【10】 遅ればせなからの話相手
高校のときは、国語は2でした。
敬語間違ってて見苦しかったらコソッと教えてください。
あまりのまぶしさに、目が覚めた。
「ん……んぁ……う~?」
「おはようございます、ココット様」
声がした方を見ると、クールな美貌の…あ…誰だっけ。
………んぅ?すごく大きなお部屋だねぇ。何処だここ。
んぅぅ?と、美しい女性を中心に周囲を見ながら思い出してみる。
おぅっ、ここ昨日からの私の部屋。そしてこの女性は…
「おはようございますぅ…ヘレンさん…んぅ」
「ヘレンで結構です。
まだお疲れのようでしたらお休みになられますか?」
「んーん~…ヘレンさ…ヘレン今なんじぃ~?」
「午後1時15分を回ろうとしているところでございます」
「…そう……、ごご………午後っ!!?」
そこで、やっと意識が覚醒してガバッと起きた。
どうりで、カーテンが締め切られているのにまぶしいと思った。
窓が南にしかないから
昼しかカーテン越しにこんなに日が入るはずないよね。
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
初日から、遅刻とかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「レフィリア様から、ご伝言を預かっております。
“今日一日は自室にて静養し、明日刺繍についての質問をしますので
10時に部屋に来てください”とのことです」
「はぁ…初日からやってしまった。わかりました。
レフィリア様には、この無礼に対するお詫びと明日必ず行く事を伝えておいて」
「わかりました。ココット様、お着替えになりますか?」
「もちろん」
えぇ!着替えますとも。
いくら“お部屋でゆっくり休んでくださいね”と主人から許しがあっても
寝巻きで一日ベッドの上でまどろむなんて…
さすがに、私もそこまでフリーダムじゃないわよ!?
ただ、服をね。どうしようかしらね。
侍女みたいにお仕着せのような制服はしっかりはないけど
白いブラウスにロング丈のスカートで
貴族出身の人間という意味であるレースをあしらった白いスカーフの下に、
無地のスカーフを付けるの。それが、中級使用人の服
(家族は各々で決められたパターンの刺繍を施したアイテムを身に付けるの
スカーフを付けるならレースのスカーフの下に別布で家のパターン刺繍を
使った布で作ったスカーフを付けるとかね。
昨日のレフィリア様は、ストールが伯爵家の刺繍をあしらったものだったわ
ちなみに、使用人は貴族の出であってもレースの下の布は無地と決まっている。
実家のパターン刺繍は、他所の家で働いている間は使用しちゃいけない
そして貴族出身で無い場合レースなしの白スカーフ+色つき無地スカーフ
いろいろあるんだ、面倒な規則がさ)
さて、仕事着にしようか休日服にしようか。
「うーん…ヘレン、あの…ライトイエローの服にします」
「畏まりました」
昨日お食事に呼ばれたときに自分で服を出そうとしたら
“これは私の仕事ですっ”と強気の空気をまといながら
座って指示してください。と言われたので慣れないながら指示してみました
全部出来る限り一人で支度してたからあんまりこう
お世話されるの慣れないんだよなぁ…自分でやれるのに…
話を戻して、
今日は何の日かと考えたら今日は休めということは休日よね
という結論に至ってあまり体を締め付けない服にした。
そして服を着替えたあと遅めの朝食(というか確実昼食)を摂って
ソファーでスケッチブックを見たり(刺繍の資料よ)
窓から庭園を観察したり今日はイイお天気で素敵なお庭なのに誰も居ない
あ、庭師の人が居た。あれだけ世話しているのに見ないのもったいなくない?
「ヘレン、庭に出てはいけないかしら?」
「……。まだ、お体が万全ではないと思いますので、
お庭に出られるのはおまりお勧めいたしません」
「そう…だよね。レフィリア様のお仕事も行けなかったのだから
部屋でゆっくりしてるべきよね。はて…どうしたものか」
最初の刺繍は、伯爵邸のお庭の植物達にしようと思っていたので
何もスケッチしていないんだ。
かといって今までやった植物をって気にもならないし。
“最初の刺繍は伯爵邸のお庭だぁぁ”
って決めちゃうとそれを変更して別のをスケッチするのもなー。
って気になっちゃう。結局の所…………することがないっ!
