【35】 あのあと、このあと、あとに続く道
「ごめんなさい…」
13体のぬいぐるみが出来て数日後
アルフレッド殿下とマルティア殿下が揃っておいでになり
まず最初に王女殿下が先日のお詫びをしました。
「そっ、そんな…顔をお上げくださいっ。
私は、驚いただけで別に嫌だったとかそんな事は思ってませんから!」
「じゃあ…また貴女の人形見せてもらっていい?」
「え、はい!ぜひ!殿下のポプリもいつか拝見したいです!」
「…!!いつかとは言わず、今度私の研究所にいらしゃいな!」
「はい、とても見たいです!」
「新しいポプリも完成しそうなの!」
「わぁ!」
「それをね、何に使えるか考えて欲しいのっ!」
「それは、楽しそうですね!!」
「でしょ!!じゃ、今から…」
「「ゴホン!」」
話が盛り上がろうとした所、お傍にいた男性方から咳払いが聞えて来ました。
「マルティナ」
「ごめんなさい…」
謝りに来ただけだろう。と妹姫をたしなめるアルフレッド殿下。
わ、私もお断りしなければいけなかったのですね。うぅ…
とてもとても楽しそうに思えたのですよ!
新作ポプリそれを使っての新しい作品作り!
でも、今日は謝って一区切り付けるだけ。
なので新作は別の機会ということなのですね。うーん、でも楽しそうぅぅ
頼まれていた人形をお渡ししようとしたら、
これからウィルソン様とアルフレッド殿下はお話があるらしく
別室でお茶を飲んで殿下の御用が終わるまで
マルティナ殿下のお相手をして欲しいと頼まれましたので、
テラスのあるお部屋でティータイムをすることになりました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!可愛い!!」
お席についてすぐ、お人形をお渡ししましたところ
目を輝かせていろいろな角度からご覧になったり
匂いを嗅がれたりして観察されていました。
1つ1つお人形の性格とそれによる材料の選択理由を述べると
今度はレフィリア様が瞳をキラキラさせていたので籠から出して
並べつつ1つ1つ説明させて頂きました。
「貴女の部屋はぬいぐるみでいっぱいなのかしら
これだけの数作るの早いし、前お部屋に行ったときいくつかあったわよね。
いいわねー、お裁縫が得意だとお部屋いっぱい飾れるんですもの。
もう嫁いでいないけど2番目のお姉様のお部屋もお手製の物でいっぱいだったわ」
「私の所にはあまり物を置かない様にしています。
もう数ヶ月でここを去らなくてはいけないので、帰りの荷物が
かさばらないようにしなくてはいけませんから」
「えー。貴女の作品見てみたかったのに…そっか、いつこの仕事終わるの?」
「あと、5ヶ月くらいですね。
セーブしても、やはり物が増えたのでいま整理中なのです」
「更新の話ないの?次の仕事がもうあるとか?」
「いえ、しばらく…
しばらくといっても2ヶ月くらいは家でゆっくりしたいなと思っています。
ここで学んだ事を糧に家で何かお手伝いしたいのです」
「家に…帰るの?エルベリーに帰るの?」
「はい、そうです…?」
話の途中から王女殿下がご様子がおかしくなって
お付きの侍女さんと何やらお話になり、侍女さんどこかへ行ってしまいました。
私の仕事…もしかしてスカウトしていたのに私に伝わっていなかったとか?
労働者は、休業期間なく次の仕事を見つけているのが常識なのだとか?
休むってのが家族に甘えてる=子供!?
