【13】 届け花の香り。
「ふぁぁ…おはようござい、、そうか」
ぼんやり目覚めて、いつも居る人が居なくてやっと気づく
今日から、侍女には食事の給仕だけにしてもらったんだ。
生まれて17年。
常に誰かが傍にいてくれて起きるのもたいてい誰かが起こしてくれたので
1人きりの大きなお部屋に寂しさを感じてしまう。
ダメだ、ダメ!
私は、一人でやるって決めたんだから初日から心折れてどうするよ
顔をパンパンして着替えます顔を洗いお化粧をして身だしなみを整える。
はいー、朝食まで暇ー
ということで、一つ刺繍をしてみることにします
兄様がじっくり見ていたセーティの花を刺繍することにする
これをパターンを変えて3種類大きさも3種類。
それは、食事休憩を挟みながら3日で出来ました
構図に1日かかったけど時間がたっぷり出来たのでね。
……レフィリア様とのお話がなくなったの。
どうやら、体調を崩されたとかで
今日のお仕事はなくなったんです昨日連絡ありました。
まぁ、そのおかげもあって刺繍が出来上がったんですけどね?
線の細そうな女性がお辛そうに寝ていらっしゃるかと思うと
何かして差し上げたいと思うわけです。
差し入れ~はお菓子作れないし体調崩されて食欲もわかないのに
食べ物はないわよねと、却下
面会もダメ。もちろんね、気を使わせて余計に悪化したら元も子もない。
私が、あまり風邪引かない人だったから
病気の時何してほしかったのか覚えていない
ふーーーーーん。お刺繍プレゼントしたら少しはお心楽になるかしら。
何か良いのないか、散歩することにしました。
悩んでる時の気まま散歩です開放的になればすっと何かアイデア浮かぶかも!
「今日は、ロダムさんいませんねぇ…」
広大なお庭を任されているんだから、どこかにいるんだろうけど
私の視界にはいないみたい。鎮静効果がある花とかレフィリア様のお好きな
花とか知っていれば教えて欲しかったな。
花…花……花、か………
「……………………。」
ふわっと優しく包むいい香りがします。香りか…
お花…は、どうかしらね勝手に摘んじゃダメよね。
やっぱり刺繍かなぁ。色合いはやっぱり明るい色よね。
うーん、うーん。
「この庭に人が居るなんて珍しいね」
本当に。って、え!?
振り向くと爽やかなイケメンさん。
上質な服を身に付けているのでかなりの身分の方なのだろう
ウィルソン様のお客様かな。
「散歩のお邪魔をしてしまったでしょうか」
「いいえ、僕より貴女の方が先に来ていたので、
むしろ僕のほうがお邪魔してしまったね。ごめんね」
「い、いえ…」
「ここで何をしていたの?何か困ったことでもあった?」
「いいえっ!お、お花を見ていただけです」
「そうなんた。花を見ているような楽しそうな雰囲気じゃなかったから」
「うー。…、見舞いの花を探していたんです」
「見舞い?」
「えぇ、大切な方が体調を崩されたとかで
何も出来ないのですが何かお役に立てないかと思いまして
花を摘むのもいいけど庭師がいないので勝手に摘むのは良くないから
刺繍にしようと思って。どんな花が好まれるかなーと」
「刺繍で、お見舞いか。面白いことを思いつくね」
「へへへ。お兄さんはどういうお花が癒されると思いますか?」
「うーん。人にも寄るし男と女性の感覚じゃ違うしなぁ」
「そう…ですよね」
「ただ、十分に悩んで気持ちを込めれば僕はそれで良いと思うな」
「適当?」
「ぷっ。違うよ、君が一生懸命考えて決めるんだから
その時点で“テキトー”にはならないよ。
気持ちが十分に込められてていいじゃないか」
「そうですか。そうですよね!」
そうだよ。いっぱいいっぱい考えるんだから適当ではなく
誰かのための一品になるんだ。おぉ、発想の転換ですね!
「じゃあ、僕からはこれ」
と、渡されたのは小さな袋に入ったもの。ってこれなに?
「ポプリだよ。妹がこういうのに夢中になっててね押し付けられたんだ」
「えっでも妹さんの気持ちがこもってるんですよ?いただけません」
「ハハ…いやいや、研究熱心だから様々なものを作るんだけど
一箇所に集中するとにおいがすさまじくなるってみんなに配ってるんだ
ちょうど癒す効果がある匂いらしいから良かったらもらって?
実は、家にあと4つあってね
今日会った誰かに渡そうと思って持ち歩いていたんだ
押し付ける形になって申し訳ないけど」
あまりに心底困っているというお顔をなさるからありがたく頂戴した
少し嗅いでみると爽やかな甘い香りがして確かにほっと落ち着く。
「いい香りですね。ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。本当に助かった」
「ふふふ」
「殿下?」
今日は、訪問客多いいですねー
なーんて爽やかさんの肩越しに見たら、ごっ御当主!
