【38】 悩みすぎる淑女と悩まなさすぎる淑女
お久しぶりです、適度に悩めという言葉を淑女に送ろう!(?)
「お招きいただきありがとうございます」
数日振りにお会いしたレフィリア様。
連日の準備の疲れからか少しお疲れのご様子
お顔の表情もお肌の色もすぐれないみたいです。
ひとまず座っていただきました。
「本日は、お忙しい中お越しいただきありがとうございます。
レフィリア様おいしいお紅茶いかかですか?
シェフのグリーズさんがおいしい茶葉を仕入れてくれましてね
リウムさんがおいしく入れてくれるのですよ。
私も今度おいしく入れられるように教えてもらおうかしらっ」
「………………。」
「どうかなさいましたか?まだお疲れですか?
あぁっ、疲れを取るハーブティとか入れられたらいいのにっ」
「………ココットさん…」
はうっ、美少女の儚げに揺れる瞳!
お姉さまが見たらお胸プレスされるくらい愛らしい!!(?)
じゃなくて、やっぱりここ最近ご様子がおかしい…
『あぁ、美しい…俺は彼女をまとう空気になって彼女を護りたい…』
私もおかしい!!
なんでお姉さまの取り巻き男性の台詞が今出てくるのよ!
お姉さまは護られなくても十分お強いわ!
じゃなーい!!!
レフィリア様!レフィリア様のことを考えなくちゃ。
久々のお茶会で興奮マックスじゃダメ!
冷静に…冷静になりなさい、ココット。
楽しいパーティも間近、今日はレフィリア様も楽しみにされていた
お茶会なのになぜ今泣きそうなお顔されているのかそれを聞かなくちゃ。
「どうかなさいましたか?何かお悩みなのではありませんか?」
「……………ココットさん……私……私っ……」
とうとう大粒の涙がいつもより白い肌をつたって下に落ちていきました。
あわわわわ…前回お会いしたときお疲れのご様子だと思ってたけど
何か気がかりなことがあって悩んでらして暗い顔をされていたのね!
ごめんなさいっ、レフィリア様!!お辛いお気持ちを察することができなくて
あわわ…ひとまずヘレンから受け取ったハンカチをお渡しして
背中をさすりながら抱き寄せてみます。
私もうまく言葉に出来ないくらい泣いてたとき兄様やタバサに
こうしてもらったら落ち着いたもの。人肌ってとても落ち着くのよね
「うぅああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
うああああああああ!!
落ち着くどころか啜り泣きから号泣に変わってしまいました!
どどどどどどどどどどうしよう!!
とととと取りあえずぎゅっと抱きしめて抱きしめて…えとえとえーーーーと
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あ!
ぽんぽん、だ。
ある領民のところに行ったときに泣きやまない小さい子を
お母さんがあやすときに抱っこしてぽんぽんしてた
「お母さんのお腹にいたときの音を体に感じると落ち着くもんなんですよ」
お母さんはそう言ってたわ小さい子は1分もしないうちに寝てたっけ
さっそくレフィリア様にも頑張ってぽんぽんしてみた。
そのお母さんいわく人間の心臓の音くらいゆっくりぽんぽんするらしい
おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお~~~
最初は部屋の外に聞こえそう(いえたぶん聞こえてる)なお声だったのに
2分位したらお声が小さくなってスンスンとしゃくりあげる声になってきました
ありがとう…う、と。果樹園のお母さん!!(名前忘れた…)
しゃっくりみたいな感じが止まらないからひたすらぽんぽんしてました。
どれだけぽんぽんしてただろう…右手が疲れてきました
でも、それだけ悩みや不安が心を占めていたってことよね?
サナさんには相談されないのかな?
いつもお一人で悩みを抱えられる方なのだろうか…
それはお体によくないわ!今日はどれだけ話をそらそうとも
悩みが解消されるまでお話を聞かなくては!
お茶会よりもお悩み相談!レフィリア親衛隊の出番よ!!
「…っ、ごめっ…んっ…さい………うっ…」
まだしゃくりあげながらも俯きながらもレフィリア様はそう仰いました
「泣いてスッキリしろ!!」
なんて人もいるけどそんなんで根本的な解決になるはずもなく
やっぱりあれだけ大泣きされてもお顔の表情はすぐれないまま。
「何かあったのですか?」
「……っく…ごめんなさ…なんでも」
「なんでもなくはないですよ。
こんなに泣きはらして大丈夫だなんて仰らないで下さい…
言ってすべてが解決するわけじゃないですが解決の糸口くらいは
見つかるかもしれません。私が信用ならないならサナさんだって
お兄様に言いづらかったら私から申し上げたりご親戚だって…」
「いいのっ、…っ。どうにもならな…の……どうに、も…っ…」
「では、言ってみて下さい」
「!」
「何が出来ないのか私には分かりません
レフィリア様には出来なくても私にはできるかもしれません
私はレフィリア様ではありませんのでどのようなご事情かお気持ちか
わかりません。ただ、もしかしたら何かお力になれるかもしれないのに
このまま何も出来ないのは歯痒いのです!私は、貴女の力になりたい!
