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【11】 何にお怒り?

午後から、お庭の散策。

お部屋付きのヘレンを置いて単身やってきました。

(まぁ、塀側には近づかないでと言われたけど)


生垣が四角というか鍵カッコの「」を四方に置いた配置の内側に

色とりどりの背丈の小さな花達。寒色・暖色分けて

配置された花壇の中央に、見事なグラデーションを描くように配置された

丸い花壇。綺麗なのに誰も居ない。庭師ががんばっているのにな。


私は、花壇のブロックに腰掛け

下書きだけパパーッと描いていく。あの暗号っぽい線の多い落書き。

そして、描き終わったら少し離れたベンチで脳内から花のイメージが

消えないうちに彩色。出来るだけリアルに。


光の当たり具合。陰になるところの色合い。

刺繍は違う色を隣り合う所に塗って重ね塗りの要領で

縫っていくので、線より彩色の方が重要。



「あれ…お嬢さん、お客さん?」



「ほぃ?」


声を掛けられ顔を上げると小柄だけど体ががっしりした男の人がいました

聞くとやっぱりここには誰も来ないらしい。


「私、レフィリア様のお話相手として呼ばれました

ココット・エルベリーといいます。お兄さんここの庭師さん?」


「そうだよ。庭師をしているロダムっていうんだ。

よろしく、ココットさん。何しているんだい?」


「刺繍をするためにお花をスケッチしていたの」


「へーえ…!…………ぇぇぇ…」


覗きこんだ、ロダムさんが絵を見たとたん気まずそうに離れた。

絵の下手さは誰が見ても下手なんだ…いいもん、つーん。


「でもね、刺繍はレフィリア様もほめてくださったのよ(たぶん)

ロダムさんは、どの花が好きなの?」


「オレか?あのオレンジのシィレンダーって花が好きだな」


「あの花びらたくさんの花?素敵ね。私も緑の次にオレンジ好きなの。

私は、隣の黄色い花が可愛いくて好きだな、あれ何の花?」


「あれは、ナリーラ。花言葉は“いつでも想う”っていうんだぞ」


「ロダムさん、花言葉も知っているの?凄いね!

そういえばね兄がよく見ている花があの薄紫の花なんだけど

花の名前と花言葉を教えて!気になって仕方なかったのよ」


「ありゃー、セーティだよ。花言葉は“貴方の幸せを願う”

静寂の女神が愛する男を想いながら去った時に

直前まで立っていた場所に咲いていた花だかららしいぞ

だから、静かにひっそり咲くんだ」


静寂の女王が、愛する人を想いながら去った時に咲いた花。……か…


………………。



「君は何をしている」


セーティの花言葉を聞いて感傷に浸っていたら、ウィルソン様が来られた。

あれ、なんだか不機嫌?なんかお叱りを受けている気分なんだけど私何かした?


「ウィルソン様。花を刺繍するために花壇の話をスケッチしていました」


「ロダムと談笑しながらか?」


えっ!?咎められることした!?凄く怖いお顔されて怖いです本当に。

いやいや、ロダムさん顔を下げたまま萎縮しないでよ。何か言ってよ。


「ロダムさんに、花の名前と花言葉を教えてもらっていたんです。

さすがにお花を刺繍するのは良いけど花の名前を知らないのも

花に失礼かと思いまして。知らない花ばかりなんですよ」


そして、いっぱい描いたんです!と

ウィルソン様に私のスケッチブックを見せたら

ものすごく驚きそして複雑な顔をされた

うぅ……ウィルソン様まで皆と同じ反応をなさるの。


「もう夕暮れだ。ここは警備が厳重とはいえ女性が遅い時間

出歩くものではない一緒に屋敷に帰るぞ」


「はい、ロダムさんありがとう参考になりました」


ウィルソン様と一緒に帰るときにロダムさんに言ったんだけど

俯きながら頷いただけだった。どうしたんだろう?

というかウィルソン様このためだけに来られたのかしら?

