【9】 コソコソレディ
「ココット様、お茶をお持ちしましょうか」
「あ、ありがとうございます、ヘレンさん」
「…、ココット様、私はココット様をお世話をさせていただく
ただの侍女でございます。
そのように畏まる必要も敬語でお話しする必要もございません
どうぞ、私のことはヘレンと御呼びくださいませ」
なんて優美な所作!
そよ風に揺れるようにフワッとスカートを揺らめかせ華麗にお辞儀する
ヘレンさん。絶対立ち位置逆だわ、私と。
もしかしたら、私よりいい生まれのご息女だったりするかしら。
うわー、これは動きづらい。慎ましやかな主人の周りで
バタバタする使用人ならわかるけど、
慎ましやかな使用人の周りで部屋の主がバタバタ出来ないじゃない!
神は、ヘレンさんを見て彼女から所作を学べ。と仰りたいのかしら。
タバサなら泣いてそう言うわ、きっと
優雅にお辞儀したヘレンさ…じゃなかったヘレンは
紅茶を用意するために退室していった。
たたぼーっと座るのも性に合わないのでお部屋探検に出ました。
(タバサに淑女らしくないと叱られそうだけど)
クローゼットの中には使用人の方達のお仕事が速いのか
私の持ってきた衣装がたくさん入っていました。おぉ、下にスペースがある。
持ってきた裁縫道具も置いてあるけどまだまだ余裕あるわねぇヒヒヒヒ…
これならたくさん布を買ってもお人形を作っても問題なく置けるわねイヒヒヒ…
ウフフフフフフ
「ココット様?」
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、うっ…わ!」
脳内で展開される欲望がビックバンのように膨らもうとしている時に、
クローゼットの入口でヘレンに声を掛けられ反射的に立ち上がったら、
裾をふんずけて転んでしまった綺麗な部屋でよかったデス。
「大丈夫でございますか、ココット様」
「あ、ありがとう」
「どうしてこのような場所に居られるのですか?」
まぁ、子爵令嬢ともあろう者が泥棒よろしくこそこそと
クローゼットでなにやら物色しているのもね。怪しいわよね。
家では、私の通常行動だったんだけどね…
「私ね、洋裁が趣味なんだけど洋裁って何をするのもスペースを取るのよ
道具も多いし、作った作品なんかも大きさや数によっては
場所がいくつあっても足りないだからスペースの確認をしていたの
こればかりは私本人がやらなくちゃ計画の立てようがないからね」
「…計画、ですか?」
「うん。兄様はレフィリア様のお世話だけ考えればいいと
仰ったけど、レフィリア様も私だけにお相手するほどお暇じゃないでしょ?
だから、空いた時間に今までやってたお人形作りしたいと思ってね
あ、作った人形はね、私のお姉様が各地にある施設を回って
孤児達に配るものなの。たくさん作るのよ」
ふふん。暇になるかもと思って
人形10体作れるくらいの道具は持ってきているの
タバサも荷物が1つ増えた所で気づきはしなかったわ。へーんだ。
だから作るんだけどスペースが空いてなかったら部屋に置くわけだけど
さすがに淑女の部屋において置けないものね、本当はね。
ウチでは置いてたけど(そして、叱られた)
ここは他所のお宅なんだからその辺しっかりしなくちゃ。
「でも、結構スペースあったからたくさん作れるわ」
「………、それで、お作りしたものをどうされるのですか?」
「え?」
「お作りしたものは、ご実家に送られるのですか?」
「…あー」
「いつもは、どうなさっていたのですか?」
「いつもは、時々お帰りになるルフィーナお姉さまに
お渡ししてたんだけど…さすがに、ここに来られるかしら。
うわー、考えてなかったー!!
ヘレンありがとう。また考えなしに行動する所だったわ。
そっかー、お姉様が来られなかったら意味がないものね」
そうだよね~、いくら“ここを自分部屋だと思って”と言われても
確実よそ様のお宅なのだから、伯爵家の人間に関係ない人を呼び寄せて
お姉様を運搬係のように呼び寄せて受け取りに来ていただくわけにはいかない!