お困りのとき助けて差し上げられる人になりたいのです。
笑顔が素敵な貴女にずっと裏で不安押しつぶされながら
泣いて欲しくはないのです。我侭も図々しいのも承知です
秘密ですと仰られたら口外はいたしません話しづらいのでしたら
私を壁か何かと思ってください。このままでは本当にお体によくないです
だから…お話ください」
「………ココ、ットさ…」
「はい、なんですか?」
言いづらそうになさっていたのでできるだけ優しく返事をしてみます。
カウンセリングなんてやったことないし相談に乗れるほど
人生経験豊かでない(むしろウィルソン様くらいの大人からすると未熟よね)
私がお姉様みたいにてきぱき解決できないだろうけど、でも…
何かお手伝いできるかもしれないのに何もしないのは嫌なんだもの!
「私…結婚、するかも…う、しれないんです……」
「え…」
ものすごくハードな!いやいや、そうじゃなくて!
「何故ですかレフィリア様はもうすぐ15歳になられるのですよ。
まだ成人されていないのにもうご結婚だなんて…
いや、ご婚約なら可能かもだけれど…でもっ!決まりそうなのですか?」
「いえ…妾腹である私を早々に出すのだと…」
「ウィルソン様が仰ったのですか!?」
「いえ…っお兄様ではなくて…従姉妹たちが…」
「この前の女性ですか?」
私がレフィリア様のご親戚で唯一知ってる女性(名前聞かなかったわ)を
思い出す。ド派手で女性らしいボディラインの美人で
お金にすごい執着をみせていた怖い人だったわ。
しかし、レフィリア様は首を振られた。うーん、誰だろう…
「父方の…なのでココットさんはお会いになったことはありません」
「あー、それは知らないです…じゃない知りませんでした」
あわ、やってしまいました。考え込んでいたのでついついくだけた口調に…
気をつけなくちゃ気をつけなくちゃ
父方のご親戚ってウィルソン様がレフィリア様に会わせてもいいと仰った
方たちかな。そのような方がそんなひどいことを仰るのだろうか…
「ですが、ウィルソン様は仰ってないんですよね
ちなみにご親戚の方はどのように仰っていたんですか?」
「………………」
よほど言いづらい内容なのか激痛に耐えているような苦しそうなお顔で
口を閉ざされてしまいました。硬く閉じた手に触れて様子を伺いますが
これ以上はお話しになれないみたいなのでもう結構ですと肩をぽんぽん
しました。やっぱり無理に聞きだそうとしちゃダメだったかな…
というか女性をこんなに苦しめる言葉って何よ!悪意がなくてもひどい
「でもでも、ウィルソン様が仰っていなかったらその話しは仮定なのでは?
仮定というかその方の空想と申しますか
第一ウィルソン様ご自身がまだなのですから
いつかそうなるかも…という
作り話程度のお話しですよ!もし現実味のあるお話しなら…
私がウィルソン様に抗議します!!」
「えっ!?」
「そうでしょう、レフィリア様がこんなに苦しまれているのですから
見ず知らずの素敵な殿方。というわけではないのでしょう?
レフィリア様が不安がられるようなところに嫁ぐなんておかしいです!
レフィリア様はもう…幸せになっていいと思うんです…」
「ココットさん……」
「それでもそういうところに嫁がせたいというのであれば
ビルケット・エルベリーがもらいます!」
「えぇぇっ!?」
「兄様は女性に無体なことなさいませんしもちろん独身恋人もいませんたぶん。
お家のために嫁がれるというのであれば王族の方の信頼も厚い…と聞きます
エルベリー家と関係を結べば一応このお家のお役に立つと思います
そして、レフィリア様が嫌がるようなことを兄様がさせるとなったら
私とルフィーナお姉さまが兄様を懲らしめて差し上げます!!
求婚のお相手の方がしつこくレフィリア様を追いかけるのでしたら
エルベリーに逃げ込みましょうお父様は絶対そういう非道なことから
護ってくださいます!…どうですかっ!?」
ドヤッと手を差し出しながら兄様お買い得アピールをしたのに
と当然ながらレフィリア様は唖然となさりそして涙を輝かせながら
微笑…んだかと思ったら吹き出されました!?
うえっ?私おかしいこと言いました?
涙をぽたりぽたりと零しながらふふふ…と笑っていらっしゃいます。
ど、どうなさったのですか?レフィリア様…
「レフィリア…様…?」
「ふふ………本当に、不思議な方。ごめんなさい。
まだ起こっていないことに深く悩んでいた自分が滑稽に思えて
そんな自分笑ってしまいましたの。そしてココットさんのそのお心遣いが
私の心を軽くしてくださいました。ありがとうございます
せっかくですがビルケット様のお気持ちもどなたかにあるかもしれませんので
お気持ちだけ受け取っておきます」
「兄様振られた!