何か御用でも?あまり気安く声をかけちゃダメだろうから聞けないけど。



翌日、今日は昨日描いた花達を刺繍しようと思って

道具を机の上に置いていたらヘレンの様子がおかしいことに気づく。


「ヘレン、熱でもあるの?」


「いえ、問題ございません」


「寒気とかない?顔が赤いわ」


「…!もっ、問題ございまっ!!」


「熱いじゃない具合悪いなら休んでよ」


あくまで健康体だと言い張るヘレンの額に触ると、

真夏の直射日光浴びたように顔中から熱が発散されている。

熱いなんてものじゃない。自室に帰って寝ていなさい。

と言っても、ヘレンは頑として動かない。

プロ根性は立派だけど、無理をしてまで居てほしくない。それに…


「私は、自分のことは自分で出来るわ

だから、貴女は自分の部屋に帰って。これは命令よ」


「!!わ、たしは…」


「後は自分で出来るから。ね?今日はゆっくり休んで。さ」


「あ、ココット様っ!!」


「温かくして寝るのよ。これも命令だからね」


バタン。と戸を閉める。

ああいう人は上の人間には絶対だからこうすると言うこと聞いてくれる

足跡が遠ざかる音がした。これで、彼女は帰るはず。

あまり、命令は使いたくないけどこういう時にならためらわず使う。

元々自分のことは、自分でするつもりだったから。


さて、刺繍しようかしらね。



ノックの音がしたので返事をすると、ミセス・フェブリーが入ってきた。


「こんにちは、ミセス・フェブリー」


「ご無沙汰しております、ココット様。

先ほどヘレンが戻ってまいりまして熱がありましたので寝かせました。

自己の健康管理が出来ておらず、またその異変に気づけなかった

私の責任でございます、誠に申し訳ございませんでした。

ココット様にご不調はございませんでしょうか」


「えぇ、健康そのものです」


「それはようございました。

ココット様がヘレンに戻るよう命じられたとのことですが

ここには誰もお世話するものはお呼びにならなったのですか?」


「とても具合悪そうなのに、帰らないと聞かなかったので

あまり命令とかはしたくなかったのですが帰るよう命令しました

そして、自分のことは自分でするよう躾けられてきたので

特に必要は無いと呼びませんでした」


「まぁ!それはいけません。

ココット様には不自由・不便がないようにと旦那様から言付かっております

たとえご自分でできようとも時には人の手が借りたいときもございます

どうかその時のために誰かをおそばにおいてくださいませ」


「いいえ、侍女は要りません。

私はレフィリア様のお話相手として呼んでいただいたに過ぎません

雇用契約も結んでいるのですから私は使用人のはずです

ウィルソン様のご配慮は大変うれしいのですが一介の使用人が

手厚い保護を受けては皆にしめしがつきません

皆さんと仲良く働きたいのに…

こんなに手厚くされては皆との間に壁が出来てしまう

なのでもう一度言います侍女は要りません。自分のことは自分で出来ます」


本当なら、使用人の皆さんの居る棟に入るはずなのに

…というのは、用意してくださったウィルソン様に失礼かなと思って

発言を控えていた。本当はこういうことを言うのも失礼なのかな

でも自分のことは自分で出来るのに侍女に世話してもらうのも申し訳ないし

子爵令嬢なんて下級貴族がこんな破格の待遇受けてたら

みんなの気分も良くないだろうし。今は使用人だしな。


「ですが、先日も申しましたが旦那様から

ココット様を客人として扱うよう指示を受けております。

命令を受けた以上ココット様にご不満があっても

主人の命令のほうが優先されます

もしご不満が解消されないようでしたら

旦那様に直接進言なさってはいかがですか?

今日のお帰りは20時過ぎになると思います」


「わかりました。

でも…常に居るのではなく食事の上げ下げだけではいけませんか?」


「申し訳ございませんが、旦那様の許可なく変更することは出来ません」


「そう…ですか。ウィルソン様のお帰りは、20時過ぎですね」


「はい。お戻りになられましたらお呼びいたしましょうか」


「はい、お願いします」


そういうと、ミセス・フェブリーと入れ替わり

1人の女性が入ってきた。これまたサナさんといい勝負の無愛想。

サナさんが、表情がないのに対して

この女性・キイカさんはムスッと怒っているような表情。


そして、キイカさんは本当に怒っていた。


トレイも乱雑に置き、怒りを口にするのはダメだと思っているのか

言葉ではなく怒りをにじませた目で見てくる。

それがここに来て3時間そんな感じだから険悪な空気に

こっちも苛立ちが収まらなくなってきた。

こんな感情で刺繍をしていてもまともな作品が出来るとは思わない。

“お刺繍なさる時は心落ち着いて作品に取り組んでください”

なんて言われてもこんな状態じゃ無理よ。ヘレン~カムバーック。無理か。


怒りはそんなに持続しないもので、

最初の30分はキッと私を睨み続け

次の1時間くらいムスッと怒りオーラ放ちながら入口で佇み

それから今まで入口の横に椅子を置いて顔をただ険しい顔をするだけになった。


何をそんなに怒っているのだろう。

元居た職場から離されて、命令で半強制的につれてこられたのだろうか

今初めて会ったのになんに怒りを覚えているのか見当もつかない

やっぱりこの使用人ポジションで来たのに高待遇のことかしら

ふーん、下手に話しかけて藪蛇な感じになっても困るしなぁ

最初のときより雰囲気が軟化したから“堅物兵士”みたいな顔だ

と現状スルーしておけばいいのかな。


「…何か?」


うぁっ、スルーしようとしていたところで

アチラさんから話しかけられました!怖い、怖いっ!!