「あ、あの…ココット、さん?…」
「え?」
わたわたしていたら隣で静かにお茶を飲んでらしたレフィリア様が
心配そうにお声をかけてくださいました。
「大丈夫ですか?」
「どうしたの?ココット」
急に黙ったのでマルティナ殿下にまでご心配おかけしたようです。
「いえ、殿下が考え込まれていたので
もしかしたら、もうこの時期次の仕事を決めてなくちゃいけないのかなと
思いまして。やはり2ヶ月もお休みもらうのっておかしいことなんですか?」
「う~ん、みんな花嫁修業の一環で上流貴族の子女の世話役を終えたら
親が決めた相手が決まるまで、大体が遊んでいるわよ。
パーティに出るなり、お茶会開いたり呼ばれたり…」
「次のお仕事は決めないんですか?」
「そもそも“花嫁修業”で行くだけだからね。
1回やればいいと思ってる人がほとんどじゃないかしら。
本当にこのあと何も予定ないの?伯爵からは何も?」
「はい。あ、契約書には“1年”と書いてあったので
ここでの仕事は、1年だけになります。働き続けるのはおかしいのかしら…」
「おかしくはないわよ。
仕事したら必ず結婚しなきゃいけないわけじゃないし、
ま、エルベリー子爵が貴女の望むようにしてくれるんじゃないの?」
「そう…ですよね。お父様からお許しくださればまた働いたり出来ますよね。
まぁ、結婚はだいたいウチには未婚の兄様とお姉様が上におりますしねっ」
「……年功序列でいけば、ね。
それはそうと、ねぇねぇ貴女の部屋にはなにか作品ないの?」
「あの…先ほども申し上げたとおりなるべく荷物を置かないようにしています。
なので、人形2つと、着せ替えの服…」
「着せ替えの服ッッ!!」
突然そう仰って立ち上がられ(お付きの侍女に咳払いされて座られましたが)
私の部屋を見たいと仰られたのですが、残念な事にアルフレッド殿下の御用事が
終わられたとの事でお帰りになられました。
「次!次来たときは真っ先に見るから!」
そうきっぱり宣言されて。
なんだか相変らずお元気な方だなぁと思いながらお茶を飲んでいたら
ふいにお隣で同じくお茶を飲んでいらっしゃるレフィリア様のお顔に
元気がないのに気が付きました。…は!だだだダメじゃないの!
私は、レフィリア様の“お話相手”
王女殿下のお相手をする為とはいえ、主たるレフィリア様をほっておくなんて!
どどと、どうしよう。お茶は今飲んでるしさらに飲むとか食べるとか
あまりお召し上がりにならなさそうなレフィリア様にはできない話だし。
どどどどどどどどどどどどどどどど…
「どうかなさったのですか?」
「ぅえっ!?い、いえなんでもないですっ。
レフィリア様こそお加減よろしくないのですか?お疲れになりました?」
「いえ…いえ、大丈夫です」
いえいえいえいえ、ただでさえ色白美少女なのに
顔面蒼白という感じでさらに色を失っているご様子。
人との対面は苦手でいらっしゃる上にお相手が王族の方ですからね。
緊張がピークに達して大変お疲れでも不思議じゃないです。
「あまりご無理をなさっては、またお体に障ります。
今度レフィリア様がお元気になりそうなお話を仕入れてきますから、今日は」
「いえ!いいえ!!私は!大丈夫ですからっ」
「ですが、いまのご様子ではあまり“お元気”には見えません」
俯いて眉根を寄せてとても苦しそうな表情をしていらっしゃいます。
とてもお辛そうな表情に主の指示があるまで動かないサナさんが
心配そうにこちらを見て私にどうしたのかと顔で訴えているようです。
「あの、サナさん。レフィリ…」
「いいのっ!!あの…もう少し…ご一緒したいです」
「お体にご不調は無いのですか?」
「はい。少し考え事をしてましたの…ごめんなさい」
「ご心配事ですか?あまり思い詰めては…」
「いいえ、心配事じゃないの。ごめんなさい」
“これ以上は聞かないで”とばかりに話を切られてしまったので
他人の私が突っ込めるのはここまで。何も出来ないのは歯がゆいですね。
「では、どうしましょう」
「貴女のお部屋に行ってみたいです。
貴女は、私のために色々知ろうとしてくださいますが私は貴女の事をよく知りません。
ですから、私は貴女の事をもっと知りたいのです」
涙目でそう仰る美少女は、お姉様が見たら興奮で床を蹴破りそうな美しさでした。
ココット、主が美しいのはわかったが姉の凶暴性の方がインパクトありすぎるぞ(笑)
“ごめんなさい”
で、双方に区切りがつくと思っているので謝らせてみました。
(王族が下々に頭を下げるのは良くないと思うでしょうが
一人間として王女には立派になって欲しいと王妃と私の思いからさせました)
そして、双方あまり悪いとは思ってないので話し盛り上がって同じように暴走するしw
1年契約のお仕事もいつの間にか折り返しすぎてました。
着実に進む将来の話に物悲しげな人が一人…
もう2―3話したら話しを大きく動かそうと思います。
しばらく、あの子にお付き合いください。