、パーシャ」

「?」

「氷竜、もう討伐されちゃったの」


 パーシャの笑顔が引き攣る。

 固まってしまった彼女に、ガブリルが笑顔を向ける。


「だから言ったじゃないか。噂を聞いてから結構立ってるし、もう倒しちゃってるかもしれないねって」


 相方の追い討ちに、可憐な妖精は泣きそうな顔でガブリルの頬を引っ張る。


「わ、私のせい!? ガブくんだってイリアお姉ちゃんの力になりたいって言ってくれたじゃない!」

「うん。言ったよ。それはちょっと残念だけど、パーシャに危ないことさせずにすんだことが嬉しいな」

「あ、う……うん……」


 ガブリルの笑顔に頬を染めるパーシャ。デレッデレで空気が甘いです。

 相変わらずだなーって仲のいい二人のやり取りを眺めていると、それに気づいた二人の会話が途切れる。

 いつも通りほわんほわんとしてるガブリルに対して、パーシャはミニトマトみたいに顔を赤くしてあうあうと口を開閉させるだけ。

 こうなってしまうと復帰に時間がかかるから、ガブリルに視線を向ける。


「ごめんなさい。今副支部長と大事な話をしてるから、もう少し待っててくれますか?」

「うん、わかった」


 同意を得られたことだし、早めに切り上げてしまおうと副支部長に向き直る。


「……、何が狙いだ」


 そこには、得体のしれない何かを恐れるような、硬い表情が浮かんでいた。


「今度は何を狙っている」


 ……いくら思い返してみても、この人の顔をリュネヴィル以前に見たことは無い。

 “今度は”という部分が気になったけど、見られていたとしても別に疾しいことは無いから、ただ正直に答えておくことにする。


「狙いは三つあると思われます」

「!?」

「まず、雪かきを公然と依頼できること。次に、降雪によって蓄積した住民のストレスを発散させること。最後に……これは効果の程を予想できませんが、雪像の設置による集客効果です」


 副支部長の表情から察するに彼が期待する答えじゃなかったみたい。

 とはいえ、討論するつもりは最初からありません。


「以上の三点を鑑みても、この依頼を取り下げる利点は少ないと思われます。……より確実にこれら三点を賄える案がございましたら、勿論そちらに挿げ替えるよう領主様にも提案させていただきますが」

「っ…………」


 答えは無い。

 反論がないのなら、この場で話し合うことはもう何も無い。


「では、申し訳ありませんが、お客様がお待ちですので失礼させていただきます」


 お辞儀してドアに向かうと、自然とガブリルたちに向き合うことになる。

 真面目な顔をやめて笑みを浮かべて頷くと、彼もドアから出て行こうと踵を返す。

 ただ、パーシャだけが振り返って副支部長に顔を向けた。


「あんたさ」

「!?」


 話しかけられると思っていなかった彼の驚きはぎこちない。

 対するパーシャは、まさに無邪気な笑みを浮かべ――告げる。


「辛いならやめたら?」

「なっ……!?」


 パーシャはそれだけで満足したのか、ガブリルから私の肩に移動。


「イリア姉、相変わらず厄介ごとに巻き込まれてるのね」


 と耳元で囁いた。

 ……否定できないところが悔しい。

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