しかたないから、いつものボランティア人形作りにした
綿さえつめなければ保管するのに場所はとらないわ
服はあまり持っていないからスペースに余裕があるからいいもの
そして17体目を完成するころ夕食の時間になったので今日はここで終わった。
夕食も部屋で摂り(食事はそれぞれの部屋で摂るのが基本なんだって)
早めに寝た。もちろん遅刻しないために明日は絶対に失敗しない!
しかし、お食事が美味しかったぁ。
熊さん(仮)には昨日申し訳ないことをしたな
とりあえず、ヘレンには食事の感想を言ってもらったけど
今度、直接言いにいこう。今日のプリンは格別でしたって。
翌日は、ヘレンに起こしてもらって顔を洗って朝食とって
今日は仕事着に着替える…と。
茶色を基調とした薄く黄色の小花柄の入ったスカートに
白のレーススカーフの下はモスグリーンの無地のスカーフ
華美になりすぎず、ちょっと地味目で
髪もセットしもらって(1人でアップにする練習してたけど中々できないの)
荷物は、スケッチブックと私の一番お気に入りの刺繍の作品1つと
筆記具も持っていったほうがいいかなと、これらを入れるバッグ
10時ってことはお食事までの数時間がお話タイムかしらね。
あとは、あとは………うーん、うーん。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
何したらいいだろう、10時まで
「ヘレン、お庭に出てはいけないかしら」
「あと30分でレフィリア様との約束のお時間ですが?」
「そっ、そうよね。じゃあ、昼食後行くことにするわ。
はぁぁぁぁぁ…なんか落ち着かない。緊張するわ」
ヘレンの前をうろうろ右往左往していたら
ヘレンは薄く眉を寄せ何か言いたそうな目線を送ってきた。
“少しは落ち着きなさい”
冷ややかとも取れる視線にビクついて私は静かに腰掛けた
すっごい怖いわけでもないけど美女にもなると目力半端ないのかしら
確かに最初に顔を見た時のウィルソン様も暗くてよく判らなかったけど
じっと見られてるのは判ったギラッて擬音が聞こえたもの
ヘレンは、スゥ…ね。静かに目を無表情に細める、スゥ…て音が聞こえたわ。
あぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁ……
“落ち着きなさい”
と、スゥ。されて座ってみたけど初仕事の緊張とスゥ。されて
凝視されている緊張がタッグを組んで
心臓が鼓動と言う名の太鼓を打ち鳴らしてる
激しく心臓が鳴りすぎて自分の体だけ地震起きてそう。
「ココット様」
「はいッッー!!」
ガタッ!と立ってしまった。
しまった、タバサに叱られている時の緊張感に
似すぎて反射的にやってしまった。
「…どうなさったのですか」
「なん、でもいな…の
ごめん…乳母だった侍女に怒られた時の事思い出して…」
「もうまもなく約束のお時間です」
少し身なりを整えてレフィリア様のお部屋へ向かった
ノックをするとサナさんが出てきて居室へ案内された
昨日のお詫びを深く深くお詫びしたら思いのほか深かったらしく
レフィリア様にちょっと引かれ激しく気遣いをされた。
「ココットさんはいつもどのように刺繍されるの?」
「はい、いつも刺繍にしたい植物をスケッチし大まかに彩色して
それを元に布に軽く下書きをして縫っていきます」
「どなたかに教えていただいたの?」
「侍女のタバサに、基本は教えてもらいましたが
あとは独学です。勘で色を混ぜ合わせるみたいに
縫っていくので正しいかどうかは判りませんが…
レフィリア様はどのようになさっているのですか?」
「私は、講師の先生に来ていただいて一通りの縫い方と
流行のモチーフを教えていただいたり図鑑を見ながら刺繍もしましたわ」
「なるほど…都会ともなると、先生も本格的なのですね」
「今は何の刺繍をされていますの?」
「今はしていません。
