幕 間:「魔性化」
短いので連投です。
後日。リュネヴィルでは、氷竜の死体から四散した因子と魔力により、積雪という異常気象を迎えていた。
支部の一階で依頼達成処理を行っている間、私とフランクさん、それにアマベルさんは、三階の応接間で査定に出されていた氷竜の角と睨み合っていた。
「イリア……どう思いますか」
「……やっぱ変、なんだよな」
そう。アマベルさんが訊ね、フランクさんが言うように、その角は変だった。
普通、竜に限らず角はその生物が宿す因子を色濃く反映する。表面上は無関係でも、内部には相応の色……氷竜なら、青と緑の粒子みたいなものが散りばめられたように見られるはずだった。
なのに、この角に散りばめられた色は黒。
まるで内部を侵食するように黒い粒子が蠢いていた。
「……魔性化です」
「ましょうか……?」
「瘴気というものをご存知ですか?」
二人は互いに顔を見合わせ、フランクさんが頷いて見せた。
「長時間浴びると魔物になるっていう霧、だろ?」
「一般常識ではそうですが、本当は違います。普通の生物にとっては毒でしかありませんが、魔素の増加が魔物を活性化させる麻薬のようなものであるとしたら、瘴気は魔物にとって強化と狂暴化のような変化を促す劇薬みたいなものなんです。その瘴気によって魔物の体内にある魔素が変異することを魔性化っていうんです」
きょとんとしていた二人だけど、やがてフランクさんが狼狽したように口を開く。
「だが、竜は魔物じゃないと君は言っていなかったか?」
「はい。だから有り得ないんです」
魔性化していたんだとしたら、習性を忘れたり、意味のない移動をしてきたり……負傷を抱えてまで人を襲おうとする理由も、知性の鈍化ということで説明はつく。
でも、代わりに問題が発生する。
生物の体内にある魔素に干渉して魔性化を起こせるのは悪魔だけ。
高次の生物である神獣の体内に干渉できるほどの悪魔。
人はそれを、邪神と呼ぶ。
第一章終了です。