しかし、大丈夫なのですか?あんなに取り乱されていたのに…」
「はい………まだ平穏とはいきませんが、なんとか
いつもの自分は…取り戻せた気がします。まだなんだかモヤモヤしますが…」
「レフィリア様……」
「……………私はいつも妾腹の子という現実が心に引っかかっていました
私の生まれはどうあっても変えられませんし
母たちがしたことをなかったことにもできません
母たちがノールフェスト家に与えた損害を考えると親族である私が
誰かの元に嫁ぐのも…私がこのままとどまることでお兄様のご結婚の
妨げになっていることもわかります…」
「レフィリア様っそんなことは!」
「ココットさん…
気遣ってくださるのは嬉しいのですが、母方が傷つけたこの家の名誉や
経済的損害は私が知っているだけでも相当なものなのです
それを見てみぬふりをして私だけ自由に暮らすなんて…
それは母と同じことをするようなものです……
ここまで立派に育ててくださったお兄様へのご恩もありますし
それに縁が切れたとはいえ私は紛れもなくスレイクホーム男爵家の人間です
そのような者がの家にとどまるのはやはりお兄様の縁談に支障が出そうですし
たとえ決まったとしても相手の家の方はよくは思われないでしょう…」
そう言って俯かれてしまいました。
ですが、それでは生贄みたいです…確かに母君方のされたことは決して
許されることではないでしょうがその補填に一人の人生を捧げるなんて…
レフィリア様に触れた手が小刻みに揺れてまた瞳から涙が零し、
「ですが、その私を是非にと思われている男性がいると
従姉妹から聞きました。しかし、彼女たちが言うにはその方は…
いわゆる好色で特に若い女性がお好みでですが女性の扱いはひどく
…お姿も……カエルさんなのだとか………………」
カエル?あの水辺にする小さいゲコゲコ?
背丈が低くて口が大きくてゲコッて言うのかしら
カエルさんってとても可愛いんだけどなぁ。
でも、お兄様が美の権化みたいな美しい男性だからなぁ。
でも、小さい方もお口が大きくてワハハと笑う方も
愛嬌あって素敵なんだけどなぁ…うーん。
「そう従姉妹から聞かされたときにとても怖くなって震えが止まらなくなって
どうしたらいいのかどうしたいのか誰に相談したらいいのかわからなくなって
よく考えればそんな話しもあると、それだけなのに
お兄様から話を聞かされたわけでもないのになぜか現実に思えてしまって
とても…苦しかったのです…………」
「レフィリア様お話ししてくださってありがとうございます。
ですが、これからはあまり考え込まずに誰かに相談してください
その方が対処できなくても詳しい方を紹介してくださいますよ。
そっか、私も縁談は兄様にお任せするつもりだったけれど
そういう方も現れる可能性が高いんですよね…」
「え?ココットさんは…」
「なんですか?」
「いえ…あの、ココットさんの好きな方の条件は何ですか?」
「真面目に働いてくださる方!」
「え…」
「先ほど兄様を薦めといてなんですが兄様は最低限のお仕事しかなさいません
しかも、ちょいちょいいなくなるので使用人や私はちょっちゅう
兄様を探し回っています。ですからでれば決まった場所でお仕事をして
下さる方がいいなと…あ、軍人さんみたいに外で活動される方も
いらっしゃるのでそういう方は別ですがあと浮気しない人ですね。
他に相手を見つけた場合は別れて欲しいです、私だけを見て…なんて
重そうな言葉ですがやっぱり互いを見つめて生きていきたいです
私がお裁縫できないと嫌なのでその辺に理解ある方ならなおいいですね
あと楽しい方だったら楽しい生活が送れそうですね
…これだけ詰め込むとそんな方いらっしゃるのかと不安ですが」
「……………………本当に離れて行ってしまうみたい」
そうつぶやくと私の体に寄りかかってきました
「まだ半年ありますよぅ、まだ離れません大丈夫です」
「ですが、この半年があっという間だったのです
ですからこれからの半年があっという間かと思うととても不安になるのです」
「…………レフィリア様」
確かにやることいっぱい出来事いっぱいであっという間に
半年が来てしまいました。私もあっという間にお別れがくるかと思うと
とても寂しい気がします。
「私はたくさんココットさんに助けられて頼ってきました。
その頼りにしていたココットさんとお別れしてしまったら
私はどうしたらいいんでしょう…………」
「そしたら、私一緒にエルベリーに来ませんか?」
「え?」
「“お友達のうちにお泊まりにいく”ですよ♪
ウチはお父様や兄様が指定する危険な時間や場所さえ出歩かなければ
好きに行動していいんです、いっぱい案内したいので遊びに来てくださいよ」
「…………楽しそう、ですわね。その時は是非」
「はいっ、楽しみましょうねっ!」
カエルさんは、アマガエルじゃなくてトノサマガエルなんです…
あと、レフィリアの母はノールフェスト家に嫁げなかったので
レフィリアは“妾腹”(未婚女性に産ませた子)なんです。
そんな話をいつか書けたらいいなぁ…(そればっかや)