ギョロッと擬音が聞こえてきそうな目の動きに一瞬萎縮する。


「何をそんなに怒っているのかなと思っただけ」


そうしたら、キイカさんの怒りの目力増しました!!


「ココット…様は、現状に疑問は持たれないのですか?」


「現状に、疑問?」


「子爵令嬢でお話相手としてこられたのに

伯爵家のレフィリア様と同等くらいの待遇を受けている点についてです。

おかしいでしょ?子爵家の方が伯爵家と同等の扱いなんて!

貴族の方は何処に行っても待遇よくしてもらわないといけないのですか?」


「貴女も、初対面の人間に対して失礼な物言いね。

この待遇に関しては、今日ウィルソン様に進言するつもりよ

すぐに言わなかったのはせっかく良くして下さったのに

恩を仇で返すようで言いづらかったからよ。

一応自分のことは自分で出来るから貴女も元々の仕事があるなら戻っていいわ」


「……………。いえ、旦那様のもとへ行かれるまでご一緒します。

出すぎたことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」


「ウィルソン様が、夜にお戻りになられるのでそれまでよろしく

明日から使用人棟に行くと思うからそれからは同僚として仲良くしてね」


「……はい。」


やっぱり、使用人の皆さんはこの待遇をよく思っていなかった。

そりゃ一度は天にも昇る気持ちだったけど

家での扱い以上に大切に扱われると私も落ち着かない。

ノールフェスト家の内部事情が複雑なので、ぞんざいに扱って

外で言いふらされたらと思っているのかもしれないけれど(しないよ、絶対)

“使用人”として来たつもりだから、

そのように扱ってくださってもかまわないのに。


でもね、そう考えて思った。…“使用人覚悟で来た”を伯爵様に言ってない!


オオオオオオオオ!!!!

こういう風に失敗するたび自分がどれだけ甘えられて育ったかがわかる。

これくらいだったら大目に。とか、それとなくひっそり窘めてくれたりと

すごく遠巻きにサポートしてもらったもんな。

みんなありがとう、帰ってから言うわ。


とりあえず、ちゃんとウィルソン様に言わなくちゃな。


キイカさんが大人しくなったので、刺繍を再開する。


一針縫い始めると、時間との勝負。

何しろ記憶が時間を追うごとにあやふやになるからね。



ドアを開ける音がしたので見るとキイカさんがいない。

何だろう…と、意識を現実に戻して気づいた。いつの間に夕暮れ!?

あれですか休憩挟まず黙々と針指してましたか。


いやぁ、久々の刺繍病み付きでした!!


真っ白な布に、色を乗せていくとそれがどんどん形になっていくの。

なんだかクイズみたいじゃない?いや、正解は知っているんだけどね。

何もないところに、私が針と糸をさすと命が誕生するようで

私は刺繍が最初に好きになったお裁縫だった。


見事に光り輝く黄色のナリーラの花が綺麗に出来上がった。

群生するように並べるのも良いけど、2-3輪の周りに緑草生やすほうが

可愛らしくて好きだな。うん、これを今度額縁買って飾ろうかな。

どんな部屋でも、こういうのあると華やぐよね。


「ココット様、お食事お持ちしました」


キイカさんはワゴンからトレイを出して言った

さっきの話ですっきりしたのか今度は丁寧に出してくれた。

なんか思ってることが態度に出るのね。使用人としては不適格だろうけど

私はこういうはっきりした人好きだな。

さっきまで私もむっとしてたのに変なの♪


「ココット様の刺繍、とてもお上手なんですね」


「ありがとう。ねぇ、キイカさん

この絵がこのナリーラのスケッチなんだけど、やっぱり下手?」


と、絵を見せるとキイカさんは…固まった。やっぱり…


「ハハ…ありがとう、キイカさん。見る人全員同じ反応するから

やっぱりなって感じなんだ兄様にも言われたしさぁ。ホント嫌になる」


「お兄様はなんと?」


「“4歳児の落書きより酷い!”」


キイカさんが、プッと噴出すと私も笑えてきたので2人で大笑いした。

そのあと今日の非礼に対するお詫びと“いい人”認定されました。

こんな風にいろんな人と仲良くなりたかったので

こんな些細なことがとても嬉しかった。



そして、夕食が終わるころ“旦那様がお帰りになりました”と

ミセス・フェブリーが知らせてくれた。

恩を仇で返すようなわがまま交渉をしに身だしなみを整えた。

やっぱり、バトれなかった…|||orz|i|


口論とか争いは苦手だけど他人と関わって生活する以上必ず発生するイベントで

でも、無意識に早くに終わらせてしまいました。


ま、今後もバトルがあるだろうから

今回は軽めのジャブでいいかと開き直りました(おい)


なんて言ってたら

次は当主とのバトルだったとやっと気づいてへこんでみたり(笑)

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