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Nothing changes  作者: 希月律
第一章
1/9

プロローグ

 私が小学生の頃、大好きだったアニメがある。


 ストーリーはごく単純。

 ひょんなことから異世界に召喚されてしまった少女が、もとの世界に戻るために旅をする。

 道中、きらきらしい美男子や、少女の理解者になってくれる美少女と出会い、共に旅をするようになる。

 最終的には、少女を異世界に召喚した張本人であり、異世界を滅ぼそうとしている魔王でもある敵と戦うことになる。

 少女は仲間たちと力を合わせて敵を倒し、もとの世界に戻ることはできなかったものの、仲間の一人である美青年と結ばれハッピーエンド。

 そんな話だった。


 夕方五時半ジャスト、テレビから華やかなオープニング・テーマが流れ出す。

 そこからきっかり三十分、私は夢の世界に入り込む。

 美しい青年との甘い恋、胸躍る冒険、気のいい仲間との友情、ファンタジックな世界――。

 すべてが心地よいものばかりだった。



 一年ほどで終わってしまったそのアニメは、とある漫画が原作だった。

 アニメが最終回を迎えてから、私は原作の漫画を読み始めた。


 ……期待していたより、楽しめなかった。

 アニメほど熱中はできなくて、結局、五巻ほどで読むのをやめてしまった。



 小学生のときの記憶は曖昧で、原作の内容までははっきり覚えていなかった。

 だから、私はつい最近まで、アニメの出来がとてつもなく良くて、原作自体はそれほどでもないのだと思い込んでいた。

 けれど、逆だった。


 ふとアニメのことを思い出して、インターネットで調べてみたら――まあ、びっくり。

 アニメ版はファンの間でめためたに非難されていて、原作の良さをちっとも活かしていないとか、あれじゃ別物だとか、さんざんな言われようだった。

 特に言われていたのが、『ご都合主義すぎる』ということ。

 原作では主人公の成長や努力をていねいに描いていて、だからこそ仲間にちやほやされたり異性にやたらと好かれる展開も納得できた。なのに、アニメ版はその過程のほとんどをカットしてしまっているから、ただ何となく皆に好かれて持ち上げられているだけにしか見えない――とのこと。


 私は改めて原作の漫画を読んでみた。

 すると、確かにファンの人たちの言うとおりだった。

 原作では、主人公の少女が健気な努力を重ね、少しずつ成長する様子が丹念に描かれていた。仲間たちも最初から少女に好意的なわけではなく、努力する姿を見ることで少女を見直し、打ち解けるようになっていた。

 アニメ版を思い返してみると――確かに、原作に比べて努力する描写が格段に少なかったように思う。これはファンが怒るのも頷ける。



 けれど、私の中では今でもアニメ版のほうが輝いている。読み直してみて、原作も面白いとは思ったけれど、あれほど夢中になることはなかった。

 どうして当時、あんなに夢中になったのか。

 そして、どうして原作のほうには夢中になれなかったのか。

 認めたくないけれど、今の私にはその理由が何となくわかる。



 きっと、私はまさにそのご都合主義なところに惹かれたのだ。

 平々凡々なはずの少女が、現実の悩み事など関係のないファンタジー・ワールドに飛ばされて、あれよあれよという間にちやほやされるようになり、魔王を倒して英雄にまでなる。

 それが良かったのだ。

 主人公に自分を重ね合わせて、楽々と現実を手放し皆に愛される姿を我が物と思うことで、心を癒していたのだ。

 原作は確かに面白かったけれど、努力や苦悩の描写がしっかりとしすぎていて、楽で心地よい気分は味わえない。

 だからだろう。



 私はずっと、どこか遠くへ行きたかった。

 ありとあらゆる現実の要素を捨てて、ぬるま湯のように私を愛してくれる世界へ行きたかった。

 だからこそ、あんなに熱中したのだろう。世間的には駄作扱いの、ご都合主義の極みのような作品に。



 後になって私は知る。

 どこか遠い世界、見知らぬ世界、――異世界。

 そこへ行っても、何も変わらないということに。

不定期更新になりますが、宜しければお付き合いください。

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