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【5】 センチメンタルな淑女

モルトバーン伯爵から、

「妹の話相手になってほしい」という仕事の依頼がありました。


あのあとすぐにエルベリー子爵が帰ってきて、

ココットが仕事に出たいと許可をとろうとしたら

すんなり了承されてちょっと唖然としたり。

父親として何か不安に思うところとかないのかな?

でも、父はココットの頭をなでて「可愛い子には旅をさせろと言うだろう?」

というので、父なりに子供に大きくなってほしいという期待が

伝わってきてココットはとてもうれしかった。


まぁ、そんなこんなでモルトバーン伯に雇われる事になったのだ。

伯爵が「2週間後に迎えをよこす」というので

梱包作業を着々と進めているのだが

ふらりとやってきた兄が部屋に入ると妹とその足元の荷物を見て一言。



「ココ、お前は何しに行くんだ?」



ココットの足元には、5mくらいの布が2-30種類と

大量の刺繍用の糸に、刺繍用のループがこれまた4-5種類

大きな20cmくらいのループがあるということは、

パッチワーク用のものだろうか。端切れの入った箱もある。

加えてこれから寒くなるからか毛糸や編み棒まで何種類か確認できる。

あと、でっかい裁縫箱がなぜか2つ。


1年の約束で赴くのだが、それにしても多い…洋裁用の荷物が。


服が見当たらないのから、服はこれから積めるのだろう。

嫁入りか?嫁にでも行くつもりか、わが妹は。

と、ビルケットは目頭を押さえ頭を横に振る。


「兄様、頭痛いんですか?横になりますか?今医者を呼んできます」


「…いや、いい。それよりもこの荷物の多さは何だ」


「え?だって…刺繍のほかにご興味が出るかもしれないじゃない」


「お前の服はどうするんだ?」


「あー…ん~。2-3着持って行ってあとは向うで揃えるわ」


「それは、逆だろうが」


「逆?」


“何が逆?”と言いたげな妹を見てビルケットは本格的に頭痛がしてきた。

父は、妹の土産に布を買うことがあるがあれは首都リシアスで買ってくる。

種類が豊富で、裁縫にはとんと疎い父でも店員に聞けは流行の布や

流行っている種類などが聞けるかららしい。

だから、向うで材料を買って臨機応変に対応できるよう様々な種類の衣装を

持ち込めばいいのに…妹らしいと言えば妹らしいが……


はぁ…何で


「逆って何?兄様」


なかなか答えない兄に妹は痺れを切らして聞いてきた。

だから、今思ったことをココットに伝えると、そうか!と

荷造りを再開した。…はぁ、今日は早く寝ようかな。


「ココ、迎えの馬車は明日来るらしいから…洋裁道具は

刺繍道具を中心にコンパクトにまとめておくようにな。

大量の布持ち込んだら向うに迷惑かかるだけだぞ」


「えー、だってルフィーナお姉様が来られたら

お人形作ってお渡ししたいわ」


「………ルフィーナはめったに首都に行かないから。

というか、お前は仕事に行くんだぞ!?一日働きづめなのに

作れるわけないだろうが。個室を用意されるだろうが

邪魔にならないよう荷物は小さい方がいいんだ

一年過ごす間に荷物増えるんだから。

もし必要なら届けさせるから。

ルフィーナだってこういう事情ならわかってくれるよ」


「…………お姉様のお手伝いしたい」


「はぁ…ココット。お前はこれからなにしに行く?」


「…むっ、モルトバーン伯爵の妹君 レフィリア・ノールフェスト様の

お話相手としてモルトバーン伯爵邸にお世話になるんですっ」


「それなら、レフィリア嬢に尽くすためにも

お前の誘惑が少ない方がいいだろうが。目的を忘れるな、ココット」


「はい……」



結局、ビルケットの要請でタバサが呼ばれ

せっかく集めた荷物も半分に減らされてしまったのである。


「なんか半分になっちゃったね」


「これでようございます。これ以上増やさないでくださいましね」


「はぁい」


「向うでは淑女らしく慎ましやかにお暮らしくださいね」


「!タバサ、何泣いてるのよ。

もう帰ってこないわけじゃないでしょ」


「…うっ、ココット様は、17年この屋敷でお暮らしでした。

それがまたお戻りになるとはいえ、…っ、

この屋敷にお出になる日が来るなんて…申し訳ございません

だめですね、年をとると涙腺が緩んで仕方ないわ」


「そうだよ。1年か2年には帰ってくるんだから」


「それが終わったらお婿様探しですかね」


「えー、そんなのまだ先よー」


「お帰りになるころには、18歳か19歳におなりです。

きっと、ふさわしい方を

旦那様やビルケット様が見つけてくださいますよ。それに…」


