【17】 夢と現実
「ひ………あー」
私の今のお部屋よりも大きいお部屋に、
ずっっっっっっっっらーーーーっと、上着、ズボン、シャツに小物
ハンパない量のウィルソン様のお召し物たちに淑女らしくない声が出ました。
(あぁ…タバサがいたら、
まぁ、大きなお口を開けるなんてはしたない!って言うだろうな)
でも、すごいわ。さすが名門伯爵家の御当主のクローゼット
兄様のクローゼットでかくれんぼしたことあるけどすぐ見つかったわ
ここなら、何人でも隠れることができそう!
…その前に迷子になるわ。というか、今も迷子になりそう。出口ドコ!?
「どうなさいました?」
「すっ、すみません。なんでもないです」
現実逃避のような妄想していたらここの管理をしている
ロゼッティさんの心配そうな声が聞こえた。
彼女は、御当主と妹姫様の衣装管理をしているらしい。
そうそう!ここの一家の服の補修はなんっと代々女主人のお仕事なのだそうだ
今の女主人はレフィリア様だろうと思ったけどまだお若いし
“当主に養われている未成年家族”
なので、重要事項を任されていないのだそうだお立場も微妙そうだし大変だ
それで不在の間は業者に任せているんだけど、私で大丈夫かしら?
っていったら「旦那様からご許可いただいたので問題ございません」らしい
ご当主の許可がすべてなのか。
「いま緩くなったボタンとかはありますか?」
「はい、これから仕立て屋に頼もうと思っていたものがこちらに
あと、来週のパーティでお召しになるこちらの服もお願いします
あと、私に敬語は不要です」
はぅ。また言われた!
「はい。あ!糸とかどうしましょう」
「…はい、それならこちらでご用意いたしました」
……………うおぁ~~~~~~~~
輝いてる。糸が輝いてるわ!!最上級の生糸ってこんなにつるつるなの!?
ししししししし、ししししかも!!
こんなにたくさん!!!
いいなー、いいなー
こんなにたくさん触れるなら私も仕立て屋さんになりたいわ
うはぁ~綺麗。綺麗綺麗綺麗綺麗!
仕立て屋になるにはどうしたらいいのかしら。やっぱり最初は弟子入りよね
これだけすごい、伯爵家のお抱え仕立て屋さんだとすごい腕なんだろうなぁ
「ココット様、別室にご用意いたしますのでそちらでお願いします」
「こちらでいいです。あのソファーで頑張らせていただきます」
「いいえ!滅相もございません。
旦那様のお衣装を直して頂くのですから、
広いお部屋で直していただいたほうが丁寧に仕上がると思います」
確かに、狭い部屋だと寄ってしまったり衣装がずれて
縫う場所も少しずれたりと、裁縫とは場所をとる作業です
ウィルソン様の、上質なお召し物にシワとかズレとかあったら大変です
ロゼッティさんに従って隣の部屋に行きました。
ただの補修部屋じゃない!!!!
上品さが漂う調度品に囲まれた静かな部屋に、
大きな机と豪奢な椅子。これは伯爵一族が住む3階フロアにある1室なので
当然なんだけどその他が問題だ…
ワゴンが3台。ケーキや紅茶たちが置いてある…
「あの…誰か、、来られるのですか?」
「いいえ、ココット様だけです
休まれてから作業されますか?先に作業なさいますか?」
な…なんで至れり尽くせりなのでしょう?
「そこまでしていただかなくても…」
「リラックスして直していただくよう、旦那様のご指示がありましたので」
ウィルソン様…私をどうしたいのですか?
伯爵家には何の特にもならないのになんかものすごく接待されている気分で
心を落ち着かせられません。うーん。
レフィリア様にそんなに劇的な変化があったのだろうか
それとも、これは罰でここから
何かものすごく嫌な展開が待ち受けているとか!?