ウィルソン様も爽やかさんで私が見えなかったらしく
私が横からひょいと顔を出すと、怪訝な顔をなさった…何故?
「君、も、いたのか…」
変な所で区切ってる。お兄さんだけしかいないと思ったのかしら?
「僕も驚きましたいつも庭師がたまにいるだけなのに可憐な女性がいるんで
そういえば名前聞いてなかったね。僕は、アルフレッド・ヴォルファレーナ
この国の第5王子なんだ、貴女の名前は?」
「!?す、申し訳ございません!!私…」
おぉ王子様!?最近ないと思ってた、ミス再来!!
王子様に“お兄さん”とか言っちゃったよ!身元確認しなさいよ、バカぁ
と10分前の自分に言いたい気分になった。
「僕だって王子として話しかけたわけじゃないし気にしないで
あまり仰々しく扱われるの好きじゃないんだ。驚かせてゴメンね」
「い、いいえ。とんでもございません…
わ、私は、ココット・エルベリー…と申します
ロトノア・エルベリー子爵の娘です
こちらで、レフィリア様のお話相手をさせていただいています」
最初知らない人にレフィリア様のお名前を出すのをためらっていたんだけど
王子様だしウィルソン様の前なので出してもいいかなと思ったんだけど
よかった、かな…
「へぇ…、君がココット嬢。お兄さんはビルケット・エルベリー殿?」
「はい!兄をご存知ですか?」
「うん。以前パーティで会った時対戦申し込まれてやったんだけど強いね」
パーティで何しているの兄様ぁぁぁぁ!?
パーティって言えば交流を深めたり素敵な相手を見つけるところじゃないの?
なんでそんなところにまで道具一式持ち込んで王子様に対戦申し込むの!
「あ、兄がご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「謝ることは無いよ、とても楽しかったよ
モルトバーン伯は彼と対戦したことありますか?」
「はい、以前子爵邸にお邪魔した時に」
ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
もう!見境なく対戦を申し込むって思ってたけど、本当に見境なかった!
よりにもよってお仕事で来られたウィルソン様にまで申し込むなんて!
もーーー、恥ずかしいよぉぉ。
「伯爵は勝ちました?」
「はい」
「そっかー僕は勝てなかったんです。伯爵は流石ですね。
ココット嬢今度お兄さんに手紙を書くときに僕が今練習をしているので
今度再戦してください。と伝えておいてください」
「兄が突然申し込んで不快な思いをされませんでした?」
「ううん。僕は楽しかったあんな面白い戦略初めてだったよ
男はねああいう遊び大好きなんだだから不快な思いはしていないよ
むしろ再戦に燃えているくらいだ」
「よかった。ウィルソン様は兄に不快な思いしませんでした?」
「いや」
って、憮然としたお顔で視線をそらされた
本当は不快な思いされた?次期子爵とはいえ下のものから無礼にも
話を持ちかけられてとか?なんでそんな複雑な表情をされるのだろう。
「あ、そうだ伯爵。ココット嬢に渡したんですが伯爵の妹姫にポプリを
渡しても良いでしょうか?」
「ポプリ?」
「妹のマルティアが、ものすごい量を作ってしまいまして
もらってくださる方に配っているんです
ビュアリスで作ったものなので鎮静効果があるらしいですよ」
「ありがたく頂戴します」
「じゃあ、僕はそろそろ帰ります。
ご不在の所をお邪魔して申し訳ありませんでした」
「いえ、今度連絡いただければおもてなしをご用意しておきますので、
ご一報いただけると幸いです」
「わかりました。ココット嬢もありがとう刺繍頑張ってね」
「はい、私のほうこそありがとうございました」
「君も早く戻ったほうがいい。今日は寒い」
「はい、スケッチしたら早く戻ります」
そういって、王子殿下とお見送りにいくウィルソン様は去られた
なんだか、どたばたと色々アクシデントが起こりすぎて混乱しているけど
レフィリア様のために頑張らなくちゃ。
私は、スケッチブックとペンを手に取った。戻るころには日が暮れていた。
別にパーティでゲームをしてもいいんじゃないかな。
ココット嬢は、良くも悪くも貴族生活について知らないので
“皆さんが、人脈を広げようと話に回っている中で兄様は王子を何時間も拘束した”
と憤慨しております(笑)
多少楽しむ程度ならいいですが、ビルケットのゲームは病的に長いですからね。
さて、今回初登場アルフレッド王子。
ポプリを渡すためだけに出てきました(笑)
最初、ココットが作って主に渡そうとしたけど香油とかいるらしいですね。
手持ちじゃ作れないのかなと、外部の方に作って頂きました。
詫びのつもりで、今後も出しますからお許しください、王子。
いつも見てくださりありがとうございました。




