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【1】 天上のパーティ

いくら趣味没頭したいからと職務放棄気味だからといって

子爵という爵位を持つ以上責任と役目が発生する。


今日は、仕事のような娯楽のようなそんな日。

“ご近所付き合い”ならぬ“貴族付き合い”の日。

レイザック侯爵主催のパーティである。


レイザック侯爵はエルベリー子爵の幼少のころからの友人である。

どちらも表裏の無い人物だが

子爵が縁の下で茶でもすするようなのんびり系なら

侯爵は屋外で、大声張り上げて走り回るやんちゃな体育会系。


人の腹という腹、裏の裏の裏の裏を探り合う

欲望の集合体のような貴族社会で、

頭をめぐらすことなく思ったまま言い合い行動できる

そんな2人はすぐに仲良くなり半世紀以上友情関係を続けている。


そんな家族ぐるみで付き合いのある侯爵主催なので

エルベリー子爵も家族総出で出席した。

…あ、長女は連絡つかなかったんだった。


しかし、ココット・エルベリーは胸躍っていた。

去年社交界デビューしたもののこういったパーティは

呼ばれなかったのである。なので今日がはじめて。



「ココ、少しは落ち着きなさい」



そういうのは子爵子息ビルケット・エルベリー。

普段は柔らかな物腰なのに今日は公式な場だからか

淑女らしくないと厳しく妹を窘める。

でも、そんな兄様もココットは大好き。

大好きだけど、なんか兄様お父様みたい。


「だって、だって素敵なドレスがたくさん見られるのよ!

私だって最新のトレンドドレスとか知りたいわ。」


「…で、“帰ったら作りたいわ”?」


「………うっ…だって、兄様………」


「勉強2日サボタージュして

タバサに大目玉食らったのはどこのレディだったかな?」


「う~~~~~~~~兄様のイジワル」


「あと25日の辛抱だ眺めるだけにしなさい。

……淑女らしくけっっして凝視しないように」


「むーーーーーーーーー」


完全に子ども扱いに拗ねたココットが

横で穏やかに微笑んでいた父に頭をなでられたころ

子爵一家を乗せた馬車はレイザック侯爵邸に着いた。


久しぶりに会うレイザック侯爵夫妻に

挨拶した後通された大広間には人で正確にはわからないけど

ものすごく大きい。でも、何よりその上で存在感を放つ

立派で豪奢なシャンデリアに目を奪われる。


…天の星々を集めたみたい。


王国の重鎮レイザック侯爵主催のパーティは

それはそれは絢爛豪華なパーティで

初めて目にする圧倒的な光の空間にココットは

感動のあまり言葉が出なかった。

人も、建物のすべても、もちろんお食事も空気までも華やか!


「すごいだろ。ここのシャンデリアは。

レイザック侯爵が奥方に結婚を申し込むために

2年掛けて造らせた逸品なんだそうだよ」


「プロポーズのために2年も!…それだけ大切な奥様なのね、素敵♪」


「ココはどうする?僕も知り合いに挨拶しに行くけど、

なんならそのへんで食べててもいいんだよ?」


「知らない人の中で一人きりにされるのは心細いわ。だからついてく」


「じゃあ、はぐれないよう僕の服でもつかんでおく?」


「…兄様、私そこまで子供じゃない」



「よ!ビルケット可愛い子連れてるじゃん」



「ランバート…相変わらず大きい声だな、妹だよ。

妹のココット。ココ、コイツは…まぁいいや……面倒だし」


「いや!そこで面倒くさがるなよ。

初めましてココット嬢、私はこの朴念仁の大親友

ランバート・バレイアスと申します。

ビルケットが大切にする妹姫を

ようやく拝見することができ大変光栄です」


「初めまして、ランバード様。ココット・エルベリーと申します。

あの…ランバード様、ルフィーナお姉様とお間違えでは…」


「いいえ、ココット嬢。

ルフィーナ嬢には何度かお会いしたことがあるので

貴女で間違いありませんよ。いやあ、可愛らしい。

今日のダンスのお相…ぃたたたたた!!」


ランバードが言い終わらないうちにビルケットに鼻をつままれ

言い争う2人。乱暴な言葉遣いの中に互いの友情のような

温かみを見つけ普段館にこもりきりの兄にもちゃんとお友達がいたようで

ココットは2人の掛け合いに笑いながらそのことが嬉しかった。


ココットを放置して2人が楽しそうに談笑するので

ココットは横で周りの女性たちのドレスチェックをすることにした。


今社交界で人気なのは刺繍入りのシフォン素材のドレスらしく

職人の業を結集した見事な刺繍を施した生地を

随所にあしらい主に男性を魅了するためか

胸元をVの字または大きくスクエアカットにして豊満な

バストを見せていた。シフォン生地を使うことで

妖艶なの中に可愛らしさを出しアンバランスな

雰囲気で男性陣を魅了…しようとしているのかな、と思った。


ココットもあそこまで露出はしていないが(主張する意味も…ボリュームも無い)

いくぶんか肌を露出して兄様からもらったシフォン生地を使って作ってもらった。

「裁縫禁止令」が出る前だったけどタバサが許してくれなかったからだ。

デザインはなんとか睡眠時間を(タバサに内緒で)削って作ったのだが。


「あれ…」




そこで気づいた―――兄様がいない!!




周りを見回しても兄のビルケットや友人のランバートの姿が無かった。


ビルケットにもプライベートがありランバートのような友人や

社交界での知り合いにでも会いに行ったのだろうと

探検に出ることにした。ファッションチェック一通りしたし。


小さな館には無い見事な装飾や名うての職人に作らせたであろう

家具や建具などをみるのも面白かった

幸か不幸か声を掛ける人も居ないし、

知らないお宅で食にがっつくのもどうかと思うし。


しかし綺麗だ、どれもこれも。

ふいに冷たい風が吹き横を見ると家具の陰になって見えないが

バルコニーへ続く扉が少し開いていた。

そこから月光に輝く噴水が見えたので

ココットは誘われるままふらふらとバルコニーに出た。




異世界に入り込んだような幻想的なお庭でした。




廊下からも見えた大きな噴水を中心に迷路のような

木が植えられていてしっかり管理されていているだろう

芸術的な庭園に魅了されていた。お庭散策していいかしら。


でも、あまり好き勝手すると兄様に叱られるし、

(この段階ではまだ兄の許容範囲だと思っているらしい)

あの迷路のようなお庭で迷子になっていたらそれこそ叱られるし…

(まだ自分は迷子だと自覚が無いらしい)




カサッ…




物音がしたので振り向くと一人の男性が壁にもたれかかっていた。

何事かと思ったけど静かに立ち去るのを見て先客だったのかも。

と思っていたのだが、



「あのっ…」


「………?」


「ボタン取れかかっています!」


「…?あぁ、さっきの…」




取れそう、取れそう、取れそう、取れそう、取れそう、取れそう!!!!


ボタンが取れそうなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!(大・興・奮!)







「あのっ!!そのボタン直させてくれませんか!!?」




マイペース一家なのでココットも当然マイペース。


裁縫したい病の禁断症状が出ているのでかなり危険なテンションです(笑)

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