「?」


「都に出られて、色んな方と出会うときっと

ココット様がこの方となら…と思われる方が現れますよ」


そうだろうか。

ココットは、今趣味で頭がいっぱいで恋をしたいという欲望がない。

兄や姉が20過ぎても結婚をしていないのも一因だと思う。

兄などあと数年もすれば30だというのに…

だから、10代のうちに結婚しなくてもいいかと思ってしまっている。

この国でも貴族は早くに嫁ぐものなので

タバサや親戚などはやきもきしているみたいだけど。


「ともかく病気や怪我などに気をつけて元気にお暮らしくださいね」


「うん。タバサも元気でね」


タバサは、昔から…両親が結婚する前からいたって聞いた。

お母様が亡くなられてからは、お母様の代わりにマナーや礼儀を

厳しく教えてくれていた。お母様の代わりだったのだから、

私を娘のように見ていてくれたのだろうか。

そう思うと、なんかちょっとホロリときた。


ココットは、この17年のことを思いながら

ここで寝るのもしばらくないのね。と思いながら静かに眼を閉じた。



―――その瞳から一滴流れた。




翌朝、身だしなみを整えて朝食を取ると

先に食事をして仕事をしている父の元へ行った。

珍しく父が事務仕事をしていて兄は横でなにやら

話し合っていた。収穫も終わって農業のオフシーズンなのかしら?


「ココット、もう準備は済ませたのか?」


「はい、お父様。荷物は馬車に乗せてもらってるし

お昼もジャンが用意してくれてるわ。大丈夫よ」


「本当に大丈夫か?」


「大丈夫よ、兄様っ」


「ココット、羽目を外さず、そして、お前らしさを失わず

よく令嬢に仕えなさい。そして、よく覚えておきなさい

お前は何処にいてもどんな時でもエルベリーの人間だ

いつでも、私やビルケットやルフィーナがいることを忘れるないように」


「はい、お父様」


「落ち着いたら、どんな仕事しているのか手紙書いてくれよ」


「うん、あ、兄様?」


「ん?」


「イイ人出来たら私にも知らせてよ。

お義姉さまになる人がどんな方か知りたいわ」


「!?」


「お?ビルケット、いいと思う女性がいるのかい?」


「ち、父上!いませんよそんな人

ココットも…そんなすぐにできるもんじゃないから

お前は自分の仕事に専念すればいいんだ」


タバサが昨日あんなこと言ったから、

自分より結婚の可能性がある兄に言ったつもりだったのに

ものすごく真っ赤になった。…やっぱり、まだあの人が好きとか?

まぁ、兄もいい年だし自分で何とかするだろうとこの話は終わった。


兄の結婚話を別の話に持って来ようと兄が必死になるころ

迎えの馬車が到着したと執事が伝えに来た。


「ジェイス、お弁当も積んだ?」


「ジャンが直接渡したいとのことで、下で待っております」


1階のロビーに行くと、シェフのジャンがバスケットを持って立っていた。


「ココット様のお好きなものばかりを集めてみました。

お昼になったらお召し上がりください」


「ありがとう。でもね私の一番好きなのは一昨日飲んだスープなの

だから、帰ってきたら作ってくれる?」


「もちろんです。ココット様お仕事がんばってください」


「ジョンもそれまで元気でね。いってきまーす!」


後ろから兄様とお父様も降りてこられたので、

元気に手を振ると…叱られた。淑女らしくないって、むぅ。

じゃあと、淑女の礼をして


「行ってまいります、お父様、兄様」


というと、心なしかしんみりした顔でお父様が、


「行っておいで、ココット」


と言ったので思わず泣きそうになった。

すぐにニカッと笑ったのでわざと泣かせようとしたのがわかり

悔しくて頑張って笑って見せたけど。

(出発する直前の顔がタコ顔なんで嫌じゃない?)


馬車には、ジェイスがいて手を出したので

手を添えて馬車に乗り込んだ。初めて一人で乗るかも。


「ジェイス、お父様と兄様がちゃんとお仕事してくださるよう見張っててね」


「もちろんでございます。ココット様いってらっしゃいませ」


「行ってきます、ジェイス」



馬車の扉がしまって馬車は走り出した。

お昼ごはんは結構多かったので、御者にも分けて食べた。


でも、一人きりの個室で食べる昼食は…なんだか涙の味がした。

ココットは、常に傍には誰かいたので突然独りきりにされると心細いものです。


いつも無駄に元気なココットも独りで生活する(いや伯爵邸にはたくさんいるんだけど)

と思うと涙腺緩むのかなと思い書きました。


次からいよいよ侍女ココットの生活スタートです。

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