と、とりあえずお礼を言っておかなくちゃ
ここで簡単に断っても駄々っ子扱いされるものね。
「あ、ありがとうございます。
せっかくのお茶なので先にいただきます」
お茶とケーキ2つをいただいて、早速大きな机にウィルソン様の
お召し物を置いてみた。ホックに飾りボタン刺繍の部分のチェックと…
大きなお体なのでお召し物も当然大きいですチェックする範囲が広いですね
でもでも参考になる部分とか凝った縫い方などもあって非常に勉強になります
ホックの一部と飾りボタン2つが取れかかっていたので
他のを見ながら同じ縫い方になるように慎重に丁寧に縫っていきます。
「ふぅ…1つ完成です」
「ありがとうございます。こちらでお預かりさせていただきます」
そういって回収して戻ってきてまたお茶を出してくれました
本当に至れり尽くせりです。でも集中するのでこのサービスはありがたいです
これはこのサービスに見合ったお仕事をしなくてはいけませんね。
次は、ズボンの方です。
ここもホックが緩んでいますね。あとすそもほつれそう…ではないけど緩い
プロの仕立て屋さんは本当に職人さんで模様や布の折り目を使って
外からでは見えない縫いかたをしている。
「仕事の方は、一区切りつきそうか?」
3着目の修繕が終わるころ、ウィルソン様が様子を見に来られました
最後の補修箇所をご覧になりました。これでよかったみたいでほっとしました。
「はい、これで今日は終わりにしようと思います」
「そうか。ならば、少し休憩につきあってくれ」
「はい」
というと、別室にてティータイムが始まりました
何故ご当主ご本人が直接来られたのでしょう
補修箇所を直接ご覧になりたかったのだろうか?
それなら、あとでお持ちしますのに。
はぁ…美味しい紅茶です。
というか、さっきも美味しいお茶いただいたのに
こんなに休憩ばかりしていいのかしら?
ウィルソン様からのお誘いだからいいのかな。
「作業はどうだ?」
「失敗しないように作業していたので、緊張しました。
仕立て屋さんと違う縫い方は出来ませんし真似ながら、
綺麗に仕上げるのは大変集中力のいるものでした
でも、プロの技を間近で拝見する事が出来てとても楽しかったです!」
「そうか。これからも、頼もうと思うが出来るか?」
「はいっ。頑張ります!
ところで、もうすぐレフィリア様のお誕生日ですよね」
「そうだ。3ヵ月後の29日だが…それがどうかしたのか?」
「仕立て屋さんが来られるなら一度会ってみたいと思うんです」
「技術を教えてもらうのか?」
「はい!できれば、弟子入りしたいと思いまして」
「弟子入り?」
「はい。このお仕事が終わったら、仕立て屋さんになりたいんです
兄様には、言っていませんが将来仕立て屋さんになりたいんです
綺麗な糸と布をたくさん使って
色んな人の色んなドレスを作ってみたいんです!」
「…君は、貴族の娘だろう」
「はい。でも、将来を誓いあった人がいるわけでもないですし
今見合いが来ている感じでもないですし、実業家に嫁いでる人もいるので
身内の全員が全員一生貴族のままではないですし
お姉様も好きな事をなさって世界各地を回られているみたいだから
私も好きなことをして仕立て屋さんになってもいいかなと。
ウチはお仕事して公序良俗に反しなければ好きなことしていい
という家訓があるので我が家では大丈夫です。はい」
「ルフィーナ殿は…」
「はい?」
「………いや、いい。
この一年で何かあるかもしれない
今はレフィリアの話し相手。それだけに専念していなさい」
「…?はい、もちろんです」
ですが、勉強のためにも仕立て屋さんに会いたいです。
って言おうと思ったのにトールマンが来てお仕事が入ったので
ウィルソン様の休憩時間が終わってしまった。
最後浮かない顔されていたけど、どうなさったのだろう?
ウチでは結構色んな身分の人と結婚したり仕事についたりするから
その辺の考えは柔軟なんだけどやっぱり“貴族の女=将来貴族と結婚”
なのだろうか。
…はっ!
レフィリア様のお相手として呼んで頂いたのに
他事にフラフラ気を向けすぎてこの娘問題児過ぎる!!
って思われました!?っていうか自分本位な事ばかりしてました!!
ちゃんとお仕事してないなんてエルベリー家の人間失格ですーーーーーー!
レフィリア様のために働かなくては!!と考えを改めました
ダメダメ。ここに来た目的忘れすぎてます。
迷走お嬢様。
私が、大人になってからも子供気分が中々抜け切らなかったので
ココットもそうなのかなと思って、あれこれ暴走させてみました。
すぐに緩んだだけで、気分で上質の服を買い換えるのが貴族でしょうが
ウィルソンの家は物を大切にする。
という家なので、ボタンが緩んだ程度では買い替えません。
そして家庭的な技術を妻に求めるってウィキに書いてあった様なので(うろ覚え)
夫(当主)の服飾管理を、妻の仕事にしてみました。
次回から、自分のやりたい事(洋裁)よりレフィリアのことを優先して
…くれるココットを書きたいつもりですが、なにぶん自由な女の子なのでどうなることやら。
それにしてもいつココットは目の前のイケメンに目を向けてくれるんだろう(遠い目)
イチャイチャしてくれないよぉぉぉぉぉ(T_T)