(いつもは、呼び寄せるんじゃなくてお姉様がお帰りになったついでに
持っていっていただいたの。お姉様にもご予定があるから呼ばなかったわ)
「行動を起こされる前にお気づきになられてようございました
ココット様、ちょうどクローゼットに居られるのですから
お食事に行かれるときに着ていく服を決めましょう」
「はい…」
そこで、ヘレンが2-3見積もった中で一番気に入っていた
モスグリーンのシフォンドレスを選んで、靴などを選んでいく。
お茶を飲んでから準備をするといわれて気づいたけど
もうすぐお夕食の時間だったわ。
急いでお茶を飲んで(熱くてそんなに急げなかったけど)
ドレスに着替えて食堂に向かう。
……あれ?ここパーティするホールですか?
というくらい、とんでもなく大きいシャンデリアに照らされた
無駄に広い部屋にこれまた大きいテーブル…2人家族よね?ここ
当主ウィルソン・ノールフェスト様と妹君レフィリア・ノールフェスト様は
先にお着きになっていた。しまった、遅れたかな。
「遅れて申し訳ございません」
「いや、私たちが早く来ていただけだ。気にしなくていい」
「はい。お招きいただきありがとうございます」
お辞儀をした後、案内された席に座り食事を摂った。
一応、淑女としてマナーを学んでいるとはいえ甘やかされて育った身
多少の粗相があっても今までは黙認されてきたかもしれない。
(それでも、兄様やタバサに食後にこっそりよく叱られたけど)
でも、ここでは多少の粗相も厳禁だ。うん、きっとそう。
だからか、多分おいしいのだろうけど(匂いがおいしそうだった)
緊張で味覚が麻痺しているのか、全然味が感じられなかった。
というか、沈黙、怖っ。
お二人は、他人の食事など関心ないように黙々と食べてらっしゃる。
だから余計に味が感じられないのかも。ちょっとした物音が心拍数上げる!
「あまり食事を摂っていないようだが、口に合わなかったか?」
やっぱり、お気づきになられてたウィルソン様に、
(あのパーティで彼の目の前でケーキを食らい尽くしてたしな、私。
あの食欲からすると…とお思いなのだろう)
気遣わしげに食後話しかけられた。
「大変おいしかったですが、興奮で中々のどを通りませんでした
あまりに今まで見ていた世界とは違っていたので…とても緊張しています
でもっ、次回からは残さず食べます。ごめんなさい」
最後の言葉は入口で待機していたシェフに言ったもの
突然話を振られて恐縮したようにお辞儀をする。
実家のシェフはガテン系の筋肉マンなのだけれど
ここのシェフは大柄な恰幅のいい熊さんみたい。
熊さんが頭を垂れるとなんか可愛い。
ごめんなさい、熊さん(仮)明日はちゃんと食べます。
「今日は、ゆっくり休みなさい
疲れているようならば明日は一日休むといい」
「い、いいえ!ウィルソン様っ
呼んでいただいたからにはしっかり働かせていただきますっ
明日から頑張ります、レフィリア様」
「えっ!?あ…あ、の、無理しないでくださいね」
「ありがとうございますっ」
2-3この家のことについての感想を聞かれた後、
ウィルソン様がお仕事があるからと食堂から出られたので
私もレフィリア様もそれぞれの部屋に帰った。
部屋に帰って寝巻きに替えてベッドで横になったら
明日から何しようとワクワクしてたのにいつの間にか寝ました。
2度もウィルソン様に気遣われるくらいだったのだから
本人無自覚なだけで本当は相当疲れていたのかもしれない。
すぅ…っと真っ黒な空間に沈むように深い眠りについた
ココットの部屋付きの侍女になったヘレン。
本当は、“怜悧な美女で態度も事務的”って設定なはずなのに
態度冷たく出来てない(>_<。)
ここの使用人は基本誰に対しても事務的なんですよ。
そう態度に出したいのに出て無いのは単に私の甘さと文才能力の無さです
侍女の台詞に感情を乗せない状態でお読みください。
こんな詰めが甘い作品を根気よく読んでくださっている皆様に感謝です。
敬語や謙譲語の区別がいまいち付けてないので読みづらくてスミマセン。
訂正しました。