というのも、このお屋敷のお庭の花達を刺繍しようと思っていたので
それまで我慢しているんです」
「それでは、これからスケッチしますの?」
「はい。お昼からお庭に行こうと思っています。
でもウチの庭でスケッチしたものも持ってきたのですが見ますか?」
「よろしいのですか?」
「自分がわかればそれでいい。
という目的で描いていますので見苦しかったらお詫びします」
スケッチブックを手渡すと、本能の赴くまま書きなぐった
落書きをお見せした…………あぁ、コメントに困っていらっしゃる
吹き出しがあるなら「…………。」か(…へ、へぇぇ。)というお顔。
ある意味暗号と化しすぎて、兄様いわく
『4歳児より酷い!!』
と、従妹の落書きと比較されて酷評を受けたものだ。
いいんだもん。私さえわかれば、私しか使わないし。
「……………、これの完成したものはございますの?」
「はい。前のページの絵の完成したものが……これです」
「えっ!?」
今まで見てきた人と同じ反応を返してきた。
誰かが言ってたけど、ジグソーか暗号を組みかえて出来た絵画。
『何がどうして、こうなった!?』ということらしい。
褒められているのか、けなされているのか判らないんですけど。
「素敵な作品、ですね。…言葉が出ないほどお上手で驚きましたわ」
「あ、ありがとうございます」
そんなに褒めちぎられたのは初めてなので、返答に困ったけど
素直にお礼申しあげた。でもそんなに目を見開くものでしたか?
本当はほめたのではなく“凄まじい出来”をオブラートに105回
くらい包んで丁寧に梱包したように優しく言ったものかしら
なんか不安になってきた…自分の力……
そこで今度は私がレフィリア様のお作品を見たいです。
といったら非常に困られた。なんでだろう、
本格的に習った淑女の作品見たいのに…
そして渋々見せていただいたけど、さすがお嬢様!
見事な繊細なフレームモチーフの中央にピンクのモリレンの花
ルフィーナお姉様の一番お好きな花だわ小さくたくさん花を付けるの。
フレームモチーフの縫い方がどんなものか、角度を変えてみていたら
「そんなに見ないでください」
と恥らいながら俯かれた。男でなくても胸が高鳴ります!
そりゃウィルソン様もレフィリア様を外に出したがらないはずです
大勢の前に出したら屋敷が求婚者であふれかえってしまいます。
こういう縫い方を習ってみたいので今度教えてください。
と言ったら慌てて困っておいででした。
小さいお体でワタワタされるお姿もまた可愛らしい。
ルフィーナお姉様が見たら悶絶して屋敷を壊しかねません。
来られる時レフィリア様をご紹介する時は周りの皆さんにご協力いただかないと
他にも見せて欲しいと仰ったので机の上に全作品を置いて
スケッチブックの絵と照らし合わせてお見せしました。
とっても楽しくお話させていただいてたらいつの間にかお食事のお時間。
楽しく過ごさせていただいたお礼をして退室した。
社交界に出る前の貴族のご令嬢なのでレッスンやお勉強にとても忙しいらしく
次は3日後ということになった。
これは、もしかして“レフィリア様と合作”という夢も近いかも。
中世ヨーロッパでは、淑女のたしなみだった刺繍。
家庭的なスキルを求められるらしく、
貴族の女性は縫い物はできて当たり前だったみたいですね。
貴族は、額縁やタペストリー、ハンカチなどの小物刺繍を
ココットはそれらに加え、服をアレンジするための刺繍やカバンに縫ったりと
より自由に実用的なものを作るようにする。という設定にしました。
ココットは自由に育てられているので、レース作りや編み物など
一通り裁縫の種類には手を出しています。
貴族社会は、にわかな知識しかなく架空世界なのをいいことに
現実とは違うアレンジ設定にしてありますが
それにしてもこの設定おかしくない?という方。こっそり耳打ちしてください。
いつも読んでくださりありがとうございます。